超特急論破 前編   作:鳶子

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非日常編2

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「それじゃあ、改めてルール確認だよ。今回の裁判では、片原サンと切ヶ谷サンを殺害したクロを見つけてね。議論の後、投票でクロを決めて、合ってたらクロ1人がおしおき、間違えたらクロ以外の全員がおしおきで、クロは晴れて卒業だよ!」

 

「それでは、議論スタート!」

 

意外なことに、最初に口を開いたのは佐島くんだった。

「モノケン、最初に聞いておきたいんだけど」

「ん?何かなー?」

「君は今クロ1人がおしおきされるって言ったよね。じゃあ切ヶ谷さんと片原さんを殺したクロが別々の場合は、どっちがおしおきされるの?」

「おや、そこに気づかれてしまいましたか!鋭いねー佐島クンは!」

モノケンがケラケラと楽しそうに笑う。

 

「その場合は、先に殺した方がおしおきだよー。後に殺した方はお咎めはありません!」

「へえ。そうなんだ」

佐島くんは聞いておきながらさして興味もなさそうに頷いた。

 

「へー、先に殺した方は損だね、かわいそーに」

根焼くんがからかうように言う。

「でも同じタイミングで2人も殺すなんて偶然、あるかなあ…」

月詠くんは物憂げな表情で、口元に手を当てて考え込んでいる。

「そのルールを知らなかったら、2人目を殺した人は処刑されると思うだろうからね…」

僕は彼の意見に同意した。

 

「先に殺されたのがどっちかわからないんだから、今は考えたところでどうしようもないワ」

揚羽くんがげんなりとした顔で言う。

「とりあえず片方の事件だけを考えてみるのはどうだ、とメアリーが言っているぞ」

「そうだね。そうしようか」

スティーヴンくんの案に乗り、片原さんと切ヶ谷さんの内のどちらかの事件を考えることにした。

 

「死体発見アナウンスが鳴った順で、片原さんから考えていこうか」

みんなが頷くのを確認して、僕は話し始めた。

「片原さんは今のところ、誰かに呼び出されて殺された確率が高いんだ。だから、とりあえず停電前のみんなのアリバイを教えて欲しいな」

 

「まず、僕と揚羽くんと切ヶ谷さんは、なくなった薙刀を体育館で探してたよ」

「そう、途中で小町がトイレに行った時に停電になったワ…」

揚羽くんが僕に続けて説明する。

「時計回りで次はくぐはらです!」

芥原さんが手を挙げる。

「くぐはらは、管理棟の2階のパトロールをしていました!」

 

「くぐはらはパトロール中に、マントを持ったスティーヴンさんに会ったですよ!」

「ああ。僕達も芥生君に会ったぞ」

「スティーヴンくんはそこで何をしてたの?」

「昨日の戦闘訓練でマントが少々汚れてしまってな。ジョンが汚れは男の恥だぜと言うから、家庭科室に行って洗濯しようと思ったんだ。ああ、洗濯中は僕達は1人で家庭科室にいたぞ」

「わかった、ありがとう」

 

「次は僕だね」

佐島くんが小さく頷いて話し始める。

「僕は掃気さんと一緒に、切ヶ谷さんの薙刀探しを手伝っていたよ。僕達は別館にいたんだ。芥原さんとそこで会ったんだけど、あれはパトロールの後だったのかな?」

「そうです!くぐはらは2階のパトロールの後、すぐに別館のくぐはらの研究教室に行きました!」

「別館で芥原さんと会った直後に、停電が起こったんだ」

 

「次はまた僕達だな」

スティーヴンくんが1つ咳払いをする。

「朝イチにマントの洗濯が終わったあと、僕達はそれを干すために一旦寄宿舎に戻ったんだ」

「わ、私と妄崎さんがスティーヴンさんに寄宿舎で会いました…!」

「Sure.二人の姿もしっかりと見たぞ。その後は天気が良かったから、うっかり寄宿舎で眠ってしまっていたんだ…」

 

その話を聞いて、ん〜、と妄崎さんが首を傾げた。

「お姉さん達が小町ちゃんの部屋を調べてる時にドアが開く音がしたんだけど、あれはスティーヴンくんじゃないの〜?」

「む、それは違うな。僕達はぐっすり眠っていたぞ。そんな音は聞いていないし、君の聞き間違いじゃないのか?」

「そっかそっか〜」

妄崎さんは引き下がる様子もなくあっさりと頷いたけど、寄宿舎にいた時のスティーヴンくんのアリバイは少し怪しいな…。

 

「そのまま話すけど、私は寄宿舎で幸ちゃんと一緒に薙刀を探してたよ〜。探し終わった後、管理棟に行ってみたら幸ちゃんが死体を発見した訳だけど」

「は、はい。それで合ってます…!」

荒川さんもこくこくと頷く。

 

「じゃあ荒川さんのアリバイは大丈夫ってことで、月詠くん」

「おにーさんはむのくんと娯楽室で一緒にゲームをしてたよ。途中でゲームの光と大きい音で気分が悪くなっちゃって、停電の10分ぐらい前に自分の研究教室に戻って、そこで休んでいたんだ」

 

「でも、おにーさんの研究教室からももちゃんのいた美術室までは結構距離があるし、犯行は難しいんじゃないかなって思うよ…」

「ボクはさっき月詠が言った通りゲーセ…娯楽室にいたよ」

根焼くんが後を追うように話し出す。

「月詠がいなくなったあともボクはゲームしてて、そのまま停電になったな」

 

「…もこは……おにいちゃんと、なぎなた…さがしてた……」

「うん。これで全員確認し終わったね」

ほとんどの人が2人か3人で行動していたから、アリバイがない人が少ないな…。停電直前のアリバイがないのは、スティーヴンくん、月詠くん、根焼くんと…トイレに行っていた切ヶ谷さんだ。

 

 

 

「この中に、アリバイのない人が美術室に行ったのを見てる人はいないよね…?」

全員が首を横に振る。今の状況では、誰が片原さんと待ち合わせをしていたのかもわからないな…。

議論が膠着した状態の中、佐島くんが声を上げた。

「そもそも、これって切ヶ谷さんの薙刀を盗まないと殺害できない訳でしょ?」

 

「…そうだね。まずは切ヶ谷さんの薙刀を盗んだ上で、その薙刀を持って美術室まで行かなきゃいけないんだ」

「薙刀を盗めそうな人って実は限られてるよね。それを誰にもバレないように持っていかなきゃなんだからさ」

佐島くんは更に続ける。根焼くんがそれを聞いて小さく笑った。

 

「薙刀を堂々と持ち歩けるのなんて、本人ぐらいしかいないよねー。盗まれたフリしてたんじゃないの?」

彼は揶揄するように言った。

「…あんた、小町がそんなことすると思ってるワケ?」

揚羽くんが一段と低い声で彼を威圧する。

 

「ははっ、どうかなー?」

根焼くんはにやにやと笑っている。揚羽くんはバカバカしいとでも言うように呆れた表情をした。

僕も切ヶ谷さんが薙刀を盗まれた演技をして片原さんを殺すなんて、とてもするとは思えない。

じゃあ、他に薙刀を盗める人はいないのか?

 

「……」

考えろ。考えろ。薙刀を誰にもバレずに盗む方法を…。

 

 

 

「…そうか!」

僕は1つの答えにたどり着いた。

 

「…薙刀を、誰の目にも触れずに持って行けばいいんだ」

「ど、どういうことですか?」

荒川さんが控えめに尋ねてくる。

「薙刀を、何かで覆えばいいんだよ。誰かに見つかってもそれが刀だとわからないように……」

 

「覆うって…例えば、長い布とかで、ってこと?それって…」

揚羽くんは何かに気づいたようにそこで言葉を止めた。

「さすがに多少は不格好にはなると思うけど…普通に薙刀を持っているよりは怪しく見えないと思うんだ。肩にもたれかけるようにして担いで布で覆えばね」

 

薙刀を覆えるような、大きくて長い布。それを不自然に見せないように今日持っていたのは一人しかいない。

それは──

 

 

「スティーヴンくん。君なら、薙刀をそのマントで覆って運ぶことができるよね…?」

「なっ…!僕達を疑っているのか!?」

「あっ!」

芥原さんが突然何かを思い出したように声を上げる。

「くぐはらがスティーヴンさんと会った時、マントを肩にひっかけてました!」

 

「……ッ!」

「スティーヴンくんはその後家庭科室で洗濯が終わるのを1人で待ってたって言っていたよね?その間に下の階に行って、先に美術室で待たせていた片原さんに会うことは十分可能なはずだ…!」

「…君は、僕達が、そんなことを本気ですると思ってるのか…?」

スティーヴンくんのその言葉を聞いて、胸がぎゅっと苦しくなる。でも、僕がここで引き下がったら真実には辿り着けない!

 

「していないなら納得できる証拠を見せてよ、スティーヴンくん!僕だって本当は君がそんなことするはずないと思う、だから君を、信じたいんだ…!」

「………」

スティーヴンくんは表情を歪めて、そのまま俯いた。

「…僕達は………」

 

 

「……ぼくたち、は…」

 

「…まだ反論の余地はあるはずよ、スティーヴン」

「まずいよ、ここままだとやられちゃう!」

「どうしてもっとうまくやらないんだ、この若造が!」

 

スティーヴンくんはそのまま顔を上げずに…小声でぶつぶつと呟き始めた。

その口調や表情、声のトーンはまるで別人がしゃべっているかのようにころころと変わる。

 

 

 

「まずは落ち着くんだ、スティーヴン」

「Oops!痛いところを突かれちゃってるヨ!どうするノ?」

「ねえねえ、ジャックの意見も聞いてよ〜!」

「僕も!」

「私も!」

「スティーヴン!」

 

「「「スティーヴン!!!」」」

 

 

 

 

 

「………るさい、」

 

「……うるさいうるさいうるさいうるさいうるさいッ!!!!!」

 

 

「これ以上"俺"に指図するなぁッッ!!!!!!!!!!」

 

──裁判場は、水を打ったように静まり返った。

 

 

 

 

 

「……くく」

 

「……ははは、」

 

「HAHAHAHAHAHAHAHAHAHA!!!!!!」

 

「さっきから見てりゃあ…アンタら酷いヤツらだなァ?よってたかってスティーヴィーをいじめて」

 

 

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「あのバカをボコボコにしていいのはオレだけなんだよ…わかるかァ?」

 

いつもの頼もしいスティーヴンくんとは別人のような、歪められた笑み。

 

「き、君は………誰…?」

 

僕のその言葉を聞いて、"彼"は歪んだ笑みをニィッと深めた。

「HAHA!スティーヴィーだと思った?ざ〜んねん!ジョンくんでした〜!!」

 

裁判場は一転、混沌に包まれた。

「スティーヴンさんをどこにやったですか!」

「ひいっ……!」

「もしかして、多重人格…?」

「…スティーヴンくん……戻ってきてよ……」

 

"彼"は大袈裟に天を仰いで嘆く。

「Oh My God!!アンタらが追い詰めたせいだろ?あのポンコツは奥に引っ込んじまったよ、ああ見えてもナイーヴな性格でね」

演技がかった仕草が終わると同時に、僕の方に赤と青の瞳が向けられた。

 

「だから、これからはオレが変わってお相手するよ…素晴らしい裁判(ゲーム)にしようぜ、コムギ?」

 

 

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