(旧)娘が悲劇の悪役令嬢だったので現代知識で斜め上に頑張るしかない 作:丹波の黒豆
親方とのエンジン談義から10日程経った頃。
俺は騎士団の鍛錬場の中にいる。
多くの騎士たちが不思議な顔で見守る中、俺はソイツのお披露目を始めた。
「では諸君。これから我が国を守る、君たちの新しい力をお見せしよう」
言って。ソイツに乗り込んで鍵代わりに重力魔法を通し、始動させる。とたん、エンジンというよりもモーターである新型重重力機関が静かに高速で回り始め、発進の準備を整えた。
「いくぞ」
「「「「おおぉぉぉ!」」」」」
俺がそう一言いうと、重力魔法でソイツの重さを軽くしながらアクセルを踏む。
すると、その
ソイツは段々とスピードを上げ、馬上訓練も出来るその広い訓練場の内周を走破していき。
「な、なんという速さか」
「あのような出来損ないの石の馬車にしか見えんようなモノが」
「確実に馬より速いぞ、アレは!?」
その途中で掲げられた攻撃目標のワラ薪に向かって、コイツの目玉である自動巻式城塞用バリスタで狙いをつけて。
俺はそこを走り抜けながらその大きすぎるバリスタの銃身を動かし、車体の右方向へと向けて連射した。
「な、立ち止まる事すらなく!?」
「なんだあの速さ。あんな短い間に何発撃ってるんだ?」
「城塞用の3人巻きが、なぜあんな速度で撃てる……」
止まること無く瞬時にワラ薪をズタボロにしたソイツは、再び騎士達の前に姿を現す。
そこでブレーキを踏みながら、かけた重力魔法を薄めていくと、ソイツは増えた自重も手伝って緩やかに止まった。
「「「「「あ、あ、あ、あ、あ」」」」」
皆が皆唖然の表情。
そりゃなんか石を城壁ごと切り出したような、無骨なフォルムの車輪付きの謎装置が馬すら超える速度で走りゃあ、驚くだろうよ。
「これが君たちの新たな騎馬の一つ、名を自動車という。
喜べ諸君。もう重力騎士が鈍重と言われる時代は終わったぞ」
「「「「「うぉぉぉぉぉぉ!!」」」」」」
堂々と騎士たちの前で宣言してやった俺。
ああやっぱ脳筋には、技術は見せるより魅せた方がええよね。
わかりやすく興奮していらっしゃる。
はは、すごかろうすごかろう。
皆、俺の名を讃えおるわ。
でもさ。違うんよ。
あれから話に出た試作戦闘用車両をさ。
その後、10日もせずに仕上げてくるあの親方が一番ヤバいからな。
なんなのあの人。
頼むから寝てくれ。
改めて俺は自分の乗っていたその石作りの戦闘用車両一号機を見て、2日前に親方に呼び出されたことを思い出すのだった。
・
「出来たぞジル坊」
「なにがよ親方」
「ほれ、こういうヤツじゃろがい。お前が言うとった戦闘車両とかいうの」
「ふぁっ」
リアルでふぁっ、とか声上げたの初めてだわ。
なにこの石を直接切り出したようなゴツい見た目の、クッソかっこいい装甲車もどきは。
しかもその車体のボンネット中央に、こう、なんとも攻城兵器感が漂うクロスボウのお化けことバリスタさんが、前方視界にケンカ売りながらも、どでんと、乗っかってるとか。
もう戦車じゃないかコレ。
完全に仕上がってるわ。
なんで加工しづらい石でこんなモン出来るんだよ。
わけわからん。
頭がハテナで一杯だった。
「くく、お主のその顔が見たくての。
買うたのよ」
「なにを?」
「奴隷に身を落とした土の民の元貴族を、よ」
「うぉん?」
「アイツラおったら土魔法で、石の切り出しなんぞ粘土こねるより容易いもんじゃわい。ほれ、オメェ鉄も足らんいっとったじゃろ。
ならここはもう石でいこうや、な?」
「うぉ、このドワーフイケメンすぎるだろ!」
なんてこった。完全に盲点。車は鉄で作るもんだって思ってたけど、そりゃ加工しやすく準備しやすいってんなら石材でも、もちろんいい。
だって俺ら重力使いは重さなんて関係ないからな。
石材利用、有り。全然有りだよ。
うおぉ、なんちゅう事考えるこのちょびヒゲオヤジィ。
今親方は、俺チャートドワーフランキングダントツ1位に輝きました!
まぁ他のドワーフ知らんけれども。
そっか。強度と重量的に石なんざってなるけど、そんなモン重力制御でどうにかなるし、元々ゴムがまだないこの世界なら、タイヤの問題も気にならん。
停車時にはタイヤのシャフトが曲がらんようにひと手間いるけど、ソレ以外はパーフェクトじゃないの。
分厚くフレーム切り出して、あと必要な部品だけ鉄で作って石の中へと魔法で埋め込めば。
あっという間に一台完成。
は、天才だわ。
この人。
「上についてるこの巨大な、車幅程のバリスタは?」
「もちろん重重力製の連射砲よ。元は城塞用の一品じゃ。
その速射性は、驚異の一秒一射。今、太矢の自動補給装置も考えとるわ」
「射線は動かせるのか?」
「元軸に取り付けた縦横のギアに、お主らが重力を通すことで、運転しながら上下左右に狙いがつけれるように仕上げたぞ」
「すげぇな親方、満点だ」
これだけのモンを10日かからずかよ。
このチート職人め。やべぇな。
そこらへん詳しく聞くとどうにも自分の弟子やら知り合いの工房やらを全力で巻き込んでパーツごとの作成を依頼しとるらしい。
完全に本工場と子会社の関係や。
買い叩きにならないように、国庫から親方の工房に渡す予算増やさないと。
いつの間にか領営事業が勝手に生えた。
まぁいいや。改めて親方に聞きたいことがあるし。
「動かしてみたの?」
「試運転はセバス殿に頼んだわい。
なんでも早く騎士達に受給したいから、どうにか量産してくれと慌てとったわ。今頃、奴隷市場さらって土魔法持ちを買い漁っとるだろう」
知らん所で家の執事が大忙しな件について。まぁその判断は正しいから万能執事セバス爺ちゃんに全部任せるべ。
あ、もしかするともう俺の考えた事とかもやってくれてるかも。……後で確認だな。
今は目の前の確認が先だよな?
「そういや結局、新型重重力機関は全部自転式に変えたんだったよな?」
「おう」
例の重力に重力重ねる方法使うなら、十分小型でもクソ重く出来るからな。
それを歯車の内部に詰め込んで、魔力伝達をその前方だけにすりゃそこだけ重くなるから、後は自然と自重で転がって高速回転しだすのよ。
バックは逆に後方だけに伝達すりゃできる。
この高速回転。ようは仮想的な自由落下のことで、最大時速72kmまで上がる。それがさらに、最後に外側にかけた重力倍されるので、物凄い速度で回り出す。
実はコレ。
内部は超重化してるけど、外から見ると最終的にかけられた重力魔法の重力比の物でしかない。
だからこの性質をうまく使えば、重力加速度の変化を利用してシフトチェンジすら単一の歯車機構でまかなってしまえるという、ヤババイ技術。
それが新型重重力機関の正体だ。
完全に魔法チートの産物だわな。
おかげで必要なパーツが少なくて助かってるがね。
「ま、実際は魔力コスパん為に、重を20位重ねとるけどの」
「うぉ、それだけでも大変だったろ?」
「いんや別に。要は魔力伝達を個別にできて、内に入れたモン、今回は鉛つこうたが。
コレが重くなるようにすりゃえんじゃから、外側包むのは革でええ。むしろピッチリ詰まって薄いほうが伝達用の魔力粉も少のうて済む」
「おう、そっか。
別にギア内部で摩擦される訳じゃないもんな」
「そういうことじゃ」
実質重力魔法流せりゃ、たった一枚の歯車だけで超強力モーターとして稼働するコイツの応用性は果てしない。
まぁ横に寝かされると、とたんに無力化される弱点とかあるけど。
チェーンソーの動力には向かんわな。
「流石にスピードメーターはないやなぁ」
「そういう細かいとこは全然じゃ。実際鍛冶屋の仕事じゃねぇし。まぁしばらくは体感で頼むわ」
「充分すぎるわ。馬にメーターついてないもの」
「はっ、そりゃそうじゃ」
充分、充分。ブレーキもゴムないから革製だけどやむなしよ。せいぜい重さで調整するしかないわ。
あ。
「コレ、停車時シャフト大丈夫か重量的に?」
「止めるときゃ車のタイヤ上に引き上げる仕組みよ」
「ああ、動かす時は重力での軽量化前提なのな」
「おうよ。ブレーキ時に重量戻すときも全部戻したら自重でバキっといくぞ。止めるときゃ自動で引っ込むようにした」
「おおぅ。そりゃ難儀だわ。
……なぁコレの重さ受ける車輪の数増やせばそんなんなくても持つんじゃない?」
「あ!
……確かにの。抜かったわ。よし、今から組むか」
「や、とりあえずこれはこれで充分だから」
充分。充分すぎるよ。
だってこれ実質大型バリスタ備えた城壁が猛スピードで走り回るようなもんだもの。
しかも本来の射撃速度の何十倍の速度で人貫通する太矢打って来るとか。
怖すぎでしょ。
異世界ヤバいわ。
これでウチの防衛力が飛躍的に上がる。
娘を守る為の戦力の強化はとにかく急務だったからな。
それに増えた機動力は、娘により新鮮で美味しい物を食べさせるのに役立ってくれるだろうし。
素晴らしい。素晴らしいじゃないか。
早く量産しないとな。
あーでも、とりあえずアレだな。
親方にお礼が先だわ。
「ふ、く。
そうか。はは、親方にゃまた礼をせんとなぁ」
「ええぞ別に。つーか、オメェがワシに教えてくれたモンの方がどう考えても高ぉついとる。
ワシが逆に礼言いてぇぐれぇじゃわ」
「じゃあ礼はそっちでいいってか?」
「無論よ、ジル坊」
爛々とした目で俺に言い切った親方に。
俺は感謝を込めてバイクの概念を教えてあげた。
・
そして2日後の今日。
未だ興奮冷めやらぬ騎士達の前、バイクの試作品が置かれている、と。
……。
親方ぁ、ちゃんと寝てくれ!!
後日、俺はまた親方に感謝を込めて技術を贈った。