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全員との自己紹介を終え、探索を終えた僕らは校舎の外に出てみたが、校庭の先には高さが何十メートルもあるコンクリートの壁に有刺鉄線が張り巡らされており、この学園の脱出が不可能であることを改めて感じさせられた…。
そして僕たちに、新たな問題が発生する。
「「おなかすいた………」」
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《1章イベント ドキドキ!?クッキング》
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空腹という深刻な危機に直面した僕と笑至くんは、電子生徒手帳のマップを頼りに本校舎の食堂へと向かった。
そこには人数分の16個の椅子が並べられ、食事用の大きな長テーブルが1つ置かれていた。どうやら、ここでみんなで食事を摂るということらしい。
部屋の奥には厨房があり、備え付きの大きな冷蔵庫があった。開くと、大量の食料が所狭しとぎゅうぎゅうに詰め込まれている。
「この学園から出られるのがいつかは分かりませんし、慎重に消費しなければいけませんね」
「そうだね。それにしても、お腹すいたな…」
「宗形くん、貴方、料理は出来ますか」
「いや、調理実習で作ったものぐらいは作れるかもしれないけど、あんまり自信ないなあ…失敗しちゃったら貴重な食料が無駄になっちゃうし」
「そうですか。ボクも料理の腕前は同じぐらいです」
そう言いながら、笑至くんは冷蔵庫を閉じてふう、と息を吐いた。
「…ですので、できる人に声をかけてみんなで何か作りましょうか。親睦も深まりますしね」
「そうだね!家庭的な子も多いし、きっとおいしい料理ができるよ」
こうして僕たちは、料理のできそうな人たちや料理に興味のある人に声をかけて集めて、厨房へ向かった!
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厨房に集まったのは、何かしら作れると言ってくれた、月詠くん、佐島くん、片原さんに加え、手伝いたいと言ってくれた野々熊さん、スティーヴンくんと僕達を含めた7人だった。
「それで、何を作ればいいのかなあ?普通の料理だったらだいたい作れるよ」
月詠くんはいつになく楽しそうだ。ベビーシッターの才能を持つ彼だから、きっと家庭的なことは一通りできるんだろうな…。
「肉だ、肉!精力をつけるために肉料理を作ろう!」
「おおっ!桃も肉料理なら作れるっすよ!」
スティーヴンくんと片原さんは、冷凍庫にあった巨大な生肉の塊を片手にわいわいとはしゃいでいる。
佐島くんは冷蔵庫からチョコレートを取り出していた。
「…そのチョコレートは佐島くんの?」
僕が尋ねると彼はにっこりと笑って頷いた。
「そう。この学園に来てから作ったやつだよ。そろそろ固まった頃だと思って」
「そうなんだ…」
(学園に来てまずチョコレートを作るって、どういう思考回路なんだろう……)
結局、各々が作りたいものを作り始め、野々熊さんは月詠くん、スティーヴンくんは片原さんの手伝いをしていた。一方僕達はというと、手持ち無沙汰になってしまい、佐島くんのチョコレートの味見をしていた。
「…!おいしいよ、このチョコレート、今まで食べた中で1番おいしい………!!」
佐島くんのチョコレートはひと口食べただけで明らかに市販のものとは違う美味しさがあった。甘すぎず苦すぎず、舌の上ですっとなめらかに消えていく。何個でも食べたくなるような口当たりの良さだ…!
「そう言って貰えると嬉しいな。この味もオススメだよ」
僕は佐島くんに言われるがままに別の味のチョコレートも食べ進め、すっかり彼のチョコの虜になってしまった…。
一方笑至くんはというと、僕が食べている間チョコを手にしたまま、じっとそれを見つめていた。
「笑至くんは食べないの?佐島くんのチョコレート、すっごくおいしいよ」
「…ああ、いただきますよ。見た目の美しさも素晴らしいな、と思っていただけです」
そう言って笑至くんはチューイングガムを口に放り込むかのような気軽さで、佐島くんのチョコを口にした。
「………」
「お味はどう?」
佐島くんが尋ねると、笑至くんは表情をひとつも変えず、真顔で言い放った。
「貴方のチョコレート、八方美人みたいな味がしますね」
「………は?」
笑至くんの思いがけない一言に、僕も佐島くんも二の句が告げなくなる。
「料理には作る人の気持ちが籠っていると言いますが…浅い味ですね。今度は是非とも、貴方の本心を味わってみたいと思いますよ」
黙り込んでしまっている僕達をよそに、彼は何の感動もなさそうにチョコレートを飲み込むと、淡々と感想を告げる。
「…それ、どういう」
佐島くんが一瞬表情をゆがめたその時、
「「あああああああーーーっっっ!!!!!!!!!!」」
「!?」
突然、コンロの方から2人分の叫び声が上がった。
僕達が後ろを振り返ると─黒焦げになったフライパンと、炭になった牛肉の塊と、その前に立ち尽くしている片原さんとスティーヴンくんがいた。
「2人ともけがはない!?大丈夫!?」
月詠くんが慌てて駆け寄っていくが、2人は放心状態でその場に佇んでいる。
うーん、何があったのかはだいたい想像がついちゃうな……。
騒ぎを聞き付けた他のメンバーも続々と集まってきて、黒焦げになった肉は明日のカレーの具材にすることにし、結局僕達は月詠くんと野々熊さんが作ったオムライスを食べることになったのだった。
スティーヴンくんはお肉を無駄にしてしまったことに余程責任を感じているらしく、体格の良い身体を縮こませてしょぼしょぼとオムライスを口にしている。
「桃君、すまなかった…僕達が目を離したばかりに…」
「なんのなんの!この苦難を共に乗り越えたスティーヴンは、もう桃の親友っすよ!」
「僕達が親友!?い、いいのか……!?」
スティーヴンくんは目を輝かせた。片原さんの目も同じぐらいきらきらに輝いている。
「もちろん!えへへ、桃も友達ができて嬉しいし…次こそリベンジしておいしい肉料理を作るっすよ〜」
「Sure!今度からは気をつけて料理をしよう…ああでも、フランベには昔から憧れがあるし、次こそ挑戦してみようか…」
「フランベ!かっこいいよね、桃も憧れっす!やってみたい!」
…また黒焦げ肉ができあがった時用に、次はシチューの仕込みをしていた方が良さそうだ。