【ドイツ産】SSSレート喰種だけど質問ある?【パツキン巨乳】   作:ちゅーに菌

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嬉しくなると投稿が早まる現金な作者はここです(支離滅裂な発言)








ジャック

 

 

 

 

 

「無謀」

 

 火蓋が切られた直後、真っ先に動いたのは小柄な少女――シムナであった。

 

 彼女は短機関銃を地面に落とすと、マウザー M1918のような対戦車ライフル型のクインケを両手で構え、その銃口を有馬へ向け、何の躊躇もなく引き金に指を掛けた。

 

 それに合わせるように有馬はランスであるIXAの六枚の防御壁を展開し、傘のように広げ――直感的に激しい悪寒とIXAに対しての不安感が沸き、飛び退きつつIXAの防御壁を畳む。

 

「――――!!」

 

 それとほぼ同時に発射の直前で銃身の角度を変え、偏差撃ちされた銃弾――ではなく15cm程の長針が、変形途中のIXAの防御壁の一枚を紙クズのように貫通し、有馬の頬を薄く掠めた。

 

「では始めましょう」

 

 挨拶代わりだったと言わんばかりに呟き、有馬の目の前まで迫っていた大柄な少女――ジャックが横薙ぎにロングソード型のクインケを振るう。

 

 その余りにも速く、迷いのない一閃は有馬の胴を断つ様を幻視させたが、彼は腰を落として体勢を斜めに反らすことで避けると、ランスに変形を終えたIXAを彼女の頭部に突き出す。更にそれと同時に、もう片方の腕でコート内に隠されていた刀状のクインケであるユキムラ 1/3を展開し、下から上へ斬り上げる。

 

 甲赫のS+レートであるIXAの防御壁を当然のように突破出来る時点で、あの対戦車ライフルを避けつつ、ジャックと戦うことはかなり厳しいと踏んだ有馬は、対戦車ライフルからジャックの身体で撃てない直線の位置で戦うであろう最初の接近時に片方を殺し切ろうとしたのだ。

 

 確かに突き刺したIXAに対して手応えのあった有馬であったが、もう片方のユキムラ 1/3の手応えが余りにも軽い事に疑問を感じ――ユキムラ 1/3が根本から完全に断ち斬られている事に気づく。

 

 どうやらジャックは振った直後、刃を返してユキムラ 1/3を斬り裂いたらしい。Bランクのクインケではあったが、簡素な見た目のロングソードはそこまでレートの高いクインケではないと考えていたため、有馬は多少驚き――IXAから金属が軋んで折れる音を聞いた。

 

 直後、再び悪寒を覚えた有馬はIXAを手離しつつ遠隔操作で変形させ、1枚大穴の空いた6枚の防御壁が展開される。

 

 そして、それがIXAの最期の姿になった。

 

 IXAはジャックの袈裟斬りによって、斜めから一閃され、更に振り下ろされた彼女の腕の間を縫うようにシムナの銃撃がIXAの内部機構部分を貫く。それによって幾つものパーツに別れてバラバラに地面に落下する。これまで有馬を支えてきたクインケの片割れは余りに呆気なく、クインケ鋼と赫包のクズになったのだ。

 

「技量、状況判断、思い切りの良さ……どれを取っても素晴らしいですわね」

 

 ジャックから距離を取りつつも、シムナを警戒して一直線上にいる有馬に彼女はそんな賛辞を述べて近付いてくる。

 

 更にジャックは口から何かを吐き捨てた。それはクインケ鋼の金属片であり、錐のように鋭利なそれはIXAの先端だということがわかるだろう。

 

 つまりジャックはIXAの突きを口で受け止めた上で、噛み砕く事で攻撃を無力化していたのだ。ここまでの事を実際に戦闘でやってくるほど化け物染みた技量と身体能力をした喰種を有馬は見たことがなかった。

 

「しかし、あまりこのようなことは言いたくはありませんが……」

 

 ジャックは小さく溜め息を吐いて有馬を眺める。そして、自身が持つロングソードで地面をなぞると、それで彼を指すように構える。

 

「特等捜査官ならば、常に最低でもSSレート、あわよくばSSSレートクインケのひとつぐらい常に持つべきでは? 死んでから全力でなかったなんて笑い話にもなりませんわよ?」

 

「耳が痛いな……」

 

 有馬が現在持って来ているクインケは、懐に忍ばせたユキムラ 1/3が残り2本のみである。しかし、彼はとあるSSSレートクインケを保有しているにも関わらず、それをこのもぐら叩きでは持っては来なかった。

 

 それどころか、未だに一度も使用した事はなく、そのクインケさえあれば今よりもずっとマトモに食い下がれていたことは間違いないであろう。

 

「栄えある神々の娘(レギンレイヴ)として生を受けた我々は、生まれつき()()()の赫包を使用した固有のSSSレートクインケが支給されておりま――」

 

『ざまぁ、見ろアーリマー! やーい、バーカバーカ! お前のカーチャン既に寿命!』

 

「………………」

 

 ジャックは言葉の途中で、凄まじく低俗で幼稚極まりない煽りの音声が流れて来た事で、彼女は閉口し、シムナも有馬へ対戦車ライフルを構えることを止め、あからさまに怪訝な表情を浮かべているように思えた。

 

 音声――ヴェーヌスベルクはそのまま、まくし立てるように声を発し続ける。

 

『ジャックちゃんのSSSレートクインケは長剣の"レポレッロ"! 何のギミックもないただの長剣ですが、剣として考える限り最高の性能にしてあります!』

 

 ジャックは持っていたロングソードを鞘に仕舞い、ヴェーヌスベルクの会話が終わるまで薄く笑みを絶やさずにいるばかりであった。

 

 どうやら製作者直々に種明かしをしてくれるらしい。それによればジャックのロングソードは、純粋に剣として凄まじい性能があるだけの長剣のSSSレートクインケである。

 

 それならばIXAが紙のように裂かれ、ユキムラ 1/3が手応えすらなく斬り落とされた事にも説明がつくだろう。

 

『シムナさんのSSSレートクインケはその対戦車ライフルの"パパゲーナ"! それは貫通力の極めて高い赫子由来の長針を音速で打ち出す銃です!』

 

 製作者がアピールポイントに上げるほど貫通力のあるSSSレートクインケに狙撃されれば、IXAの防御壁などひとたまりもない。

 

 有馬は結論として、S+レートのIXAで2本のSSSレートクインケを相手してしまったことが間違いだったと考える。

 

 更に彼はジャックがロングソード型のクインケ以外にロングボウを背負い、シムナは短機関銃型のクインケを持っていることからジャックの他の持ち物に目を向けた。

 

「バグパイプもクインケなのか……」

 

「……え? いや……それは普通に楽器ですわ」

 

 楽器だったらしい。有馬は世にも珍しい音波で攻撃するクインケなのかと考えていたため、内心少しガッカリしていた。

 

 そんな彼の気の抜けるような発言を聞いたジャックは何とも言えない顔で愛想笑いを浮かべている。

 

『じゃあ、適当に時間掛けて嬲り殺しにしてくださいねー! 私、ちょっと今手が離せないのでなるべく引き伸ばして下さい! あっ、こらアシラちゃんそれはまだ焼けてま――』

 

「はい、わかりました」

 

「………………」

 

 言いたいことだけ言い終えたヴェーヌスベルクは放送を止める。また、通話越しに死ぬほど下らない事をしているということは何となく感じたジャックとシムナであったが、それに対しては直ぐに記憶の隅に追いやった。

 

「……止めた……無益」

 

「相変わらず、シムナさんはメンゲレ様の事がお嫌いですね」

 

「不快……無粋」

 

 するとシムナはクインケを肩に担ぐと近くの瓦礫に腰掛け、そのまま動かなくなった。どうやら彼女が有馬と現状で交戦する気は無くなったらしい。ヴェーヌスベルクに愛想が尽きたようにも思える。

 

「では、ここからは暫しの間、私一人でお相手致しますわ」

 

「赫子は使わないのか?」

 

 そう言いつつ有馬は周囲を確認する。

 

 そこには殿を務めた有馬の為にか、全力での撤退時に身軽になるためか、幾つかのクインケが散乱している。それらと2本のユキムラ 1/3が有馬が今持ちうる全てだろう。

 

 すなわち、それらでまずジャックを駆逐し切らなければ、彼に生存の芽はない。気に入っていたクインケを犠牲に、身を持って彼女とそのクインケの戦闘能力を知った彼からすれば、かつて"隻眼の梟"と対峙した時よりも絶望的だと確信出来るが、それでもやる他ない。

 

「ご冗談を……。クインケひとつ満足なモノをお持ちでない捜査官殿に赫子まで持ち出すなんて、余りにも品性に欠けて過剰ですわ。そもそもですね――」

 

 そして、ジャックは鞘に手を掛けると、その白銀の剣身を持つ無骨な長剣を抜き放つ。

 

「嬲り殺すのなら……相手の土俵に合わせなければ私が楽しめないではありませんか? あはは――」

 

 それを皮切りに再び有馬とジャックは激突した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方その頃。

 

「見た目は兎も角、味は旨いな」

 

「すごい美味しい……」

 

 最後の大隊(ラストバタリオン)大隊長及び幹部たちとあなたは、宙に投影されている戦闘風景の立体映像をTV代わりに見つつ、生産プラントの一角を陣取って行われている焼き肉に興じていた。

 

 日本CCGの特等捜査官最強の男有馬貴将と、メンゲレ秘蔵の戦闘員との一騎討ちは、あなたから見ればとてつもなく手に汗握るものであり、他の面々からすれば網で焼かれた肉が焦げ付かないように見張る方が重要らしい。

 

 ちなみに焼き肉は網焼きのバーベキューコンロであり、火の調整は火床に放り込んであるヴィルヘルミナの赫包が勝手にやっており、メンゲレが中心に肉や他プラントから持って来た野菜を焼いていた。

 

「野菜が美味しそうだ……」

 

喰種(私たち)からしたら硝子細工と変わらなかったのにね……」

 

「伴侶さん、あーん!」

 

 メンゲレが箸で口に直接肉を入れようとして来たため、とりあえず食べる。それはあなたが知る限りでも肉屋で相当高額な牛肉に感じ、メンゲレの味へのこだわりに思わず匠の技すら感じる。

 

 横目でバーベキューコンロの隣を見れば、さっきまでこの辺りをトコトコ歩いていた人間の肌をした牛を、"新鮮なうちが特に旨い何より血が旨い"という喰種的思考により、屠殺して得た1頭分の肉が置かれていた。

 

 しかし、既に3分の1は消費されており、あなたの知る喰種たちの胃袋の広さには驚くばかりである。

 

 ちなみにあなたとしては、昏倒させて喉を裂いて吊るす等の屠殺方法が主流だが、彼女らの場合、死んだことすら理解できないであろうレベルで瞬殺するため、とても人道的だと感じていた。

 

「伴侶さん、この牛食べるのに抵抗とか無いんですか?」

 

 凄まじい速度で黙々と肉を消費するヴィルヘルミナとパパゲーノにひたすら肉を焼いているメンゲレが、手元を止めずにそんなことを聞いて来る。

 

 確かに抵抗が無くはないが、家でホットプレートで焼き肉をする時は、人間が食べる用と人肉用のホットプレートをふたつ並べて焼き肉をすることが多かったので、それをせずに同じ調理器具で食べれる事の嬉しさの方が勝っていると感じていた。

 

「ちょっとズレてるかな?」

 

「まあ、日本人はタコとかウニとか納豆とかとんでもないもの食べるし、へーきへーき」

 

「日本人って全部こんなのなのね……」

 

 何か日本人全体にとんでもない風評被害が起きている気がするが、ヴィルヘルミナが言っていることは間違っていないため何も言えないあなたであった。

 

 それよりも神々の娘(レギンレイヴ)という娘たちだけ戦わせて、自分達はなぜ焼き肉をしているのだろうかという疑問の方が強い。

 

「それはアナタ、部下が汗水垂らして働く横で食べる肉より旨いものはそうないからだ。後、普通に色んな味が気になる」

 

 考えていた以上にヴィルヘルミナが上司としてアレな事にあなたは苦笑いを浮かべる。まあ、恐らく後者の理由がほとんどを占めるのであろう。

 

「色んな味と言えばですね。面白いモノを幾つかご用意しましたよ」

 

 待っていましたと言わんばかりにメンゲレは、何処からともなくクローシュが被せられた皿をひとつ出して来た。

 

 ちなみにクローシュとは主に西洋料理で、料理をにかぶせる金属製の丸いアレのことである。食べ物の温かさや鮮度を保つという用途らしい。

 

 そして、メンゲレはその蓋を恭しく開けて見せた。

 

「パップラドンカルメです」

 

「これがあの……パップラドンカルメ!?」

 

「なにそれ……?」

 

 そこには平皿に乗ったクリームのように白く、カステラのように四角い、お菓子のような物体があった。見ようによっては焼肉屋で網に使う牛脂のようにも見える。あるいはピンク色で口と目のついた小さな焼きイモのような形である。

 

 しかし、元ネタを知っているあなたは、とりあえず味わってみたい衝動に駆られ、口に運んだ。

 

 すると食感は両方ともマシュマロのように柔らかで弾力があったと思えば、ポップコーンのように沈み込んで歯で軽く壊れるような奇妙なもの。わたあめを固めたモノのような食感だとあなたは感じる。更に味は見た目とは裏腹に、ケーキやプリンの風味や無果汁のバナナやメロンといった人工甘味料のフレーバーに似た香りが広がり、ラムネのように旨過ぎずに何となく口に運べるような仕上がりになっていた。

 

「ひみつきちで作りました」

 

 凄まじい完成度だと関心はしたあなたではあったが、余りにもネタの鮮度がないとあなたは純粋に思う。あなたの世代でもギリギリ一部の人間なら伝わる程度であろう。

 

 あなたにそう言われたメンゲレは、クローシュで覆われたまた別の皿を出し、再び蓋を開ける。

 

「なら今風に――ベヌジットスポポ焼きです」

 

「こ、これが……あのベヌジットスポポ焼き……!?」

 

「なにそれ……?」

 

 更に出された平皿には、色黒のツマグロヒョウモンか、出来損ないのオニイソメを黒焼きにしたような何とも形容しがたく、食べ物には見えない外見の何かがあった。

 

 何故か、今川焼きや鯛焼きを包むような包装が個々にされており、片手で食べれるお手頃フード感が出ているが、伝線して絡まった鳥避けか、スパイクストリップのような見た目のソレからは一切、食べ物という認識は伝わってこない。

 

 なぜこんな一部の者にしか伝わらないモノを作ってきたのかと考えたが、とりあえずメンゲレだからであなたは落ち着いた。そちらの方がカロリーも糖も消費しないので頭に優しいだろう。

 

「(きゅぬ)…………うん……思ったよりは(もぐ…もぐ…)」

 

「(じゅみ)なに……この…………なに?(もぐ…もぐ…)」

 

 あなたも渡されたため、とりあえず食べると歯を立てた時の"ぱにょ"という独特な音が気になる。更にサクサクとした食感とベタベタした食感が同時に襲い掛かり、少し美味しい土のような奇っ怪な味が口いっぱいに広がった。

 

 あまりに小癪な再現にあなたは妙なものを食わせられた怒りを通り越してメンゲレに関心を覚える。

 

 存在しない食べ物モドキな物体を完全再現して見せるメンゲレの手腕は異次元と言う他ない。まあ、その方向性が全力で明後日の方向を向いているのが、彼女らしいのであろう。

 

 そして、慣れた手付きでテキパキと肉などを焼き、網の横で平行して別の食べ物を作ることもしているメンゲレに思うところがあった。

 

 ひょっとして彼女、"料理上手なのではないか?"と――。

 

「もちろん、そうですよっ! 何せ料理は化学ですからね! 適切なものを適切なタイミングで適切なだけで投入し、焼き加減を明確にしつつ、各種人工調味料や添加物で――」

 

「えっ……?」

 

「うそ……?」

 

「ちょっとアナタたち百何十年と、何十年の付き合いなんだオラァ!?」

 

 メンゲレをそんなことあるわけはないと言わんばかりに、あり得ない表情で見るヴィルヘルミナとパパゲーノ。

 

 そんな彼女らを横目に見つつ、立体映像に目を向けると既に決着がつき掛けているようにあなたにも見えた。

 

「面白くないな……」

 

 するといつの間にかヴィルヘルミナも食事の手を止めてそれを眺めており、そんな言葉をポツリと呟く。

 

 その発言であなたはそれとなく彼女が言わんとしている事を理解する。基本的に彼女は、組織の神に等しい存在にも関わらず、興味を持った強者がいれば着の身着のままで殴り込みに行く程度には非常識な存在なのだ。

 

 それには確かに生死は問わずとも戦う相手への敬意があるとあなたは感じていたのだが、まあそれは理由のひとつではあると考える。

 

「あそこはフィッシュ……いや、"グレゴール"の廃棄区画なんだな?」

 

「え? そうですけれど……」

 

「ならば好都合だ。グレゴールの収容房と拘束機構を解放しろ」

 

 それを言われたメンゲレは、言われるであろう事の予想は大方ついていたのか苦笑いを浮かべつつ、顔を引きつらせていた。

 

 その表情から余ほどにフィッシュやグレゴールと呼ばれている存在を、メンゲレが出したくないと感じていることはあなたでもわかる。

 

「いや、有馬貴将は(ヴィー)の虎の子ですよ? こんなところで適当にくたばるならそれに越したことはありませんし、大隊長のお眼鏡に叶わなかった程度の捜査官だったということです。このままにしておけばジャックちゃんが殺しますし、それ以前によりにもよってグレゴールは大隊長の――」

 

「二度は言わんぞ、メンゲレ"少佐"?」

 

「――え、ここで上官命令……? アレを飼育するのにわざわざ区画をひとつ丸々破棄してまで封じ込めたんですけど……どれだけ苦労して――あー、わかりましたわかりました。出せばいいんでしょ出せば。もー……コレじゃ大隊長行かせても大差無かったんじゃ……」

 

「それでいい、それがいい」

 

 メンゲレが深い溜め息を吐いて携帯端末を操作する中、ヴィルヘルミナは満足したのか、組立式椅子に座ると、再び焼き肉に箸を付けつつ楽し気に表情を綻ばせて立体映像を眺めた。

 

 何よりあなたが知る限り、ヴィルヘルミナという喰種の根幹は享楽主義者にして"ピエロ"なのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 十数分後、そこにはあらゆる箇所が斬撃により斬り落とされ、瓦礫と巨大な切れ込みが大量に刻まれた床や壁があるばかりの空間と化していた。

 

 そんな中、ふたつの影が幾度となくぶつかる。

 

 片方は白でもう片方は黒。白が踏み込めば黒は地を踏み締め、黒が突撃すれば白は避ける。白が斬り払えば黒は受け止め、黒が空を薙げば白は受け流す。そうして、幾度となく繰り返され、交わされる剣戟は微かな火花を生む。

 

 それらは喰種捜査官のコートの白と、ナチス親衛隊の軍服の黒であり――有馬()ジャック()がそう長くはない間にどれだけの剣を交えたのかは、床中に散らばる幾重にも切り裂かれたクインケの破片と、既に刃に皹が走る最後のユキムラ 1/3を彼が手にしている姿が全てを物語っているだろう。

 

「うふふ――!」

 

 有馬がジャックの背後に回り込み、刀を振るうが、それを彼女は背面に剣を回すことで防ぎ、代わりに彼女は後ろ蹴りを放つ。だが、それを彼は刀を盾にしてその衝撃を利用することでより遠くに退く。

 

 それと引き換えにSSSレート相当の半喰種の脚力に当てられ、悲鳴を上げた刀には新たな皹が刻まれる。

 

「ああ……!」

 

 有馬を追って突撃したジャックは、床目掛けて剣を振り下ろすが、彼は迫る剣身から柄に向かって刀を這わせるように受け流しつつ彼女の手首を斬り裂こうと振るう。しかし、彼女は迫る刀を眺め、剣を一瞬離すと共に柄を激しく弾き、剣を宙で360°回転させて彼の刀を逆に手元から弾き飛ばす。

 

 剣を受け流すと共に、異様な力で弾かれた事で刀は更に新しい皹が刻まれる。

 

「楽しい……ッ!」

 

「――――!」

 

 そして、宙を舞った刀と、回転した剣を互いが再び手元に手繰り寄せ、互いに互いを一閃するのはほぼ同時だったが、刀の方が僅かに速い。

 

 そして、同時に皹だらけの刀は遂に砕け散り、そこから飛び出した切っ先がジャックの肩に突き刺さり、手元が狂ったと共に切っ先を僅かに避けていた体勢で振るわれた彼女の剣は有馬の頬を僅かになぞった。

 

 互いに振り抜いたまま、永遠のような刹那を静止した時間が過ぎ、それは有馬の頬から流れた僅かな血が再び時を動かす。

 

 

「…………これが試合なら私の敗けですわね」

 

 

 ポツリとジャックはそう呟き、肩に刺さった切っ先を素手で引き抜くと、それを有馬の目の前に投げ、冷たく硬い床を金属が跳ねる音が響き渡った。

 

 有馬の手元に最早クインケはなく、常人では視認することさえ出来ない世界を渡り合った彼は肩で息をしており、既に限界であったのだろう。

 

 半人間と半喰種ではここからの逆転は最早まずない。ユキムラ 1/3の破壊に合わせ、その破片をジャックの首に飛ばし、喉を突き刺す事が唯一の勝ち筋であったが、それも最早潰えた。

 

「神々から造られた我々相手に、半人間の身でよくここまで耐えました。あなたは紛れもなく、素晴らしい捜査官でしょう」

 

 ジャックは少しだけ有馬から離れ、そのような賛辞を口にする。その瞳は真っ直ぐ彼を捉え、その淡い色に一切の曇りはない。

 

 技量、判断力、速度に関しては、有馬とジャックはほぼ同等。あるいは有馬の方が若干上だった。しかし、彼女は神々の娘を自称するだけの事はあり、その瞬発力、動体視力、数秒先の未来を見ているかのような知覚、喰種の肉体を駆使した戦闘行動、彼以上の体格、圧倒的な筋力に加え、保有するクインケに至るまでその他でジャックの方が強みを持ち、身体能力に至っては全てで上回っていたのだ。

 

 特等捜査官の土俵でそれ超えた怪物、SSSレートでは評価の足りない喰種、"隻眼の王"。有馬の中でそんなことが思い浮かぶ。

 

 だが、ジャックという半喰種もまた、最後の大隊(ラストバタリオン)に属するヴェーヌスベルクという怪物の駒でしかない。

 

 (ヴィー)そのものが、元世界最悪の軍勢の残党でしかない筈の最後の大隊(ラストバタリオン)を恐れていることを、構成員の一人でしかない有馬は知識としてしか知らなかったが、これはVの保有する喰種や捜査官が幾ら居ようとも全く意味がない事を思い知る。

 

 仮に最後の大隊(ラストバタリオン)のNo.3であるヴェーヌスベルクひとりだけ相手にしたとしても、それだけで(ヴィー)が総力戦を仕掛ける必要がある上、それでも倒し切れるのか怪しい。その上、少なくとも明確にそれ以上の存在が後2体いるのだ。

 

「そうですわね……冥土の土産に教えてさしあげましょう」

 

 ジャックは自ら有馬に語り始める。それはその通りの意味か、はたまた最低限の矜持か、彼女が彼との別れを惜しんだのかはわからない。

 

 とは言え、彼女が彼を殺すことに揺るぎはなく、善悪は違えどその芯の通った意思と、律儀さだけは確かなものに思えた。

 

神々の娘(レギンレイヴ)とは、神のごとき力を持つSSSレート喰種の遺伝子及び赫包と、神が悪戯で造ったような人間の遺伝子を掛け合わせて生み出された人造の天然半喰種です」

 

「――!」

 

 それは生まれてから和宗家あるいは(ヴィー)という組織に属する有馬からすれば、実現しようもない絵空事であった。

 

 しかし、明らかにこちらよりも遥か先の喰種技術を持つヴェーヌスベルクならば、造れてしまうだろうと自然と納得出来てしまい、実際にジャックという存在と対峙した事もそれに拍車を掛けたであろう。

 

 そして、ジャックはそれ以上の事を口に出した。

 

 

「私に使われたSSSレート喰種は最後の大隊(ラストバタリオン)No.2"ドン・ジョヴァンニ"。そして、人間側の遺伝子はイギリスの陸軍軍人ジョン・マルコム・ソープ・フレミング・チャーチル、"ジャック・チャーチル"ですわ」

 

 

 有馬は凄まじいビックネームが出て来たことに驚く。

 

 ジャック・チャーチルについては、前時代の武器を使用していた軍人程度の認識で、そこまで深くは知らない彼だったが、喰種捜査官としてもう片方のSSSレート喰種の名だけはよく知っている。

 

 ドン・ジョヴァンニ――。

 

 最後の大隊(ラストバタリオン)の前身のテロ組織、赤い霧(ローター・ネーベル)時代から確認されているヴェーヌスベルクと並んで最古参のスペイン系SSSレート喰種だ。"伊達男"、"厄災"、"最悪の喰種"等と呼ばれ、悪逆無道の限りを尽くしたと言われており、CCGと喰種の歴史を学べば一二を争うほど著名な喰種と言える。無論、世界大戦を生き残り、現在は行方不明の残党の一体だ。

 

 それの娘であり、半喰種のジャックがこれだけ異様な実力を持つ事に最早疑いはないであろう。

 

「要するに最強の喰種と最強の人間を掛け合わせたら、最強の半喰種が出来るという幼稚染みて馬鹿げた発想で極まるところまで行ってしまった存在が、レギンレイヴ(我々)ですわ」

 

 つまりはいつものヴェーヌスベルクだったということだ。あるいは彼女にとって研究とは、その程度の在り来たりな命題を途方もない時間を労して実現しようとする事なのかもしれない。

 

「ではそろそろ終わりに――」

 

 ジャックがそう口を開いた直後、一発の轟音が響く。

 

 音の方向に彼女と有馬が目を向けると、そこには広大で先の見えない闇が続くばかりの研究所の内部へと何故か対戦車ライフルを向け、その銃口から細い白煙が立ち上る様があった。

 

「グレゴール……何故出ている……?」

 

 そして、ポツリとシムナが訝しげにそう言い放つ。

 

 するとそれに呼応するように人影が闇の中から微かに現れ、それが余りにも親しい存在に似ていた事で、有馬は思わずそう呟いた。

 

 

「………………"エト"?」

 

 

 それは有馬が見知った通りの顔で幼げな顔立ちをし、淡い緑の髪をしていた。更に左の目が赫眼のままになっており、ぼんやりとこちらを見つめている。

 

 暗闇に一糸纏わぬ姿の上半身だけが浮かぶ彼女は、こちらと視線を交えるとにっこりと微笑み徐々に近付いていた。

 

(なぜアイツがここに……? 捕まったのか……? いや、そんなことは……待て――)

 

 そして、有馬は目先にいる彼女の違和感に気付くと共に、依然としてシムナは彼女へ銃口を向け、ジャックも剣を持つ手に力が籠っている事に気付く。

 

(アイツの赫眼は"右目"だ……それに若い?)

 

 その直後、彼女が暗い研究所内から人工の光の当たる有馬達のいる場所に姿を表したそれは――。

 

 

 

 

『あはは――あはァねえさんすききれいすきいいい美味しいねえさん……きれいすきウフフうふゥフフフフフフフ……ああねえさんたち美味しい……ははははハハはははアハは!ははあああはあなたはあアハ!!!あひぃははねえさんねえさんねえさん美味しあははあへアははぁははあ!!ひいィ……わたしこわいよだれしんでたすけてころしてワタシいたいだれあはははははははははあはは!!!』

 

 

 

 

 巨大な毛虫のような肉塊から頭部の代わりに少女が生えた怪物だった。

 

 

 

 

 

 







神々の娘(レギンレイヴ) 一覧~

ジャック
 SSSレート喰種の遺伝子及び赫包と、神が悪戯で造ったような人間の遺伝子を掛け合わせて生み出された半喰種"神々の娘(レギンレイヴ)"の一体。甲赫の赫者。
 使用されたSSSレート喰種側の遺伝子は最後の大隊(ラストバタリオン)No.2"ドン・ジョヴァンニ"。人間側の遺伝子はファイティング・ジャック、マッド・ジャック等と呼ばれたイギリスの陸軍軍人"ジャック・チャーチル"を使用している。
 長剣型のSSSレート甲赫クインケ"レポレッロ"を保有し、その長剣とロングボウ型のクインケのみでメンゲレのあらゆる無理難題を解決して来た女傑。喰種にあるまじき、極めて高い剣術の技量と喰種らしい力業を両立する独特の剣技を使い、神々の娘(レギンレイヴ)では一二を争うほど安定した戦闘力と確かな任務遂行能力を持ち、グレゴールなどを除けば最強の個体。喰種捜査官で例えれば有馬貴将に近いが、戦法が似ている事も相まって、元々彼にとってかなり分が悪い相手。

・レポレッロ
 ジャックに生まれつき与えられたもの。最後の大隊(ラストバタリオン)のNo.2であった男の赫包から造った甲赫のSSSレートクインケ。簡単な装飾が施されただけの無骨なロングソードの形状をしている。ヴェーヌスベルク製作。
 SSSレートクインケにも関わらず、一切のギミックのないただの剣だが、単純に如何なる甲赫より硬く、現存する全ての刃物より鋭く、異常な温度耐性を持つ。それ故に使用者の技量に全てが左右され、極めて高い技量を持つ者が使用すれば、最高の刃にして盾となる。
 奇妙かつ癖の強いギミックや性能と引き換えの代償(デメリット)のあるキワモノばかり製造しているヴェーヌスベルク製としては極めて珍しい正統派クインケ。
 


グレゴール
 SSSレート喰種の遺伝子及び赫包と、神が悪戯で造ったような人間の遺伝子を掛け合わせて生み出された半喰種"神々の娘(レギンレイヴ)"の一体。羽赫と甲赫の赫者。
 使用されたSSSレート喰種側の遺伝子は小説家"隻眼の梟"、珈琲店を経営している"隻眼の梟"、最後の大隊(ラストバタリオン)大隊長"赤い霧(ローター・ネーベル)"の三種。そして人間側の遺伝子は、満月の狂人、グレイマン、ブルックリンの吸血鬼などと呼ばれたアメリカの大量児童食人鬼"アルバート・フィッシュ"。ロストフの殺し屋、赤い切り裂き魔などと呼ばれ、社会主義の闇が育んだ"アンドレイ・チカローチ"。アンデスの怪物、"ペドロ・アロンソ・ロペス"と同じくコロンビアの20世紀最悪の大量殺人犯鬼"ルイス・アルフレド・ガラビート・クビヨス"など数多の人間のシリアルキラーを採用。約一世紀半ほどの期間で世界各国のあらゆる大量殺人鬼の遺伝子を合成して生み出した悪魔の遺伝子使用している。
 しかし、半喰種を含む三種の喰種の遺伝子を掛け合わせた為か、複数の人間の遺伝子を掛け合わせた為か、近親の為かは不明だが、元々知性の発達に若干乏しく、赫者になった際の負荷に耐えきれず発狂。他の神々の娘(レギンレイヴ)を好んで捕食する害虫へと変貌し、怪物染みた再生能力を持つと共に赫者形態のまま戻らなくなっため失敗作の烙印を押され、彼女を拘束して収容するための廃棄区画を用意し、そこで飼育されていた。
 メンゲレからは使った人間の一人の名前かつ響きの可愛さと、飼育していることの皮肉から主にフィッシュと呼ばれている。容姿は芳村愛支に容姿はよく似ており、現在14歳になる。グレゴールは失敗作になってから付けられた名であり、元々の名称は"ヨシムラ"。







~QAコーナー~

Q:ラストバタリオンってどんな組織?

A:上司がこんな奴ら



私事ですが、ハーメルンに8年ちょっと投稿していて、3枚目と4枚目の支援絵を頂きましたので、貼らせて頂きますね。


【挿絵表示】

ヴィルヘルミナさん


【挿絵表示】

アシラちゃん

施しの英雄等を執筆している ◯のような赤子 様のヴィルヘルミナさんと、アシラちゃんです。

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WHOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!!!!!!!!!!!(突然の感銘)


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