超特急論破 前編   作:鳶子

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非日常編4

✧ ✧ ✧

 

 

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▹▸「君に僕達を倒せるか?」

 

 

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▹▸「確かに俺は桃君を殺した」

 

▹▸「オレは、和服の嬢ちゃんを毒矢で襲った」

 

▹▸「君達に2人の死亡時刻は分からない」

 

▹▸「つまりアンタらは、どっちがクロか断定できない…!」

 

▹▸「「「"僕達"に納得できる証拠を見せてみろ!!!」」」

 

◎ 電話

△ の

□ から

✕ 切ヶ谷

 

【切ヶ谷からの電話】

 

BREAK!!!

 

 

 

✧ ✧ ✧

 

「死亡時刻の前後は、わかるんだ」

「…どうしてだ?」

「切ヶ谷さんが、停電前に僕達にかけていた電話…あの時彼女はまだ生きていた。つまり、君は片原さんを殺した後に切ヶ谷さんを毒矢で襲い、その後揚羽くんが切ヶ谷さんを殺害したんだ」

 

「つまり、先に殺したのはスティーヴンくん、君だよ……!!!」

「………ッ」

スティーヴンくんは、がくりと膝をついた。

 

「はいはーい!議論終了だよ!」

それと時を同じくして、モノケンが裁判の終わりを告げた。

 

 

「ここから投票に移りまーす!一人一人クロだと思う人に投票してね!あ、ちなみに投票を放棄した場合は死ぬからね」

モノケンがペラペラと喋り出す。

「それでは、投票スタート!」

 

投票先を選んでください

 

▷揚羽鳳玄

▷荒川幸

▷陰崎ひめか

▷笑至贄

▷片原桃

▷切ヶ谷小町

▷芥原芥生

▷佐島俊雄

▶スティーヴン・J・ハリス

▷掃気喪恋

▷月詠澄輝

▷照翠法典

▷根焼夢乃

▷野々熊ひろ

▷宗形こむぎ

▷妄崎しなぐ

 

僕は、スティーヴンくんに票を入れた。

 

「それじゃ、投票結果を発表するよー!」

 

 

 

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「さてさて、投票多数によってクロに選ばれたのはスティーヴンクンでしたー!さあ、ワクワクドキドキの結果発表だよー!」

 

「今回、片原サンを殺害したクロは…」

上からモニターが現れ、みんなのドット絵がくるくると回り、

 

スティーヴンくんのところで止まった。

 

「"超高校級の外交官"スティーヴン・J・ハリスくんでしたー!おめでとうございまーす!」

 

モノケンの威勢のいい声と共に、天井からカラフルな無数の紙吹雪が舞い降りてきた。

 

 

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✧ ✧ ✧

 

「………」

「………………」

誰も言葉を発することができない。

 

「スティーヴンくん…君はどうして2人を殺そうとしたの…?」

僕はその沈黙を破って、彼に尋ねた。彼は静かに顔を上げる。

「…情けない話だが、聞いてもらえるだろうか?」

「うん」

「コロシアイ生活の中で、僕は人格たちからずっとこんな話を聞いていた。

『次に殺されるのはお前かもしれない』『早くここから脱出しろ』

…と」

 

「僕達…いや、俺は愚かにもその助言に従ってしまったんだ。祖国を守るのは俺の役目だと、信じ込んで…外に出るために、小町君に罪をなすりつけようと薙刀を盗み、『親友の君にだけ話したいことがある』と桃君を呼び出して…殺した」

 

「その後、人格達の騒ぐ声で俺は意識を失った。次に意識を取り戻した時、小町君が死んでいた…。ジョンはオレに従えば全てうまくいくと言った。だから俺はあの裁判の時、逃げ出してジョンにすがってしまった……」

 

「──全ては、弱い俺のせいだ」

スティーヴンくんは、そこで話を一旦切った。

「…凰玄君」

「……何かしら」

2人が初めて真正面から向かい合う。スティーヴンくんは一瞬逡巡の表情を見せた後、困ったように眉根を下げて笑った。

「ありがとう。小町君を苦しめずに眠らせてくれて」

「…………」

揚羽くんは顔を歪ませる。そして、ぽろりと言葉を零した。

 

「……あたしは、あんたに感謝される権利はない」

「……」

「あたしは何がどうであれ小町を殺したのよ。本来ならあたしも罰されるべき存在…そうでしょ?」

「…ああ、すまない」

 

2人の会話は消化不良のまま、そこで終わった。

 

 

「宗形くん。君にもお礼を言いたい」

「スティーヴンくん……」

きっと見るに堪えない顔をしている僕を見つめて、そんな顔をするなとでも言いたげに、彼は少し口角を上げた。

「君は真実を暴くことを最後まで諦めないでいてくれた。それを見ていたお陰で、俺もジョンに助けを求めず、初めて自分の力だけで足掻いてみようと思えたんだ」

彼は再び視線を床に落として、小さく呟く。

 

「君は…こんな情けない俺のことも、ずっと信じてくれていたな」

「信じてたよ…だって、スティーヴンくんは仲間だろう!?」

「……っ」

スティーヴンくんはそこで初めて堪えきれずに、ぼろぼろと大粒の涙を零した。

「スティーヴンくんは僕達と一緒に、辛いことも、悲しいことも乗り越えてきたじゃないか!」

 

「ああ…君と手を取り合って戦う未来も確かにあったはずなのに。俺が、それを壊してしまったんだな」

スティーヴンくんは固く握った自分の拳を見つめる。

「俺はどうして、君たちを信じ抜くことができなかったんだろう……」

「………」

 

スティーヴンくんはスーツの袖で、目をぐいっと擦った。

「俺には、もうここにいる資格はない。だが…僕達からの最後の言葉ぐらい、受け取ってくれないか?」

「……うん」

この場にいる全員が強く頷き返す。

 

「僕達の祖国の話をしよう。アメリカという国家は、多種多様な人々が手を取り合って暮らしている。

光清学園──ここも、小さな国家の縮図だと僕達は思う。いろんなパーソナリティの人々が過ごしていて、もちろん、衝突もある。でも、君達はそれを乗り越えて、手と手を取り合って…困難に立ち向かうことができる」

 

「衝突を恐れるな。ぶつかった先に、未来がきっと待っている。自分の運命を変えられるのは…自分だけだ。君の行動で、世界は変わる。

それを、忘れないでくれ。僕達から言えるのは、そのぐらいだ」

 

「…終わりにしよう。ヒーロー気取りの弱虫の出番は、もうどこにもない」

 

「ふむ、準備ができたみたいだねー!」

モノケンが鷹揚に頷く。

 

スティーヴンくんはその言葉でまっすぐ前を向いて…最後に僕達に向けて、にっと白い歯を出して笑って見せた。

それは──あの2人の少女を、彷彿とさせるような笑顔だった。

 

 

 

「それでは、張り切っていきましょうっ、おしおきターイム!」

 

モノケンがボタンを叩いた。

 

▼スティーヴンクンがクロに決まりました。おしおきを開始します。

 

 

 

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スティーヴンくんは、いかにもアメコミに出てきそうな高層ビルの立ち並ぶ街の中央に立っていた。手にはあの、愛用の銃を持っている。

 

彼が何かに気づいたように素早く銃を構えると、ビルの陰から突然現れたたくさんの小さなモノケン達が、薙刀や日本刀など、様々な武器を持ってスティーヴンくんに襲いかかってきた…!

 

スティーヴンくんはそれら全てを正確に撃ち抜いていく。しかし、小さなモノケン達はいくら倒しても、次から次へと現れてくる…。

 

そして、背後から音もなく近寄ってきたモノケンのうちの1匹が、手にしていた棍棒で彼の頭を思い切り殴った。ゴン、と鈍い音が響く。

その衝撃に彼はふらっとバランスを崩してよろけてしまい、その間にも敵は容赦なく彼に迫る…!!

 

 

──その時、SATのような格好をした大柄なモノケン達が一糸乱れぬ動きでスティーヴンくんの元へ駆けつけてきた。

 

これできっと彼は助かる……!スティーヴンくんの表情にも微かに安堵の表情が浮かんだ瞬間。

 

 

 

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先頭にいた大柄なモノケンが、スティーヴンくんの額を撃ち抜いた。

 

それに続きモノケン達は、構えた機関銃をスティーヴンくんに向けて一斉掃射した。スティーヴンくんの身体に次々と穴が空き、その一つ一つから鮮やかな血が噴き出す。

 

しばらくして、蜂の巣状態になって血溜まりの中に倒れたスティーヴンくんの遺体の元に、1枚の黄ばんだ紙が落ちてくる。それは、指名手配のポスター。

 

そう、SATのモノケン達は、指名手配犯のイカれた精神病患者──スティーヴン・J・ハリスを殺しに来ただけだったのだ!

 

 

 

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【THE・END】

 

 

「……………」

スティーヴンくんの存在は。僕達の仲間の存在は。

こうして呆気なく、否定された。

 

 

✧ ✧ ✧

 

 

学級裁判とスティーヴンくんのおしおきを終えた僕達は、校舎に戻るため、エレベーターに向かおうとしていた。

 

こうするのが最善の結末だったとわかっていても、あまりにも苦しい。

スティーヴンくんの抱えていた不安や弱さだって、ここにいるみんなが、多かれ少なかれ心の中に持っているものだ。そう思うと、余計に胸が締め付けられるようだった。

 

互いに顔も合わせず、無言のままエレベーターに乗り込もうとした僕達に、モノケンが声をかけてきた。

「あ!そうそう、言い忘れてたんだけどさ」

 

「今回の事件では2人死んじゃったけど、正直あれはボクにとっても予定外だったんだー。だから、無事に裁判を乗りきったオマエラに特別ボーナスをあげるよ」

何が無事にだ、と思ってしまうけど、今は話を聞くしかない…。

 

「特別ボーナス?」

「出血大サービスだよー。刺殺だけに、なんつって」

その一言で、一気に場の不穏な空気が戻ってくる。こんな不愉快にさせられるんだったら、サービスだとしても早く話を終わらせてしまいたい。

「…それで、それって何なの?」

 

モノケンはどこからか取り出したあの分厚い本を掲げて、僕達に見せびらかした。

 

「この黄泉がえりの書を使って…誰か一人を、蘇らせてあげるよ」

 

「……!」

一瞬場が色めきたつ。

「ただし、」

しかし、モノケンの言葉には続きがあった。

「ここにある7枚のカード…ここから生き返る人を、引いてもらうよ。別にリスクが怖かったら、やめてもいいけどねー」

モノケンは7枚の、トランプぐらいのサイズの黒いカードを取り出して言った。

 

それはつまり…黒幕側の内通者だと言われていた照翠くんや、理由があったとはいえ人を殺してしまったあの2人にも、生き返る可能性があるということだ。

 

「誰がカードを引くかは、オマエラが決めていいよー。でも早く決めないとボクの気が変わっちゃうかもね!」

これがいい知らせなのかどうかはともかくとして、本当にモノケンは気が変わって、カード没収なんてことになりかねない。僕達は相談を始めざるを得なかった。

 

「1回死んだ人を生き返らせるなんて、生命へのいい冒涜だね…まあ、僕はやってみる価値はあると思うよ」

「別にそこまで生き返らせたい奴はいないけど、面白そうだしやればいいんじゃない?成功にはリスクが伴うもんでしょ」

佐島くんと根焼くんは真剣味の薄れた、いつもと変わらないような態度だ。

 

他のみんなは何も言わない…。決めかねている人もいれば、敢えて黙っている人もいるのだろう。

「宗形さん。君がカードを引いたらどうかな?」

佐島くんは僕に言ってきた。

 

「ぼ、僕が…?でも、幸運の荒川さんとかがやった方がいいんじゃ……」

「だって、今までクロを追い詰めてきたのは宗形さんでしょ?」

「……」

その何気ない言葉が胸に突き刺さる。笑至くん、陰崎さん、スティーヴンくんは、そうするしかなかったとはいえ、僕が処刑への引導を渡したも同然だ。

 

「………わかった。僕が引くよ」

僕は決意を固めた。これは、もう一度彼らと一緒にこのコロシアイに立ち向かうことができるチャンスだ。たとえリスクが伴おうとも、やってみるしかない…!

 

「それじゃ、宗形クン。この中からカードを引いてねー」

「…………」

僕は、7枚のカードのちょうど真ん中を引いた。

 

カードをひっくり返すと、そこに書かれていたのは──

 

"笑至贄"という名前だった。

 

「……笑至、くん…」

僕達が信じきれずに、殺してしまった彼が、再び生き返る。でも、そんな都合のいい話があるのか…?

喜びと共に、複雑な感情と…僕が恋した、彼女はもう生き返らないという事実を突きつけられる。

後ろを振り返ることはできなかった。そこにいる、揚羽くんの顔を見るのが怖かった。

 

「黄泉がえりの書を使う相手は笑至クンに決まりました!じゃ、黄泉がえりの儀式なんかはこっちでやっとくからオマエラは校舎に戻ってていいよー」

「………」

僕達はのろのろとした動きでエレベーターに乗り込んだ。

 

もちろん、今の時点では本当に笑至くんが生き返るかは分からない。

それでも…彼をもう一度信じてみたい。その気持ちから、僕はただ、すべてがうまくいくことを祈るばかりだった。

 

…祈ることしか、今の僕にはできなかった。

 


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