超特急論破 前編   作:鳶子

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(非)日常編4

✧ ✧ ✧

 

翌朝、朝ごはんを食べた後、僕は切ヶ谷さんと廊下を歩いていた。

彼女と一緒に行動するのもだんだん当たり前のようになってきて、いつも笑顔の絶えない切ヶ谷さんの隣にいると、自然と僕まで明るい気持ちになってくる。

 

「…あ!宗形さん、ボク、今日はスティーヴンさんと体育館で戦闘訓練をするんだ!」

「戦闘訓練?」

「そう、トレーニングは続けててもやっぱり長期間実践的な訓練がないと体が鈍ってくるから、2人で実戦をやろうって話をしてたんだよ。よかったら見に来ない?」

「へえ…僕でいいならぜひ見に行くよ!」

 

2人のバトル姿はあまり想像できないけど、面白そうだ…!僕達は準備のために、彼女の研究教室へ向かった。

 

 

✧ ✧ ✧

 

 

切ヶ谷さんの研究教室は、柄の色や刃の長さの違う無数の薙刀が置かれていて、簡単なトレーニング器具なんかが置いてあり、真ん中にはちょっと動けるような広いスペースもある。まさにアスリートのお部屋、って感じですごいなあ…。

 

「薙刀って、日本刀とどう違うの?」

いろんな薙刀を手当たり次第に物色している切ヶ谷さんに聞いてみる。

「広く捉えれば日本刀の一種とみなされるんだけど、薙刀は切るんじゃなくて、相手を薙ぎ払うんだ」

「薙ぎ払う…?」

「日本刀と比べて、リーチが長いんだよ。ほら、柄の部分が長いでしょ?」

 

そう言って切ヶ谷さんが見せてくれた薙刀は確かに柄が長く、刀と言うより槍と言った方が近い感じだった。

「あとはこの刃が先反りしてるのが特徴だね。これで相手を薙ぎ払うんだよ」

「なるほど…」

切ヶ谷さんはその後も薙刀のことについてすらすらと詳しく解説してくれた。本当に薙刀が好きなんだろうな…。

 

「うん。やっぱりいつも使ってるのがしっくり来るね。よいしょー↑」

切ヶ谷さんはしばらくいろんなものを振って試したあと、その中の1本をひょいっと袋に入れた。

「よし、行こう!悪!即!斬!」

「スティーヴンくんは悪者じゃないけどね…」

切ヶ谷さんは意気揚々と体育館へと繰り出していった。

 

 

体育館に着くと、既に結構な人が集まっていた。

「スティーヴンさんが呼んでくれたんだねー」

「切ヶ谷さんの薙刀の腕前を見るの、楽しみだよ」

「ありがとう!」

切ヶ谷さんはにっこりと笑ってそのままステージの方に行こうとしたが、何かを思い出したようにぱたぱたとこっちに戻ってきた。

 

「そうだ、宗形さん!ボクにパワーをさずけて!」

「ぱ、パワー…?」

「そう!はい、手を出してー」

僕がよくわからないまま手を出すと、切ヶ谷さんは突然その手をぎゅっと握った。

「き、切ヶ谷さん…!?」

「…父上が、戦いの前にはいつもこうして手を握ってくれてたんだ」

 

「こうすることで、応援してる人のパワーをもらえるんだって」

「…がんばってね、切ヶ谷さん。応援してるよ」

僕は彼女に伝わるように小さな手をきゅっと握りしめた。

「うんっ、元気100倍!絶対勝つからね!」

そう言って切ヶ谷さんは眩しい笑顔で手を振って、ステージの方へと駆けていった。

 

──どうしてだろう、脈が早いし顔が熱い。自分の心臓の音が痛いほど聞こえてくる…。

 

心臓が暴れ出しているような気持ちを紛らわすために、僕はステージ前の人達と合流した。

 

「やあ。君も来たんだね」

ステージ前に行くと、佐島くんが声をかけてきた。

「うん。佐島くんも見に来たんだ」

「スティーヴンさんに誘われてね。掃気さんもその場にいたから誘って一緒に来たんだ」

彼の指さした方を見ると、掃気さんが床にちょこんと体育座りをしていた。

 

周りを見ると、切ヶ谷さんと話している間にほぼ全員が体育館に集まったみたいだ。ステージ前にいないのは切ヶ谷さんとスティーヴンくんと、揚羽くんだ。

「ねえ、どっちが勝つか賭けようよ」

しばらくステージの様子を伺っていると、不意に根焼くんが僕と佐島くんに声をかけてきた。

 

「賭けるって…何を?」

「そうだなぁ…じゃあ負けた方がなんか秘密をバラすってことで」

「ふうん、ちょっとおもしろそうだね」

佐島くんは乗り気になったみたいだ。僕も2人の秘密がどんなものなのか気になるな…。

「ボクはスティーヴンに賭ける。薙刀が銃にスピードで勝てるとは思えないからね」

 

「僕もスティーヴンくんかなあ…」

根焼くんと佐島くんはスティーヴンくんの勝ちに賭けるみたいだ。

「…僕は切ヶ谷さんにするよ」

「へー。なんで?」

「なんで…うーん、切ヶ谷さんの勝ちを信じたい、って言えばいいのかな…」

「すごいふわふわしてるね」

「ま、困るのは宗形だしいいでしょ」

 

「じゃ、とっておきの秘密楽しみにしてるよ」

僕にそう声をかけて根焼くんは1人離れたところにあぐらをかいた。僕も適当なところに座り、始まるのを待つ。

しばらくすると、薙刀を持った切ヶ谷さんと銃を持ったスティーヴンくん、小ぶりな紅白旗を持った揚羽くんがステージ上に姿を見せた。

 

「はーい、これから戦闘訓練を始めるわよ〜!レフェリーはあたし、揚羽凰玄が務めるワ」

そう言って揚羽くんは僕達に向かってうやうやしくお辞儀をする。上品な仕草がすごく様になってるなあ…。

「それじゃあこれから、ルール説明よ」

 

「ルールは簡単。銃に入ってるゴム弾が相手の体に当たるか、薙刀が相手の急所に刺さる位置まで突きつけられたら勝敗は決するワ。それじゃあ、両者位置について」

ステージの上にいる切ヶ谷さんは向かって左、スティーヴンくんは右に移動する。

「お手合わせ願うよ、スティーヴンくん!」

「こちらこそよろしく頼むぞ、小町君!」

 

そうにこやかに挨拶を交し、2人はお互いの武器を構えた。

スティーヴンくんは興奮した面持ちで愛用だというアメリカ製の銃を構える。

一方、切ヶ谷さんは薙刀を構えた瞬間──顔つきが変わった。

 

「…………」

その眼差しは鋭く、虎視眈々と相手の急所に狙いを定めている。

 

「それじゃあ準備はいい?」

揚羽くんが旗を握り直す。2人は無言で頷いた。

「では、切ヶ谷小町対スティーヴン・J・ハリス…」

 

そこで揚羽くんは間を持たせ、僕達観客はつられてごくりと息を飲む。

 

「戦闘、始め!」

揚羽くんが勢いよく旗を振り上げた。

 

 

【挿絵表示】

 

 

その合図の瞬間、2人が目にも止まらぬ速さで動き出す。

パン!という破裂音と共にスティーヴンくんの銃からゴム弾が放たれ、切ヶ谷さんの足元を狙う。

切ヶ谷さんは前にジャンプしてそれを華麗に避け、銃を落とそうとスティーヴンくんの手元を狙ったが、彼はマントをひらりと返してそれをかわす。

 

そのまま2発目のゴム弾が放たれ、薙刀を伸ばして不安定な体勢になっていた切ヶ谷さんはすんでのところでそれをかわす。

「くっ…!」

「どうした小町君、焦っているのか?」

苦しそうな切ヶ谷さんに対して、スティーヴンくんはまだまだ余裕がありそうだ。

 

「…切ヶ谷さんっ、がんばれ!!!」

 

僕は自分でも気づかないうちに立ち上がって、出せる限りの大声で叫んでいた。切ヶ谷さんがはっとしたように僕の方を見る。

 

そして、強く頷いた。

 

そこから、切ヶ谷さんの猛攻が始まった。さっきとは正反対に、今度はスティーヴンくんが追い詰められていく。

 

「2人ともがんばってください……!」

「負けるなよ、スティーヴン!」

「そこ!急所を狙うっすよ!」

周りの声援も大きくなっていき、体育館のボルテージは最高潮になる。

 

「…ッ!」

切ヶ谷さんの鋭い攻めに耐えかね、スティーヴンくんが体勢を立て直そうとしたその瞬間──

「やっ!!!」

気合を入れた掛け声とともに、切ヶ谷さんの刃先がスティーヴンくんの喉元に突きつけられ、

「勝負あり!」

揚羽くんが大きく頷き、白い旗を上げた。

 

彼女は一礼して、無言のまま静かに薙刀を置き…僕の方へ一目散に駆け出してきた。

「宗形さん!!やった、ボク勝ったよ!!!」

その勢いのまま僕は切ヶ谷さんに抱きつかれる。

「き、切ヶ谷さん、ちょっと…!」

 

「もう負けそうだって諦めかけた時、宗形さんの声が聞こえて、気合いが入ったんだ!宗形さんのお陰で勝てたよ、ありがとう!」

「そんな…切ヶ谷さんがすごかったからだよ、僕は思わず声を出しちゃっただけで……」

「それでも嬉しい!近くに応援してくれる人がいるって、こんなに心強いんだね…!」

切ヶ谷さんは目を輝かせてそう言った。

 

「少しでも役に立てたならよかったよ」

「キミがいれば百人力だね!」

切ヶ谷さんはバシバシと僕の肩を叩くと、スティーヴンくんの元へ走っていった。

にこやかに握手を交わす2人。見てるこっちも興奮するような、正々堂々とした試合だった。観客の僕達は、そんな2人に自然と拍手を送っていた。

 

「いやあ、ブラボー!エクストリームな試合だったねー!」

聞き覚えのある声に振り向くと、ステージ上にはいつの間にかモノケンが立っていた。途端、体育館の空気がぴりっとする。

「やだなあ、そんなに怖い顔しないでよー!学園長のボクから素晴らしい試合のご褒美として、勝者にプレゼントをあげようと思ってね!」

 

「プレゼント…?」

「そう!勝者の切ヶ谷サンにはボクからこれをプレゼントしまーす!」

そう言ってモノケンは、切ヶ谷さんに1冊の本を手渡した。

「え?なにこれ?(゜▽゜)」

「表紙にはなんて書いてあるんだ?」

スティーヴンくんが渡された本を覗き込む。

 

「…黄泉がえりの、書?」

 

ラッパを持った天使の絵が描かれた表紙には、おどろおどろしい文字でそう書かれていた。

 

「スペシャルアイテム、『黄泉(よみ)がえりの書』だよ。これを生徒にあげちゃうなんて、やっぱりボクは学園長としての器が大きいなあー!」

「…これって何をするものなの?」

僕も近くに行ってモノケンに聞いてみる。

「本の中にも書いてあるんだけど、簡単に説明すると…」

 

「…死者を1人だけ、甦らせることができる本だよ」

 

「ええーーーーっ!?!?」

切ヶ谷さんが無駄に大きいリアクションでのけ反る。

「死者を、甦らせるって…」

「今まで死んだ奴らが生き返るってコト?」

「そうだよー!この本の手順に沿えば、オマエラの選んだ好きな人間を1人だけ、生き返らせることができるんだ!」

 

「いや、そんなことできるはずがないよ…!1回死んだ人が生き返るなんて…」

僕は否定する。どう考えてもありえない話だ。それに、いくらご褒美だからって何の代償もなしに突然こんなものを渡されるなんて、なんだか嫌な予感がする…。

 

「ま、信じるも信じないもオマエラ次第だよ。好きに使ってねー」

モノケンはそう言って口笛を吹きながら体育館を去っていった。

この本が、今後の僕達にどんな結末をもたらすのか。まだ僕には予想もつかない。

 

 

ちなみにその後に2人が教えてくれた秘密というのは、佐島くんは小学校の時にUFOを見たことがあるというなんとも嘘っぽい秘密で、根焼くんのは覚えておくのにも値しないものだったので省略しておく。

 

 

✧ ✧ ✧

 

 

戦闘訓練も終わり、夕食を食べ終わった僕は切ヶ谷さんと一緒に寄宿舎に戻った。

「本当に今日の切ヶ谷さんはかっこよかったよ」

「えへへっ、宗形さんのパワーがあったからね!」

そんな会話をしながら僕達は自分の部屋に入った。

 

ドアを閉じた僕は、1つため息をついた。

 

(…やっぱり)

切ヶ谷さんと話しているとドキドキするし、ふわふわした気持ちになってくる。彼女の笑顔を見ただけで胸がきゅっとなる。

──この気持ちの正体は、もう分かっていた。今まで自分で気づいていないフリをしていただけだ。

 

(僕は、切ヶ谷さんに恋してるんだ…)

 

天真爛漫で、太陽のように眩しい彼女。僕はその姿にはっきりと惹かれていたんだ。

もっと一緒にいたい。彼女といろんなことをしたい。認めた瞬間、そんな想いが次から次へと溢れ出てくる。

 

僕はベッドに飛び込むようにして転がった。ばふっと布団が沈みこんで音を立てる。枕元には手塩にかけて育てているはなちゃんがいる。

「どうしよう、はなちゃん……」

そのまま何をする気にもなれず、僕はしばらく無気力にベッドにごろんと寝転がり、いつの間にかそのまま眠ってしまった。

 

いつもより、やけに暑い夜だった。

 

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