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「…結局、誰がクロ?ちまちまやってちゃ終わらないんじゃないのー?ボクずっと立ってるの疲れちゃったよ」
根焼くんは早くも議論に飽き始めているみたいだ。
「アリバイがない人物の中で、1人に絞り込むのはなかなか難しいな…」
「まあ月詠さんがクロじゃないとなると、この中の半分以上が容疑者ってことになるからね」
佐島くんが眉をひそめて言う。さすがの彼も少し悩んでいるみたいだ。
「ひ、ひめかは、やっぱり月詠さんが野々熊さんを1番殺しやすかったんじゃないかなって思うよ…。だって、2人とも仲良さそうだったし……」
「でも、仲良いならどうして殺したりなんかしたんすかね?桃は友達のことは絶対殺さないと思うっす!」
「…おにいちゃん…ひろおねえちゃんをころしたりなんか、しない……」
「そ、そっか…そうだよね。ひめかにはやっぱり推理はまだ早いのかも……」
陰崎さんはしょんぼりとしてしまった。
「ボクも月詠じゃない気がしてきたんだよね。どっちかって言うと、そういう状況を作ることで月詠に罪を着せようとしてんじゃないの?」
「うん、僕もそっちの可能性で考えた方がしっくり来るかな」
根焼くんと佐島くんも口々に言う。
とりあえず今はっきりさせないといけないのは、野々熊さんを殺害したのは月詠くんなのか、他の誰かなのか、ということだ。
そういえば、切ヶ谷さんが見つけてくれた証拠があったはずだ。もしかすると、あれが役に立つかもしれない…!
「…実は、会議室の床に血痕が着いてるを見つけたんだ」
「け、血痕?誰のですか…?」
荒川さんが血と聞いただけで、明らかに怯えた顔をする。
「それが、血の量が少なくてどちらのものかはわからないんだよ」
「…それなら、僕達が持っている証拠で解決するかもしれないな!」
スティーヴンくんがそう言い、取り出したのは──
赤黒い血で汚れた、1枚のタオルだった。
「スティーヴンくん、それ、どこで見つけたの…!?」
「捜査中にメアリーが一応ゴミ箱の中身も調べた方がいいと言っていたからな、2階のゴミ箱を調べてみたら…ビンゴ!このタオルが捨てられていたんだ」
「メアリーさんはいつでもすごいなあ!」
切ヶ谷さんは目を輝かせて感心している。
「うんうん、メアリーもありがとう、とお礼を言っているぞ!」
スティーヴンくんは褒められて気分が良くなったみたいだ。
「このタオルと、床にちょっとだけ着いてた血痕があるってことは…誰かが床に着いた血痕を拭き取ったってことじゃないかしら?」
「その意見に賛成だよ!」
揚羽くんの意見に僕は同意した。
「犯人は、床に付着した血痕をタオルで拭き取ったあと、証拠隠滅のためにゴミ箱に捨てたんだ。でも、わずかに拭き残しがあった…」
「明らかに血が出てたのは、月詠さんでしたよ!くぐはらはちゃんと見てました!」
芥原さんが再び手を挙げてそう言う。別に発言は挙手制じゃないんだけど…なんだか微笑ましい。
「つまり、床に着いていた血は、月詠くんのものだったんだよ。…月詠くんは、会議室の床に頭を強く打って出血した、と考えられるんだ」
「…そして月詠くんがクロなら、偽装のために怪我をして流した血を、わざわざタオルで拭いてゴミ箱に捨てに行ったりなんてするかな?」
「そんな手間なこと、僕だったらしないな。捨てに行く途中で誰かに見つかるリスクもあるしね」
佐島くんは首を横に振る。僕は確信を持った。
「つまり、月詠くんはほぼ確実に、クロではないってことだよ…!」
「澄輝くんがクロじゃないのはわかったけど、それでどうするの〜?」
妄崎さんはへらへらとしながら聞いてくる。一応彼女も容疑者の1人なんだけどな…。
その時、再び佐島くんがつぶやいた。
「…もしそうならクロは、今までの発言の中で月詠くんを犯人に仕立てあげようとしてたんじゃないのかな?」
「!」
そうだ、今までのどちらがクロかわからない状況の中では、犯人は自分が疑われないよう、月詠くんをクロだとみんなが誤認するように誘導するはずなんだ…!
そして、今までの議論で月詠くんを初めから一貫して犯人だと主張していた人物は1人しかいない。それは──
「陰崎さん…君は、今までずっと月詠くんがクロだって、疑ってたよね」
「えっ……!?」
陰崎さんはびくりと肩を震わせ、明らかに動揺した様子を見せた。
「確かに…ひめか君はずっと澄輝君について言及していたな」
スティーヴンくんも苦々しい顔で頷く。
「そ、そんな…!!陰崎さんが、そんなひどいことする訳ないじゃないですか……!」
荒川さんが血相を変え、必死に否定する。
「どうなの?否定しないとこのままクロになるよ、陰崎さん」
佐島くんが陰崎さんの方を見て静かに問い詰める。
「ひめかがそんなことする訳ないじゃん…!!ひ、ひどいよっ、ひめかは真剣に推理してただけなのに…!」
彼女は今にも泣き出しそうな表情でまくし立てる。
「だいたいタオルでその、ドアの前の血痕を拭き取ったなんてまだ決まってないでしょ……!?」
「……陰崎さん」
「な、何!なんかおかしいところでもある!?」
「…僕は血痕が "ドアの前" にあったなんて、一言も言ってないよ」
「…あ、………」
陰崎さんは、はっと口に手を当てた。
「あらら、自分から墓穴を掘っちゃったね〜」
妄崎さんは変わらずにやにやとして、陰崎さんの反応を伺っている。
「ち、違う!ええっと、ひめかは、クロじゃなくて実は第1発見者なの…!野々熊さんを見つけた後、ドアの前で月詠くんが倒れてるのを見つけて、自分がクロだって思われるのが怖くて…」
「それで床の血も見たの!でも、そのままそこにいたらクロだと思われちゃうから、怖くてすぐに逃げちゃって……」
「それはさすがに苦しい言い訳じゃないかな?」
佐島くんが陰崎さんの発言を遮る。
「普通仲間が2人も倒れてるのを見つけたら誰かに知らせに行くよね。でも君は、何もせずに逃げたんだね」
「うっ……!」
陰崎さんが言葉に詰まる。彼女の顔からは脂汗がだらだらと流れている。
「…だってッ、非力なひめかが、野々熊さんを襲えるわけがないじゃん!突然背後に回って首を絞めるなんて、野々熊さんに抵抗されたらできっこないよ……!!」
「違う、違う違う違う、ひめかは犯人じゃないッ、殺してなんかない……!!そんなアイデア、全ボツだよ!!!!」