超特急論破 前編   作:鳶子

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非日常編2

「捜査、始めるか…」

僕がそう独りごちると、切ヶ谷さんがてくてくとこちらに近づいてきた。

「宗形さん、ボクが助太刀するよ!」

「切ヶ谷さん…いいの?」

「前の裁判の時は何がどうなってたのかよく分からなくて、みんなに迷惑をかけてしまったし…キミと一緒にいればボクにも力になれることがあるかもしれないからね!」

そう意気込む彼女の姿に、僕は自然と励まされたような心地がした。

 

「…ありがとう、じゃあよろしくお願いします」

「こちらこそー」

お互いぺこりと頭を下げて、捜査を始める。

「まずは、電子生徒手帳を確認してみようか」

「…何だっけ、それ?(゜▽゜)」

「……僕が確認するよ」

 

 

【挿絵表示】

 

 

「ふむふむ。午後1時頃って、ボク達がお昼を食べ終わった頃だね」

「そうだね。僕はお皿の片付けをしていたけど、この時間なら食べ終わった人たちなら誰でも犯行が可能だってことかな…?切ヶ谷さんはどう思う?」

意見を求めようと切ヶ谷さんの方を見ると、ぽかんと口を開けている。

「…ごめん全然聞いてなかった」

「あ、うん…気にしないで」

僕と会話しながら、何を考えてたんだろうな…。つくづくどこか呑気な切ヶ谷さんだった。

 

「野々熊さんの方は…遺体以外に特に変わったところはないみたいだね」

「野々熊さんがもたれかかっているのは、何の部屋のドアなんだい?」

「ここは──月詠くんの研究教室だね」

研究教室Ⅲと書かれたその場所は、午前中に僕が2人と一緒に人形劇の準備をしていたところだ。

 

「じゃあ、この紐も月詠さんの研究教室にあったのかな?」

「いや、僕が行った時はこんな目立つ赤い紐は置いてなかったと思うけど…」

それにしてもこの紐、どこかで見覚えがあるな……。この既視感は覚えておこう。

 

「次は、会議室を見てみようか」

「月詠さんが倒れてたところだね!ボクの化身が近くにあったからびっくりしたよ…」

「化身…?あ、確かにネコの人形が近くにあったね…」

人形劇の時の、切ヶ谷さんが変身した姿のネコの人形が置いてあった。あれが片付けられていないってことは、結局あの時、片付けはまだ終わっていなかったってことか…。

 

「物があちこちに散らばってるし、片付け中に何か起こったんじゃないかな?」

「うん、そうかもしれないね。野々熊さんの片付けが長いのを心配して月詠くんが見に行ったから、その時に何かが起きたのかも…」

僕達が考え込んでいると、パッとモノケンが目の前に現れた。

 

「オマエラ、捜査は順調かなー?」

「モノケン!」

「月詠くんは大丈夫なの?」

「彼は今、保健室で集中治療を受けてまーす。裁判後にはピンピンになって帰ってくると思うよ!」

「よかった……」

ほっと胸を撫で下ろす。とりあえず安心材料ができた…。

 

「そうそう、オマエラに捜査に関する大事な情報を言い忘れてたんだー」

「大事な情報…?」

「実は、今回から死体発見アナウンスの設定をちょっといじくったんだよ」

死体発見アナウンス──前回は第1発見者が死体を見つけたときに鳴ったはずだ。

 

「今回は、クロを除いた3人が死体を発見した時点で鳴るように設定したんだ!」

「クロを除いた、3人……?」

「ま、変えたのはそれだけだけど、もしかしたら何かのヒントになるかもよ!それじゃせいぜい残りの時間で頑張ってねー!」

モノケンはいつものようにどろんといなくなった。

 

「…で、3人になると結局何が違うの?」

切ヶ谷さんが不思議そうに聞いてくる。

「今はまだ分からないけど…もしかすると、これが事件の鍵になるのかも」

「なるほどー」

ふむふむと頷きつつもあまりわかっていなそうな切ヶ谷さんを見て、なぜか安心感を覚えてしまった…。

 

「月詠くんは頭から血を流して倒れてたよね。気絶していたし、頭を強く打ったのかもしれないね…」

そう言いながら振り返ると、切ヶ谷さんが地面に這いつくばってほふく前進のような格好をしていた。

「……切ヶ谷さん?」

「警察の人が前こうやってるのをドラマで見たんだ!」

「そ、そうなんだ…」

 

…その格好、パンツが見たくなくても見えちゃいそうだからできればやめてほしいんだけどな……。

僕は顔を逸らして会議室の捜索を始めた。

 

辺りには人形劇に使ったものや椅子が雑然と置かれている。月詠くんの近くにあったダンボールには、背景に使った絵が入っていた。これを運ぶ途中だったんだろうか…?

 

他には、特に気になるところは無さそうだ。

「あーー!?!?」

「ど、どうしたの!?」

這いつくばっていた切ヶ谷さんが突然叫び声を上げた。

「宗形さん!これ!」

「これは…!」

 

切ヶ谷さんが指さした会議室のドアから2,3歩進んだ床に、わずかだけど、誰かの血痕が付着していた。

「すごいよ、切ヶ谷さん!こんなのに気づくなんて…」

「現場には数々の秘密が隠されているのである……」

切ヶ谷さんは満足気に腕を組みながら、うんうんと頷いている。

 

それにしても、この血痕は月詠くんと野々熊さん、どっちのものなんだろう。謎が次から次へと出てくるなあ…。

 

「こむぎくん」

スティーヴンくんがぽん、と肩を叩いて僕に声をかけてきた。

「聞き込みをしたところ、どうやら両方とも第1発見者は僕達で間違いないようだぞ」

 

「そんなことまで聞いてくれてたんだ、ありがとう…!」

「礼には及ばない。少しでも君の役に立ったなら僕達も嬉しいぞ!」

「スティーヴンさん、ボクより役に立ってるじゃないか…!!」

「HAHA!僕らは全員で協力して捜査を進めてるからな」

スティーヴンくんの頭の中には、一体何人助言してくれる人がいるんだろう…。

 

おおむね現場検証を追えたところで、モノケンの放送が始まった。

「ピンポンパンポーン!捜査終了です、全員裁判場まで移動しまーす」

「いよいよか…」

「宗形さんならきっと解決できるよ!ボクも怪しい奴はバシバシ叩き斬るからね!」

「ありがとう、切ヶ谷さん。頼りになるよ」

 

明るく笑う切ヶ谷さんを見ているだけで、張り詰めてた気持ちがふっと軽くなるみたいだ。彼女がみんなを元気づけるっていうのは、こういうところもあるのかもしれない。

「…それじゃあ、行こうか」

僕達は裁判場へとつながるエレベーターに乗り込んだ。

 

 

 

エレベーターはぐんぐんと下に降りていく。

僕は、ここで笑至くんと話していた時のことを思い出していた。

 

『貴方を立派に探偵として成長させたいんです』

今僕は、彼がいなくても探偵役としてちゃんとやれてるのかな…?

 

前回の僕は間違えてしまった。彼を、大切な仲間の一人を信じきることができなかったんだ。

でも彼は、希望を捨てずに戦え、と僕に教えてくれた。きっとそれは、僕が探偵をやる上で彼が1番教えたかったことだ。

 

希望を捨てず、仲間を信じて戦う。

今回は絶対に、間違えない。この事件を、解決に導いてみせる…!

僕は拳をぎゅっと握り締め、裁判場へと足を踏み入れた。

 

──でも、この時僕は失念していたんだ。

野々熊さんを殺害した犯人もまた、この仲間の中にいるということを。


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