(旧)娘が悲劇の悪役令嬢だったので現代知識で斜め上に頑張るしかない   作:丹波の黒豆

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引き続きギドリック視点です。


17)【別視点】背負うモノ2

「これもまた俺が見た夢の話の続きなんだがな。

 ……その世界で俺は娘の魔力の、その正体を学んでいるんだ」

「……なん、だと?」

 

 ジルは、ジルクリフは誰もが思いもよらねぇ事を言い出した。

 王国の虹7色、どころか西側諸国の魔力のいずれにも当てはまらない異端の黒の魔力。

 その正体を知っていると言い出したんだ。

 それは俺たち魔力持ちにとっては最大級の発見だ。

 

「人の理解が及ばない力である黒の魔力の正体を、知っているというのですか!?」

「わぁ。じゃあソレを神殿のジャアク達にエイってすれば、公爵様の娘さんはもうジャアクって呼ばれないよねー」

「……そ、そうだ。ソイツはオメェの娘を守る何よりの力になるぜ?」

 

 驚く俺たちを前に、しかしジルは首を横に振りながら答えた。

 

「悲しいかな証明の類はできんのでね。信じる者にしか伝わらん。だが宇宙を見たお前達なら、……信じてくれると思っているがね」

 

「宇宙、……あの果ての先が関係するのか?」

「……それなら分からないかも。だってみんな知らないんだもん」

「あの光景を見なければ、信じられないモノというのは。難しいですね……」

 

 そっか。そりゃあ、今は誰にも信じて貰えねぇわ。ああ、ちくしょう。分かってんのにどうにもできねぇって、歯がゆい話だ。

 

「娘の為に憤ってくれて感謝する。……話を続けさせてくれ」

「ああ、……頼むぜ」

 

 ああ、オメェがそれを望むならいくらでも聞くさ。俺の大切なモン支えて貰う気なんだ。オメェの大切なモンだって教えてくれや。

 

「……それは遥か宇宙の、その彼方。

 死にゆく青き星がその果てに、全てを呑み込む黒き重力に包まれた時。

 新たな星が、宇宙に生まれる時に生じる力だ。

 ……娘の力は新たな星が生まれた事を、宇宙に告げるモノなんだ」

 

「えっ、ソレって!」

「導きの青き星のミリア様と、……ジルクリフ卿の、魔力」

「なん、だ、…そりゃっ!」

 

 おい、……そりゃ話が違うだろ。

 黒の魔力ってのは全然関係性の繋がらねぇ魔力持ち同士の間に突然生まれるから、不貞の証って言われてんだぞ。

 

 本来なら親のどっちかの魔力を引き継ぐか、属性違いで特殊属性の子が生まれる場合でも、火と水だったら熱湯だったり、風と水だったら泡だったりって、なんとなく親の魔力が感じられる所を、脈絡がねぇから黒は異端で、忌み子なんだ。

 

 それが、その前提が最初からおかしいとかよ。

 ……なんてモン抱えてんだコイツ。

 そんなモン俺だったら、絶対神殿許さねぇぞ。

 

 アイツラ全部、真っ黒じゃねぇか!

 

 同じ親として俺が抱いたこの激しい怒りを無視し、ジルは淡々と続きを謳い上げていった。

 

「その力は星の生誕を告げる産声にして、宇宙最強の力を誇る開闢の光だ。

 本来、人の目には見えない筈のその物質は、その時ばかりは何よりも光輝く。

 そして産まれた星を包むあらゆる混沌を切り開いて、ありえない程の距離を飛び。

 ……その誕生を宇宙に知らせる。

 その光の名は、……ガンマ線バースト。

 

 娘の魔力名。ガンマの力を表す現象だ」

 

「……それなら公爵様、やっぱりジャアクじゃないじゃん。神殿ジャアクじゃん!」

「だが悔しいが、……確かに誰にも証明できない。ジルクリフ卿の世界の技術が無ければ、分かる筈のない答えだ。……私の眼で嘘はないと、見抜けていても。証明とは取られない」

「おかしいだろ、ソレ……」

 

 おい、なんだよソレ。

 じゃあ、アレか。

 黒の魔力が悪魔の力なんて言って、アイツラコレまで殺してきたコドモら。

 

 ……みんな無駄死にじゃねぇか。

 

 これからも、ソイツラ生んだ奴らに。

 全部泣き寝入りしろってのかよ。

 おかしいだろ。おい。

 

 なぁ。何だ、コレ。

 

「……なぁ、ジル。そりゃあ、確かなんだな?」

「この執着の名にかけて、娘の事で下らん嘘など俺はつかんぞ」

 

「……すまねぇ、バカな事聞いた」

「……構わんよ」

 

 ああ、嘘なんかつかねぇよな。

 オメェが。グラビディアスが。

 ……その名にかけて、宣言するなら。

 

 王国でたった1人、7文字の魔力を持つ馬鹿げた魔力量の男が。

 

 自分の魔力に抗えるわけがねぇ。

 よその国なら王族並。魔力量で長さが決まる魔力名の、それより上がねぇ7文字だってお前が、魔力が多いほど抗えん魔力性格に、……抗えるわけが、ねぇんだ。

 

 ……ああ。

 神殿全部、焼き払おう。

 

 こりゃあ、駄目だ。

 何が神の正義を示すだ、馬鹿野郎。

 オメェら、親からコドモ奪う邪教じゃねぇか!

 

 俺はこの時、コイツが話したい娘の話ってのはこの胸くそ悪い事実の事だと思ってた。でもこの話には続きがあった。

 ……アイツの話は終わらなかった。

 

「……これと同じような事が、娘自身にも言えてな」

 

 引き込まれるように、俺たちはアイツの話にかぶりついた。時折生唾を飲みながら。怒りと、驚きの声を上げながら。

 

「実は妻が俺に見せた夢は、この国の未来にも及ぶ」

「なっ!」

「えっ」

「……そんな事が、……あるのか」

 

「この世界とその夢が少しだけ違うのは、その夢の中で俺は妻から一切の夢を授かる事なく。……先程お前が述べた通りの、…妻狂いの男だったという事だ」

 

 ああ、クソ。

 もう出だしから、こうだ。

 

 ……何もいい未来が浮かばねぇ。

 

「その夢で俺は、……あろう事か黒の伝承などを信じ、自分の信じるべき妻の不貞を疑って、彼女の残した娘を己の手で、…虐待していくんだ」

「うそ…、でしょ公爵…様」

「……今は聞こう、…ソラン」

 

 ああ、コイツが作り話じゃねぇってのが、……よく分かるぜ。奴の握りこんだ手見りゃよ。

 自分で今言った事の怒りによって、手の皮破ける程に握り込まれてやがる。

 

「楽に殺さぬ為にと態々神殿にすら渡さずに。…いたぶるように、会う度に罵ってっ!

 何の罪のない、……自分の子に、…“妻を返せ”と馬鹿らしく、……喚くんだ」

 

 ……頭に血を登らせたアイツが、無意識に魔力溢れ出させてるのが何よりの証拠だ。

 どんどんソレが色濃くなっていきやがる。

 それだけ執着が、自分の魔力が騒いでるんだ。

 感情が、バカほど多いコイツの魔力を、更に引き上げていってやがる。

 

 髪なんて見ろ。

 もう濃くなりすぎて黒(・)にしか見えねぇ。

 

「ああ、今でも。

 その事を考えれば、……死にたくなる。

 愛(・)す(・)る(・)妻(・)を辱めた愚か者を!!

 ……どうして許しておけようか」

「ひぅっ」

「うぁ……」

 

 こんな地獄の鬼みてぇな形相を。

 地の底みてぇな殺意を、自分に向かって。

 ……嘘で放てるわけがねぇ!

 

 いや、やべぇぞ。

 娘ら二人、完全に魔力アタリ起こしてやがる。

 

 コイツ。

 完全に魔力を暴走させてるじゃねぇかっ!!

 

「ジルクリフ!!」

 

 咄嗟に俺が叫びながら、娘二人を包みこむように自分の魔力を展開すると。

 アイツはあっさり正気に戻った。

 黒くなってた髪の色も、今じゃ元に戻っている。

 

 ……アブねぇ。

 ありゃあ絶対開けちゃならん箱の類だ。

 俺は娘二人に近寄ると、その具合を確かめた。

 

「おう、大丈夫かお前ら?」

「うん、へいき。ボクびっくりしちゃった」

「……なんとか、…ですね」

 

 ああ、ソランはともかく。……ウェンディは魔力が少ないから大分しんどそうだわ。

 まぁソランのヤツが陽光の魔力で落ち着かせてるみてぇだから、大丈夫だろうけどよ。

 

「すまない三人とも。

 ……不覚にも魔力に流されてしまった」

 

「ううん、大丈夫。

 公爵様がホントにつらいんだーって伝わってきたから、ボク公爵様の方が心配だよ?」

「……あまりお気になさらないで下さい。

 ジルクリフ卿」

「おう、オメェこそ大丈夫かよ。

 尋常じゃなかったぜ?」

 

 つたう涙を拭いながら、即座にジルが俺らに頭を下げてきたが、……俺からすりゃオメェの方が心配だ。

 ……多分コイツは夢なんて言ってるが、コイツの見てきたモンはもっと生々しいモンなんだろう。

 自分の一番大事なモンを自分で傷つけた実感がありゃあ、ああなるって納得できる。

 

 ……つれぇな。

 どこまでも、……つれぇ。

 

「ああ、すまん。……詳しく話したいが、少し考えるだけでもこの有り様でな。

 必要な部分のみ、述べさせて貰おう」

 

「お、おう、そうしろ。

 ……そうしてくれよ」

 

「公爵様も、ぽわぽわしたげるね~」

「ああ、ありがとう。

 ……陽光の国の共感魔法か。感謝するソラン君。

 だか俺よりもウェンディの方を頼む」

「わかった~」

「……ああ、ありがとうソラン。大分よくなったよ」

 

 はっ、ロウソクみてぇな顔色しといてよく言うぜ。ま、ソランの陽気に当てられて大分マシになった感じか?

 一つ大きな息を吐いて改めて仕切り直すと、アイツは続きを語り始めた。

 

「俺の娘の髪は確かに黒い。

 ……しかし彼女がその俺以上に膨大な魔力全てを使い切れば、その真実が見えてくる」

 

【それはこの世界の原作が記す最後の真実。

 トゥルーエンドの、彼女の正体を知ったヒロイン達の前で明かされる、いつも通りこれから滅びゆく運命にある“悪役”令嬢の真実】

 

「自身の強すぎる魔力によってあらゆる色から守られた娘本来の髪の色は、……輝かんばかりに美しい、光をそのまま形にしたような、色なんだ」

 

「おい、そりゃ伝承の聖女ってヤツの!」

「光の聖女さまの髪の色……」

「そんな、……馬鹿な」

 

【王国において、救国の乙女たる光の聖女が持つとされる汚れなき光の色の髪。

 ソレを本当に持っていた少女こそが、彼女。

 ……セシリア・ガンマ・アーディンだという真実】

 

「ああ。娘こそがこの王国に伝わる救世主。

 その魔力は虹に収まるには強すぎて、……全ての色を寄せ付けないが故に、…ただ黒く見えるだけ。

 本来は全く透明の、誰よりも清き魔力を持った、…光の聖女という奴だ」

 

「マジ、かよ……」

 

【皮肉な事にその世界では。“光の聖女”は伝承通り。常に国を救い続けていたという、真実】

 

 誰もが息を呑む中で、アイツは1人喋り続けた。

 

「その力は確かに国を救う程だろう。

 その身に宿る不屈の魔力は、どんな困難すらも彼女に耐えさせてみせるのだろう。

 実際に夢の中の彼女は今より更に地獄と化した悪辣の王国で、たった1人抗って。

 

 その開闢の眩い光で、己ごと全ての悪を焼き。

 見事、暗闇の王国に新たな夜明けを告げたのだ。

 ……自らを犠牲にして、な」

 

 

 ああ、そうか。

 コイツはまさに、…地獄を見たんだ。

 自分の愛する娘が犠牲になって。

 ……救われたセカイを。

 

 そこに娘が居ない、そのセカイを。

 

「だがね。

 俺はそんな人生を、……娘に決して送って欲しくないんだ」

 

 これは正しく、……コイツが変わった理由なんだ。

 

「すまないがなギドリック。俺の本質はお前と違って妻狂いの時と何も変わらん。

 娘の為に、必要な事をやっているだけだ」

 

 いや、違うだろ!

 全然意味が、……違うだろ。

 

 まただ。またヤツの魔力が高まっていく。だが今度はさっきと違う。

 娘の代わりにアイツが何かを背負うという度に、どんどん色濃くなっていくが。

 

 ……だけど誰も傷つけない。

 

 強大なそれで、あくまで優しく包み込むように。

 アイツの覚悟に、背負った重さに呼応して。まるで全部を守るように、……広がっていく。

 

「娘がそんな運命を背負わされるというのなら、俺はその代わりに世界を救おう」

 

「娘が強大な敵を倒さねばならぬというのなら、俺はその代わりに全て退けよう」

 

「娘が笑って暮らせるのなら、俺はその為に世界の常識すら変えて見せよう」

 

「娘にふさわしい男になる為に。……誰よりも正しくあり続けよう」

 

 まるでアイツの覚悟を示すように、今は漆黒を示すその髪が。

 ……俺にはまるで邪悪なモンには見えなかった。

 誰も見たことねぇような威厳を放つソイツは、間違ってもそんなモンじゃねぇ。

 こんな男が、……邪悪であってたまるかよ。

 

「娘の為。

 全て、全て娘の為だギドリック。

 それが彼女の父親である俺が背負った役割だ。

 俺は、夢で見た彼女の運命など何一つ許さない」

 

 世界すら救うという特別な娘の業を、コイツは代わりに背負ったんだ。

 特別をそうじゃなくする為に、……コイツはなんでもやる気なんだ。

 

「娘の未来を守る為ならば。

 国一つ、世界一つ背負うことなど。

 どれほどの苦労があるものか」

 

 そう、大真面目に語ったコイツは。

 もはや領主でも、王でもねぇ。

 ……そんなモンじゃ収まらねぇ、別のナニカだ。

 

「……俺はな、ギドリック。

 世界全ての重みなど。

 …娘を守ると決めたその日から。

 とうの昔に、……背負っている」

 

 でけぇ。あまりにも、……でかすぎる男だ。

 目の前の男のでっかさに、気づけば涙が溢れてやがる……。

 ああ、くやしいぜ。

 

 俺はそのナニカを、どう呼べばいいか分からねぇ!

 お前を俺はどう呼べばいい。

 世界ごと、救世主を救うお前を!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……何故なら俺は、父親だからだ」

 

 すとん、と俺は全部を理解した。

 ああ、そうか。……そうだ。

 

 “父親”だ。

 

 娘を、家族を守るのは。

 ……何時だって父親なんだ。

 俺が願って、思い描いた、…全部背負う男の呼び名だ。

 

 領主よりも、王よりも。

 重い覚悟を背負っただけの、唯の父親。

 それが、……お前か。

 

 最高だ。

 オメェ。……最高の男だぞ、ジルクリフ。

 

「……貴方の思いは確かに俺が受け取った。

 何、ただ少しばかり背負うモノが増えるだけだ。男には、父親にはよくある事だ。どうという事はない」

 

 ぐしゃぐしゃになった情けねぇ顔した俺の長年の悩みごとを、アイツはなんでもない事のように背負うと言った。まるでついでだと言う気軽さで、アイツは言うのだ。

 

「だから貴方の命も、貴方の宝も、それを頂くわけにはいかない。

 何かを守るのに、……そんなモノを求める程。

 

 このジルクリフの“執着”は安くない」

 

 背負うのは当たり前だと。

 だから何も気にするなと。

 

 まるで自分のコドモにでも、するように。

 

 この世界一でけぇその“背中”を、見せつけて。

 

「だから友よ。

 娘を思う同胞よ。

 頭を下げる必要など、どこにもないのだ」

 

 そうして俺を、同じ父だと気遣うんだ。

 ああ、これだけ魅せられて。

 気にせず俺が、……頷けるかよ!

 

 借りっぱなしじゃ、男が廃るぜ。

 胸はって父親、……名乗れなくなるだろうが。

 

 ふと娘達の顔を見れば。

 完全にや(・)ら(・)れ(・)ち(・)ま(・)っ(・)た(・)女の顔だ。

 そらそうよ。

 ……男の俺すらそうなんだ。

 

 完全にこの男に、イカれちまってる。

 

 コイツの前で。

 娘の前で、これ以上情けねぇ姿見せられるかよ!

 

 そう思った俺は、自分の胸の内をぶちまけた。

 

「おい、それじゃああまりにも俺らに都合が良すぎるだろうが!

 ……俺ぁっ、どうやったらオメェに受けたこの恩が返せる。

 どうやったらこの気持ちをオメェに伝えられる!」

「だったら娘の為に進む俺に、せいぜい力を貸してくれればいいさ」

 

「ああ、ああ!

 貸すとも、貸させて貰うさ。

 今日からオメェの望むモンは、俺の望みだ!

 空の領はオメェの翼だっ」

 

 口が勝手に動いた。

 俺の自由が、俺を勝手に動かした。

 絶望はどっかに消えた。

 

 もう、……前しか映らねぇ。

 

 コイツと肩を並べて行けるなら、コレほど嬉しい事はねぇ。

 

 自然と顔がニヤついた。

 アイツもそれに合わせるように、ニヤリと笑って答えを返した。

 

「ふっ、では俺は空と共に天を翔けよう。

 虹が横並びに飛ぶように、紫と空はどこまでも共に翔け上がるのだ。

 必要ならばその先までも。

 

 何、それは容易いことさ。

 

 全てを呑み込む紫と。

 遥か空を往く君たちが合わされば。

 ……天の果てなど軽く飛び越えてゆけるのだから」

 

 ああ、痛快だ。

 痛快だともっ。

 

 そのキザったらしい物言いが、

 今は何よりも心地良い!

 

「はは、はははは、ははははははっっ。

 そうだ。その通りだ、ジルクリフ!!

 オメェが今日、ソレを証明した。

 

 俺たちに見せてくれた!

 見せつけてくれたともっ」

 

「わぁ、……じゃあこれからボク達カゾクだね♪」

「相変わらず絵になる人だ……」

 

 ああ、翔ぶぜ俺は。

 俺は、俺らは今日、助かった。

 だから俺達ぁ、コイツの娘を助ける為にどこまでも翔んでやる。

 

 残り少ない命でも、ヤルこと全部やってやる。

 

 それが“父親”なんだろう。

 なら俺も。

 世界くれぇ、救世主様くれぇ救ってやるさ!

 

 まだ赤い顔で笑い合う娘二人を横目に見ながら、俺はそん時覚悟を決めた。

 その光景を眩しそうに見ながら、髪の色が元に戻ったその男は言い出した。

 

「ふふ。……ああ、なんだか無性に娘に会いたくなってしまった。すまんが君たち、俺が我が女神に会いに行く事を許してほしい」

 

 少しおどけるように、だがすこぶる理解できる事を口にしたヤツを止めるモンは、ここにいる筈がねぇ。

 

「おお、ぜひそうしろ。

 ああそうだ、俺らもオメェの娘に会わせてくれよ。テメェの宝を俺らにも見せてくれ!」

「わぁ、ボクも会いたい!」

「……あまり赤ちゃんの前でうるさくしたら駄目ですよ二人共?」

 

 誰もがそのままその娘に会いに行くのだと、信じて疑わなかった時。

 

「……いいやそれは駄目だ、ギドリック。

 この後使いの者を送るから、お前は直ぐにその全身を調べて貰え。

 二人もそれに付き添ってやって欲しい」

「なんだと!?」

「調べるって?」

「……まさか」

 

 しかし、ジルのヤツは予想と違った答えを用意してやがった。

 そこで俺はもう一度、驚かされる事になる。

 

「俺の見た夢の世界ではな。

 人は平均して80以上に生きる。100を超えて生きるような者もいるほどだ。

 ……そんな世界を覗いた俺が、その神秘にまったく手をつけていないと思うか?」

 

 不敵にニヤリとヤツが笑って。

 その言葉で俺らを完全に固まらせた。

 

「病への対応は清潔から始まって、深く人体の理解に終わる。

 神殿が恐ろしい禁忌としている人体を切り刻む術、それを突き詰めた先に真理はある」

「うそ、だろ?」

「いえ、本当……です」

「え、え?」

 

 とりあえず神殿は、燃やす。

 いや、それより……。

 

「俺はなギドリック。娘の為に100まで生きるぞ?

 ……我が領の医療知識は、少なくともそこらのやぶ医者よりは信用できる。

 お前にふさわしい処方をくれてやる」

「お、オメェってヤツは…、ホントどこまで……」

「パパっ助かるの!?」

「流石にそれは、いや、でも……」

 

 そんな言葉を言いながら、まるで散歩でも行くような気軽さで。

 ヤツは立ち上がって、部屋のドアへと進むんだ。

 そうして。

 

「そしてな、5年だ。

 5年持たせればお前は死なない」

「何っ!?」

「「えっ」」

 

 ドアを開けながら、何気なくそう言った。

 そしてそのまま振り返って手を胸に当てながら、まるで宣誓するように事実を述べた。

 

「我が娘のガンマの魔力の本質は透過と浄化。

 本来生物にとって危険な力であるガンマの力、その全てを制(・)御(・)下(・)に(・)お(・)け(・)る(・)彼女はな。

 人には見えぬ体の内の邪悪すら見通して、その悪だけを選んで焼き滅ぼせる使い手だ」

 

 は…は、そりゃあすげぇ。

 ……ああ聖女様ってのは伊達じゃ…ねぇな。

 そんなモン、…反則じゃねぇか。

 

「娘が魔力を理解し扱えるようになれば。

 お前は死から解放される」

「ホントに、ホン…トに、俺ぁ……、生きられる…のか?」

「娘のことで、嘘はいわんさ」

 

「すご…い。ホント、すごいよ公爵様も。娘さんも……」

「……なんて、デタラメな。

 親子揃って、…規格外すぎる」

 

 ああ、また視界が霞んで、もう……何も…わからなくなっちまう。

 オメェ…よう。

 ホントにオメェ…よう……。

 

「でもいいの?

 ……公爵様。娘さんの未来は娘さんが決めるんだって、言ってたのに…」

「……俺は決して娘の未来を決めるような事はせん男だがな。……娘が進んで助けたいというのであれば、それを邪魔する事はない。

 それにな」

 

 暗にこれからの関係を信用していると、俺の娘に言ったソイツは。

 このぼやける視界の中で。

 突然、魔王のような迫力を纏って、ニヤリといかにも人の悪そうな笑みを浮かべながら、止めを刺した。

 

「俺は家族思いの働き者を楽に死なせてやるほど、甘い男(・・・)ではないぞ

 ……せいぜい長生きして息子を可愛がってやる事だ」

「く、は…はは……」

「わぁ……」

「ああ……、本当に…この人は」

 

 してやったりと、言った顔で。

 

「ではな?」

 

 言うだけ言ってサッサと背中を向けて出ていったその男は。その男のでっかい背中は……。

 

 さっき受けたばかりの、俺の生涯最大の衝撃を。

 ……あっさり塗り替えて見せやがった。

 

・

 

 かくして風は解き放たれた。

 これより紫と空は混じり合い、どこまでも高く高く天を征く。

 その色は奇しくも。

 

 あの空の果てで見た、輝く星々の海に似ていた。

 

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