ついつい長く書き過ぎて更新が遅れました。
こんな感じで不定期更新で遅くなる時もありますが、今年も何卒よろしくお願い致します!
「なぁ......そろそろ機嫌直してくれよ」
「ふん!お兄のバカなんか知らない」
現在、我が家へと向かう帰り道。何故こんなにも天音の機嫌が悪いのかは察して欲しいのだが、いつもより機嫌悪い時間が長いので少々困りものだ。まぁ確かにピキピキのゲリラライブの事を教えなかったのは悪かったと思うけど。それにしてもお兄ちゃんに対する態度が酷くない?今回に限った事じゃないんだけどさ。
「次のライブチケット響子から貰ったんだろ?それで機嫌直してくれても良くない?」
「それとこれとは別なの!」
「あ、さいですか......」
「お兄は何も分かってないよね」
「いや待て、俺にも言い訳させてくれ」
という事で俺が言い訳する度に天音からキツいお言葉を頂き、それでもめげずに立ち向かった結果、最終的に"その場で響子さんを感じたかった"という若干危ない発言で兄妹喧嘩(一方的)は幕を閉じた。
気が付いた段階でライブスペースに来たとしても、あの人混みの中をすり抜けてベストポジションまで来られる可能性は低かっただろう。それに
「当日は絶対一番先に良く見える位置に行くから。その時は頼むよお兄」
「そんなに見たいなら特等席に案内してやっても良いぞ」
「本当に!?」グイッ
「特等席って言ってもアイツらがライブしてる横なんだけどな」
長い間ピキピキの世話や手伝いをしている俺からすればもう慣れた景色だが、確か天音は未だにあの位置からライブを見た事は無かったはずだ。ライブを前から見るか横から見るかで結構変わってくるもんだと個人的に思う。
まぁ偶に絵空とか由香と目があったりするし、なんならウインクとかしてくるからな。絵空は狙ってワザとやってるのは分かってるが、時々しのぶと目が合ってすぐに逸らされる事がある。その時に頬が若干赤く見えるのは照明のせいなのだろうか。DJって案外やる事多いから汗かいたりしてたのかもしれないな。
「そこで見たい!」
「ん、なら特別に招待してやろう」
「やったー!」
「あれれぇ?こういう時に何か言う事がありませんですか天音ちゃん?」
「くっ......あ、ありが──」
俺のテンションに合わせて"言いたくないけど仕方なく....."感を演出する天音。こういうところは、やっぱ兄妹してんなって思うんだけどな。中二病みたいだねとかっていうのは禁句。これも立派なコミュニケーション術の一つですから。
「......というかお兄、響子さんは何で居ないの?」
「おい妹、感謝の言葉より先に出たのがそれか。因みに響子は愛本さんと一緒に愛莉さんのところ行ってるぞ」
「最近転校してきたっていう人だよね?」
「まぁそれにしては仲良くなるのが早い気もするが」
愛本さんの性格あってか、俺達ピキピキや明石さんと仲良くなるのに1日も掛からなかったからな。流石は陽葉学園のコミュ力お化け(褒め言葉)だな。まぁさっき適当に思い付いた言葉なんだけどね。お礼に貝殻貰ったりと、多少不思議ちゃん要素もあって退屈しない子でもあるな。
「まぁ響子さんの方が可愛くて美人でカッコいいけどね」
「お前が威張って言うことじゃねぇけどな」
「じゃあお兄は響子さんと愛本さんどっちが良いの!?」
「ちょっち待ちなさい天音さんや。興奮し過ぎて情緒不安定になってるから」
その内泣き出したりしそうで怖い、主に俺の身の安全が。天音を泣かせたとなれば親父は勿論の事、響子達ピキピキや愛莉さんにまで怒られそうだ。そんな事態になれば骨の一本どころか塵一つ残るか分からんな。まぁ十中八九親父からの被害なんだろうけど。
「それで、お兄は響子さんと愛本さんどっち選ぶの!?」
「もう主旨が変わってきてるぞ」
「いいから答えて!」
「......まぁそれなら──」
「それは勿論響子さんだよね!流石のお兄でもそこは理解してるんだ」
まだ響子の"き"の字も口にしてないんだが。いやまぁ響子って答えるつもりだったし、響子って言わないと駄目な雰囲気だったし別に良いんだけどさ。ここで愛本さんを冗談でも選ぶ事があるならば、天音からの鉄拳制裁は間違いないだろうからな。というかその類の質問を俺にするのは間違ってると思う。これで天音から響子に変な伝わり方したら多分死ねるぞ俺。
「お前の響子愛も大概だな。まぁ今に始まった事じゃ無いから良いんだけど」
「当たり前じゃん。だって響子さんだよ?」
「それそれ。絶対他の人にその価値観押し付けるなよ?」
響子に絶対的信頼を置き、ある種で盲目的な信仰を捧げている天音である。響子も響子で、その期待に割としっかり応えるので何とも言えない感じになる。お兄ちゃんにもそのくらいの間柄でいて欲しいんだけどな。本当に幼い頃の俺にベタベタだった天音が懐かしい。
それからしばらくの間、主に天音による"響子さんのここが凄い!"のコーナーが披露され、それを適当な相槌をしながら聞き流していた。聞いたことあるような事から、俺が聞いちゃっても良かったのかと思うようなシークレット情報まで盛り沢山。シークレット情報は取り敢えず聞かなかったことにしておこう。
「はぁ〜疲れた」
「ちょっとお兄聞いてる?」
「聞いてる聞いてる」
家まで帰ってきてもこの調子である。このまま晩御飯の最中まで話が続きそうで若干怖い。まぁ話してる当の本人である天音は機嫌良さげだから別に良いか。機嫌悪いと飯食ってる間でも事あるごとに足踏まれたりするからな。母さんは当然のようにスルーしてるし。親父?知らないなそんな人物は。
「早く飯食って風呂入って寝るぞ〜」
「お兄、私がお風呂は先に入るから」
「了解。母さんただい──ぼへぇ!?」ガチャ
玄関の扉を開けた瞬間、何者かに突撃されて綺麗に吹き飛ばされてしまう。というか鳩尾入って息が出来ないんだが......。何とか息を整えてから、どうせ親父の仕業だろうと思いすぐに引き離そうとするが、今回ばかりは犯人が違うらしく良い匂いがしていた。絶対に親父からする匂いじゃないし、かと言って母さんの作る晩飯の匂いでも無い。強いて言うなら......風呂上がりの女の子のシャンプーの香り?
「よくお戻りになられたお兄様!」スリスリ
「ミ、ミチル!?何でウチにいるんだよ!というかほっぺ擦り付けてくんのやめろ!」
レスリング並みのタックルをかましてきた犯人の名前は海原ミチル。これまた親父と母さんの仕事仲間関係の人物であり、バイナルのマスターが所属していたユニットの元メンバーの姪っ子という微妙な立ち位置の子だ。ミチルとは両親が仕事で手を付けられない時に遊んだ事はあるが、そこまで気に入ってもらえるようなことはしてないはずなんだがな。因みに陽葉学園中等部3年生であり、俺達の一つ歳下で天音の一つ歳上だ。
「帰りが遅いので待ちくたびれていたのだ!」グニュ
「分かったから!取り敢えず離れてくれ!」
「ミチル、お兄離してあげて」
「おぉ!我が妹天音も帰っていたのか!」
「妹じゃないから」
俺の次は天音にターゲットを変更し、猪突猛進気味にハグしようとしたが残念ながら天音から拒否されてしまう。顔面に天音の両手押し付けられて尚進もうとする意志がある様子。というかそれ前見えてんのか。怪我されると嫌だから勘弁してくれよ。
「お姉ちゃんにもっと甘えて良いのですぞ!」ムギュ
「私はお兄の妹!ミチルはお姉ちゃんでも何でもないでしょ!」
「んじゃ後はよろしくな天音」
「ちょ、お兄!?」
ミチル曰く、俺はお兄様で天音は可愛い妹でミチル自身は俺の(偽)妹らしい。だから理論的に俺の(実)妹である天音も、ミチルにとっては妹となってしまうのだ。我ながら言ってて意味分からんな。
兎に角、玄関前でこんな事をしていても埒があかないので三人共家に上がって手を洗う。正確には、手を洗っている俺と天音を横でミチルが見てたんだが。狭いからついてこなくても良かったんだけど。すると、リビングの方から美味しそうな香りがしたので吸い寄せられるようにリビングへ向かった。
「あら、お帰り二人とも」
「ただいまお母さん」
「ただいまですぞお母様!」
「あらあらミチルちゃん、まだお母様は気が早いわよ」
「......ふん」ゲジゲジ
「いってぇ!!え、何で今俺の足踏んだの!?ちょっと天音さん?」
いきなり足を踏まれて驚いたが、さらに驚いたのは親父が既に拘束されてソファに寝転がっていたことだ。今度は何したんだよ。理由を聞いてやるから話してみ。まぁ口にもガムテープ貼られて話せないんだけどね。母さんは絶対に怒らせてはいけない(戒め)
「というか何でミチルが居るんだよ母さん」
「ん?ハルキ君にお世話を頼まれたからよ」
「ハルキは反対してたが、無理矢理泊まりに来たのだ!」
会話に出てきた"ハルキ"こと海原ハルキという人物が、ミチルの叔父であり親父と母さんの昔の仕事仲間だ。母さん達によると、ミチルは叔父であるハルキさんの事を人間的に舐めているらしく、ハルキさんもミチルには手を焼いているとのこと。ハルキさんには少し同情してしまう。まぁ会った事あるの数回だけだから、俺自身あんまり知らないんだけどね。
「んで親父......はどうでも良いとして。腹減ったしご飯食べたい」
「もうすぐ出来るから用意してくれるかしら」
「りょーかい。天音はお皿とお箸よろしく」
「ん、分かった」
「私は──」
「座ってろ」「座ってて」
珍しく俺と天音の意見が重なり、ミチルは不服そうではあるが大人しく席に着いた。それから数分のうちに食卓を豪華な夕飯が飾り、あっという間に高級レストランの様なテーブルとなった。途中堪らずつまみ食いしようとするが、母さんから器用に箸で手をつつかれてしまった。顔は笑ってたが目が全然笑ってなかった。普通に寒気がしたのでそれ以降はやってない。
『頂きます!』
「召し上がれ♪」
「ん〜っ......やっぱ母さんが作るご飯が一番美味いな」
「それには同意するよお兄」モキュモキュ
相変わらず料理上手な母さんで褒めると嬉しそうにするのだが、今は親父とソファでオハナシ中らしい。邪魔すると悪いのでそっとしておこう。
「はい!」
「.....何、どしたの」
「お姉ちゃんが食べさせてあげるのだ!」
「いや良いから。そういうのは響子さんにやってもらうから」
拒否した後に、すぐ響子の名前が出てくるのは流石だと思った。普通この流れだとお兄ちゃんになったりしない?そんなことない?いやまぁそこまで好かれてるとは思ってないが。
「じゃあお兄様!」
「いや俺もいらんぞ」
「ん?何言ってるのだ?お兄様が私に食べさせるのですぞ?」
「自分で食べられるだろ」
「そういう問題じゃないのだ」アーン
既に準備万端で物欲しそうに口を開けて待つミチル。......あ、断じてR18展開では無いので御了承を。両親や妹がいる前でそんな事したら心身共に再生不可能になってしまう。待ってても仕方がないので、適当に母さんの作った絶品肉じゃがの大きいじゃがいもを放り込む。味はしっかり染み込んでるのに煮崩れせず、これぞまさに肉じゃがの理想と言わんばかりの大きなじゃがいもを。大事なことなので2回言いました。
「あふっ、ほっ、あふいですぞおにいはま!!」ハフハフ
「そーか?しっかり噛んで食べろよ」
「わかっはのら!」
「......」ゲジゲジ
「左足ィ!?」ガツン
まだ天音の機嫌が悪いのか、今度は左足を踵で踏まれてしまい反射的に右足をテーブルの下部にぶつけてしまった。テーブルの上に並ぶご飯達は無事だが、俺の両足は悲鳴を上げている。ミチルはキョトンとした顔で口を動かして一生懸命じゃがいもを食べている。それに加えて両親はオハナシ中ときたもんだ。何だこのカオスな状況は。
それからもミチルの無理難題をこなしていき、その都度天音から睨まれたり肉じゃがを横取りされたりしてしまった。母さんと親父のオハナシも滞りなく終わり、途中からではあるが親父も食事が出来る様になって一安心だ。その後は、延々と親父の昔話が続いたのでパパッと終わらせて天音のお風呂が終わるまで時間を潰すべく自分の部屋へ向かった。
「ふぅ......食った食った」
コンコン
「ん?」
「お兄様!今からゲームでもしましょうぞ!」
「おい、ノックの意味。秒で入って来たら意味無いだろ」
ミチルは既にお風呂に入っていたのを忘れていた。天音が出たら俺の番なんだが、それまでに果たして解放してくれるだろうか。まぁ絵空相手とかじゃないから気軽に出来るのは良い点だな。
「まぁちょっとだけなら付き合ってやるよ」
「ん〜、じゃあ魔法DJグルミクをやるのだ!」
「あーあれか。難しくてHardすら出来るか分からんぞ」
「一緒にやる事に意味があるのです」フンス
魔法DJグルミクとは、所謂リズムゲームの一種でありスマホゲームでありながらDJが出来るという優れもの。元々はゲームセンターに置いてあるゲームだったが、何ヶ月か前にアプリ版でリリースされた話題沸騰中のアプリだ。ゲームの中に登場するキャラが、若干響子達に似ているキャラがいたりする。もちろん、天音はそのキャラガチ勢であり完凸やスキルマ等は最早リリース直後に終わっていた。まぁ親父のクレカ使って課金してたから当然っちゃ当然なんだがな。みんなは課金し過ぎないように注意しようね。因みに俺は一切課金していないので、キャラがそもそも揃ってなかったりする。
「ここは一つ勝負しませんかお兄様!」
「勝負?さっきも言ったがHARDすら出来るか分からんレベルの俺とか?」
「負けた方は勝った人の言う事を何でも聞くという罰ゲームをかけて勝負ですぞ!」
「何だろう、すっげぇデジャヴ臭がぷんぷんする」
先週のピキピキvs俺の罰ゲームも、確かそんな感じだった気がするのは俺だけだろうか。その勝負に悉く敗れ去った俺だが、またしても負ける流れなんだが?ミチルの事だから変な方向にはいかないと思うが、念の為勝っておくことに他ならないだろう。いやでもこのゲームマジで苦手なんだがなぁ。
『ちょっと待った!!』
「......天音?」
「どうしたのだ?」
「その勝負、お兄の代わりに私が受けて立つよミチル」
お風呂上がりだからだろう、頭にタオルを巻いたまま部屋のドアを開けて宣言する天音。服装はパジャマで左手にはアイス、右手には自分の携帯を持ちつつミチルと火花を散らしている。天音の方が上手だから代わりにやってくれるのは嬉しいんだけど。まぁミチルも上手そうだから良い勝負になるか。
「一つ聞きたいんだが」
「ん?何が聞きたいのだ?」
「もし仮に天音が負けると、その場合はどっちが罰ゲーム受けるんだ?」
「お兄様に決まってるのだ」
有無を言わさず即答するミチル。取り敢えず負けられない勝負だってことは変わらないらしい。既に天音もアイスを口に咥えて器用にパーティーの編成を考えている。対するミチルは選曲に頭を悩ませており、数分の後に決まった曲を高らかに宣言した。
「"WOW WAR TONIGHT"かぁ。意外な選曲だな」
「ですがお兄様、この曲はアプリ内でも屈指の難易度を誇る"鬼Remix.ver"ですぞ!!」
「安心してよお兄。私が負けるわけないじゃん」
「流石っす天音さん。滅茶苦茶期待してます」
やべぇ俺の妹カッコよすぎません?というか何だよ鬼Remix.verって。俺がギリギリクリア出来ないHARDが難易度数値的に表すと9〜11とかだぞ?これ22って書いてるんだが目の錯覚だろうか。普通にやってると指足りなくない?
「お姉ちゃんの実力を見せる時ですな!」
「私の方が才能あるってこと、もう一回教えてあげるよミチル」
誰が見ても分かるレベルで火花を散らす二人。たかがゲームと吐き捨てる人も多くいるだろうし、実際問題世間一般的に言えばそちらの割合が高いのもまた事実。しかしこの二人にそんな事は一切関係無く、されどゲームむしろゲーム状態なのだ。むしろゲーム状態って何だよ。自分で言ってて意味分からんわ。
それからすぐに曲は始まり、俺がワイワイ楽しくやってる難易度とは違って二人の指が高速で画面をタッチしてコンボを繋いでいく。例えるなら、パソコンのブラインドタッチが一番近しいだろうか。いやまぁ二人共画面に食い付くようにしてるから、ブラインドとは正反対なんだがな。
「......にしてもマジですげぇな二人共」
「お兄黙ってて」「ですぞ」
「あ、何かゴメン」
俺の独り言さえも邪魔だったらしく、変わらず画面に食い付きながらプレイしつつも二人から"お前は黙って見てろ"宣言を頂いた。しかしながら、こうも上手にコンボを繋げているのを間近で見ると圧巻である。勿論、天音に関しては上手なのは知っていたのだが、ミチルまでもがここまで上手だとは想像していなかったからな。お兄ちゃんで無いにしても、ミチルが楽しそうに天音と遊んでいるのを見ると少し安心するな。
「......ん、終わったのか?」
「取り敢えず、はね」
「我が妹ながら中々に強敵ですぞお兄様」
「それは良かったな。まぁ俺はお兄様じゃないし、天音もミチルの妹じゃないけどな」
両者共画面に"Perfect"の文字が出ており、これはこの曲をフルコンボで終えたという意味になる。俺なんかPerfect出せたの、最初のチュートリアルの曲だけだぞ?ここまで兄妹格差が大きいとは。流石の俺もちょっと練習してみようかな。
そして、どれだけ譜面を正確にこなせたかの詳細な結果が表示され、いよいよこの勝負の勝者が決まる時。
「......む、無念」ガクッ
「一から出直してきなミチル」
「でも二人共フルコンボだぞ?何で天音の勝ちになるんだ?」
「下の詳細欄良く見てお兄」
フルコンボ表示の下にいくつかの数字が表示されており、天音は全て"Excellent"の表示にコンボ数があるのに対し、ミチルは"Good"表示に1だけ数字が表示されていた。確か、ここの表示は正確にノーツをタッチ出来たかどうかの判定だった気がする。ということは、今回の勝敗はたった一つのノーツということなのか。
「魔の10連高速ノーツをミスしてしまったのだ.....」
「あれは上級者でもミスを連発するからね。密かにプレイヤーの間で"墓場"なんて呼ばれてる難所だよ」
「何か怖いなそれ。でもBad評価じゃねぇって事は、叩けてるって事だろ?」
「"Excellent"と"Good"の間には、物凄い差があるのだ!」
ミチルが悔しそうに床へ両手を付いてる隣で、天音は余裕の表情で勝ち誇っている。だが俺は知っている。実は天音も結構危なかったらしく、集中していて二人共気が付かなかっただけだと思うが、バリバリ"やっば......すり抜けそうだった"と口に出していた。なんなら結果発表の画面を見て安心して肩の荷が降りた瞬間も見ている。
「これで私の勝ち。じゃあミチルには言う事を一つ聞いてもらうよ」
「......ふっふっふ。まだまだ甘いな我が妹!」
「まだ何かあるの?というか私は妹じゃない」
「誰も一回きりの勝負とは言ってないのだ!」
まぁ確かに言ってないが、どうせ後付けで負けたく無いから必死に考えたのだろう。ここで俺が出張って変に話をややこしくするよかマシか。二人共なんだかんだ言って楽しそうだし、俺は何も考えず見守りますか。
「次はコレで勝負なのだ!」バンッ
『人生ゲーム?』
「正式には"人生ゲーム~真剣勝負はDJで決めちゃいなYo!!~"というのだ」
「いやいやサブタイトルがおかしいだろ。というかどこからそれ持ってきたんだよ」
「ん?さっきお母様に借りてきたのだ」
母さん......頼むから厄介事を持ち込まないで欲しい。ただでさえミチルが泊まりにくるというイベントが発生中なのに、母さんまでもが場をかき乱し始めたらキリがない。まぁ親父は母さんがいるから心配ないのが不幸中の幸いか。
「じゃあ私はコレで」
「......お兄様はどれするのだ?」
「え、俺もやんの?」
「当たり前じゃん」
いつの間にか味方だった天音が敵になっていた。というか1vs1vs1の構図になってんのは大丈夫なのか。人生ゲームとか一人でやってた記憶しか無いからな。一人でお金いっぱい稼いで1位でゴールする一方で、借金まみれでゴールにすら辿り着かないもう片方。あぁ、俺の幼い頃の黒歴史がまさか役に立つ日がこようとは。良い機会だし、この辺りでお兄ちゃんの威厳を見せておこう。
「んじゃ俺からスタートな」
「ルーレットを回すのだ!」
「よし7だな。7マス進んでっと......」
『親の趣味が高じて海外のジムへ!!諸々の費用を払う為、¥100,000を支払う!!』
「ちょっと待ておかしいだろコレ!?」
もう色々と面倒なのでジムとかの辺りはスルーしても良いが、どうして俺が諸々の費用を払う羽目になったんだ。親が行くんだから親に払わせろよ!というツッコミをする暇も無く、いつの間にか俺のお金が天音によって銀行へと振り込まれていた。
「お兄初っ端からダメダメじゃん」
「うるせぇほっとけ」
「私は10なのだ!」
『親が仕事で大成功して海外へ!!お祝い金として¥100,000貰う!!』
「やったのだ!」
ミチルチャンヨカッタネ。コレデイイセイカツデキルネ。人生ゲームまでもが俺に対して厳しい世の中なんてクソ食らえ。こうなったら是が非でも1位でゴールしてやる。
「私は......9だね」
『DJの才能が認められてスカウトされる!!職業"天才DJ"となり、給料¥150,000を貰う!!』
「まぁ滑り出しは好調だね」
「我が妹ながら中々やるのだ」
「後でコレ作った人調べてみるか」
あまりにも現実味を帯びているマスに止まる天音。お兄ちゃん的にもそうなってくれると嬉しいな。だから、お兄ちゃんにもちょっとだけ優しくして欲しいかな。もうこの際、ゲームでの勝ち負けは気にしない。楽しく遊べたら良いや。
しかしながら、そこからはお察し(?)の通りボコボコのズタボロのゲーム展開であった。職に就くもいきなり倒産して借金したり、何とか持ち直そうとした途端に空き巣に入られてまたも借金。事あるごとに後退マスに止まり、下がったマスでまたマイナス効果を踏んでしまう負のループへ。勿論、俺がそんな事をしている間に二人は熱いバトルを繰り広げていた。
「今度こそ私の勝ちなのだ!」フンス
「偶々勝ったくらいで調子に乗らないでよね」
「あの〜......俺まだゴールしてないんですけど」
「何やってんのお兄、早く片付けて次いくよ」
次はトランプで勝負するらしく、片付けは最下位の俺が担当することになってしまった。トランプ勝負とか最近ボロ負けしたばかりなのだが、天音とミチルがウキウキでカードを配る姿を見てやるしかないと思った。
「はいお兄の負け」
「お兄様しっかりしてほしいのだ」
「だから俺はちゃんとやってんだよ」
ポーカーでは毎度毎度ブタで負け、ババ抜きでは最初から最後まで俺の手札にジョーカーが居座るという事態に。極め付けは真剣衰弱で俺の番が回ってこないというね。いやまぁ二人が白熱し過ぎて俺にやらせてくれなかっただけなんだけど。
それからしばらく、ありとあらゆる遊びやゲームで勝負してきたが天音とミチルの結果は五分五分と完全に引き分け。既に23時を過ぎており、俺にも睡魔が語りかけてきている時間だった。それなのに二人のバトルは熱くなる一方だ。早くベッドに入って寝たい。
「最後は──」
「やっぱ──」
「コレで勝負するのだ!」
「これで勝負でしょ」
と言ってやってきたのは、DJに関する機材や資料が置いてある親父と母さんの仕事部屋。フラグ回収と言わんばかりの展開だが、やはり二人の決着はDJで着けたかったらしい。お兄ちゃんもう目が半分くらい閉じてるんだけど。
「なぁ、もう明日にして寝ませんか?」
「何言ってんのお兄、これからが本番じゃん」
「お兄様に審査員をしてほしいのだ!」
「マジかよ......」
そんな俺を他所に二人はルールを決める為に早速話し合っている。チラホラ聞こえてくるのが"10本勝負"とか"10曲メドレー"とか怖い単語ばかりなのは気のせいだと思いたい。頼むから誰か気のせいだと言って欲しい。
「じゃあお兄頼むよ」
「私からいくのだ!」
「勘弁してくれぇ......」
拝啓親父殿、今なら頭下げるから助けに来て欲しいです。
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お兄ちゃんになりたかった人生でした。