ソレは元来
逃げ足だけは速かった
逃げて
逃げて
果てまで逃げて
果てまで越えて
飛び越え
辿り着く
そうして喰らって
ゆるりと喰らって
ふと
美味いの質が変わったような
歯向かう餌が変わったような
そうしてソレは
徒党も組めると気がついて
禁忌も無いと気がついて
幽幻の 闇夜に立ち
奇跡の餌場を見下ろして
声を上げて嗤ったのだ
己は 自由に成ったのだ
と
お久しぶりです。
しばらく来られぬうちに、ここも随分冷えてしまいましたか。
あれからお躰に障りはありませんか?
お変わりないようですね。某も安心致しました。
そうですね。
実は最近、少々立て込んでおりました。
それで思うところあり ふと、貴女のお顔を思い出して 恥ずかしながら、いてもたっても居られなくなってしまったのです。
存じております。いつも見護っておりますゆえ。
またひとつ役目を終えて、今は一息 と、なっていてほしいものですが あれと来たら、また休むことも忘れて次の事に当たっておりまする。
少しは肩の力を抜けと諭してやりたいところですが
某もヒトの事を言えぬ身なれば、はてさて何とも不甲斐ない。
似た者同士と?
ふふ、確かに。最近はそんな所ばかりが似てきて困っております。
さあ、今宵は何をお話しましょうや。
最近あった事?
ああ、貴女は本当に何でもお見通しですね。
しかしアレは少々、いえ随分苦い場面も交わるお話でありますゆえ、某としてはあまり貴女にお話するわけには あとで怒られてしまいます。
いや、決してそのようなつもりではありません。
ああ、そんなに期待に満ちた目を向けないでください。そんな事をされては 某が断れないと解っておいででしょうに。
もう・・・わかりました。
それでは あぁ・・・ とはいえ何処からお話しましょうか。
瞼を閉じれば、今も色鮮やかに灼き付く色があるのですが しばしお待ちを。
ふむ。
う〜ん・・・
よし。
あれは確か、ウズールッシャとの戦を終え、戦後の処理も終わったとみえた頃のこと。
帝都では、行方知れずが流行っておりました。
夜毎消えるヒトを探し、某は隠密衆らと共に、夜な夜な警邏に出る事にしたのです。
ええ お察しの通り『行方知れず』とは表向きの事。
実態は違いました。
夜が明ける度に上がる、ケモノに喰われたような遺体、傷痕。繋ぎ合わせても足りない躰。
ヒトは、喰い殺されていたのです。
無論、対の将たるミカヅチとともに、交代で事に当たっておりました。
それでも被害は増えて行くばかり。
あまりに悲惨な事件ゆえ、当時は箝口令も敷かれましたが いつまでもヒトの口に戸は立てられぬもの。ちらりちらりと民の間には不安ばかりが広がっておりました。
幾日も心苦しく思う日々が続きました。
奴らには通常の武器では歯が立たず ようやく付けられた傷も立ち所に再生する。
唯一の弱点は太陽 即ち『ヒノカミ』のみ。
ええそうです。其奴らは蟲ではありませんでした。もっと違う 別のモノ。
それらは『鬼』という、古代より出でし不死身の人喰い
しかし幸い それら悪鬼を『滅するもの』も在ったのです。
これから語るは、悪鬼滅殺の刃を謳う、世にも奇怪な物語にございます。