(非)日常編1
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あの事件から2日後。僕はモノケンの朝の放送で、ずるずると布団から這い出るようにして起き上がる。
はなちゃんに水をあげた後、クローゼットの横にある鏡を見ながら四方八方に跳ねあがっている髪を無理やりに押さえつけ、朝ご飯を食べるために食堂に向かった。
食卓につくと、月詠くんが焼きたてのトーストを持ってきてくれる。今日はベーコンの下に半熟の目玉焼きが上に乗っかっていた。ナイフで開いた黄身がとろりと溶けだすところが想像できて、自然と頬が緩んでしまう。
いつもと何一つ変わらない日常。だけどそこには、眠たげな顔で黙々と食べ進めている照翠くんと、隣に座って真っ先に挨拶をしてくれる、笑至くんの姿はなかった。
「………」
眠たくはないけど、未だに頭がぼんやりとしている。食べ終わった後もテーブルでの談笑に参加する気にはなれず、せめて自分の分の食器ぐらいは片付けようと思って立ち上がった。
すると食卓の片付けをし始めていた僕達の前に、モノケンが現れた。
「おはようございまーす!最初の裁判を無事乗り越えたオマエラに、学園長のボクから素敵なご褒美のプレゼントを届けに来たよ!」
「プレゼント…?」
「どうせろくでもないもんでしょ」
戸惑う声の上がる中、モノケンはサンタクロースが背負うような巨大な白い袋の中から、電子生徒手帳に似た色合いのタブレット端末を人数分取り出して、一人一人に手渡していく。
「それがボクからのプレゼント、名付けて"動機ビデオ"だよ!」
「動機ビデオ…?」
「そう!ここにはオマエラの殺人の動機となりそうな情報が入っているんだ。もしかしたら、外にいる大切なあの人の情報もあるかも…!?見るか見ないかはオマエラ次第、好きなようにしてねー!」
そう言ってモノケンはまた忽然と姿を消した。まさか、この時は思いもしなかった。
─そのビデオを配られたことが、第二の悲劇の幕開けになるなんて。
自分の名前が書かれたタブレットを持った僕達は、その場に残ってこれをどうするか話し合いを始めた。
「このビデオ、一体どうしたらいいんだろう…」
僕がそう言うと、根焼くんが答えた。
「見た方がいいんじゃない?なんかおもしろそうだし」
「でも、動機ビデオって言ってたよね。殺人の動機になるなら見ない方がいいんじゃないかな…?」
月詠くんが首を捻る。確かにそうだよな…。モノケンが僕達のメリットになるものを渡してくるとは思えない。その意見にうんうんと頷いている人も多かった。
「見るか見ないかなんて、個人の自由でいいんじゃない?」
佐島くんが表情を変えずに言う。
「だ、だめですよ……!こういうのは、みんなで揃えないとじゃないですか……?」
荒川さんが慌てて否定する。意見がなかなかまとまらないその時だった。
バキン、と何かが割れるような音がした。
僕達が音のした方向を見ると、
スティーヴンくんが動機ビデオをブーツで踏みつけて壊していた。
「す、スティーヴンくん!?何してるの!?」
「メアリーが『殺人の動機になるような不穏なものは、壊した方がいい』と言っていたぞ!だから壊したんだ」
「た、確かにそうだけど…!」
さすがアメリカ人、行動が大胆だ……。
「とりあえず、これは各自で持っておいたらいいんじゃない?1箇所にまとめたら、誰かが全員分見ちゃうかもしれないし」
佐島くんの意見に従って、僕達は動機ビデオを各自の部屋で保管しておくことにした。
殺人の動機になるようなものを見る人なんて、きっといないよね…?
僕が寄宿舎に戻って動機ビデオを備え付けの引き出しの中にしまったあと、誰かが僕の部屋のドアをノックした。
「…はい?」
ドアを開けると、そこに立っていたのは切ヶ谷さんだった。
「ハロー!」
「は、はろー…?」
「切ヶ谷さん、えっと、どうしたの…?」
「今日、本校舎の3階が開放されたらしいんだ!よかったらボクと一緒に見に行かない?」
「大丈夫だけど…ぼ、僕なんかでいいの?」
「最近元気がなかったみたいだからね!ボクと一緒にいたらみんな元気になれるって凰玄が言ってたから」
「…そっか」
切ヶ谷さんは、裁判の後からずっと落ち込んでいた僕を励まそうとしてくれてるんだ…。その厚意にあずかって、僕は切ヶ谷さんと一緒に3階に行ってみることにした。