(非)日常編1
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「………さい」
「…き………さい」
「起きてください!」
「うわあ!?!!!?!?」
目を開けると、真っ赤な双眸が僕を覗き込んでいた。顔が近すぎて目しか見えない…。
「あの…」
僕がおずおずと声を上げると、その2つの目はすっと遠ざかっていく。
瞳の持ち主は、肩ぐらいの黒髪の人だった。僕と同い年ぐらいに見えるけど、びっくりするぐらいの美人だな…。
「おはようございます。やっと目を覚ましましたね」
その人はニッコリと笑ってそう言った。てっきり女の人だとばかり思っていたけれど、声変わりしているみたいだから、男の人なんだろう…。それより今、自分がどういう状況にあるのかが全く掴めていなかった。
どうやら僕は、暗い教室の中にいるようだ。重たい頭を持ち上げて体を起こす。
「ここは……?」
「ふむ、貴方も覚えていませんか。ボクもここまで辿り着いた記憶がなくて、もしかしたら隣ですやすやと眠っている貴方が何か知っているのではないかと思って起こしてみたんです」
「そ、そうなんだ…ところで君は一体……?」
「ああ、自己紹介がまだでしたね」
男の子はそういえばと言うようにぽん、と手を打った。
「ボクは笑至贄。"超高校級の探偵助手"と巷では呼ばれています」
「えにし、にえくん……?」
「ええ。上から読んでも下から読んでも笑至贄です。好きに呼んでください。ところで、そういう貴方のことをボクは存じ上げていないのですが」
「あ、ごめん!えっと……ぼ、僕は宗形こむぎ。"超高校級の園芸部"…って呼ばれてるよ」
「宗形くんですね。こういう謎の多い時は、1番初めに出会った隣人が頼りになる、とも言いますから。不束者ですがよろしくお願いします」
「こ、こちらこそ!」
ぺこりとお辞儀をされて、慌てて返す。すごく丁寧な子だなあ…。
「さて…貴方もボクもどうやら同じ状況のようですね。自分の名前や才能は覚えているが、どうしてここにいるのかは思い出せない…」
「そうだね…とりあえず、ここがどこか分からないとちょっと怖いな……」
「それでは、教室の中のめぼしいものをまず探してみてから、他の場所にも行ってみましょうか。1人で外に出るのは危険ですから、貴方が起きてからにしようと思ったんですよ」
笑至くんはそう言うと、教室の中をぐるりと見回す。僕もその視線を追った。薄暗い視界で見てみる限り、この場所は至って普通の教室のように見える。
「うん。すごいなあ、やっぱり探偵ってこういう状況でもうろたえないんだね……」
「…ボクは探偵ではありませんよ、あくまで助手です。貴方のような方をサポートするのがボクの役目ですから」
(うーん、僕は別に探偵じゃないんだけどなあ…?)
どうやら、どこかずれている男の子みたいだ。僕たちは特に収穫もなく教室の探索を終えて、教室をあとにした。
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「ところで気になっていたんですが、その手に持っている植木鉢は何の植物ですか?」
教室を出たところで、笑至くんが僕の抱えている小さな茶色の植木鉢を見ながら尋ねた。土の中からちょこんと出てきた淡い緑の双葉が、いつ見ても愛らしい。
「この子ははなちゃん!かわいいだろう?僕が見つけた種から生えたんだけど、新種かもしれないんだ…!」
「新種…ですか」
「興味深いですね」
彼は深く頷くと、すっと目を細めた。
…今のは笑ったんだろうか?常に笑顔が張り付いてるみたいだから、よくわからないけど…
僕達がそのまま廊下を歩いていると、突然頭上のスピーカーからチャイム音が鳴り響いた。
「ピンポンパンポーン!オマエラ、全員今すぐ体育館に集合してください!始業式を行います!」
聞こえてきたのは、マイクに近づきすぎたのか、やや音割れしているアニメ声だ。オマエラって、僕たちのことなんだろうか。それともこの場所には、僕ら2人のほかにもまだ誰かいるのかな。
「始業式……?」
「…どういうことかは分かりませんが、今のままでは埒が開きません。行ってみるしかないでしょう」
笑至くんの言葉に従い、僕たちは体育館へ向かった。