超特急論破 前編   作:鳶子

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(非)日常編4

✧ ✧ ✧

 

 

1時間後、人形劇の会場の会議室には切ヶ谷さん、荒川さん、芥原さん、片原さん、掃気さんの5人の女子が集まっていた。

人形を動かすのは野々熊さんと月詠くん。僕は背景の差し替えとかを担当することになっている。

「そ、そろそろ始めるか…」

緊張からか、野々熊さんは見てわかるほどにガチガチに固まっている…。

 

「ひろちゃん、大丈夫?」

「だ、大丈夫に決まってんだろ!武者震いだ、武者震い!」

若干涙ぐんでるけど、本当に大丈夫かな…?

その時、月詠くんが野々熊さんの頭にぽんと手を置いた。

「ひろちゃんはみんなのお姉ちゃんだから、ちゃんと頑張れるよね?」

「…!」

すん、と涙を止めるように一つ鼻をすすった後、野々熊さんは大きく頷いた。

 

「…できる!」

「うんうん、がんばろうね、おにーさんとの約束だよ」

「ああ!」

そんな2人の光景に、僕は思わず笑みがこぼれてしまった。まさに師匠と弟子って感じだ。

時間になり、人形を持った2人と背景の絵を持った僕が会議室に登場して、人形劇がいよいよ始まった。

 

人形劇のストーリーは、動物に変身させられてしまった観客の5人が、悪の組織のボスであるモノケンを倒す、という話だった。

「ややっ!?くぐはらがうさぎさんになってしまいましたよ!」

「ボクは…ネコ!?ニャーン!ニャーン!」

「…もこは…くまさん……ふふ…」

 

それぞれの個性を活かして数々の難所を乗り越え、いよいよ、ボスのモノケンとの対決の時だ。

今までの人形の2倍ぐらいもある巨大なモノケン人形が現れる。

『がおー!オマエラ全員食べちゃうぞー!』

「ひゃあ…!!怖いです……助けて…!」

「全員で立ち向かえばきっと倒せるですよ!」

 

 

【挿絵表示】

 

 

「芥原さん、そこだー!!」

「くぐはらの魔法の力を見るですよ!」

「桃の華麗な包丁さばきっすよ〜」

「みなさん、すごいです…!!」

「……おねえちゃん…がんばれ…」

 

こうして、力を合わせた5人によって、モノケンは無事退治され、街には平和が戻った…。

「わー……ぱちぱち……」

「ボク達の勝利だね!よいしょー↑」

「すごくおもしろかったです…!」

「くぐはらは今日も地球を救ったですよ!」

「今晩のご飯はモノケンの焼肉っすよ〜」

 

観客のみんなは各々感想を言い合いながら、満足そうに帰っていった。

 

「ふう…うまくいったね、ひろちゃん。こむぎくんも手伝ってくれてありがとう」

「ふふん、大成功だったぜ!」

「僕は大したことしてないよ…熱演だったね、2人とも」

「えへへ、おにーさんもつい夢中になっちゃったよ」

 

「後片付けはお姉さんの私がやるから、2人は帰っていいぜ!」

「…そう?お昼ご飯作らなきゃだし、せっかくだから、ひろお姉ちゃんにお願いしちゃおうかな」

「へへ!任せろって!」

胸を張りながらそう言う野々熊さんに後片付けを任せ、僕と月詠くんは昼ごはんを作りに食堂へと向かった。

 

 

✧ ✧ ✧

 

 

食堂に戻り、昼ごはんを作り終わった後も、野々熊さんはなかなか戻ってこなかった。

「…戻ってこないね」

「もしかしたら、荷物が多かったのかも。人形も背景もあったしね。ちょっと手伝ってくるよ」

確かに、行きに運んだ時の大きな段ボール箱を体の小さな野々熊さんが1人で運ぶのは大変そうだ…。

 

「僕も運ぶの手伝おうか?」

「冷めるとご飯がおいしくなくなっちゃうから、こむぎくんは先に食べてていいよ。自分の力で作った料理はいつもより数倍おいしいからね」

月詠くんはそう言ってにっこりと笑う。

「うん、わかった。じゃあここで食べながら待ってるよ」

 

僕は空いていた席に座って、月詠くんと一緒に作ったおにぎりを食べ始めた。

「お、おいしい…!」

彼の教えてくれたコツに従ったおにぎりは、全く崩れず、かつ適度な噛みやすい固さを保っている。塩の加減も絶妙だ。匂いに誘われて食堂に来た他の人達も幸せそうにおにぎりを口いっぱいに頬ばっている。

 

おにぎりは結構な大きさがあったのに、あっという間にぺろりと平らげてしまった。

使った食器を洗って食器棚に閉まっていると、スティーヴンくんに声をかけられた。

 

「こむぎ君、少し聞きたいことがあるんだが」

「ど、どうしたの?」

僕がお皿を置いて振り返ると、スティーヴンくんの背後からぴょこんと芥原さんが出てきた。

「くぐはらのピーちゃん、知らないですか?」

「ピーちゃん……?」

 

「彼女がいつも持っている、あのシャウティングチキンのことらしいぞ。さっき聞かれたんだが、僕達には心当たりがなくてな」

「ああ、あのすごい顔の……」

確かに、芥原さんの手にはいつも持っている鶏のおもちゃがいなかった。

「ピーちゃんがいないと困るですよ!でもくぐはらにはどこでなくしたのか心当たりがありません…」

 

「うーん、僕もわからないな……」

「彼女の寄宿舎の部屋や女子トイレには行ってみたんだが、見つからなくてな」

「えっと、スティーヴンくんは女子トイレに入ったの…?」

「ジャックが入ってみたいと言ったんだ。メアリーとウェンの2人がかりで止められたのでさすがにやめたぞ」

「そ、そうだよね……」

…うん、それは賢明な判断だと思う。つい余計なところが気になってしまった。

 

「くぐはらはピーちゃんがいないと、うまく力が出せません…」

芥原さんはいつもの元気そうな様子とは打って変わって、かなりしょんぼりとした様子だ。あれ、そう言えば彼女は…。

「──もしかして」

「ん?なにか思いついたか?」

「芥原さんがピーちゃんをなくしたのって、今日のこと?」

「そうです!」

…それなら、1つの場所が思い当たった。

 

「芥原さんは、会議室にピーちゃんを置いてきたんじゃないかな?」

芥原さんは、今日の人形劇の観客でもあった。劇に夢中で、うっかりピーちゃんを忘れて帰っていったということもありえるだろう。

「ややっ!?そうかもしれないですよ!」

「それでは、会議室に向かおうか」

僕達は3人で会議室へと向かった。

 

階段を上って2階に上がると、奥の方に誰かが座っているのが見えた。

「あれは誰だ?休憩しているのか?」

「…たぶん、野々熊さんじゃないかな。人形が入った大きな段ボールを運んでたから、疲れて休憩してるんだと思うな」

「早く会議室に入ってピーちゃんを探すですよ!」

 

「おっと、廊下を走るとウェンに怒られるぞ!」

芥原さんが待ちきれずに廊下を駆け出し、僕達2人は慌てて彼女を追いかける。

会議室の手前まで来て、僕達の足はようやく止まった。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

そこには──会議室の向かいのドアを背に、縄のようなものでドアノブにぶら下げられて座り込んでいる、野々熊さんの姿があった。

 

「な、……!?」

突然目に入った光景に僕達が呆気に取られている隙に、ピーちゃんを探すのに夢中だった芥原さんは既に会議室のドアを開けていた。

 

「ややっ…!!?」

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

部屋の中には頭から血を流し、壁にもたれ掛かるようにして座っている月詠くんの姿があった。

 

「月詠くん…!?」

「これは…どういうことだ!?」

 

脳内がパニック状態だ。2人もどうしよう、こんな時、どうしたらいい…!?

 

状況が全く理解できず、混乱したままの僕達の耳にあの放送が届いた。

 

『ピンポンパンポーン!死体が発見されました、オマエラすぐに現場の本校舎2階廊下に向かってくださーい!』

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