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コロシアイ学園生活が始まって3日目の夕方。
みんなとの共同生活は極めて穏やかで、コロシアイなんてまるで始まる気配もなかった。
僕と笑至くんが寄宿舎に戻ろうと、管理棟の廊下を歩いていたその時、
「きゃああっ!!し、死んでる………!!!」
荒川さんの叫び声が聞こえた。
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《1章イベント 死体が発見されました?》
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「死んでる……!?」
「…上の階です、宗形くん、急ぎましょう!」
荒川さんの声を聞き付け、僕達は急いで階段を駆け上がり、管理棟2階の家庭科室前で彼女の姿を見つけた。
荒川さんは床に力なく座り込んでいる。全身ががたがたと震えていて目からは涙が今にも零れ落ちそうだ。
「荒川さん、大丈夫…!?」
「あ、あそこに………」
荒川さんの震える指先が示したのは、薄暗い家庭科室の奥だった。
「な、……!?」
そこには、暗くてよく見えないが、確かにハンガーラックに吊り下がっている、人の形をしたものがあった。
「笑至くん、こ、これって死体……」
「…………」
笑至くんは無言でずかずかと家庭科室の中に入って電気をつける。蛍光灯の眩しさに思わず一瞬目を閉じた後、再び視界が開けると、そこに見えたのは─
ハンガーラックに力なく吊り下がった切ヶ谷さんの姿だった。
「ひいっ!!!!!!」
「き、切ヶ谷さん……!?!?」
動揺する僕たちをよそに、笑至くんはそのまま歩みを止めず切ヶ谷さんの前へと進み、
ほっぺたをぺちぺちと叩いた。
すると、切ヶ谷さんはパチッと目を覚ました。
「…………………え?」
「……ハッ!ボクはどこ!?ここは誰!?!?」
「貴女は切ヶ谷小町さんでここは家庭科室です。ハンガーラックに引っかかっているので今持ち上げます」
「ああ、ありがとう!よいしょー↑」
平然と繰り広げられる会話に、僕と荒川さんはついていけない……。
自分でもわかるほど混乱している。頭の中にはてなマークしか浮かばない。
「………切ヶ谷さん、えっと…何をするとそうなるの…?」
思いつく質問はそれしか無かった。
「照翠さんにちょっかいを出しすぎて吊るされちゃった!誰も来ないから一晩中ずっとこのままかと思ったよー」
彼女は服に着いたホコリをぱんぱんと手際よく払いながら、満面の笑みでそう答えた。
「そ、そうだったんだ………」
照翠くんも、結構シャレにならないことするな……。
「荒川さん、見つけてくれてありがとう!ボクはキミがいなかったらハンガーラックと一夜を共に過ごすところだったよ」
切ヶ谷さんは、事の顛末についていけず座り込んだままの荒川さんに親しげに声をかけた。
「え、ええ…!?!?私は人に感謝されるようなことは何もしてないです、ごめんなさい……!!!!」
荒川さんは慌てたように立ち上がり、ぺこぺこと頭を下げる。
「今日ぐらい、自分の幸運を褒めてあげたらどうですか?」
笑至くんが穏やかな顔でそう言うと、彼女もようやく少しだけ、笑顔を見せてくれた。僕達は4人で談笑しながら寄宿舎へと戻った…。
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切ヶ谷さんの一件から翌日。僕たちは新たに開放された、笑至くんの研究教室の中にいた。探偵事務所のような部屋のレイアウトで、たくさんの資料があちこちに山積みになっている。
「宗形くん、少し留守にしますよ」
「え?な、何かあったの?」
笑至くんの突然の言葉に僕は思わず聞き返したけれど、彼の突飛な行動に意外性を感じることも少なくなった。大抵は僕と一緒に動いているが、彼は時折こんな風に急にどこかに行くことがある。
「いえ、昨日の切ヶ谷さんの件を受けて、照翠くんに釘を刺しておこうかと。さすがにあれは褒められた行動ではないですからね」
「それなら、僕も一緒に行こうか?」
「それには及びませんよ、少し注意してくるだけですので。またどこかで合流しましょう」
笑至くんはそう言うと、さっさと部屋を出ていってしまった。多少慣れてきたとはいえ、やっぱり彼の行動パターンは掴めないな…。
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笑至くんを見送った僕は食堂に行き、たまたまそこに集まっていたメンバーと談笑していた。
その後、しばらくすると笑至くんも食堂にやってきた。なんだか彼の姿を見るとほっと安心する。
「おかえり、笑至くん。どうだった?」
「注意は出来ましたよ。反省はしていない様子でしたが」
「照翠くんって気難しそうだもんね……」
「ええ、彼を説得するのはなかなか一筋縄ではいかなそうですね」
僕たちはそんな会話をしながら、のんびりと午後のティータイムを楽しんでいた。
そんな時に、その放送は突然始まった。
「ピンポンパンポーン!死体が発見されました!オマエラ、すぐに現場の家庭科室に向かってくださーい!」
すっかり聞きなれたモノケンの声。だけど内容は、1番聞きたくないものだった。
「死体発見アナウンス……!?」
「とにかく、家庭科室へ急ぎましょう」
同じく食堂でアナウンスを聞いていた片原さん、スティーヴンくん、荒川さん、佐島くん、掃気さん、野々熊さんと一緒に、僕達は家庭科室へと走った。
「もしかして、また、切ヶ谷さんだったりしないかな……?」
階段を昇る途中、僕がそう言うと笑至くんは複雑な表情をした。
「…そのぐらい平和な事件ならいいんですけれどね」
息を切らしながらやっとのことで家庭科室へと到着した僕達は、そこで信じられない光景を目にすることになる。
そこにあったのは……"超高校級の弁護士"照翠法典くんの、変わり果てた姿だった。