帝都ヒノカミ奇譚   作:龍羽

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オシュトルさまが なんか怖い。


第参夜  水神(クスカミ) 対 水柱

 

 

 

 

 

 金髪の少年が『ヒィイッッ!!』と声にならない悲鳴をあげ あっという間にケモノ頭の少年の陰に隠れた。ガタガタと震えながらこちらを伺っている。

 ここからでは確認し辛いが、屋根の上の市松の羽織の少年の顔も青ざめているようだ。

 

   ここまで怖がられるとさすがに傷ついてしまうな。

 

「何だテメェ   やべぇ気配がビンビンする」

 

 気配。

 オシュトルはぱちりと瞬きする。

 

「気配、であるか」

「おうよ! 隠してもわかるんだぜ! 俺は山の王だからな! 強いやつは特に躰がビリビリする!   お前が一番やべぇ気配だ!」

 

   この少年、気配に敏いのか。

 

 もしそうなら このケモノ頭の少年を引き入れれば隠れた者の場所や距離を測る   索敵の精度が上がるのではないか。躰がビリビリすると言ったが、もしやこの晒した肌で気配を感じているでは? ならこの少年の格好は理に適っていると言える。となれば   

 

 オシュトルがまじまじと少年達を観察する。

 

 その後ろで震えている金髪の少年は、オシュトルを見ながらしきりに「音やばい」とつぶやいている。そう言えば最初にオシュトルを見て『得体の知れないやばいモノ』と言い切っていたか。耳が良いのか   いやしかし 耳の良さでこちらの潜在力を聴き分けているというのは流石に突拍子もないか。

 

 ああそういえば、市松の羽織の少年は 異形どもが動き出す前に何やら匂いを嗅いでいた   異形の出現を予測できるほど、あちらは鼻が利くのだろう。

 

   とても有用な個性の持ち主たちではないか。

 

 火を吹いていた少女   おそらくネコネだろう   の安否を確認するついでに召し抱えるのはどうか。流石にハク殿たちの代わりにはできないだろうが   

 

「な、なんか 碌でもない事考えてる音がする・・・」

 

   よし 絶対に召し抱えよう。

 

 怒気から一転。上機嫌の笑顔である。

 右近衛大将オシュトルは 徹夜続きで大変疲れているのだ。

 

 さっきまで粗暴な態度が目立っていたケモノ頭の少年も、急に変わったオシュトルの雰囲気に『びくんっ』とたじろいだ。

 

ざり

 

 金髪の少年が土を踏みしめる音に反応して勢いよく振り返る。そこにはいつの間にか長身の男   ヤクトワルトが回り込んでいた。

「あー・・・ すまんね。ここは通せないじゃない」

 気まずそうに頭を掻く剣豪。

 これで逃げられまい。

「うそでしょ」

 金髪の少年の青い顔が、さらに青くなった。

 

どどどどどどどどど

 

 そのとき、ケモノ頭の少年が飛び出して来たのと同じ辻から地響きが聞こえて来た。甲高い鳴き声も聞こえる。ルルティエ姫のココポか。

 

   まさかすでに?

 

 最悪の予想が頭を過ぎる。

 間も無くずんぐりとした巨鳥がオシュトルたちのいる路地に踊り出た。巨鳥の頭から生える飾り羽根が、辻を曲がって来るのに合わせて揺れる。

 

「あぃっ   オシュトルさま!」

 

 少女の声が響いた   ネコネだ。ルルティエ姫の後ろに乗っている。

 無事な姿を確認して、オシュトルは気付かれないようにほっと胸をなでおろした。

 

 けたたましい足音が急停止する。

 ココポの背からネコネが飛び降りてきて、多少ふらつきつつ健気にもこちらの方へ駆け寄って来る。

 だが、ネコネの前方で空気が滲み出したのに気が付いて、オシュトルは血の気の引く音を聞いた。

 ふらついている故か、当のネコネは前を見ていない。

 

「待ってくださいなのです、そのヒトたちは   

「来るな、ネコネ!」

 声を荒げたオシュトルに、ショックを受けたように立ち止まるネコネ。

 こちらを向いた彼女の姿が滲む。

 

ぐにゃり

 

 そのままネコネは消えてしまった。

 

「ネコ ネ・・・?」

 

 ヤクトワルトも息を呑んだ。今のはアトゥイ達が消えた時と同じ   一瞬の出来事だった。

 呆然と消えた場所を見つめたまま、ふたりが立ち尽くす。

 

 いなくなった。

 消えた。

 ネコネ。

 

 ネコネ・・・!

 

 

「おわ!?」

 ケモノ頭の少年の低い声で我に返る。

いつの間にか市松の羽織の少年は屋根から降りていて、ケモノ頭の少年をすれ違いざまにかっさらって行った。金髪の少年がそれに続く。

「何すんだお前ら!」

「いいから逃げるぞ!」

 喚くケモノ頭の少年をなだめつつ、オシュトルたちの隙を突いての戦線離脱。状況に対応する判断能力が高い。

 戸惑うルルティエとココポの横をすり抜けていく。

 

「逃すかよ!」

 

 剣を携えヤクトワルトが走り出す。

 その彼の行く先で、再び空間が滲み出した。

 

「ヤクトワルト殿!」

 消える方か。現れる方か。

 

   どちらにせよ、これ以上失うわけにはいかない。

 

 そしてヤクトワルトは 滲みから新たに現れた   濃藍の瞳と目があった。

 

 ぞわりと身の毛が逆立つ。

 

   強者の気配。

 

 剣を抜くヤクトワルト。

 『陽炎』の異名をとった居合の太刀はしかし   ()()()()()()()

 

 肆の型   打ち潮

 

 剣の軌跡は 市松の羽織の少年と似ているように見えた。

 

「!?」

 だがその威力が違う。

 ヤクトワルトが耐えきれず吹き飛んだ。

 

ごっっ!!

 

 彼が塀に打ち付けられたのを尻目に、オシュトルが青年に迫る。

 

ガッッ!!

 

「義勇さん!?」

 市松の羽織の少年が振り返る。

 

 鍔競り。

 一呼吸離れてもう一合。

 

ガキィ ン!!

 

 刃と刃が交差する。

 力は五分   いや。

   行け」

 青年が平坦な声で応えながら刃を流す。

 

 腕力は オシュトルの方に若干の分があるか。

 

「ありがとうございます!」

 再び走り出す少年達。

 

 立ちふさがる青年   ギユウと呼ばれていたか   を剣を交えながら改めて見る。

 

 目を引くのは彼の羽織だ。

右袖側は無地の蘇芳色、左袖側は緑と黄色の亀甲模様というちぐはぐな造りだ。肩より長いくらいのざんばらな髪は、後ろで無造作にひとまとめにされていた。

 何より彼の羽織の下に着ている服。釦の色こそ違うものの 先ほどの少年達   若干一名違うような気もするが   同じ黒系色の詰襟の上着と下は細い帯で締める袴に似た形状の衣服を着ている。

 

 視界に水飛沫が舞う。

 オシュトルの意識が戦いに引き戻された。

 

   強い。

 このような場でなければ、見惚れてしまうほどの流麗な太刀筋   まるで陽光を反響させながら渓流を流れる湧水のようだ。

 だが   

 

 オシュトルの手元で水が鳴る。

「すまぬが大人しくしてもらう」

 刀の一振りで水の刃を飛ばす。

 それを瞬く間に11連。

 

 ここは直線の路地。幅いっぱいに飛ばしたこれらを一度に対処はできまい。

 

 足を止めた所で一気に決める。

 

 止まったところを狙おうと、オシュトルが構える。

 耳に水の逆巻く音が届く。

 

水の呼吸・参の型   流流舞い

 

 水刃の合間を縫うように 青年が前進する。

 足を止めるどころか、留まる気配がない。

 この胆力。先ほどの少年たちとは、まるで格が違う。

 

 強い。

 強者。

 ウズールッシャの勇者と剣を交えた、つい先日の記憶が蘇る。

 

 黄昏の決闘。

 

 このような猛者と、この短期間で再び巡り合おうとは   

 

 ともすればうっかり 引きあがりそうになる頬をこらえ。

 向かってくる剣士に肉薄する。

 

ギィイイ ン !

 

 蓮撃において、表情ひとつ動くことのなかった剣士が、ついに眉を顰めた。

 

   ここからは、純粋に(これ)でお相手する。

 

 オシュトルの暁色の目付きが変わる。

 青年の瞳の濃藍が、一層の深みを増す。

 

 両者の刃の軌跡が迸る。

 

 

 

「うへぇ   大将と互角じゃない」

 よろ、と起き上がったヤクトワルトは、両雄の戦いに冷や汗が止まらない。

 

 一合、二合と斬り結ぶ毎にますます熾烈極まる剣戟。

 

 気を緩めれば致命傷。

 運が良ければ戦闘不能。

 

 流れるように繰り出されるすべての太刀筋が、それに繋がる。

 

 そして水だ。

 

 流水 波紋 瀑布 渦巻   

 

 ふたりの戦闘は まるで水と水が戦っているようだ。

 

 

 飛沫が舞い、弾けて。

 水と水が拮抗する。

 下手に手が出せない。

 

 クオンもまた 苦無を構えたまま動きあぐねた。

 

 

 

「だめ! ココポ!」

 

クココココココココ!

 

 そんな中、ココポが駆け出してしまった。

 ふたりの戦闘に興奮したのだろう。バサバサと羽を広げ、雄叫びをあげて渦中に突っ込んで来た。

 

 突っ込んで来たココポを利用し、青年   義勇がオシュトルと距離を取る。

 

 均衡が 崩れた。

 

   その隙を 義勇は逃さない。

 

 逃走のため、姿勢を低くする。

「逃さない!」

 クオンが苦無を投げる。

 無数の苦無が義勇を襲う。

 

玖の型   水流飛沫

 

 その足跡に飛沫が上がる。

 走る姿すらまさに 水が跳ねる如く。

 

 留められない。

 

 ありったけの苦無が躱されていく。

 

 留められない。

 

 ヤクトワルトが立ち塞がり、横に薙ぎ払われた一閃も   跳んで躱された。

 その跳躍ですら、水の上から跳んだよう。

 

 水飛沫の軌跡を魅せながら、ノスリのいる屋根の上に降り立つ。ノスリがゆるゆると力無く見上げる先で、義勇はこちらを見下ろし、凪いだ表情で   

 

「お前たちに構っている暇はない」

 

 誰もがざわりと沸騰した。

 そしてそのまま悠々と

 

 一歩   

 

 

「よもや よもやだ」

 

 

 踏み出そうとした足は、前方のそれに留められた。

 

「雷鳴が聞こえたので駆けつけたが! 随分腕に自信があるものとお見受けする!」

 

 どんなまやかしだろうか。

 無表情が驚愕に染まる。

 

 月明かりに照らされて、『炎』が立っている。

 二度と見えることの叶わなくなった 『炎』   

 

 声をかけようと口を開く。

「オシュトル殿! この者に同行を『お願い』しようか!」

 

 『炎』が義勇を見据えたまま刀を鳴らす。

 記憶寸分違わぬ声で、知らない名前に声がかけられる。

 

 かけようとした言葉を 義勇は見失った。

 

「異論はない。先ほども其の者が3人、いや4人逃している。その他諸々含め詳しい事情が聞きたい」

「委細承知!   そういう訳だ! 大人しく捕まってもらう!」

 

 抜き放たれるは灼炎の刃。

 月光に揺らめく 陽炎の気迫。

 

 炎のような色彩の異国の装束を身に纏うも、その仕草、髪の色、瞳   何もかもが記憶にある『炎』と違わない。

 

 本物だ。

 一月経とうと間違えようものか。

 

 その『炎』が 何故か義勇と対峙している。

 

   っ 待て! わからないのか!?」

 咄嗟に声をかけるも、当人は少し首を傾げるだけ。いつまでも他人を見るような目のままだ。

 いったい彼に何があったのか。

 

 そもそも本物だとして   何故この漢が此処にいる!?

 

 ありえない!

 

 何故なら この漢は   

 

 

 一歩後退したところで、背後   いや下から衝撃を受けた。

 とても弾力のある柔らかい何かが、義勇の気道をふさぐ。ゴロゴロと屋根の上を転がり、上から押さえつけ   違う、力強く抱き締められた。

 

「お手柄かな、ノスリ!」

 クオンが手を叩いてノスリを讃える。

 ヤクトワルトも深く安堵の息を吐いた。

「しっかしまあ いくら大将とやり合ったとは言え、随分腕に自信のある奴じゃない」

 ぼりぼりと頭をかいてノスリたちのいる屋根に向かう。

 

 捕まる直前だって、力の差は歴然だろうという素振りまで見せつけてくれた始末。確かに不意打ちもあったかもしれないが、自分を退けたのも、自分がオシュトルの戦いに加勢できなかったのも事実   少しばかり名の売れた身として、自惚れを自覚させられたようで ヤクトワルトの胸の奥がチリリと妬けた。

 

「ノスリ殿、縄を掛ける。少し   ?」

 一足先に屋根に登り、縄をかけようと近づいたオシュトルは、ノスリの様子がおかしいことに気が付いた。

「ノスリ殿?」

 

 再度声をかけても ノスリは手を離さなかった。青年に抱きついたまま、ただひたすら同じ言葉を繰り返している。ぎゅっと目を瞑り 周りを一切見ていないようだ。

 

 そして義勇の方もまた、困惑していた。

 耳元に届く幽かな声。

 繰り返される幽かな言葉に、振りほどくことを忘れる。

 

 その姿が、義勇の脳裏に焼きつく女性と重なる。目の前の女性とは 全くもって似ても似つかないはずなのに。

 そして   

 

 視界の端に、『炎』が映る。

 『炎』が ここにいる。

 

 それは、義勇にとって もはやありえない事だった。

 

 故にただただ困惑し   そしてそのまま 圧迫感で意識が遠のいていくのを止める術はなかった。

 

 

   * * *

 

 

「あり?」

 ちょうど屋根に登ってきたヤクトワルトは、かっくんと力無く落ちた腕に気が付いた。傍にしゃがんで青年の顔を覗き込む。

 

「・・・気絶してるじゃない」

「ええ!?」

 クオンが急いで駆け寄り、青年を診る。

 

 ノスリはぎゅうぎゅうと青年を力強く抱き締めており、彼の口も鼻もノスリの豊満な胸元に沈んでいた。顔色も徐々に紫色に変わってきている。

「やだ、窒息してる!?   ノスリ、ちょっと離れるかな!   ヤクトワルト、剥がして」

「おう、ちょっくらごめんよっと」

 ノスリから青年が剥がされる。

 

 放心した顔のノスリは、ゆっくりとヤクトワルトに目を向け、そして抱えられた青年に目を向けた。

 

はら はら

 

 視線を青年に固定して 放心した顔のまま、ノスリが涙を流す。

「 おうぎ・・・」

 

 ヤクトワルトは青年をそっと戻した。

 

 

「・・・ヤクトワルト?」

「っ   俺には無理じゃない!」

 オウギが消えて こんなに落ち込んでいるノスリから、引き剥がすなんてできない。

 たとえ彼女の弟のオウギと この青年が似ても似つかなくても。あとで本人に知られて闇討ちされようと   姉であるからこその何かを感じ取っているかもしれないではないか。

 現に青年を戻されたノスリはピタリと泣き止んでいる。

 

「ふむ、ではふたりを一遍に運べば良いだろう!」

 

ひょいっ

 

 そんな音がするほど軽々と、『彼』は青年を抱きしめたノスリを抱え上げる。

 成人男性が女性を抱え、抱えられた女性が成人男性を抱える   とんでもない絵面だった。

 

「ソウダネ、 お願い」

 ちょっと面倒になってクオンが頷く。

「任された!   では、先に白楼閣に戻っていよう!」

「あのっ、でしたらココポに乗せてください   ココポ、お願いできるよね?」

 当然だ、と言うように一声鳴いて応えるココポ。

『彼』が屋根を降り、ルルティエとココポの元に向かう。やがてノスリと青年が固定され、ココポが走り出す。『彼』がそれに続いていく。

 

 見えなくなっていく彼らを見送って、クオンは裾をはたきつつ立ち上がった。

「あんな状態じゃあ、ノスリが正気に戻るまで あのヒトが目を覚ましても何か聞き出すのは ちょっと無理かな」

「で、あるな」

 オシュトルも腕を組んで同意した。

 

 異形による被害が出るようになって、すでに二十日余りは経過している。夜毎討伐に出ているにも係わらず、被害は一向に減る気配を見せない。

 しかしここにきて変化が起きた   異形ではなくヒトが現れたのだ。

 しかし代わりに   

 目を閉じて 消えてしまった者たちを想う。

 オウギ、アトゥイ、キウル、ネコネ、そして   ハク。

   どうか、無事でいてほしい。

 閉じた目を再び開ける。そして 視界の端に白く輝くものに気付いて、オシュトルは北の方を振り仰いだ。

「オシュトル?」

 不意に動いたオシュトルを見上げる。

 

チカッ

 

 彼女の視界の端に 光がさした。

 

 山の向こうから太陽が昇ろうとしている。

 

「朝・・・」

 

 徐々に昇る太陽が、帝都の北にそびえる巨大な白亜の建造物を照らし出す。上から順に陽光を受けて、帝都の象徴たる巨大な建造物が キラキラと輝いていく。

 白亜の建造物の次は城下だ。

 光を受け、朝露に濡れ 輝く。

 

   帝都が 目を覚ましていく。

 

 それはもう   クオンにとって大変悔しいことに   荘厳で、目を奪われるほどに美しかった。

 

   今日は 長い夜だったじゃない」

 どっかりと刀を抱えて座り込み ため息をつくと、ヤクトワルトもまた、しばし帝都の朝の光景に魅入るのだった。

 

 

   * * *

 

 

 朝日の元 頭からひょろりと伸びる飾り羽根を揺らして巨鳥   ココポが ルルティエと、ノスリ、義勇を乗せて走る。

 その横には『炎』。ココポの走る速さに難なく合わせて並走していた。

 

「帰ったら、今日の朝餉は何にいたしましょうか?」

 風を受けなびく髪を押さえながら、ルルティエは隣を走る炎の青年に声をかけた。

「そうだな   できればサツマイモで頼む!」

「またそれ・・・ ふふふ 本当にその『さつまいも』がお好きなんですね。 でも   ごめんなさい、まだそれらしいものは 見つかっていないんです」

「そうか   まあ良い! ルルティエ殿の料理はどれもうまいからな!」

 がっかり、と項垂れたのは一瞬。 すぐに気を取り直したように顔を上げ、どこを見ているかわからない目が正面を向く。

「そう言っていただけると   でも、見つかったら必ず、それを使ったお料理をたくさん、たっくさん 作りますから・・・楽しみにしていてくださいね

 

   キョウジュロウさま」

 

 

「ああ! 楽しみにしている!」

 

 

   ああ、やはり。

 

 わずかに戻った意識の向こうから 微かに聞こえてきた会話に、義勇はうっすらと目を開け 並走する『炎』を見た。

 風になびく炎のような髪。意思の強そうな緋色の瞳。

 

 やはりこいつは かつての仲間だ。本人だ。

 自分には手に余る地位   柱として、真に相応しかった人物。

 

 義勇の『水』とは 対極に在った者。

 『炎』を 極めた者。

 

 目を閉じて、その名を唱える。

 

 

   煉獄 杏寿郎。

 

 

 何故。

 何故だ。

 

 どうして   死んだはずのお前がここにいる。

 

 

 ぐるぐるとそればかりが頭を巡る。

 

 考えても 考えても。 酸素の足りない頭は霞みがかって、どれだけ経とうと何も浮かんでこない。

 そうしてまた霞が強くなる。

 

 義勇の意識は、そこで再び 完全に途切れた。

 

 

   こうして彼は 完全に逃れる機会を失ったのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「む?よもや! 呼吸が止まっているぞ!?」

「えっ!? 大変!   ノスリさま、ちょっと!もうちょっとだけ 腕を緩めてください!」

 

 




ようやく最初のうた偽パート終了。

本当は前話とセットだったのを、長くなったのでちょうど良さげなところで区切ったら あれもこれもと付け足したくなり、元々無かったはずの会話がどんどん増えていって、結局 余計に長くなってしまったと言う罠に嵌る。
どう言うことなの。


帝都コソコソ噂話: 義勇語録 1

訳 1:(炭治郎たちを追いかけなければならないので、)お前たちに構っている暇はない

訳 2:   っ 待て! (俺が)わからないのか!?


 ▽ ▽ 話の都合上、辻褄が合わなくなってカットした台詞

第壱夜より 伊之助がネコネをじっと見下ろしていたシーン:
(それは鬼じゃないから)間違えるな。(何処だか知らんが鬼の気配が多い。俺はあっちにいる奴を仕留めてから行く。状況からおそらく炭治郎たちもいるだろうから、)さっさと(合流しに)行け」


次回・鬼滅パート。


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