(旧)娘が悲劇の悪役令嬢だったので現代知識で斜め上に頑張るしかない   作:丹波の黒豆

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5)アレが出来たら当然ね

「お、やってるね親方?」

「おう、ジル坊」

「これ、お土産。この前のヤツのお礼ね」

「はっ、気ぃ使うな。

 ありゃワシにとっても面白れぇ仕事だったからトントンよ」

「まぁこれからの事もあるしねぇ」

「おう。ユウとった車ゆうヤツの原型、できとるぞ。見てけ」

「マジか。ドワーフパネェな」

「はっ、ワシがすげぇんじゃ、ワシが」

「親方パネェな」

 

 翌日の朝。

 あのステキな道具を作ってくれた、領のお抱え職人に礼を言いにその工房に来たら。その次のどころかだいぶ先の、想定だけの試作もしてない品が出来てたとか。

 

 この人、いやこのドワーフ確実に寝てないだろう。だが自信に溢れた無茶苦茶いい笑顔をしている。まさにツンデレ、いや職人の鑑のような男だ。

 

 たぶんこの親方に教えた旋盤とかドリル盤とかが、余りに面白かったんだろうな。

 水車式なら十分中世でも作れるし、円形に素材削ってボールベアリング作れば精度も上がる。さらに作った水車で水車を作り直してを繰り返して行けば、もっともっと精確になる。って言ったのがついこないだなんだけど。絶対作りこんでるな。

 

 だって今親方の作ってる道具って手作業じゃ作り難い精度だもの。一体、何徹してるんだよこのちょびヒゲオヤジ。

 正直ちゃんと寝て欲しい。

 

 そして俺も寝たい。昨日は徹夜だったわ。

 

 いや、今は自動車が優先だ。

 そこに鎮座していたのは、前回の重力動力を利用して動く設計の、飾り気のない、とてもクラシックな木製自動車である。

 

 エンジンは前回の重力エンジンを採用している。

 これは内燃機関と蒸気機関に使える燃料が見つからなかった事と、他国が真似しづらい技術を使いたかったのが原因だ。

 

 この領で貴族の血を引く者が一番多く持っている魔力の重力だが、実はこれ地面からみて縦方向に軽くするか、重くするかしか出来ない地味魔術である。

 

 そりゃ単純に重い武器と鎧を手軽に装備でき、時に重さで強化できる魔術であるし弱くはないのだが、際立った遠距離攻撃がなく、高速と言うほど早く動けないと言う、近距離特化にしても困った魔術であると言わざるを得ない。

 

 だが重力エンジンを利用してこの縦の力を横の移動に使えれば。その事情は大きく変わってくるだろう。

 それに燃料見つかった時に推移できるようにしとけば、技術的に無駄にならんしね。

 

 しかし重力エンジンは、ピストンパーツの純粋な重さを重力増加させて圧力へと変える為、正直内燃機関より遥かに効率の悪い代物だ。

 

 果たしてコレ、動くかね?

 

 見た感じピストン部分の上部を長く、重くすることで単純に4つのピストンに大きな圧がかかるようにしたそのエンジンは、控えめに言って不安定に見える。

 

「はよ乗って魔力通してみぃ」

「わかった」

 

 ふむ。

 言われたとおり。そのとりあえずの試作として木製フレームで作られた車に乗って、まず重力エンジンに魔力を通してみる。

 

 ブン、と。

 

 車のキー代わりに、クズ魔力石の粉を使ってエンジンまで魔力経路を繋ぐ為に描かれた紋章に、重力増加の魔力を込めると、とたんに車の前方がガタガタと浮き沈みしだす。

 

「「あ」」

 

 ああそりゃ重力エンジンって、ピストンを重力操作で単純に重くしたり軽くしたりを、繰り返して得る力で動くんだから、こうなるわ。今まで地面に直接固定された重力エンジンしか動かしてなかったから、気付かなかった。

 

「こりゃ、改良がいるのう」

「ですな」

 

 渋い顔で飛び跳ねマシンを見つめる親方と俺。

 

 うん。とりあえずそれとは別に、無理にでも動かしてみよう。

 今度は重力エンジンの動きを維持しながら、車体に魔力を通し、それを限りなく軽くする。するとどういうわけか0G、無重力にしたときだけ車の揺れが完全に止まった。

 

「「は?」」

 

 なんで?

 いや、おかしいやろ。

 

 ……。

 あ。

 

「親方、もしかすると大発見だわ」

「どういう事だ」

「これ、乗算なんだ。

 重力で重くしたモンを、さらに包み込んだ別の重力操作で0にしようとすると、その重量が全部0になるっぽいな」

 

 例えばエンジンのピストンパーツの重さが20kgとして20G、20倍の重力をかけると実質400kg。それを外側から0G、無重力にするとなんとピストンパーツを含んだ乗り物自体の重量が0になる。

 そんな感じの計算がされてるらしい。

 そんな馬鹿な。

 

 これ、内部からみても重量0になってるなら、そもそも重力エンジン自体成り立たないぞ。しかし目視で見て取れる目の前のエンジンは絶賛上下に稼働中。

なんでよ。

 

 とりあえずおそるおそるクラッチを踏み、ギアを一速へ入れてみる。

 

 動く、だと?

 

 まぁ速度は出ないし、無重力走行だと空気圧があっても次第に車体が浮いて空転始めるだろうけど。それ以外だととんだロデオカーになるけども。

 けど動いた。立派に。

 

 ふう。とりあえず親方にお願いしようか。

 

「親方、エンジン設計見直すぞ」

「おう、すぐに取り掛かるわ」

「その前に試したい事があるから、ちょっと魔力通せる箱2つ作ってくれる?

大小2サイズで」

「おお、任せい。持ってくる」

 

 あるんかい。有り難いけど。

 すぐに渡されたその鉄の箱の小さい方を大きい箱に入れ、地面に置く。

 まず小さい方を重力増加して20倍の重力、20Gかける。

 次に大きい方にも20G。

 

 それを持ち上げようとするも断念。

 くっそ重い。

 こりゃ間違いなく20G×20G=400Gの世界の重さのですわ。

 大体箱がそれぞれ1kgとして本来の40kgって重さじゃないもの。

 

 400kg以上の風格ですよコレは。

 

 なるほど。この世界では重力で重くなった物は“その重量の物体”として扱われ、その外にある重力でそれごと“さらに操作”できる仕様らしい。

 

 完全に乗算である。

 

 あまりの発見に親方と見つめ合う。

 

 その後めっちゃ実験した。

 

 親方と夢中となって色々やった結果。

 無事に新型重重力エンジン構想完成。重力を重ねるから重重力。これで理論値で加工精度さえ上がれば内燃機関に負けない力を生み出せる強力なエンジンが完成するだろう。

 

 魔力消費もずっと据え置き。

 術式が複雑化したからピストン作成時に、重力使いが魔力を込める必要が出てきたが、それも技術漏洩を防ぐいいプロテクターになるだろう。

 

 というか今の所、重力使いじゃないと動かせないのは難所だな。装置の効率化求む。

 ま、とりあえず。

 

 いいモン作ったぜ。

 

 その日の夕暮れ、高いテンションのまま屋敷に戻ると、多くの部下達に囲まれる。

 

 え、俺に話が。

 領地開発の件で。

 明日じゃダメかな。ダメか。

 

 そのままドナドナされた俺が開放されたのは深夜。気合だけで起きていた俺はそのままのテンションで娘に会いに行き、美人メイドさんからこっぴどく叱られて退散。

 泣きながら領地の書類を整理して、やっと就眠。

 

 過労死は、避けたいです。

 

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