IS ULTRAMAN AGUL   作:青い人間

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第五話 怪しい同伴者

「手紙の場所に着くまで、私があなたを守ってあげる」

 

 

 

 予想外の言葉に彼の疑念の眼差しはいっそう鋭さを増した。険を含んだ口調で彼は問いただす。

 

「まるで俺が誰かから狙われているような言い草だな。船の爆発の事なら、ニュースでも言っていたがあれは事故だ」

 

「爆発の件だけで判断したんじゃないわ。あなたの傷の手当は私がしたんだけど……それ銃創でしょ?」

 

「流石、医者の娘は傷跡にも詳しいらしい」

 

「茶化さないで。とにかくあなた危険な連中に狙われているんでしょう?だったら私に任せてちょうだい。目的地までの地理は把握しているし、多少の荒事も大丈夫。本当ならあなたはもう少し休んでた方が……」

 

「待て」

 

 彼は、一気にまくし立てて話を進めようとする彼女を制止する。

 

「勝手に話を進めるな。確かにこの傷は撃たれて出来た物だが、俺だって撃ち返して相手を殺しているかもしれない。危険な連中がいると言うのなら俺がその可能性もあるだろ」

 

「その傷ライフルで撃たれたんでしょ?多分7.62㎜の。相手はそんな大型の銃を持ってるようだけど、あなたは銃を撃つ人の筋肉の付き方じゃないわ。過去に撃たれたような傷跡も沢山あったし、それに……」

 

 彼女は僅かに目線を伏せて言う。

 

「……一方的に撃たれた人の傷って、なんとなく分かるものよ」

 

 彼は、彼女の表情に陰りがさしたような気がした。だがそれはほんの一瞬で、彼女はすぐに彼の目を真っすぐ見上げた。

 

「もちろん、あなたが悪人じゃないって確証は無い。だから行った場所であなたがすることが、もしも法に触れる事なら私が止めるわ」

 

「……なら俺が狙われているとして、どうしてお前が俺を守る必要がある?それも相手は銃を持った連中と知った上でだ、お前はなんなんだ?」

 

「先に謝っておくけれど、私の立場について教える事は出来ないの。言っても多分信じてくれないし知っても意味がない。私があなたを守ろうとしているのは、極めて個人的な理由からくるもの。私の立場とは関係ないわ」

 

「相手は銃を持っていると言ってる。多少頭と口は回るようだが、それらが銃口の前でもまともに動くと?頭どころか身体もすくんで動けなくなるだろうな。そうなればお前は殺されるし、運良く生きてたとしても薬漬けにされて死ぬまで慰み者だ」

 

「そうやって非道い言葉で脅せば、私が怖気づくと思ってるならやめてくれない?癇に障るだけだから」

 

 彼女は微笑みを浮かべて言ったが、その声音には明らかに怒気が含まれていた。

 

 それにたじろいだわけでは無いが彼の次の言葉が出るまでには少し間があった。

 

「……銃だけじゃない。相手はISを使ってくるとしたら?」

 

「IS?」

 

 その言葉に彼女が訝しむのも無理は無い。

 

 通常、ISの使用は国が徹底して管理しており、個人でISを所持する所謂専用機持ちですら所定の区域から持ち出すのにいくつもの申請が必要なのだ。

 

 唯一の例外は、数年前に全世界に知れ渡ったとある襲撃事件に使用された3機のISのみである。

 

 しかし、その後に表舞台に未確認のISが現れる事は無く、現在では襲撃事件もどこかの国の物が秘密裏に使われていた、というのが通説になっていた。

 

 したがって、常識を持ち合わせた人間からしたらISに襲われるなどというのは、すぐに陰謀論を持ち出すタイプの『ちょっとイタい人』の妄言にしか聞こえないだろう。

 

 だから彼女はその言葉を、はったりと解釈してしまったのだった。自分を怖がらせて、引き下がらせる為のものだと。

 

「私、少なくともあなたよりは生き残る自信あるわ。私の方が強いもの」

 

 その確かな自信を帯びた言葉に、今度こそ彼は押し黙ることになる。

 

 彼としても、目の前の女がただの一般人でないことは薄々感じていた。

 

 銃創を見ただけで相手の武器を的中。ノンバーバル・コミュニケーションの知識があり、なおかつそれを応用して自らの印象を自在にコントロールする。

 

 そんなことが出来る日本人は、先ず一般人とは呼ばない。

 

 出逢ってからというもの彼女にまんまと欺かれ、油断させられていた彼だったが、目の前の人物について測りかねてた。

 

 確かに今まで手玉に取られていた訳だが、状況だけ見れば彼女は彼に危害を加えてはいない。

 

 むしろ海で凍え死んでいたかもしれないところを助けられ、先程までは食事も出してもらった恩すらある。

 

 その点も彼は充分理解していた。

 

 だからこそ彼女の行動が不思議に思えて仕方が無かった。

 

「……分からないな。協力するというのなら、なぜこちらの不信感を煽るような真似をした?」

 

「それはー……あなたがやたら警戒してるから、ついからかいたくなっちゃって」

 

「真面目に答えろ」

 

 ごめんごめんと、彼女は笑いながら彼をなだめた。

 

「でも私だって、あなたが悪人じゃないっていう確信はなかったんだから用心するのは当然よ。あなたが私と同じ立場でも印象操作の一つや二つするでしょう?」

 

「……まぁ、な」

 

 そもそも彼は自分の印象をころころ変える芸当など出来ないのだが、それは言わない事にした。

 

「そうよ!用心するのは大切なことなんだから!そこは許してちょうだい?ね?」

 

 なぜか彼女は今日一番の明るい笑顔を見せる。

 

 どこか彼女に丸め込まれた形になったが、彼は追及することはしなかった。

 

 話が堂々巡りになってきている事に、彼は軽くため息をついた。

 

「結局、お前は正体を明かさない、目的も話さない。分かったのは普通の女じゃないってだけだ。……これでどう信用しろと」

 

「あら?目的なら言えるわよ?あなたを守ること」

 

「信じられないな」

 

「でしょうね」

 

 そこで彼女は再び真剣な表情で、彼をまっすぐ見つめた。

 

「だから今は信用できなくてもいい、ただ納得はしてほしいの。私があなたを守ることを」

 

「…………。」

 

 

 

 彼は、目の前の女の、場面によって表情を使い分ける所が好きではなかった。

 

 相手をリラックスさせたいときはにやにやと笑って見せ、こちらを守るだなんだと言う時はときは目線を決して外さない。

 

 相手の心を揺さぶって、自分の意に沿わせようという魂胆が見え透いている。これだけわざとらしいと、もはや本人の癖のような気もしてくる程だった。

 

 正直なところ、本当に彼女が味方だったとしても、彼はこの危険な旅路に同伴者を作る気はさらさら無かった。

 

 今までも、不運な境遇の彼に差し伸べられた手が無かったわけでは無い。だがその度に彼はその手を払いのけてきたのだ。

 

 それに感謝しない程に薄情な男ではないが、ついて回られるのは彼にとって余計な世話だった。

 

 現に彼はこうして五体満足で生き延びることが出来ている。

 

()()()()()()()()()彼はその選択を間違いだとは考えない。

 

 だが、今回だけは状況が違っていたのだった。

 

「……やはり、お前の事は信用できない」

 

「分かるわ」

 

「だが納得しなければ、お前は俺の邪魔をするという」

 

「えぇ、そうなればあなたは絶対に手紙の場所にたどり着けない」

 

「…………もういい、好きにしろ」

 

「……ごめんなさいね」

 

 謝るくらいなら、と彼は思ったが口には出さなかった。

 

 よし、と彼女はこの話に区切りをつけるように手を打つ。

 

「そうと決まればさっそく準備開始ね、着替えてくるからここで少し待っててちょうだい。それか、食器片づけてもらえると助かるわ」

 

 彼女はさっさと立ち上がり、部屋を後にする。

 

 やりこめられたような気がして、彼は半ば腐っていた。

 

 しかし、ただ待っているのは苛立ちが増すだけだと考え、言われたとおり片付けに取り掛かる。

 

 だが、そーそー()()()()と廊下から声がして彼女はすぐに戻ってきた。

 

「ねぇさっきも言ったけど、私達まだお互いの名前すら知らないじゃない?いい加減自己紹介くらいしましょうよ。ここからは一蓮托生の運命共同体なんだから☆」

 

「死後の世界なんて信じていないが、死んだ後もお前と一緒なんてごめんだな」

 

 彼は片付けをしながら、バッサリと切り捨てた。

 

「まーた拗ねてる……ねぇ私の名前は更識刀奈(さらしきかたな)。あなたは?」

 

「俺は……」

 

 ほんの一瞬、刀奈が見ていても気づかない程度だが、彼は目線を遠くにやる。

 

「……藤宮博也(ふじみやひろや)だ」

 

「そ……、よろしくね藤宮君。じゃ、これ飲んでおいて」

 

 そう言って、刀奈は薬で使うようなカプセル状の物を机の上に置いた。

 

「なんだこれは?」

 

 藤宮はカプセルを拾いあげて、彼女に聞いてみた。

 

「解毒薬よ。あなたのつゆに入れておいた毒の」

 

「は?」

 

「言ったでしょ?用心は大切だって。今から飲んでおけば間に合うから、早めにねー」

 

 唖然とする藤宮をおいて、刀奈は今度こそ部屋を後にした。

 

 彼女が出ていった部屋は実に静かで、先程まで自分が使っていたつゆがやけに存在感を放っている気がした。

 

 藤宮は先程、準備をすると言った後に戻ってきた刀奈の言葉を思い返す。

 

 答えを知る者はもうここにはいない。

 

 だから彼が思わず洩らした疑問は、虚しく溶けていくだけだった。

 

 

 

「忘れてたって、自己紹介のことだよな……?」

 

 

 

 

 

 




読んでいただきありがとうございます。

遂に「彼」名前を出すことが出来ました。

一応補足しておくと、彼は原作『ウルトラマンガイア』に登場する藤宮博也と同一人物という設定ではありません。

見た目も現実の人間と絵では想像しにくいというのもあるので、藤宮博也に似ている織斑一夏ぐらいに考えて書いています。

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