✧ ✧ ✧
▹▸「本当にボクが犯人だと言うんですか?」
▹▸「ボクは黒幕を突き止めるために照翠くんを呼び出しました」
▹▸「ところが、彼は全く口を割りませんでした」
▹▸「舌戦で彼に勝つことはできなかったんです」
▹▸「ボクは結局確信を得ないまま、部屋を後にしたんですよ…!」
◎ 縄と
△ 跡
□ 暴行の
✕ 手首の
【手首の縄と暴行の跡】
▹▸BREAK!!!
「…笑至くん、君は照翠くんをただ言葉で問い詰めただけじゃないよね」
「……え?」
笑至くんの瞳がわずかに揺れた。まだ俎上に載せられていないあの証拠。それを思い出した僕は、あの家庭科室で何が起こったのか、ひとつの確信があった。
「君は、照翠くんを縄で縛って動けないようにしてから拷問し、彼は黒幕だという確信を得てから、殺害したんだ…!」
「……!」
笑至くんが何か言いかけようとしたその時、
「はいはーい!議論終了だよ!」
モノケンが無情にも終わりの合図を告げた。
「ここからは投票に移りまーす!ひとひとり、クロだと思う人に投票してね!あ、ちなみに投票を放棄した場合は死ぬからね」
モノケンがさらっと大事なことを付け加えながら、投票方法についてペラペラと話す。
「それでは、投票スタート!」
投票先を選んでください
▷揚羽鳳玄
▷荒川幸
▷陰崎ひめか
▶笑至贄
▷片原桃
▷切ヶ谷小町
▷芥原芥生
▷佐島俊雄
▷スティーヴン・J・ハリス
▷掃気喪恋
▷月詠澄輝
▷照翠法典
▷根焼夢乃
▷野々熊ひろ
▷宗形こむぎ
▷妄崎しなぐ
僕は…笑至くんに、票を入れた。
「それじゃ、投票結果を発表するよー!」
「さてさて、投票多数によってクロに選ばれたのは笑至クンでしたー!さあ、ワクワクドキドキの結果発表だよー!」
「今回、照翠クンを殺害したクロは…」
突然上からモニターが現れ、映し出された映像の中でみんなのドット絵がくるくると回り─
笑至くんのところで止まった。
「"超高校級の探偵助手"笑至贄クンでしたー!おめでとうございまーす!」
モノケンの威勢のいい声と共に、天井からカラフルな無数の紙吹雪が舞い降りてきた。
✧ ✧ ✧
「嘘でしょ…?」
「本当に、にえくんが……」
「おいおいお前、本当にボク達を騙してたんだな!」
裁判の終了を迎えた後、みんなのざわめく声が聞こえてくる。
「笑至クンとお話できるのもあとほんの少しだし、みんな思いの丈をガンガンぶつけ合ってね!うぷぷ……」
モノケンがその光景を見ながら意地悪そうにニヤニヤと笑っている。ここからみんなが笑至くんを責め立てるとか、そういう趣味の悪い想像をしているんだろう。
みんなの視線を浴びた笑至くんは──いつも通りの考える仕草をしていた。
「…やはり、そうなりましたね」
「やはりって何が?お前が殺したのが見破られたコト?」
根焼くんが楽しそうに彼に近づき話しかける。
「やめなよ!そういうのは…」
月詠くんが顔をしかめて制止したが、笑至くんは全く気にしていない様子だった。
「いえ、ボクが黒幕にとって都合の悪い存在ですから、ここで罪を被らされて退場させられるかもしれないとは正直考えていました。…まさか本当にそうなるとは思っていませんでしたが」
「え…?」
「今更悪足掻きしたって無駄でしょ。見苦しいだけだよ、もう君がクロだっていうことはわかたんだから」
佐島くんが冷めた目つきで反駁する。だけど笑至くんは先程のようにイライラとした表情は見せず、ただ静かに首を横に振った。
「ボクがここで抵抗するのにも何らかの意味があるはずです。宗形くんがボクと対決することで予想以上にこの裁判で成長してくれたように、予測不可能な何かが起こるかもしれませんから」
「…どういうこと?笑至くん…」
笑至くんは眉を下げて、初めて見る表情で笑ってみせた。
「困ったことに、ボクは本当に照翠くんを殺していないんですよ」
それは、どこかに諦念を思わせるような顔だった。
背筋がぞくりとして、不安の表情が全員に一斉に浮かぶ。僕らの過ちが、真実に書き換えられた?…そんな事があっていいのか?
「ですから、本当にボクは黒幕に嵌められてしまったんです。おそらく照翠くんが向こうの、黒幕側の人間であることを見つけてしまったからでしょう…ボクはこのゲームの進行に支障をきたす存在として、ここで断罪されたんですよ」
「じゃ、じゃあ、笑至くんは本当に…」
「ボクは殺していません。どうやらボクの出番はここで終わってしまうようですが、これだけは最後まで主張し続けます。ですから、宗形くん、貴方に1つだけお願いがあります」
「希望を捨てないでください。君とずっと一緒にいたボクが人を殺したという事実は確かにショックでしょう。でもそれは黒幕が作り上げた罠です。この先、他のみなさんが希望を失ってしまっても、貴方だけは、希望を捨てずに前に進み続けてください」
「記憶してください。前に進み続ければ、必ず道は開けます。ボクがこうして最後まで抵抗し続けているように、貴方も最後まで、希望を持って戦い続けてください」
「笑至くん……」
彼からの言葉のひとつひとつが、胸に突き刺さるようだった。彼のためにも、僕は前に進み続けなきゃいけないんだ…。
「感動シーンは終わりかな?そろそろおしおきに移りたいんだけど…」
つまらなそうに話を聞いていたモノケンが、途端にそわそわとしだす。
「そ、そんな…!ちょっと待」
「いいですよ。こんな茶番は早く終わらせましょう。黒幕に逆転策なしで楯突くとこうなるんですね、参考にさせていただきます」
笑至くんが僕を手で制して言った。その瞳はまっすぐにモノケンを見上げている─いや、もっと奥に潜む、自分を罠にかけた黒幕をじっと見据えているのかもしれない。
「まあ、その参考にしたのを活かす場ももうないと思うけどねー!」
モノケンがその視線を受けてゲラゲラと笑いながら指を鳴らすと、その前にWARNING!と書かれた赤いボタンが現れる。いつの間にかモノケンの手には大きなピコピコハンマーが握られていた。
「笑至クンも、準備ができたみたいだし、早速やっていきましょう!」
「それでは張り切っていきましょうっ、おしおきターイム!」
モノケンがボタンを叩いた。
▼えにしクンがクロに決まりました。おしおきを開始します。
劇場のようなステージの幕がゆっくりと上がると、探偵服を着た笑至くんの姿が見えた。長い一本道を歩きながらA、B、Cと書かれた服を着ている3人のモノケンの被り物を被った遺体を次々と発見する。
いずれの遺体にも「ABC鉄道案内」が添えられていた。
4番目のDの遺体を発見したあと、笑至くんは抜群の推理力で犯人のモノケンを見つけ出し、一本道の行き止まりまで追い詰めた!
後ろの壁に気づき汗まみれだったモノケンが、突然ニヤリと不敵に笑い、指を鳴らした次の瞬間─
笑至くんの胸部から腹部にかけてを、無数の鉄パイプが無造作に貫いた。
そのまま大量の血を吐いてゆっくりと倒れた笑至くんの横には、
大きく "E" の血文字があった。
その殺害現場を目撃した警察官姿のモノケンが犯人のモノケンを逮捕し、事件は無事解決した……。
めでたし、めでたし!
笑至くんがいたステージに、幕が下りた。
✧ ✧ ✧
「……………………………」
みんなが見てはいけないものを見てしまったかのように、画面から目を逸らす。呆然としたまま視線を落とすと、投票ボタンを押した僕の右手は、面白いほどがたがたと震えていた。
…それは、笑至くんがおしおきされたと言うよりも、僕達がみんなで笑至くんを殺したような感覚だった。