(旧)娘が悲劇の悪役令嬢だったので現代知識で斜め上に頑張るしかない 作:丹波の黒豆
ファンタジーの世界で冷蔵庫?
と、思う方もいるかもしれない。でも作れる。
作れてしまうのが科学の怖さだ。
それが今目の前に鎮座している。
仕組みは簡単。ここにあるのは説明用のより簡単なモノだからなお簡単。
この手前にある連送式空気入れ、つまりはエアコンプレッサーモドキを用意して。
直径3cm、長さ30cmほどに円形に内部をくり抜いた金属筒の、両端の真ん中に筒を絞るように穴をあけ(右の方を大きめにする)。
左側5cmほどに開けた別の穴からエアコンプレッサーを繋げて、圧縮空気を噴射させると。
その辺りのみ内部溝を深く作っていれば、その筒の中の外面近くを、圧をかけられて高温になった空気が螺旋上に駆け回り、右の穴から出ていく。
するとそれ以外の空気が気圧差で減圧されて冷やされていき、熱い空気と混ざることなく左穴から出てくる。
はい、これが工業でよく溶接なんかの部分冷却で使われるエアクーラーとかボルテックスクーラーとか呼ばれる、空気圧式熱交換器くんの構造です。
で、このエアクーラー。
こんなでも必要な空気圧に耐えられて、しっかりした部品強度と精度があれば-60度近くまで冷やしてくれる優れモノ。
まぁその温度で長時間運営するには、空気中の水分凝固とかの問題をどうにかしないといけないけどね。
うん。冷蔵庫とかクーラーの原理って別にフロンとかアンモニアとか専用冷媒がなくても問題なく稼働はするんだよ。
空気だって圧縮すれば熱くなるし、減圧して膨張させればちゃんと冷えてくれるんだ。
こう、エネルギー効率とか装置寿命とか、水分凝固の問題とか無視すれば十分使える代物なんだわ。
何より他の冷媒より遥かに安全なのが素晴らしい。
んで熱交換器って本来、温度を熱さと冷たさに分けるのが前提だから、最初から設計してやれば冷やしながら立派に温水器とか、温風装置としても利用できる。
動力源があればもちろん電気なんかも必要ないし。
動力?
水車みたいな自然動力使えば大丈夫。場所は選ぶけど設置はできるよ。船とか馬車とか、ある程度大きい乗り物の移動時に出る力を利用して組み込むのも簡単だから、凄い便利。
流通革命おこせるぜ。
いやホント工業系の学生でよかったと思うわ。
正直クーラーと冷蔵庫のない夏なんてありえんからな。
これで娘に暑い思いさせなくてすむわ。
ん、ここに水は流れてない?
ああ、この横行な連送式空気入れの上部に俺の重力魔力を通すじゃろ。
すると空気入れの上部が重くなって独りでに空気を入れ込むじゃろ。
今度は魔力で上部を軽くすると、別づけのスプリングで上部が浮くじゃろ。あとは繰り返すとこう、ここでも動かせるんだわ。
お、みんな異常に食いついてきたね。
驚いてる所にさらに追い打ちをかけてその冷たさをアピールしよう。貴族でも高価と思える水の上位魔石、氷の魔石を使ってしか今まで実現できなかった冷たい飲み物を、ここぞとばかりに配って実体験させていく。
ついでに事前に作っておいた氷をたっぷり入れてサービスは忘れない。おもてなしの国の人だもの。
そうして渡しながらこれで食料を冷やしたり、凍らせれば食料生産量が変わらなくても食料自体が多く残せるし、他国から安い時期に大量購入とかできるようになるよ、と。
とすかさずプレゼン。
止めに、これと同じ重力動力で上下させたピストンで、クランクを回してギアを高速回転させるこの重力エンジンを使ってですな。
こう、食材をみじん切りにするミキサー君やら、撹拌装置を見せてやったらどうよ。
コレ使えば作業の簡略化が出来てコスト抑えられるだろ。
お、おう。
みんな驚いて固まっていただけで、もうコンソメ案には賛成と。それよりこれらの道具達の設置をどうするか説明を求めると。
そらとりあえず街に引いてる水路利用して、国営の冷凍倉庫と大浴場を隣り合わせに作って見ようかと。
国主体で箱物作って平民を直接雇用すれば、給金を彼らに直接渡せるし、景気もよくなるんじゃないかな。
は?
それはもうコンソメがどうのとかの問題じゃない?
他にも考えてることも教えろ?
まぁ後は同じく水車と温水利用して、大型自動洗濯機を作って国民の洗濯を国で請け負ったり、国の子育てを賄う大型共同育児施設作って平民女性の手を空ける。
んで次に起こす機械化産業で働ける女性確保したりとか。
あ。共同育児施設は、領営の人材育成学校の前身な。そこに繋げるつもりだ。
ん?
話が壮大すぎる。
機械化産業ってなんだって?
(ミキサーとかを指差しながら)なんとなく想像できるじゃろ。ああいうの使って人力を省略させて大量に安定した物を作る産業のことな。
……。
今日は帰らせない?
いや俺はこれから娘に。
は、離せ、俺は公爵だぞ。
そして公爵である前に、娘のパパだ!
くっ貴様ら、覚えてろよ!
この作品はKAKERU先生の「科学的に存在しうるクリーチャー娘の観察日記」から多くを学ばせて頂いた上で執筆しております。こちらの話の熱交換器云々は、まさにそこからの発想です。
先生の作品はどれも本当に着眼点が一味も二味も違うモノなので、もし興味が湧かれた方はぜひ手にとって見て下さい。
人は選びますけどハマる人にはたまりませんよ(笑)