超特急論破 前編   作:鳶子

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非日常編1

死体発見アナウンスを聞いた他のみんなが集まり、3回目の捜査が始まる。

「……」

何かしなきゃと頭の中では思うのに、体が動かない。ただひたすらに無力感と脱力感に襲われている。

 

片原さんに、切ヶ谷さん。どうして一気にこんなことに……。

 

「…何やってるの!」

僕が切ヶ谷さんの遺体の前に立ちすくんでいると、いつの間にか隣にやって来ていた揚羽くんが険しい顔でぺちんと僕の頬を叩いた。

「あ痛っ…!?」

「あんたが捜査しなきゃ…小町もあの子も、報われないワ」

「…!」

 

そうだ。何ぼうっとしてるんだ。

僕達が犯人を見つけ出さないと、2人は浮かばれないままな上に、クロを除いた他のみんなも処刑されることになってしまう。こんなところで止まっている訳にはいかない…!

「ありがとう、揚羽くん」

「…いい顔つきになったじゃない。あたしも手伝うから捜査を始めましょ」

 

 

 

(まずは、タブレットを確認しないと…)

僕はタブレットの遺体情報を見ようと、急いで電源ボタンを押した。

「……あれ?」

画面は暗いまま、全く動く気配がない。

「おかしいな、故障かな…揚羽くん、タブレット見せてもらっていい?」

「イイわよ。…あら?」

揚羽くんのタブレットも同じように電源がつかない。

 

僕達が首を傾げていると、その時を待ち構えていたかのようにモノケンが現れた。

「申し訳ないけど、今回の捜査でタブレットは使えないんだー」

「え…?」

「さっきの停電の影響でタブレットの回線がダウンしちゃってさ、情報が配信できなくなったんだよねー」

「そ、そんな!」

あれがなければ、死因も死亡時刻も確認できないじゃないか…!

 

「だから、今回は現場の調査だけで頑張ってクロを突き止めてね!それじゃ!」

「え、ちょっと!」

モノケンはそう言い放つと一目散に逃げ出していった。追いかけてもとても捕まえられそうにないスピードだ。

「タブレットにあったはずの情報すら、教える気がないってことね…しょうがないワ、早く調べ始めましょ」

「そうだね…」

 

今の僕たちには前に進むしか選択肢がない。捜査を始めよう…。

 

 

✧ ✧ ✧

 

 

切ヶ谷さんの遺体。血だまりの中に倒れている彼女を見るだけで胸が苦しくなる…。

「出血は背中からと胸、かな」

「そうね」

切ヶ谷さんの胸の辺りに置かれていた腕をどけると、そこには刺し傷があった。凶器は一体なんだったんだろう…。

 

「凶器なんて、この部屋にはいくらでもあるワ」

揚羽くんが辺りを見回してそう言う。部屋中に薙刀が置かれているここは、確かに殺人には絶好の場所だろう…凶器に付いた血は拭き取ってしまえばバレることはない。

「そういえば、揚羽くんはどうして切ヶ谷さんがここにいるってわかったの?」

そう尋ねると、揚羽くんは苦々しい顔をした。

 

「あんたは管理棟の方から来たからわからないでしょうけど、ここの階段に血痕がいくつもついてるのよ。そしてそれはこの部屋に繋がってた…」

一旦教室を出て廊下を見てみると、ぱたぱたと血の垂れた跡があった。

「あたしは軍人だから、一応夜目が利くような訓練はしてあるのよ」

 

「だから、停電の中でこの血痕を見つけて、ここまで来たら……」

そこまで言って、揚羽くんは一つ大きなため息をついた。

「…あたしが見た時には、もう手遅れだったわ」

「……」

僕達は部屋の中に戻り、もう一度死体を検分する。

「この背中の傷は、何でできたんだろう」

 

「これは…傷跡からして、矢じゃないかしら」

「矢?でも、この学園にそんなものあるのかな?」

「…あたしの研究教室に毒矢があるのよ。誰かが盗んだみたいね…」

2人で揚羽くんの2階の研究教室に行くと、いくつも矢が置いてあった場所にぽっかりと空間ができていた。

「一応言っておくけど、矢が使えたのはあたしだけじゃないわよ?ドアは開いてたから、誰でも盗めるワ」

 

揚羽くんは僕と一緒に体育館を探していたから、あの時毒矢を使って切ヶ谷さんを襲うことはできない。

ということはやはり、誰かが揚羽くんの研究教室に入り、毒矢を盗んだんだろう…。

「じゃあ、毒矢がどこかに置いてあるかもしれないね」

探すついでに1階に降り、彼の言っていた血痕を見てみることにした。

 

確かに階段の付近から、朝にはなかったまだ乾いていない血の痕が上まで続いている。

「きっと小町はここで毒矢に当たって、その後研究教室まで逃げて薙刀で殺されたのよ」

「背中の傷は浅かったから、あの1発では仕留められなかったってことかな…」

2人で話し合っていると、隣の空き教室の景色がふと目に入った。

 

「揚羽くん、あれって…」

「あら!」

教室の机の上に、矢のセット一式が置かれていた。中には──血のついた矢もある。

「…間違いないわね」

犯人は、これで切ヶ谷さんの背中を射ったんだ…。

 

「…切ヶ谷さんについて調べられるのは、この辺りかな」

「じゃあ、次は美術室に向かいましょ」

僕達は美術室に向かいつつ、経路の確認をする。

「管理棟に行けるのは、本校舎の2階からだね」

「そうね。1階には食堂があるから階段を登るしかないワ」

 

犯人がもし同一犯でも、時間と人目さえあれば、どちらを先に殺したとしても犯行は十分可能だろう。

そんなことを考えながら、僕らは美術室に到着した。

 

 

 

美術室には、第一発見者の荒川さんと妄崎さんがいた。他にもぱらぱらと人が集まっている。さっき切ヶ谷さんの研究教室にいた人たちと合わせれば、全員がちゃんと揃っている。

片原さんの遺体は、改めて見るとその凄惨さが伝わってくる。

 

彼女の小さな体からたくさんの血液が溢れ出ている様子はとてもじっと眺めていられるようなものではない。僕はたまらず目を逸らし、遺体の周辺の捜査から始めた。

 

凶器はすぐに見つかった。

切ヶ谷さんが探していたあの薙刀が、べっとりと血のついた状態で少し離れたところに放り出されていたのだ。

 

「小町の薙刀をこんなことに使うなんて…」

揚羽くんは唇をぎゅっと噛み締めた。

「やっぱりそれが凶器だよね〜」

妄崎さんは机にひょいと腰掛けながら僕達に話しかけてくる。

「私たちが第一発見者だよ。と言っても先に見つけたのは幸ちゃんだけど」

「は、はい……私が見つけました……」

 

荒川さんがこくりと頷く。

「寄宿舎を探し終えたので、妄崎さんと相談して時間があるから管理棟の方も行ってみることになって…なんとなく、嫌な予感がしたんです。そしたら……」

荒川さんはその時のことを思い出したのか、顔が青ざめてきて、目には涙を浮かべている。

「…あんたも大変だったワね」

揚羽くんが荒川さんの背中をトントンと叩いて慰めた。

 

「それで、お姉さんが桃ちゃんが生きてるかを確認してる間に幸ちゃんには他の生きてそうな人に電話をかけてもらったんだ。3人じゃないと死体発見アナウンスは鳴らないからね〜」

「なるほど…」

それであの時の電話に繋がる訳か。そして通話中に停電が起こった…。

僕はそうっと片原さんの近くに行き、傷を確認する。

 

胸とお腹の中間あたりに刃物で刺された傷があった。片原さんの表情には、驚きと苦悶が混ざっている。彼女が刺されてしまったのはきっと突然のことだったんだろう。

 

そういえば、切ヶ谷さんの遺体の表情は彼女とは違ったような…?この違和感は何かに繋がるかもしれないな…。

 

「…刃が横向きに刺さってる」

揚羽くんが片原さんの遺体を見て静かに呟いた。

「横向き?」

「肋骨の間に滑り込むようにして刺してる。普通、刃物に慣れていない人間が焦って相手を刺すとしたら、刃は縦向きになるの。そうじゃないってことは、明確な殺意があったってことよ…つまりこれは突発的な犯行じゃないワ」

「誰かが、あらかじめ計画してたってこと…?」

「その可能性が高いわね」

 

「そんな……」

でも確かに、1人で美術室に来る用事なんてそうないだろう。誰かが片原さんを呼び出していたんだろうか…。

美術室の奥の方や机の中なんかも一応調べてみたけど、他には特に何も見つからなかった。

「調べられるところはこのぐらいかしら」

「うん。そうだね」

 

「やっぱりタブレットの情報がないと分からないことが多いな…」

「少なくともこの中に犯人がいるのは確実なんだから、探せばそのうち見つかるよ。大丈夫大丈夫」

妄崎さんは相変わらずお気楽な様子でひらひらと手を振る。

「辛い事実ではあるけど、確かにそうだよね…」

悲観的になりすぎると、大事な真実も見えてこなくなってしまう。気持ちを切り替えよう。

 

「ピンポンパンポーン!捜査終了です、全員裁判場前まで移動してくださーい!」

モノケンの陽気な声の放送が入った。いよいよ裁判が始まる…。

僕達は静かに別館へと移動した。モノケンがボタンを押すと、巨大なエレベーターが現れる。

 

「………」

エレベーターの中は、どんよりとした沈黙が支配していた。だんだんここに乗っている人数が少なくなっているのが、身に染みてわかる。

僕の隣に立って励ましてくれた笑至くんも、切ヶ谷さんももういない。そう考えると目元が熱くなってくる。

…だめだ。泣くのはまだ早い。

 

切ヶ谷さんと片原さんを殺した犯人を見つけるまで、涙は我慢だ。

こんな僕のことを、応援して信頼してくれたあの人たちのためにも、絶対に犯人を突き止めてみせる…!

 

僕はぐっと足に力を入れて、エレベーターが辿り着く先を待った。

 

鉄の扉が重たい音を立ててゆっくりと開く。

僕はぎゅっと目をつぶって気持ちを引き締めた。そして、目を開ける。

眼前に広がる壮大な裁判場の景色に少し見慣れてきている自分を感じて、肩がぐっと強ばる。

もうこんな悲劇は生み出してはいけないんだ。そのために僕は今回の事件を解決に導いてみせる…!

 

こうして僕の、3回目の裁判が幕を開けた。

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