ハイスクールDD『あなたの腕の中で』クリア   作:金髪ドリルお嬢様

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Part1

目を覚ましたアナタは、白い天井が見えるのを確認する。身体は鉛のように重く、鉄のように固まって動かない。動かせる瞳で周りをみれば、ベッドの側に透明な液体が詰まった袋が棒から吊るされている。その袋から伸びる透明な管は、自分の腕に刺さっていた。

 

 

「目を覚ましたかね?」

 

アナタはベッドの側に座っていた人物に目を向ける。そこにいたのは、山のように大きな男の人だった。山か岩がそのまま人になったような姿。顔に刻まれた皺がまるで樹齢のように厳つさを際立たせた。髪は所々白い部分が見えることから、実は見た目よりも年が上なのかもしれない。しかし、その身体から感じる活力や生気が男性を若々しく見せていた。

 

アナタは目の前の人物に対して瞳を震わせた。目を覚ました際に出会うには、あまりにも威圧的な存在であった。アナタの視線から何かを感じ取ったのか、男性は口元を自嘲するかのような笑みを浮かべた。

 

「怖がるのも無理はないだろう。目を覚ましたらこんな場所にいるのだからね。安心してほしい、ここは病院だ」

 

病院?という言葉にアナタは戸惑いを隠せなかった。なぜ自分が病院にいるのかすら、記憶がないからである。記憶を遡ろうとするも、まるで空っぽの袋から何かを取り出そうとするかのように、ただただ何もないことだけが分かる。アナタの表情ををみた男性は、その岩のようにごつごつとした大きな左手を伸ばし、アナタの頭を撫でる。ほんのりと感じる温かさに、アナタの焦りは次第に落ち着いていく。

 

「落ち着いたかね?」

 

その言葉に、アナタは肯いて答えた。

 

「おっと失礼。名前を言ってなかったかな」

 

男性は先ほどと同じように、口元を歪めて答える。それは男性の癖なのかもしれない、とアナタは感じた。アナタはそれを記憶にとどめておくことにした。

 

「私の名前はヴァスコ・ストラーダ。君を………この病院に連れてきた者だ」

 

アナタは彼の表情がなにか、違和感を感じる。だが、それを指摘するには何かが足りない。アナタは彼の言葉を信じることにした。アナタは声が出ない唇を動かし、「ア・リ・ガ・ト・ウ」という感謝する

 

「今はまだ安静にしていなさい。君の身体は今、とても弱っているからね」

 

諭すかのように、アナタの頭を撫でながら彼は言う。彼の言葉の言う通り、アナタは身体を動かすことが出来ない。まるで身体が固まってしまったかのようだ。そのことに恐怖と不安を感じ、今にも泣きそうな顔になる。だが、頭に置かれた彼の手がゆっくりと、撫でるように動いた。

 

「大丈夫。君が安心して眠るまで、私が傍にいよう。だから、ゆっくりと休んでほしい」

 

その言葉と行動にアナタは安らぎを感じ、その瞼をゆっくりと下ろすのであった。

 

 

 

 

数日か、それとも数週間の時が過ぎた後、アナタの身体はゆっくりとではあるが動けるほどに回復する。今はまだベッドの上で生活しなければならないが、もう少しすれば歩けることが許されるようだ。

今日もまたストラーダが見舞いに来てくれた。彼が来てくれるのをアナタは待ち遠しくなっている。病院のベッドの上という退屈な生活の中で、彼との話はアナタにとって有意義な時間になっていた。同じように看護師や医者が診察をしに来るが、いつものように体調のことしか聞かれない。血を採られている間の退屈しのぎに、アナタが話をしても彼・彼女らは無視をするか、投げやり気に相槌をうつだけだ。まるで人形と会話をしているように感じる。その繰り返しのせいで、アナタにとってヴァスコ・ストラーダとの会話のみが、唯一の「人」と会話をしてるように感じている。

 

そのことをストラーダに伝えば、彼は色々なアイディアをくれた。会話の仕方、話し方の工夫、興味・関心を引き付ける仕草。アナタの器用さが成長するのを感じた。彼の言葉を受け、興味すらなかった本を読むようになった。本を読むことで、アナタの知識はより成長するのを感じた。知識と器用の成長により、アナタの振る舞いは次第に改善するようになった。その結果、アナタの環境も少しずつではあるが、良くなりつつあるようだ。アナタにとってヴァスコ・ストラーダは信頼に足る人になっていた。

 

 

数ヵ月が経つ頃には、アナタは外出の許可を得られるほどに回復した。安全を考慮し、車椅子での外出になるが、アナタには苦になっていない。車椅子を動かしながら病院内を見て回った。病院の中心内には庭園があり、他の患者や家族などが、設置されたベンチに座っていた。

ふと、アナタは目の前で猫が倒れているのをみつけた。ゆっくりと近づくも決して逃げることはない。みれば、猫の身体は所々が赤く染まっていた。おそらく、カラスに襲われたのだろうか。アナタはそれを憐れに思い、どうにか助けたい気持ちに駆られた。震える手で猫を抱き抱え、膝の上に載せる。左手で猫を撫でながら、看護師を見つけようとアナタは周囲を見渡し、目の前を歩いていく看護師を見つける。アナタは彼女に猫の手当てをしてもらおうと手を伸ばす。

 

急に猫を撫でていた手に痛みが走った。見れば、猫が自分の手に噛みついていた。アナタは痛みに驚くも、猫の行動に更に憐れみを感じた。アナタは看護師に伸ばした手を猫の身体に置く。ふわふわとした毛ざわりを感じた。

そのまましばらくすると、どういうわけか、猫は噛んでいた口を離した。そしてあなたの方に顔を向ける。アナタはフルフルと首を振る。不思議なことアナタはもう猫は大丈夫だと直感し、猫を地面に置いた。傷ついていたはずの猫は、まるで傷が治ったかのように地面を駆けながら去っていった。ちらりとアナタを向く時に、アナタは右手でさよならを告げるように手を振った。ふと猫が噛んだ所をみれば、そこには傷一つ無かった。

 

翌日、猫がいたところには何枚もの黒い羽根が置かれていた。

 

アナタは『鴉の羽根』を手に入れた。

 

「今日からここが、アナタの新しい家よ」

 

目の前に立つ女性。柔和な笑みを浮かべた女性は、ほっそりとした体型をしていた。おそらく食が細いのか、それともあまり食べられない事情があるのかは判らないが、アナタから見た女性はいささか小さく見えた。女性は孤児院の管理者だった。回復したアナタは、教会の孤児院に住むことになった。記憶がないせいで寂しいという実感はないが、アナタには家族がいないようだ。親がいない中、一人で生きるための家もないとくれば、孤児院に行くのは至極当然であろうか。それがとても幸運であることをアナタは知る由もないのだが。

 

ふとアナタは、自分を見つめる複数の視線を感じた。目を凝らせば、女性の背後にある建物から扉の隙間や窓を通して先達たちがアナタを見ていた。得体のしれない新入りであるアナタを警戒しているのだろう。アナタはニコリと笑い、いつの間にか用意された鞄の中からいくつかのお菓子を取り出した。なぜ自分がこんなものを持っているのかはアナタはわからない。だが、お菓子を見た瞬間、孤児院から何人もの子供たちが飛び出した。だがある程度近づいてくるも、やはりアナタを怖がっているのか、一定の距離を取る。孤児院の管理者である女性は、子供らの行動に小言を漏らす。アナタはお菓子の入った袋を子供の一人に差し出し、先ほどと同じようにニコリと笑う。子供は恐る恐るアナタに近づき、袋を手にすると他の子と一緒に孤児院へと入っていった。

 

その姿に、アナタは戸惑いつつも笑みを浮かべる。ふと、一人の少女が残っていたことに気づいた。おそらくだが、自分と同じくらいの年齢だろうか。短めに切った髪をした少女は、髪型のせいか男の子ぽさを感じる。

 

「あいつらを許してやってくれないか。あいつらは外の人間に対して警戒してるだけなんだ」

 

アナタは少女の言葉に同意し、気にしない旨を伝えた。

「そう言ってくれると助かるよ。あいつらもお前が悪い奴じゃないとわかればすぐになついてくれるさ」

 

まるで子犬みたいですね、とアナタは零し、少女と共に笑う・

 

「おっと失礼した。まだ名前を言っていなかったな」

 

少女はアナタに右手を差し出す。おそらく握手のつもりだろ。

 

「ゼノヴィアだ。これからよろしく」

 

ゼノヴィアという少女にアナタは自己紹介と共に彼女の右手を握った。

 

 


 

一匹の鴉がいた。鴉はとても大きく、大きな脚を持っていた。

ある日、戯れに一匹の猫を虐めた。嗜虐心を満たすためにあえて痛めつけるだけの暇つぶしだった。もはや虫の息の猫に、鴉は満足げに飛び去って行った。

 

翌日、鴉は不思議なことに出会った。昨日虐めた猫が目の前に現れたのである。あれほど痛めつけられたというのに懲りない猫だと、内心で小ばかにする。だがおかしなことに、あれほど傷を負わせたのにまるで何もなかったかのように猫は動くのだ。

 

むしろ戦った昨日とは比べようもなく強くなっているのを感じる。

 

昨日ならば当たったはずの自分の攻撃は悉く回避され、避けていたはずの相手の攻撃は悉く当たる。気付けば、鴉と猫の立場は昨日と真逆になった。ボロボロの鴉と無傷の猫。ふと鴉は猫を見て違和感を感じた。猫の身体に赤い花が見える。猫の顔に、まるで赤い花のような模様が見えるのだ。どくどくと赤い色を瞬きながら輝く模様。

 

なんだそれは

 

鴉が思った疑問。だがそれを尋ねる機会は二度とこない。フッと猫の姿が消え、鴉の首からは噴水のように赤い液体が溢れ、ドサリと地面に倒れたのだった。

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