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笑至くんの研究教室は前に訪れた時と変わらず、大量の書類や本に囲まれた部屋だった。パッと見たところ、特に家具の配置がこの前と違うとか、新しい物が増えてるとかいった違和感は見られない。
ここに彼が何か証拠になるものを置き遺していったかもしれない。僕達3人は部屋の中を手分けして探すことにした。
「それにしても、すごい資料の数だね!」
切ヶ谷さんは忙しなく動き回り、バサバサと床や本棚の資料をひっくり返している。彼女が探しているところは既に足の踏み場がないほど散らかっていた…。
「すごい数ですけど、これは全部笑至さんが関係した事件の資料なんでしょうか…」
「もしかしたら、この学園自体についての手がかりもあるかもしれないね」
そう言いながら、僕はデスクの探索を続ける。
試しに机の上に積み上げてあったうちの1冊のファイルを開いてみると、そこには巷を騒がせた連続猟奇殺人事件から近所の迷子猫探しまで、笑至くんが解決したと思われる事件が事細かに記されていた。本当にいろんな事件に関わってきたんだな……。
その中に、表紙に何も書かれていない、高級そうな黒革でできた小ぶりな手帳を見つけた。
「なんだろう、これ……」
中を開けてみると、どうやら笑至くん直筆のノートみたいだった。そこにはコロシアイに参加している僕達の情報や、どの部屋にどんな道具があるかなどが丁寧な字でこと細かく記されていた。
(僕の知らない間に、こんなものを…。すごいなあ、笑至くんは)
その中で目に入ったのは、根焼くんの才能に関する記述だった。様々な観点から彼の才能に対する推理が書かれている。
『知力や体力が共に高いものの、今のところ、とりたてて秀でているものはない』
わりとシビアな記述だな……。
『故にボクは、今の場では活かされない、何か特殊な才能なのかもしれないと予想する』
最終的には、そう結論づけられていた。根焼くんは自分自身でも分からないと言っていたけど、一体彼の才能はどんなものなんだろう…?
「……あ!」
僕が机を大体調べ終わったあと、荒川さんが驚いた声を上げる。
「何か見つけたの?」
切ヶ谷さんと僕が近づくと、荒川さんはおずおずと紙の切れ端のようなものを差し出した。
それは"契約書"と書かれた、コピー用紙の切れ端だった。
「契約書……?」
「契約書って何?(゜▽゜)電気とかガスのやつかな?」
「いや、一軒家じゃないんだし、さすがにそれはないと思うよ…」
契約書──一体何を、誰が契約したんだろう…。
「さっきここら辺に置いてあったので、もしかしたら、まだ切れ端があるかもしれません…!」
荒川さんの言葉に従い、僕達はコピー用紙があった周辺を探す。すると、肝心な契約の内容こそは見つけられなかったものの、契約者の名前が書かれた切れ端は見つかった。
そこに書かれていたのは、笑至贄と照翠法典。家庭科室で対峙したはずの、2人の名前だった。
紙の繋がり方からしても、どう考えてもこの契約書は2人の交わしたものとしか思えない。
「どうして、この2人が…?」
証拠で事件が解決するどころか、謎はますます深まるばかりだった……。
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笑至くんの部屋を出た僕達が真っ先に聞いたのは、モノケンの校内放送だった。
「ピンポンパンポーン!オマエラに重要なお知らせがあります、各自タブレットを開いて確認するように!」
「ま、まさか…それぞれのタブレットに死体発見の情報が、とか……」
荒川さんは既にがたがたと震え出している。
「…それはないと思うけど、とにかく、確認してみよう」
僕は自分の電子タブレットの電源をつけた。
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✆新機能〔電話〕の説明✆
・今日から3日間限定で通話機能を使用することができます。
・1人1回だけ使用できます。
・通話履歴(発信者・時間等)が残ります。電話がかかってきた方は、通話画面にある録音ボタンをオンにすることで、その通話内容を録音することもできます。
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「電話……?」
「むしろ今までついてなかったのが不思議なぐらいだね!ふんふん、気になるなあ」
切ヶ谷さんは新機能、という言葉を見て俄然興味が湧いたみたいだ。モノケンの放送は続く。
「今回は試験運用として、通話機能を今日からあさってまでだけ使えることになったよー!そこに書いてある通り、使えるのは1人1回だけだからくれぐれも無駄遣いしないように注意してねー。
あと、通話は1回3分間だけ繋がるよ!それじゃ、楽しいコロシアイ生活をお過ごしくださーい!」
通話機能。単純に考えればこの学園での生活が便利になったんだろうけど…。
「…でも、これで誰かを呼び出して、殺してしまうこともできるんじゃないですか……?」
荒川さんは不安そうに尋ねてくる。
「発信履歴が残るらしいし、すぐに犯人だとバレちゃうからたぶん殺人には使えないんじゃないかな…。試験運用らしいけど、誰かに襲われたときに助けを求める連絡ができるかもしれないし、重要な時のために残しておいた方がいいかもしれないね」
僕の説明に、2人は納得したみたいだ。
「宗形さんってなんだかとってもすごくなったね!貫禄が増したというか…」
切ヶ谷さんがそう言うと、荒川さんもこくこくと頷く。
「そっ、そうかな。そう言われると、なんだか恥ずかしいな…」
「植物で例えると双葉から大樹ぐらい成長してるよ!」
「そ、そんなに…!?」
キラキラと目を輝かせながら僕を見る切ヶ谷さんは冗談やお世辞を言ってるようには見えなかったので、褒め言葉としてありがたく受け取っておこう…。
──しっかり者の探偵に近づけてるんだったら、嬉しいな。
そのまま2人と一緒に他愛もない話をしながら、僕は寄宿舎に戻った。