IS ULTRAMAN AGUL   作:青い人間

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第九話 差し伸べられた手

 日没も近いこの時間、街は昼と違った忙しなさを見せる。

 

 1日の労働を終え、疲れきった表情で帰路に着いているサラリーマン。仲間内で騒ぎながら今宵の酒盛り場所を探す大学生達。様々な家庭の事情から、家に帰る事を渋る少女。そして、背の高い雑居ビルの屋上に、そんな人々を見下ろす視線があった。

 

 それは転落防止のフェンスに寄り掛かり、腰の辺りまで伸ばした茶髪を風に靡かせる1人の女。

 

 整った顔立ちをしているが、化粧の類は一切ない。険を含んだ雰囲気を一切隠さず、特徴的な三白眼は抜き身のナイフを彷彿とさせる。

 

 名はオータム。

 

 背中に鷲のワッペンをあしらったカーキのフライトジャケットにジーンズ。淑やかさとは程遠く、どこか欧米人男性のような服装だが、男顔負けの威圧感を放つ彼女はそれを見事に着こなしていた。

 

 おもむろに彼女はポケットに手を入れ、煙草の箱を取り出す。慣れた手つきで1本取り出し、咥え、火をつける。

 

 フィルターを通して肺に流れ込む煙が、胸の奥に染み渡るようなほろ苦さを感じさせた。

 

 多くの愛煙家にとって、それは至福の瞬間と言っても過言ではないのかもしれないが、今に限ってはそうではない。

 

 彼女の足元には既に吸い殻が3本程捨てられており、既に充分なニコチンが摂取されている事が分かる。

 

 それでもなお、新たな1本に手をつける程に彼女は、ここ数日間の自分を取り巻く状況に苛立っているのだ。

 

 そして丁度、その原因についてであろう連絡に端末が震える。

 

「首尾は?」

 

 通話に出るやいなや、相手先である部下の言葉を待たずしてそう言い放つ。

 

「現在、対象はポイントD-4のバリケードを突破。隣接していた廃工場を通過中です」

 

「はぁ!?なんでD4が突破されてんだ!担当は居眠りでもこいてやがったのか!?」 

 

 声を荒げるオータムに対し、部下は報告は変わらず淡々とした調子で続く。

 

「いえ、配置していた隊員によると、対象が通過する直前に封鎖していた通路の外壁が一部崩落。そこを通って包囲網の外に逃げたと」

 

「……なんだそりゃあ」

 

 辟易する彼女は気が抜けたように、風に流されてゆく灰を目で追う。しばしの間が置かれた。

 

「……廃工場って言ってたな?どうせ一般人に気付かれねぇ所に追い込むつもりだったんだ。D4だと予定ポイントよりは人気があるかもしれねぇが充分だ。さっさと追い詰めてとっ捕まえろ」

 

「対象に同行している女についても、ですか?」

 

 それも彼女の苛立ちの種の一つだった。

 

 同行者の報告を受けた時の彼女の荒れ方たるや、電話口の部下の鼓膜を破らんばかりの様子だった。

 

 そも仕事、私事関係なく物事が思い通りに進まなければ憤りを覚えるのが彼女である。

 

 この数年間、あの手この手で追跡を躱されてきただけでもかなり頭に来ていた所を、この国に向かった頃からは特にイレギュラーが多発し、フラストレーションは限界まで達していた。

 

 先ず船上で対象を追い込んだ時は、焦った追い込み役が連携を無視して不用意に近付き過ぎたせいで発砲のタイミングを見誤った。

 

 そして日本に入国する直前、別任務の部隊から緊急の応援要請があったらしく、オータムの部隊からも数機のISと隊員がそちらへ向かう羽目になってしまった。

 

 索敵タイプのISを一機放っておけば、このような人海戦術の追い込み漁などする必要はなかったのだが、運悪く用意していたそれは要請側に持って行かれてしまい、残ったISは戦闘用の一機のみであった。

 

(積み荷が爆発したの時もそうだ。事前に仕込んでたんだか知らねぇが、普通自分ごと爆風で逃げる奴があるかよ……)

 

「中隊長?」

 

 このところの不運を思い起こしていたオータムは部下の声により、目の前の現実に呼び戻される。

 

 短くなった煙草を足元に落とし、踏み潰しながら彼女は部下に指示を出す。

 

「あぁ、そうだ。とりあえずはそいつも捕獲しろ。生かして帰しはしねぇが、野郎の前で殺して暴れられても面倒だ」

 

「了解しました」

 

 通話は部下の方から切られ、オータムは深く息をつく。

 

 フラストレーションというなら、この国に向かうと分かった時点からそれは溜まり始めている。

 

 日本と言えば、IS発祥の国としてその利権を活用し、アメリカや中国などの列強の仲間入りを果たした急進国として名高い。

 

 その火付けとなったISが、かなり軍事方面に傾いた技術だっただけに、一部の評論家からは大日本帝国の再来とまで言われていた。

 

 だがオータムにしてみれば、結果は分かりきっていた。

 

 所詮、それは篠ノ之束という一個人の才能ありきの躍進である。

 

 ISの恩恵でのし上がったところで、この国の人間の本質は野心なんてものとは程遠い。

 

 その視線は一所に集まりやすく、大きな声に従うことで安心を得る事なかれ主義……つまりはオータムが忌み嫌う人種だった。

 

(どいつもこいつもバラバラに動いてるようで、中身は変わりねえ量産品じゃねぇか……)

 

 彼女はほぼ無意識に、新たな煙草を出そうと懐に手を伸ばす。

 

 だが、パッケージに手を掛けた所で彼女はぴたりと手を止める。

 

(あと二本か……)

 

 残念なことに、彼女が好む銘柄はこの国では簡単手に入らない物だった。

 

 入国するにあたり数カートン持ち込んでいたのだが、大部分はホテルに置いてきたうえに、今日は予想以上に手持ちを消費してしまっていた。

 

(ホテルまで戻るのも面倒だな……)

 

 そも、今彼女がこうして対象の追跡にも加わらず紫煙をくゆらせているのは、怠惰により仕事をサボタージュしているからではない。

 

 今回、彼女に与えられた任務は対象を捕獲した後の護送であり、単に今は出番ではないというだけだった。

 

 それゆえに、戻るという選択肢が全くない訳ではでは無かったが、それは彼女の仕事へのスタンスからすると、どうにも憚られた。

 

「……あいつら手伝った方が手っ取り早いか」

 

 それがしばしの熟考の結論だった。

 

 彼女は振り返り、屋上の出入り口に向かう。

 

 億劫な足取りとは裏腹に、その顔に浮かべる笑みは獲物を見つけた狩人のそれだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さっきのあれ……お前何をしたんだ」

 

 走りながら藤宮は聞く。

 

 二人は追っ手の包囲網を抜け、工場の敷地内を走っていた。

 

 工場と言ってもそこは既に廃業して久しいらしく、人気の無い寂れた場所だった。

 

 広大な面積の敷地は無機質なコンクリートの外壁に囲まれ、かつては多くの従業員達が行き来していたであろう通路も錆やら投棄された機材やらで酷い有様だった。

 

『あれ』つまりは、こうして追っ手の包囲網を抜け出せた要因となった、例の仕込みの事だった。

 

 この廃工場の横を走っている時、刀奈は突然端末を操作し始めたのだった。藤宮が横で覗いている分には、特に変わったプログラムを開いている訳では無く、一般的な電話機能のキーパットでいくつかの番号を打ち込んでいるようだった。

 

 それで信号か何かを送ったのか、次の瞬間には少し先の外壁の一画が崩れ始める。

 

 まるで老朽化の果てが丁度訪れた様にコンクリートの壁はぼろぼろと崩壊していき、最後には人一人がギリギリ通れる様な穴が開いた。

 

 そして、目の前で起こった異様な現象に驚く藤宮を刀奈が押し込む形で工場内に飛び込み、現在に至るのだった。

 

 藤宮の問いに対し、彼女は顎に人差し指を当て、大袈裟な態度で考え込む。

 

「うーん……魔法少女パワー?」

 

「端末使ってただろ」

 

「だって簡単にタネをバラしちゃつまらないじゃない?それとも藤宮君って、マジックショーでトリックとか探しちゃうタイプ?」

 

「いちいちもったい付ける必要が有るとは思えないだけだ」

 

「あら合理的思考。そういうの疲れない?」

 

「性分だ、変わる方が疲れる」

 

 ふと藤宮は、刀奈が魔法“少女”と言える年齢なのか気になったが、それを口にする程に無神経な男ではなかった。

 

 以前として敵に追われている状況に変わりは無いが、刀奈の仕込みにより工場内に侵入した時から追っ手との距離が開いたおかげで、有効射程から外れ、あれだけ続いていた牽制射撃も止んでいた。

 

「大方の予想はついてるけどな。崩しやすいよう事前に壁を多少壊しておいて、端末から遠隔操作で炸薬をかけたってところか?」

 

「ん〜まぁ八割方正解ってところね。使ったのは火薬じゃなくてモーターよ」

 

「……モーター?」

 

「そう、予め破砕した外壁のいくつかにピアノ線を取り付けて、モーターでそれを引っ張って外壁を崩壊させる。発破だと崩れ方にムラが出来るから確実性に欠けるのよ。()も大きくなっちゃうしね」

 

「音……」

 

 不思議そうに呟く藤宮に、刀奈は補足する。

 

「この時間帯ならまだ通行人がいてもおかしくないし、破裂音なんてさせたら人が集まるかもしれないわ。巻き込むなんて事は藤宮君もしたくないでしょう?」

 

「……あぁ、そうだな」

 

 それはどこか気のない返事だった。

 

 藤宮が気掛かりなのは音を立てない理由等ではない。

 

 『音』そのものについてだった。

 

(そうだ、あの音はたしか……)

 

「藤宮君!こっちよ!」

 

 藤宮が考えを巡らしながら走っている内に、刀奈は工場内に通じる鉄扉の前で立ち止まっていた。

 

 そこは、敷地内のいくつかの建屋の中でもひと際大きく、恐らくこの工場拠点におけるマザー工場としての役割を担っていたのだろう。

 

 その両開きの扉の前で、刀奈は大きく手を振って彼を招いている。

 

 最初から開いていたのだろうか、重厚に見える扉は既に開かれていた。

 

 工場内は薄暗く、藤宮のいる位置からでは中の様子は確認出来ない。

 

 無論、この状況でわざわざ建物に入るなど、包囲してくれと自分達から言っているようなものだった。

 

「なんでまた……ッ!」

 

 しかし追っ手は近づいてきており、藤宮に迷っている時間は無かった。

 

 彼は刀奈の後に続いて工場に飛び込み、協力して扉を閉める。

 

 所々錆が目立つ扉だけに、どこかで引っかかって閉まらないのでは、と不安に駆られたが、意外にもそれはスムーズに閉めることが出来た。

 

 

 

「……?」

 

 

 

 扉を閉めた瞬間それまでの世界から隔絶され、耳鳴りがしそうな程の静謐に包まれた。

 

 徹底された防音構造が施されてるとしか思えない程の静けさに違和感を感じる藤宮だったが、それよりも異常なのは工場内の有様だった。

 

 天井付近にある高い窓から射し込む陽光に照らされるその場所は、およそ、通常の生産活動をしていたとは思えない程に荒れ果てている。

 

 机や椅子などの事務用品、果てはフォークリフトや横倒しになった加工機やらの背の高い大型機械がと打ち捨てられており、まるでゴミ捨て場の様な形相を呈している。

 

 周りを見渡したところ、入口付近の壁際にも機材が進出しているせいで、壁伝いに進む事も出来そうになかった。

 

「この工場、結構前に倒産しちゃったって聞いてたんだけどね。私、あの別荘にしばらくいた時期があって、その頃は割と沢山の人がいたのよ」

 

 扉に鍵をかけ終わった刀奈は語りながらゴミの山へ侵入して行き、藤宮も後に続く。

 

「何かの機械部品を造ってたらしいけど、ここ最近の技術競走に着いていけなかったみたいね。潰れる時はほんとに急だったみたいで失業者も沢山出たらしいわ」

 

 藤宮はショッピングエリアの路地裏を歩いていた時を思い出す。

 

 言われてみれば、時折すれ違った浮浪者達は高齢者が多く、彼等があのようになってしまった背景を少し想像してしまった。

 

(技術競走の激化か、大方の理由は察しが着くな……)

 

 先を行く刀奈の足取りは淀みなく、機械と機械のぎりぎり人一人が通れるような間を縫うように進む。

 

 入口から見た時は分からなかったが、中は正しく廃棄された機械達の迷宮と化していた。

 

「しかし、この有様は……」

 

 この工場で生産していた部品だろうか、ひとかたまりに積まれた何かの部品を乗り越えながら藤宮は不満を漏らす。

 

「維持費削減の為に、少しでも敷地を減らそうとしたんじゃないかしら?その為に使わなくなった機材をここに集約したとか」

 

 確かに、少し先にはパレットステージが設置されている区画があり、元々は倉庫として利用していた様にも見えた。

 

「それにしても、ここまで散らかすのか」

 

「……さっきも言ったけど、倒産するって話は急だったらしいし、急いでたんじゃないかしら」

 

 刀奈は後ろを振り向かず、そう説明した。

 

 歩くうちに、二人は入口から見て右側の壁際に出る。そこは入口付近と違い、ある程度足の踏み場もある為、そこからしばらくは壁伝いに進む事ができた。

 

(……?)

 

 ふと、藤宮は足を止める。

 

 そこだけ他とは壁の色が若干違ったのだ。

 

 今はもう倒産したとの事だがそれなりに歴史はあったのだろう。この建屋も相当年季が入っている様で、錆や油汚れによって壁は全体的に汚れが目立っている。

 

 しかし彼の立った所、丁度一般的な片開きのドアくらいの範囲だけが妙に真新しいように見えた。

 

「藤宮くーん、こっちよー」

 

 声の方に目を向けると、壁際を少し先に進んだ所にあるパレットステージに登る階段に刀奈がいた。

 

 上に向かう事、登る事に、藤宮は疑問を抱く。

 

 追われてる以上、どこかしらで追っ手を撒かなければならず、さもなくば永遠と鬼ごっこを続ける羽目になる。

 

 それなのに刀奈が包囲されやすそうな屋内にわざわざ入ったのは、何か策があっての事だと藤宮は考えていた。

 

 例えば、マンホール等から地下水道に逃げ込むなどである。

 

 だが、刀奈は上に登ろうとしていた。

 

 これがもしも出会ったばかりの時ならば、藤宮は理由を彼女に問いただしたかもしれない。

 

 しかしこの時、既に藤宮の中では刀奈に対する一定の信頼が産まれていた。

 

 飛んで逃げる手段を用意出来るとも思えないが、工場に侵入する時の仕込みといい、刀奈が何かしらの備えをしている事は彼にもなんとなく想像出来た。

 

 そんな漠然とした期待が、それ以上不審に思う事をさせなかったのだ。

 

 藤宮が向かって来る間も、彼を見下ろしながら彼女はそこで待っている。

 

「その辺り、足場が脆くなってるから気を付けて」

 

 彼女はそう言って、階段に足をかける藤宮に手を差し伸べた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 藤宮達がゴミの山を進む間、追跡者達は着々と建屋周辺を包囲していた。

 

 その数は藤宮達を追っていた数名だけではない、各箇所に配置されていた人員が次々とこの場所に集結し、今では20名ほどの規模にまで膨れ上がっていた。

 

 少々予定とは違う形になったものの、屋内という袋小路に追い込めば、後は囲うように人員を配置し、追い込み漁を始めるのみ。

 

 最後の詰めとなるであろう突入班は、獲物を弄ぶシャチの群れのごとく浮き足立っていた。

 

 それらを統率する小隊長にあたるスーツ姿の女は、実に冷ややかな面持ちで彼女等を後ろから眺めていた。

 

 律儀にチャンバーチェックをしているのはまだ可愛い方で、数名はこの国には持ち込むのも苦労しそうな粉物を吸引していた。

 

(全く、しくじったらオータムにドヤされるのは私なのよ……)

 

 そこで彼女のヘッドセットに、包囲役として招集されていた最後の班から連絡が入る。

 

「こちらE1(エレーナ・ワン)、各員配置完了しました」

 

「了解した。指示があるまでその場で待機、まもなく状況を開始する」

 

 そう言って小隊長にあたるスーツ姿の人物は通話を切り、先程藤宮達が入っていった鉄扉に目を向ける。

 

 そこには既に発破役が仕掛けた小型の爆弾が扉の錠に当たる部分に仕掛けられていた。

 

 扉の前には、その手に持った自動小銃の出番を今か今かと期待する突入班が焦れたように彼女を指示を待ち侘びていた。

 

(まぁ、気持ちも分からなくはないけどね)

 

 この任務に参加しているのはいずれもここ数年間、今回の対象の捕獲任務に就き、辛酸を舐めてきた連中ばかりだった。

 

 それは小隊長の彼女も同様で、毎度手を替え品を替え自分達の追跡から逃れてきた奴を初めてここまで追い詰めたとなると、多少なりとも期待に気持ちが高ぶる。

 

 彼女の場合、他の隊員のように自分達の追跡を徒労と化してきた奴に対する怒りなどではなく、これで奴を追って世界中を飛び回るような面倒な任務から解放されるというところが大きいのだが。

 

 そして先程の連絡により、最終の包囲班が持ち場に着いたことを確認し、全ての準備は整った。

 

 小隊長は端末を操作し、起爆プロトコルの画面を表示させる。

 

「各班に継ぐ。扉の起爆を合図とし、これより状況を開始する」

 

 ホログラムの起爆ボタンに触れた瞬間、破裂音と共に扉の鍵は破壊され、突入班は勢いよく建物内に飛び込んで行く。

 

 それに続き、やおら中に入ろうとしたところで彼女は後ろから声をかけられる。

 

「小隊長、これを」

 

「え?」

 

 まだ若い、生真面目そうな補佐から差し出されたのは自分用のアサルトライフルだった。

 

 後方指示をするのみで、実際の捕獲にあたるつもりは無かったために忘れていたが、確かに建物内に侵入する以上は持っておかなければならない。

 

(どうせ使う事もないのだろうし、要らないでしょう……)

 

 気のない返事をして受け取った彼女は、そのまま補佐と共に建物内に侵入する。

 

「何よコレ……」

 

 機材やら廃棄物やらで雑然とした様子に、辟易した彼女は辺りを見渡す。

 

 建物内全域はゴミで溢れかえっていて、これでは対象を見つけ出すのも苦労するかもしれないが、奥にあるパレットステージに上がって全体を俯瞰出来れば、幾分かマシに見えた。

 

 仮に時間が掛かろうと、この工場内には地下に繋がる様なマンホールも無い事は事前の調査で分かっているため、建物の周囲を固めていれば逃げられる事はまずありえない。

 

「β(ブラボー)1から2は対象の捜索をしながら奥のパレットステージに進め。そこからサーマルスコープで屋内全体の捜索をせよ」

 

 彼女は通信を飛ばし、扉付近の壁にもたれて掛かる。

 

 隣では補佐がアサルトライフルを構えながら、周囲を警戒している。

 

 そんな仕事熱心な様子の部下を横目に、彼女は今回の任務が終わった時のことを考える。

 

(今回の任務が成功すれば功績として本社へ異動出来るでしょうし、そうすれば現場なんて泥臭い任務や、あのうるさいオータムとも……)

 

 その時だった。

 

 誰も触れていない扉が、ひとりでに勢いよく閉じた。

 

「なんで扉が──」

 

 彼女の言葉は、そこで中断される。

 

 轟いたのはある筈の無い銃声だった。

 

 無論、苦労して持ち込んだ彼女等の銃火器が火を吹かない理由は無い。

 

 ありえないのは銃声の質。

 

 突入班が使用する銃弾とは火薬の量がまるで違う。

 

 恐らく50口径レベルの重火器を用いなければ、あれ程の轟音は発生しないだろう。

 

 では、今のは誰の銃声だったのか?

 

 その答えは隣に直立した部下の()()()

 

 自分に飛び散った赤やら白やら黄色やら、色とりどりのパーツが彼女を批難するように物語っていた。

 

 

 

「なん……ボェグッ!?」

 

 

 

 そして彼女が自らの浅慮さを悔いるのに

 

 二発では充分過ぎたのだった。

 

 

 

 

 

 




8月連休が僕に力(時間)をくれました。

ほぼ1年ぶりの投稿になってしまいましたね……。

9月の半ばくらいまでは仕事が佳境なので恐らく何も出来ませんが、それが終わればとりあえず一段落しそうなので、十話はもう少し早く投稿出来ればいいかと思います。
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