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「それじゃあ、改めてルール確認だよ。今回の裁判では、照翠クンを殺したクロを見つけてね。議論の後、投票でクロを決めて、合ってたらクロ1人がおしおき、間違えたらクロ以外が全員おしおきで、クロは晴れて卒業だよ!」
裁判開始の合図と共に、モノケンがもう一度ルール説明を行う。
「それでは、議論を始めてくださーい!」
「始めろって言われても、何を話せばいいのかしらね…小町、あたし怖いわ〜!」
揚羽くんが体を両腕で抱え、大げさに震える仕草をする。本当に怖がっているのか、みんなの緊張を和ませようとしてくれているのか分からないけど、そのいつも通りの振る舞いに安心感が湧く。
対する切ヶ谷さんはというと、普段とは違い、見たこともない真剣な表情で腕組みをして考え込んでいた。
「凰玄…ボクは大事なことに気づいてしまったみたいだ……」
その一言で、みんなの視線が一気に切ヶ谷さんに集まる。
切ヶ谷さんは堂々と右拳を突き上げ、びしっと天井を指さした。
「犯人は…この中にいるゥ!」
「「「……………」」」
「…それはみんな知ってるわよ、小町……」
「アレ?そうなの?(゜▽゜)」
呆れたような、どこかほっとしたような雰囲気が裁判場に流れた。
場を引き締めるように一つ咳払いをして、笑至くんが話し出す。
「時間もそんなにないでしょう。宗形くん、まずは各々アリバイを確認して、照翠くんが最後に誰といたのか、そして殺害された時間にアリバイのない人物を見つけ出しましょう」
「わ、わかった。死体アナウンスが鳴ったのが午後4時だから……」
「ひめかが見つけたのが、その時間だよ」
陰崎さんが遠慮がちに声を上げた。笑至くんが頷いて付け加える。
「血の乾き具合などを調べてみましたが、推定するに、午後3時半から4時ぐらいの間に照翠くんは殺害されたのではないでしょうか」
僕は死体アナウンスが鳴る少し前の食堂を思い浮かべた。テーブルで何人かと今日の夕食なんかの話をしていた時だ。
「その時間に食堂にいなかったのは…揚羽くん、切ヶ谷さん、芥原さん、月詠くん、妄崎さん、根焼くんの6人かな?」
「ボクも4時ギリギリに食堂に着いたので、一応含んでおいてください」
「わ、わかった…!」
僕は頷いてみんなに向けて話し出す。緊張で声がひっくり返りそうだ…。
「ええっと、それじゃあその時間に1人ずつ何をしてたのか教えてもらっていいかな?揚羽くんから時計回りの順で」
揚羽くんがいいわよ、と返事をしてみんなが順番に話し始めた。
「あたしは小町と体育館でトレーニングしてたワ。身体が鈍っちゃってたから2人で腕立て腹筋背筋100回ずつぐらいね」
「くぐはらは校内をパトロールして、困っている人を探してたですよ!でもピーちゃんと回っているのでアリバイは成立してるはずですよ!」
(えっと、鳥ってアリバイを証明できるのかな…?)
「私は澄輝くんを追いかけ回してたよ〜アレコレ楽しいことをするために…♡」
「…あんまり詳しくは聞かないで欲しいけど、おにーさんはしなぐちゃんに校内中を追いかけ回されてたよ……」
(この2人、何があったんだろう…)
「ボクはテキトーに学校の中をブラついてただけだけど。ま、もしかしたら犯人かもねー」
「…根焼くん、冗談はよしてよ……」
「ン?冗談じゃないかもよ?」
(うーん、完全に人をからかってる顔だ……)
「ボクは先日切ヶ谷さんをハンガーラックに吊るした照翠くんにお灸を据えるために、彼の元に行って軽くお説教してきました。貴方達の話を聞くに、ボクが彼と会った最後の人物のようですね…なので、3時半頃までは彼は確かに生きていましたよ」
と最後に笑至くんが言った。
「…笑至くんはその後、食堂に来るまでに何をしてたの?」
「ああ、校内に変わったところがないか探していました。なので、アリバイがないと言えばそうなりますね」
「なるほど…」
確かに笑至くんならどこかに行ったついでに校内の見回りぐらいはやりそうだ。
すると、月詠くんがふと思い出したように言った。
「あれ、しなぐちゃんも途中で1回いなくなったよね?おにーさん追いかけてこなくなったからほっとしてたら、しばらくしたらまた走ってきたからびっくりしちゃった…」
「あ、トイレに行ってたんだよ。…何、詳しく聞きたい?」
「や、やめて!どうせまたえっちな話でしょ!」
月詠くんは顔を真っ赤にして首を横に振った。妄崎さんはにやにやと笑っている。きっとこういう感じで追いかけっこをしていたんだろう。
「じゃあ、アリバイがないのは芥原さん、根焼くん、笑至くん、と一応妄崎さんもだね」
「何?お姉さんのトイレの話、こむぎくんも詳しく聞きたいの?」
「え、遠慮しておきます…」
妄崎さんが興味の対象を変えたのか、ぐるっとこちらを向いた。とても嘘をついているようには見えない。本当に緊張感のない人だ…。
「わかりました。それでは次に、殺害方法を確認しましょう。………」
その後もテキパキと殺害方法などの確認を進め、裁判は順調に進んでいった。
(やっぱり笑至くんは探偵助手なだけあってこういう裁判とかは手馴れてるのかな。すごいなあ……)
「ボクは裁判官ではないので、別に裁判には慣れてないですよ」
「また表情で読まれた……!?」
「…それにしても、弱りましたね。アリバイのない人物は何人かいますが、決定的な証拠がありません」
「確かに……。これだと誰でも犯行が可能になるね」
笑至くんはすっかり考え込んでいる様子だ。さすがの彼でもこの状況の打開は難しいんだろうか。
「後は……何か動機となるものでしょうか。動機があればそれは証拠にもなりうるでしょう」
動機があるといえば…照翠くんと接触した人のうちの誰かだろうか。
「照翠くんに何かしらされたのは切ヶ谷さんだけど、アリバイがあるからね……」
「ムッ、ボクは動機があってもなくても、切ヶ谷家の一族として、自分のために殺しなんかしないよ!」
「ご、ごめん!」
切ヶ谷さんが拗ねてしまったようだ…。
なかなか決定的な証拠が出ず、議論が平行線を辿っていた時、これまでずっと静かに裁判の様子を見ていた佐島くんが口を開いた。
「この中で1番照翠くんを殺しやすいのは、最後に照翠くんと一緒にいたっていう笑至くんじゃない?」
「……!?」
まずありえないと思う、けど…言われてみれば、確かにそうだ。笑至くんはずっと裁判の主導権を握っていたから全く気づかなかったけど、今1番疑われるべきなのは、もしかして彼なんじゃないのか……?
笑至くんは少しだけ眉をひそめて、正面に立つ佐島くんを見据える。
「確かにボクにはアリバイはありませんが、彼を殺す動機がありませんよ?憶測でつまらないことを言って議論をかき乱すおつもりでしょうか」
「ただ、今考えられる客観的な事実を述べただけだよ。へえ、そうやって噛み付いてくるんだね?」
「……ッ」
笑至くんは一瞬言葉に詰まった。
「ほら、やっぱり何かあるんだね」
佐島くんは言葉を弾ませ、少し見下したように、楽しそうに笑った。それは今まで見た事のない、ぞっとするような冷たい笑顔だった。
佐島くんの一言から裁判の空気は一変して、みんなの疑いは一気に笑至くんに向けられた。
笑至くんは落ち着いた口調で否定するが、アリバイのない彼は怪しいとどんどん一方的に追い詰められていくだけだった…。
彼そんなことをする人じゃないって分かってはいるけれど、その場の雰囲気から、僕も彼を追い詰めざるを得ない。
「笑至くん、本当に君はお灸を据えるためだけに照翠くんの元に行ったの…?」
僕がそう尋ねると、彼はやむをえず、と言った感じでゆっくりと首を横に振った。その動作で、みんなに動揺が走るのがわかる。
「…本当はまだ話すべきではないと思っていたんですが…ここまで来たらもう話すしかありませんね」
「ここで引き下がる訳には行きません。ボクは犯人ではない。ここでボクをクロにすれば、ボクも含めた全員が殺されてしまう。それだけは、避けなければいけないんです」
彼は一度ゆっくりと瞬きをすると、再び僕を見つめる。それまで僕に向けられていた優しい目が、厳しいものに変わっていた。笑至くんの鋭い視線が、僕を見据えて射抜く。
「…だからボクは、宗形こむぎ──貴方と対決します。探偵助手ではなく、容疑者として。
…ボクを論破できるというのなら、してみなさい」