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僕が寄宿舎に戻ると、自分の部屋のドアを開けた瞬間に誰かに腕を強く引っ張られ、左隣──根焼くんの部屋に連れ込まれた。
そこには男子全員が、妄崎さんの下ネタ講座以来の集結を果たしていた。
「こっこれ、何の集まりなの…!?」
驚く僕に、根焼くんはしーっと言い、そのまま耳元で囁いた。
「宗形。お前女子の裸にキョーミある?」
「………へ?」
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《3章イベント 覗け!大浴場のロマン》
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「え、えっと……は、はは、裸ってどういうこと…?」
「へー、キョーミあるんだ。ムッツリじゃん」
「いや、興味があるって訳じゃ…!」
「いーからいーから。じゃ、こっちに座って作戦会議しよ」
根焼くんに言われ腕を引っ張られるがまま、床の適当な空いているスペースに座ってしまった。
「みんな集まったところで説明始めるけど」
そう言って根焼くんは、自分のベッドにもたれかかったまま話し始める。
「噂に聞いたところだと、今日女子全員が親睦を深めるために同じ時間に風呂に入るらしいんだよねー。いつもなら他の女子が来るのを警戒しなきゃだけど、今日はその必要も無いからさぁ…」
「覗きに行こう。大浴場を」
「倒置法ですごいくだらないこと言ってるね」
佐島くんが何の感慨もなくツッコむ。
「…それで、なんであたし達全員を必要があったワケ?」
揚羽くんが呆れたように彼に尋ねる。
「いや、人数が多い方が見張り役とかできるし成功しやすいじゃん?」
「ていう訳で、分担決めようと思うんだけど、見たい人〜」
根焼くんが適当に挙手を募る。ここで手を挙げるか、挙げないか。うう、迷ってしまう…。
「待ってくれ!只今全員で協議中だ」
スティーヴンくんは頭を抱え込んでいる。他のみんなは手を挙げていないどころか、あまり関心がなさそうだ…。
「…え?いないの?」
根焼くんがさすがに動揺したような顔をする。
「おにーさんは変なことしないようにむのくんを見張ってるだけだからね…」
「あたしはそもそも女湯よ」
「そんな不埒なこと考えるのは根焼さんだけじゃないかな?」
矢継ぎ早に続く容赦のないコメントで、呆気なく否定されていく根焼くんだった。
「んー、じゃ、ボクが全部役割決めるけどいいよね?」
真っ向から批判され続けたのが心に来たのか、ついに絶対王政的な考えに至り始めたらしい。根焼くんは指名式にたどり着いた。
「覗く権利があるのはボクと、お前と、お前。あとは見張りな」
「……え?」
「僕達か!?」
根焼くんの指先は僕と、スティーヴンくんに向けられていた。
「だって、お前らが1番行きたそうな顔してたし」
「そ、そんな顔してないよ!」
「確かにジャックは行きたい行きたいと意気込んでいたがな…」
スティーヴンくんは考え込んでいる。僕も別に、まあ、行きたくない訳ではないけど……。
「後は念の為、見張りに徹してねー」
「あたしがあんたの言うこと聞く義理あるのかしら…」
「まあまあ、みんなで仲良くやろうよ。おにーさんも一緒に見張ってるから、何しでかすかわからないし…」
「僕は別に、どっちでもいいけどな」
そんなことを言いながら、男子全員がぞろぞろと大浴場に向けて移動を始めた。
大浴場に着く前に、根焼くんは入口の前に位置どって壁にそっと耳を当てた。
「な、何してるの?」
「しーっ。入浴前の会話を聞いてるの、見ればわかるでしょ」
「わ、わかんないよ……!」
とはいえ僕だけが立ったままなのもまずい気がするので、その場にしゃがみこむと本当に女子のみんなの話し声が聞こえてきた…。
「…小町ちゃん、意外と胸あるんだね〜」
「ボクは成長期だから!妄崎さんほどじゃないけど」
「ふふ、お姉さんの座は譲らないよ〜?」
「ややっ!?くぐはらもボーンキュッボーン!ですよ!」
「そんなことより早く湯船に浸かりたいっす!ここに入浴剤も置いてあるっすよ〜」
「わあっ、いろんな色があって迷っちゃいますね…!」
「もこ…この、黄色がいい……」
「いいねいいねー、裸の付き合い…」
根焼くんは大仰に頷いて立ち上がると、おもむろに寄宿舎を出た。覗き方もわからない僕達はそれについていくしかない。
「根焼くん、どこに行くの…?」
「覗き。寄宿舎の外の窓から見えるんだよ。月詠と揚羽には浴場の前で見張りしてもらってるけど」
佐島くんには入口の近くを見張ってもらうことにしたらしい。寄宿舎の外に出ると、本当に女子の大浴場の部分に小窓があった。
根焼くんはすぐさま覗き込む。
「……………」
何も言わないのが逆に怖いな…。しばらくすると無言で場所を交代するよう促された。僕はおずおずと小窓を覗き込んだ。
そこは──天国と言い表すのがいいのか、桃源郷と言うのがいいのか。
とにかく、すごい、ものすごい空間だった。
根焼くんが無言になった理由もわかる気がする。僕は場所を交代して、今度はスティーヴンくんが覗き込む。
「……………」
やっぱりみんなあの光景を見ると無言になるんだな…。
「ちょ、もう1回見せて」
何回か交代で覗き、根焼くんがそう言ったその時、彼の端末の電話が鳴った。
「チッ、邪魔が入った……」
根焼くんはタブレットを取り出すと、発信者も見ずに通話ボタンを押した。
「誰?何の用?」
「もしもし、佐島です。今からそっちに切ヶ谷さんが行くよ」
「は?」
「何回も覗くから気づかれたんでしょ、自業自得だよ。じゃ」
電話が佐島くんによって一方的に切られた数秒後、
僕達は初めて、恐ろしいほど冷たい目の、薙刀を握った切ヶ谷さんに出会った。
「モノケン、死体発見アナウンスの用意しといてね……」
根焼くんは力なくうなだれた。
その後、僕達だけでなく男子全員が巻き添えになり、女子達の蔑むような視線の中、夜通し切ヶ谷さんの特別筋トレメニューをやらされたのは言うまでもない。