超特急論破 前編   作:鳶子

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非日常編1

✧ ✧ ✧

 

 

「照翠、くん………?」

笑至くんが真っ先に倒れている彼に駆け寄り、首筋に手を当てて呼吸を確認する。

「息はあるのか!?」

スティーヴンくんの必死の叫びに対し、笑至くんはゆっくりと首を横に振った。

 

「……亡くなっています」

「そんな……!!!!」

「どうして!?何があったんだ!?」

あまりに突然の状況に、僕の頭は全く追いついていかない。

この中の誰かが、照翠くんを殺害した?有り得ない。一体何のために、誰が……?

 

アナウンスを聞き付けた他のみんなも続々とやってきて、この場の状況に息を呑む。

「ひいっ……!!!!」

「うわあ、死んでる………」

「ち、血…いっぱい…出てる……」

現場の状態を一目見ようと精一杯背伸びをしたり動き回ったりしている子達もいれば、混乱しているのか、それとも何か証拠になるものを探しているのか、部屋の中をうろうろとしている人もいる。

このままじゃ家庭科室はごちゃごちゃになって、何も進まないんじゃないか…。

 

「落ち着きなさい!!」

そう思った時、笑至くんが混乱する場を一喝した。

 

「今ここでパニックになって無闇に動き回れば、現場が荒れてより犯人の特定が難しくなります。焦らないでください。死体が苦手な方は無理して見る必要はありません。廊下で待っていて頂いて結構です」

 

「死体が怖い子達はおにーさんが外に連れてくよ」

月詠くんが申し出て、怯えている女の子たちを家庭科室の外へと連れていってくれた。怖がっている様子を見せまいとしていたようだが、彼の手も微かに震えていた……。

 

再び静寂が訪れた現場に、突然モノケンが現れた。

「おおっと!ついに殺人事件が起こっちゃったねー!うぷぷぷ……」

何か言い返す気力もない僕達は黙って聞いている。

「じゃあ、ここからの捜査について説明するんだけど…

まあ、特に縛りとかはないよ。電子生徒手帳に死体の詳細情報があるからクロを見つけるために校則の範囲内で各々好きなように動いてねー!裁判が始まる頃にまたアナウンスするから、その時には集まっておかないと2人目、3人目の犠牲者が出ちゃうよ!」

 

モノケンは心底楽しそうにそう言ってくつくつと笑うと、また煙のように消えていった。

 

 

「…とりあえず、捜査を始めないことにはどうにもなりませんね」

笑至くんは自分の研究教室で見つけた黒手袋をつけて、遺体の周りの捜査を始めようとしていた。足手まといにしかならないかもしれないけど、僕も彼を手伝おう。

 

2人でそっと照翠くんの遺体に手を合わせ、冥福をお祈りする。照翠くんは初めて会った時からなんとなく近寄り難い雰囲気を持っていて、僕は気後れしてしまっていた。本当はもっと彼と話をしてみたかったな…。

顔を上げると寂しそうな笑至くんの視線と目が合った。きっと彼も同じような気持ちなんだろう。小さく一呼吸つくと、僕に向けて指示を出してくれる。

「宗形くん、まずは電子生徒手帳を見てもらってもいいですか?」

「わ、わかった!」

 

僕は電子生徒手帳を開いて、遺体についての情報を笑至くんに見せた。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「なるほど。確かに身体に暴行の箇所が数カ所見られますね。殺される際に抵抗したのでしょうか」

笑至くんは照翠くんの遺体を見つめながら考えるような仕草をして、冷静に分析を始めた。

 

「ああ、そうですね…折角ですし、少し貴方にも捜査の手解きをしておきましょうか」

所在なく笑至くんの視線を追っていた僕のことに気づいたのか、彼は遺体のそばにしゃがみこんで、もう一度さっきのように首元に手を当ててみせた。

 

「宗形くん、死体を発見した時は、まず呼吸を確かめてください。倒れているだけでは、生死は判断できません」

「なるほど…」

「首元や手首、辺りが妥当でしょうか。軽い脳震盪を起こして気絶しているだけだったり、応急手当をすれば助かる程度の怪我という場合もあります。倒れているからといって勝手に亡くなっていると判断してしまい、手当てが遅れるという最悪のパターンを避けるためにも、必ず脈拍を測るようにしてください」

「うん!わかったよ」

そう言われなければ、僕は万が一倒れている人を見つけたとしても、きっとおろおろしてしまうだけだっただろう。こういう状況だけじゃなく、日常生活に戻った時にもためになる話だ…。

 

「あ、あのう……」

その時、背後から陰崎さんがおずおずと声をかけてきた。

 

「ひ、ひめか、第1発見者、ってやつなんだけど……何かお手伝いできることとかあるかな……?」

「貴方がそうでしたか。そうですね、いろいろとお聞きしたいことはあります」

「えっと、捜査とかよくわかんないけど大丈夫……?」

陰崎さんの不安げな表情を安心させるかのように、笑至くんが優しく微笑む。

「ええ。ボクが質問することに答えてもらうだけですから、安心してください」

「わ、わかった…!」

彼女は少しほっとしたようにこくこくと頷いた。笑至くんがポケットから小さなメモ用紙とボールペンを取り出す。いつの間にそんなものを用意していたんだろう。やっぱり準備がいいな…。

 

「まず、貴女が遺体を見つけた時の状況を教えてください」

「今の状況とほぼ同じだよ。ひめかはもしかしたら家庭科室に、その、アレがあるかなって思って行ったんだけど……」

「アレ、とは?」

笑至くんが首を傾げる。陰崎さんはぎくりと肩を震わせた。─何か言いたくないことなんだろうか?

「……ええと、その、コスプレ衣装、があるかなって……」

 

彼女は恥ずかしそうに目を逸らしながら答えた。ちょっぴり微笑ましい。なるほど、確かに人には言いづらいかもしれないな…。

「そうですか」

笑至くんはあっさりと頷く。陰崎さんは意外そうな表情を見せる。

「え…ひ、引いたりしないの?ひめかみたいな子がそういうの見るとか…」

「人の趣向に口出しする立場ではありませんので、そこは別に構いませんよ。それで、貴女はその後、遺体を動かしたりしましたか?」

「してない!ひめかが見つけてからあのアナウンスが鳴って、びっくりして逃げたから…」

ぶんぶんと首を横に振りながら陰崎さんは答えた。だから僕たちが行った時に現場にいなかったのか。

 

「確か今回の死体アナウンスは、クロ以外の人物が死体を発見した時に鳴ると生徒手帳に書いてありましたからね。状況によっては変わるというのも追記されていましたが」

「じゃあ、陰崎さんが第一発見者で間違いない、ってことだね」

「そうなりますね。陰崎さんもこれから捜査を手伝ってもらってもいいですか?」

 

「ひゃ、ひゃいっ!お役に立てるかはわからないけど、ひめか頑張りゅよ…あ、噛んだ………」

「ありがとうございます。ボクが宗形くんの助手なら、さしずめ陰崎さんはボクの助手と言った所でしょうか」

「え…!そんなにいいポジもらっちゃっていいの…!?」

これまでびくびくとしているように見えた陰崎さんの表情が、途端にぱっと輝く。

 

「ええ。助手の助手として、ボクが直々に捜査の仕方をお教えしますよ」

「な、なんたる光栄……!!」

(助手の助手って、嬉しいのかな……?)

僕は思わず首を傾げてしまった…。

その後、僕たちと陰崎さんで周りの人に聞き込みをしたり、家庭科室内の捜査をしているうちに、再びアナウンスが流れてきた。

 

「ピンポンパンポーン!捜査終了です、オマエラ全員、別館前に集合してくださーい!」

「…ここまでのようですね。みなさん、引き上げて別館へ向かいましょう」

笑至くんの声掛けを聞き、その場にいたみんなが緊張した面持ちで別館へと向かった。

 

 

 

✧ ✧ ✧

 

 

 

別館前に着くと、モノケンが腕組みをして僕たちを待ち構えていた。幸いなことに、誰もここに着いていない人はいないみたいだ─照翠くんを除けば。

 

「全員揃ってるね!じゃあ、これからオマエラを裁判場に連れてくよ!」

そう言うとモノケンは仰々しく別館の扉を開き、鍵のかかっていたブレーカーの扉を開けて、主電源の横にあった赤いボタンを押した。

 

ゴゴゴゴゴ…………

 

すると、別館の壁が轟音を立てて奥へと動き…巨大な、鉄製のエレベーターが出現した。ぷしゅう、という空気の抜ける音を立てて扉がゆっくりと横に開く。

 

「壁が動いた…!?」

「ややっ!?忍者屋敷みたいですよ!」

その様子を見ていたみんなが驚いた様子でどよめく。

「これに乗って、裁判場に向かってねー」

言われるがままに、僕達はエレベーターへと乗り込んだ。モノケンは全員が乗るのを確認すると去っていった。最後に乗った妄崎さんが「閉」のボタンを押すと、別館の景色が閉ざされ、エレベーターがゆっくりとしたスピードで動き始めた。

 

エレベーターの中は、最初にコロシアイの説明を聞いていた時のような神妙な空気で満ちていた。何人かのひそひそ話が聞こえる。

僕らを乗せたエレベーターは重たい初動の後はスムーズに下降していき、あのエレベーター特有の耳がキーンとする感覚がした。

僕の頭の中は不安でいっぱいだった。今一緒に乗っている人達の中に、きっと照翠くんを殺したクロがいるんだ……。

 

エレベーターはまだ下降を続ける。階数のボタンはなかったけど、目的地は随分下にあるみたいだ。静寂がたまらくなって、僕は笑至くんに小さく声をかけた。

「いよいよ、裁判が始まるんだね…」

「ボクが助手として宗形くんをサポートしますから安心してください」

「笑至くんは探偵役、みたいなのはやらないの…?」

 

これまでずっと疑問に思っていたことを聞いてみる。捜査中もすごく頼りになったし、探偵泣かせだなんて異名を持つなら、いっそのこと"超高校級の探偵"になってしまえばいいのに。

「ボクはそこまでの器ではありませんから」

彼はそう言って苦笑いをした。笑至くんの思う自分に足りていないものって、一体何なんだろう。僕には見当もつかない。

 

「ただ、ボクは超高校級の探偵助手として、貴方を立派な探偵に成長させたいんです」

そして僕の方をまっすぐ見て、笑至くんはそう言葉を続けた。

笑至くんはこう言ってくれているけど、僕に探偵役なんて本当に務まるのかなあ…。僕みたいな普通の高校生が彼の期待に応えられるのか、正直まだ分からない。

 

 

永遠のように感じられた長い時間の後、エレベーターは静かに止まって、再び扉が開いた。

そこは大きな、裁判場のようなホールだった。

 

─いよいよこれから、照翠くんを殺したクロを見つける学級裁判が始まるんだ。

 

不安と緊張の中、僕たちはゆっくりと裁判場へと足を踏み入れた。

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