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体育館の重たい横開きの扉を開けると─驚くことに、そこには僕達の他に同年代ぐらいの男の子と女の子がいた。しかもたくさん…全部で14人、だろうか。隣の人と楽しげに談笑している人もいれば、静かに待っている人もいる。
「やっと全員揃ったね!」
そのまま中に入ると、突然壇上から甲高い声が聞こえてきた。どこかで聞き覚えがあると思ったら、頭の中で、あの放送で流れていた声と一致した。
見上げると、変な犬のぬいぐるみのようなものが演台の上に立っている。
「ぬ、ぬいぐるみがしゃべってる!?すげー!!」
僕の横にいたピンクの髪の女の子が興奮したように声を上げる。
「こら!ぬいぐるみじゃない、ボクはこの光清(こうせい)学園の学園長、モノケンだぞ!!」
ぬいぐるみ…モノケンは気を悪くしたのか、やや怒り気味の口調だ。
「学園長…?ボクたちはその光清学園、という学園の生徒にでもなったのでしょうか」
笑至くんが、壇上で自慢げに腕組みをして胸を張るモノケンに尋ねた。モノケンはその姿勢のまま鷹揚に頷く。
「その通りだよ!オマエラ16人は、この光清学園の生徒なんだ!オマエラにはこれから、この学園で生活してもらうよ!」
「なんだと…!?」
「こんな学園の生徒になった覚えはないんだけどなあ…」
「ど、どういうことですか……?」
その場から一斉にどよめきが起こる。するとモノケンが大きく手を叩いた。
「静粛に!しかも、これからオマエラにしてもらうのはただの学園生活じゃないよ」
モノケンはそのぬいぐるみのようなチャーミングな外見からは想像もつかないほど、不敵な笑みを浮かべた。
「これからオマエラにしてもらうのは…コロシアイ学園生活さ!」
その一言で、場の空気が一瞬で凍りついた。
「こ、殺し合い……!?」
「…冗談だろ」
「え?どういうこと?(゜▽゜)」
一瞬の沈黙の後、再び体育館の中は騒然となった。怯えた顔をしている人、冗談はやめろと怒ったような顔の人、動揺するどころかむしろ少し楽しそうにも見える人。
…僕自身も、まだ状況が飲み込めていない。
「…それで?それが冗談じゃないっていう証拠はあんの?」
中でも冷静そうに見える白髪の男の子がステージに向かって声を上げた。
「証拠?…オマエラの体で実証してもいいんだけどさー、ボクは学園長として自分たちの生徒を傷つけることは心が痛むんだ……」
モノケンは見るからに悲しそうな顔で言う。一応学園長としての自負はあるらしい。
「だから、オマエラにはこれで理解してもらうよ!」
そのモノケンの言葉を合図に、ステージ裏から突然、のっぺらぼうのマネキンが4つ現れた。ちゃんと制服のようなものを着ている。
「…!?」
唐突な展開についていけてない僕達を尻目に、モノケンは楽しそうに叫ぶ。
「それでは、どうぞ!」
すると、次の瞬間。
「「「 え 」」 」
4体のマネキンは、ステージの上から落ちてきた無数の槍に貫かれ、八つ裂きになった。
マネキンには趣味の悪いことに血に似せた液体が詰まっていたらしく、ピンク色の汁がマネキン達から勢いよく噴き出し、壇上の下のこちらにまで鮮やかな色の飛沫が飛んできた。
「きゃああああっ!!!!!!」
女の子たちが悲鳴をあげて、後ずさりする様子をモノケンはお腹を抱えてゲラゲラと笑いながら見ている。
………ひどい。最低だ。
「校則を破ると、オマエラもこうなるからねー」
モノケンはひとしきり笑いながらそう言った。
「…その校則はどこに書いてあるんですか?」
体育館全体がパニック状態になる中、笑至くんの冷静な声で僕は我に返った。
「いい質問だね、笑至クン!」
「校則や学校の地図は、今から配る電子生徒手帳に全部載ってるよ!オマエラ1人1人の恥ずかしいアレコレが載った生徒情報なんかもあるよ、なくさないようにしてね!」
そう言ってモノケンは、またどこからともなく現れた段ボール箱の中から、派手な色のタブレットを取り出して見せびらかした。
「あ、そうそう!コロシアイのルールについて教えないとだったね!」
場の空気がようやく落ち着いた頃、モノケンがそう言い出した。さっきの混乱で、コロシアイのことなんて忘れてたのに…。
再び周りを見回すと、泣いている女の子にそれを慰める男の子、モノケンをじっと見つめる子達。
こんな人達と、僕はこれからコロシアイをする……?そんなこと、できるはずがない。
「……こんなの、おかしいよ」
僕が思わずそう呟くと、思いがけず、笑至くんがそれに答えてくれた。
「このおかしい状況を打破するためにも、今からモノケンが話すルールを把握しなければいけませんよ。相手のルールに則った上で反抗しなければ、ボクらもあのマネキンのようになりますから」
「……うん」
僕らがそうして話していると、いつの間にかみんなも聞いていたらしく、モノケンの話すルールに耳を傾けようとしていた。モノケンは満足気にうんうんと頷く。
「それじゃあ、ルールを説明するね!」
「ルールは簡単だよ。オマエラのうち誰か1人が仲間を殺したら、学級裁判が始まる。その裁判で、オマエラの中の誰が殺したのかを突き止めるんだ。そして被害者であるシロを殺したクロを見つけることが出来れば、オマエラの勝利となり、クロはおしおきされるよ」
「…もし、見つけられなかった時は?」
遠くでぼんやりと状況を見守っていたパティシエのような服を着た男の子が、ふとモノケンに聞いた。
「見つけられなかった場合は、間違えたオマエラは全員処刑、クロは晴れてこの学園を卒業となります!」
「全員処刑…!?」
みんなの表情に再び緊張が走る。
「そう、全員首チョンパだよ。だからくれぐれも間違えないように頑張ってねー!あ、それと、コロシアイが起こらないとオマエラは永遠にこの学園から出られないよ。食料にも限りがあるし、知らないヤツラとの飢え死にを選ぶか、赤の他人を殺して卒業を選ぶかしてね!」
「それじゃあオマエラ、始業式は以上、楽しい楽しいコロシアイ学園生活をエンジョイしてくださーい!」
そういうとモノケンはマジックか、あるいは忍者のようにぱっと消えていなくなった。
それと共に張り詰めていた場の空気がふっと緩んだ。
その場にへたり込む人、モノケンの行方を探してステージを歩き回る人、さっさと体育館を出ていく人。
僕はどうすることもできず、その場に立ち尽くしていた。
いきなりこんなところに連れてこられて、コロシアイなんて言われて一体どうすればいいかなんてわからないよ……。
「宗形くん、大丈夫ですか?」
途方に暮れていた僕に、笑至くんが声をかけてくれた。でも、これがコロシアイなら、笑至くんも……
「大丈夫。ボクは貴方の味方ですよ」
「…え?今僕、何も言ってな……」
「表情でだいたい言ってることはわかります。探偵"助手"ですから」
助手というところにはっきりとアクセントをつけたみたいな口ぶりに、思わず苦笑してしまう。
「あくまで、助手を強調するんだね……」
「当たり前です。貴方にはこれから探偵として活躍してもらうんですよ、ボクがサポートします」
「で、でも僕は探偵なんてやったことないよ……?」
「探偵泣かせの異名を持つボクがサポートするので間違いありませんよ」
「そ、そっか…」
探偵泣かせって、それは助手として正しいんだろうか。それにしてもすごい自信だな…。
「それでは、探索に戻りましょう。敵を知り、己を知れば百戦危うからずと言いますから。それに、ここのメンバーのことも把握しておかなければいけませんしね」
「…わ、わかった!」
笑至くんの勢いに押されて、思わず頷く。彼はまた目をすっと細めた。今度のはしっかり、笑ってるってわかった。
「……これだけ大掛かりなことをするのですから、この中に黒幕、もしくは内通者がいるはずですしね」
「え?何か言った…?」
笑至くんが小さい声で何か呟いたみたいだけど、聞き取れなかった。彼はいいえ、と言い、僕の背中を優しく押す。
「…さあ、ここからが出番ですよ、探偵さん。」
僕は、一歩前に踏み出した。