帝都ヒノカミ奇譚   作:龍羽

9 / 12

話が噛み合わない。


第捌夜  交叉するもの

 

 

 

 

 

「ヤマトとも呼ぶ?」

 しのぶの台詞に、ハクは思わず鸚鵡(オウム)返しに聞き返した。

 

   ヤマトとも呼ぶって何だ。ヤマトはヤマトだろうに。

 

 その心中に疑問が渦巻く。

 そういや、最初に自分と話してた時も言ってたな。そんな名前の地名はこの辺りに無いと   地名としてのヤマトはあるって事か。

 

 大国の名前を地名に?

 

 いや、いくらヤマトを知らない遠方の国だとて、誰にも指摘されないなんてありえない。

 そうだ、そう言えば引っかかっている事はまだある。

 

「そういや自分も聞きたいことがあるんだが」

「何でしょうか?」

「あんた、さっきも 最初に自分と話した時、『とうきょう』とか言ってたな   今の年号は何なんだ?」

 

 ん?

 

 言ってしまってからハクは、はたと我に返ったような気になった。

 

 あれ、『年号』ってなんだ?

 自分は今 何を聞こうとした?

 何だか問うべき言葉が迷子になったような   

 

 しかしその疑問はしのぶの答えを聞いて吹き飛んでいった。

 

「今は大正の世ですよ」

「へえ、そうか。 たいしょう・・・『大正』!?」

 

 思わず素っ頓狂な声が上がる。皆の注目が一斉にハクへと集まった。

 

「知ってるんですか、ハクさん?」

 キウルの問いに頷く。

「そりゃあお前、大正ってのは・・・   何だ?」

「はい?」

 だがその勢いは、急速に萎んで行った。しのぶの声に棘が混じる。

 

「いや、本当に知らない。なんだ、大正って」

「ご冗談でしょう?」

 にっこりと微笑むしのぶにヒエッと肩が震える。

 この雰囲気   怒っている時のクオンのようだ。もし、しのぶにもクオンのような尾(きっと黒い)が有るのなら、彼女の後ろで今まさにヒュンヒュンと勢いよく振れまくっている所だろう。そしてこちらに伸びて来る長い尾。

 

 ここでネコネの冷たい目がハクを射抜く。

「気にしなくていいのです。そのヒトは時々可笑しなことを口走る癖があるのですよ」

「あら、そうだったのですね。気がつかなくて、申し訳ありません」

 それでハッと何かに気づいたように しのぶが口元が隠れるよう手を添えた。哀れなものを見るような目を彼に向けてくるおまけ付きである。

「お前たちは、さっき会ったばかりなんだよな?」

 とんだ連携コンボに、ハクは思わずツッコミを入れる羽目になった。

 

「年号が変わってまだそれほど経っていないとはいえ、大の大人が知らないなどと世情に疎いにも程があるぞ。どんな田舎者でも耳に入る事だ。何処かに監禁でもされていた訳でもあるまいに、巫山戯るのはその面だけにしろ」

 伊黒がネチネチとハクの常識の無さを責める。言葉に棘、どころか 苛立ちすら滲み出ていた。

「いや、だって   それは・・・」

 

 それは、   何だ?

 

 反論しようと口を開いてみるが、それ以上は言葉にできなかった。

 考えるほどに頭の中に砂嵐のようなノイズが走って一向に答えにたどり着けない。

 

 自分の中に、答えが 無い。

 

 

 

 歯切れの悪くなったハクに、しのぶもまた考える。

 

 さっきのハクの反応   あれは、少なからず何か知っている者の反応だった。

 なのに今は、本気で心当たりがないように見える。あるいは何か隠しているのか   だとすれば一体何を・・・?

 

「師範!」

 

 そうしている内に聞こえてきた少女の声に顔を上げる。先程 消えた炭治郎たちの捜索を指示した、しのぶの継子   栗花落カナヲだった。

 

「あ、さっきの()や」

 アトゥイの朗らかな声にハクもそちらを見る。

 

 長い黒髪を右片側の高いところで一つに結んだ少女だった。師弟らしく髪留めに使っている濃い桃色の蝶々飾りは、しのぶの藤紫色のものと色違いだ。背は小柄なしのぶより少々高い。おそらくノスリと同じか 若干高いくらいだろうか。

 三ツ葉の形に結ばれている赤い組紐飾りで留めた、白いケープが花のようにふわりと舞う。黒い袴に脚絆といった隊士ばかりの中、膝丈ほどのプリーツスカートに白いブーツといった出立ちだった。

 

 しのぶはカナヲの事を 継子の事も含め簡単に紹介すると、報告を促した。

「カナヲ。どうでした?」

「やっぱり炭治郎たちがいません」

 

 結果は否。淡い期待もあったものの、しのぶが予想していた通り 見つからなかったようだ。

 

「そうですか。やはり戻っていない   鬼を倒したわけではありませんからね・・・」

「取り逃がしたんですか?」

 深刻そうに悩み込むしのぶに、カナヲは多少なりとも衝撃を受けた。鬼によって何かしらの被害はしばらく継続するとしても、原因の鬼自体をしのぶが、他の柱たちが取り逃がすとは考えにくい。これは思いも拠らない非常事態だった。

 

 指示を受けていた時は考えずにいられた不安が、カナヲの奥底を鈍く突ついていく。

 

 

「何か あったのけ?」

 ただならぬ様子にアトゥイが心配を寄せる。しのぶは深刻な顔でハクたちの方へ向き直った。

 

「あなたたちが現れる前に 数名、空気が滲んだような空間に囚われ、消されました。鬼による異能の技   『血鬼術』によるものと思われます」

 

「何ですって   !?」

 いち早く反応したのはキウルだ。穏やかでない空気にオウギが珍しく空色の双眸を開いた。

「・・・何人 消えたんです?」

 その問いに、しのぶはカナヲに報告の続きを促す事で答えた。

 

「見つかってないのは、炭治郎、伊之助、善逸   それに水柱様です」

 

 最後に挙げられた名に、流石のしのぶも驚きを隠せなかった。

「冨岡さんも?」

 しのぶの確認する声にカナヲが頷く。宇髄が苦々しく目をそらした。

 

   だから茂みの向こうに消えたきり戻って来なかったのか。

 

 暗闇に向かって走って行ったからだろう。今の今まで気付かなかった   否、気付こうともしなかった。

 

 そもそも義勇とて宇髄と同じく『柱』の位にいる者。誰もが認める実力者だ。其処らの雑魚に遅れをとる事はおろか、消息を絶っているなんて思いもしなかった。

 無意識にも彼の腕にどれだけ信頼を寄せていたのか、今の宇髄は思い知らされた気分だ。

 それだけじゃない   もし義勇があの時 宇髄より先に走って行かなければ、あそこで戻って来なくなったのは自分の方だったかもしれないという事実だ。

 

 結果論とはいえ、自分が消えていたかもしれないと思うと背筋に冷たい物が走るようだった。

 

 

「では、消えたのは4人   いえ、禰豆子さんも入れて5人ですか」

 しのぶは炭治郎たちが消えた時の状況を冷静に思い起こす。

 

 あの時   炭治郎たちが消える直前、空気の滲みから生えたあの腕のようなもの。あれは、禰豆子が入った箱を狙っていた。

 もしくはあの場にいた全ての鬼を無差別に鬼を引き込んでいたのか。

 その可能性はある。

 追いかけていたあの鬼たちは、明らかに何かを待っていた   禰豆子も仲間だと認識したのかもしれない。

 

 そこまで考えて ふっつと、しのぶの腹が煮える。

 鬼は嫌いだが、あの()をその辺の悪鬼と同一視するなどと。

 

 なんと不愉快極まりない事か。

 

 

 

 一方のハクは、カナヲの報告から始まった一連のやりとりを眺めつつ ぼんやりと考え込んでいた。

 

 常識が通じない。

 知らない場所。

 人が消えた。

 

   こういった話に覚えがある。

 

 どこで読んだ   いや、閲覧した・・・?

 

 頭の中のノイズの向こう。

 やがて見えてきた脳裏の闇に、ぼんやりと明滅するホロ・ディスプレイ。ジジジジと低く幽かに唸る投影マシンの駆動音。立ち上がったウィンドウ内を大量の文字の羅列がスクロールされていく   

 その脳裏の光源が音を立て 闇に戻ると同時に閃いた。

 

「そうか   『異次元世界理論』だ」

 

 その瞬間 如何にしてその情報を手に入れたかを彼は忘却した。

 

 

「なんですって?」

 急に声を上げたハクに、しのぶも考えるのを中断する。他の面々もハクが口にした耳慣れない言葉に各々興味や疑問などを表した。

 

「異次元世界理論   もしくは多次元宇宙理論か。

 この宇宙には、自分たちがいるこの世界とは、位相と次元の異なる別の世界が存在するっていう理論だ。普段は目に見えないが、時折に干渉しあいながら確かに存在するものだという。

 例えば次元のずれた世界には、今いる自分と姿形は同じでも 全く性格の異なる自分がいるなんて事も有り得るんだそうだ。 まあ所謂パラレル   『別の世界』の話の事だな」

 

 それに気付けば目に留まる。しのぶや宇髄だけではない。此処に集った鬼殺隊の者たちに対して、さっき抱いた違和感の正体。

 

 此処にいる連中には、毛に覆われた耳も尾も無いんだ。

 それはある意味 彼がよく知る   

 

「そんな理論があるなんて 聞いたこともないのです」

 ネコネが声をあげる。確かにこの少女も流石に知らない事だろう。

「よほどの暇人か趣味人しか手を出さない超マイナー・・・知名度の低い分野だからな。真面目なネコネが知らなくても無理はない」

「なるほど、ハクさんも暇人でしたね」

 オウギの茶々にひと睨みすれば、何事もなかったように姿勢を正された。気を取り直してしのぶたちに向き直る。

 

「5人消えたって言ってたな   こっちの頭数と同じだ」

 そして重々しく告げられた人数の話。

 

 5人消えて、5人現れた   その科白が意味するものとはつまり。

 

「・・・私たちの世界で消えた5人は、貴方方と入れ違いで 今は貴方方の世界とやらにいる、 と?」

「あくまで仮説だ。 だが数が合うなら その可能性は高い」

「師範・・・」

 ハクが頷くとしのぶは再び考え込むように拳を顎に添えた。カナヲが心配そうに寄り添う。

 

「あ〜〜・・・ 難しすぎてさっぱりやえ」

 アトゥイが眉を八の字にして悲鳴をあげる。

 

「要するに、わたしたちがここ最近退治していた異形ども   此処では『鬼』と呼んでいるアレらの持つ特殊な能力で、わたしたちは わたしたちの知る場所から、全く違う上に繋がってもいないこの場所へ移動させられた、そう言う事なのです?」

 それとは対照的に理解を示したのはネコネだ。今し方得たばかりの知識から、状況をよく分析する。さらに考え込む姿勢は幼げながらも思慮深さを思わせた。

 

 伊黒は不愉快だった。

「しかもその原因となった鬼ども自体も 此方から流れたもの   フン、何とも不愉快な話だ」

 宇髄たちと渡り合うこいつらが 『ここ最近』狩り続けていると云う鬼ども。

 さっき取り逃がしたという鬼どもも含め、もう何体も渡っていると見ていい。まったく余計な事をしてくれる   これだから鬼は嫌いなのだ。

 

 そこでオウギが口を開いた。

 

「なるほど、ならば先ほど僕の見ている目の前で 男の方が消えたように見えたのも、気のせいではなかったようですね」

 

 その爆弾発言に全員の視線が一斉にオウギへと集まる。

 

「あの暗闇にいたのはテメェかよ」

 一同を代表して宇髄が呆れたように呟いた。

 ハクたちが現れた直後、宇髄が聞いた幽かな物音。音に反応して動こうとした彼を制して、義勇が暗闇に消えて行った。

 

 その後の胡蝶とハクのやりとりも。

 それから始まった戦闘も。

 

 つまりこの男、最初からあの場所で すべての成り行きを見ていた事になる。

 

「お前な。そうならそうとさっさと出てこい。何してた」

 そう問うたがハクは知っている。

 彼がこういう時(姉のノスリが絡んだ時は特に)、大抵 笑って見ているような奴である事を。今回もどの場面で出て行けば最良か、図っていたに違いないと。

「何しろ目の前でヒトが消えたものですから。てっきり誰かが掘った落とし穴にでも嵌ったのかと思いまして、しばらく警戒していました」

 案の定 しれっとそんな事を宣うオウギ。

 

 しのぶは落とし穴の底(結構深い)に無表情で転がる義勇を想像して肩を震わせた。ツボだった。

 

「仮にも柱がそんなもんに引っかかるかよ。本ッ当、良い性格してんなお前」

 一方の宇髄は不愉快だと言わんばかりの目をオウギに向ける。彼は柱の中でも古参の部類だが、しのぶ程義勇と連む事がない故に、義勇が落とし穴に嵌るような絵面など想像だにしなかった。

 それは伊黒も同様で、宇髄よりも毛嫌いしている分 むしろ顕著だ。

 

 ハクは半ば予想してはいたものの げんなりと肩を落とした。

 

   何処に来てもぶれないな、こいつは。

 

 ちょっとでも本人基準で楽しそうな事があれば、周囲をも巻き込んでおちょくるような奴である。この先のことを考えるに、穏便にというのは骨が折れそうだ。

 しばらく頭を悩ませることになるだろう事は、想像に難くなかった。

 

「あっ」

 

 今度はネコネが声を上げる。

「どうしたんですか ネコネさん?」

 キウルの心配を他所に、彼女はしのぶとカナヲをまっすぐ見上げた。

 

「さっき言ったイノスケさんって もしかして牙のあるケモノ頭の被り物のヒト ですか?」

「会ったんですか!?」

 しのぶが前に乗り出した。どうやら消えた者たちの内のひとりと一致したらしい。

 

   いや待て。 今ネコネの奴、何て言った!?

 

「さっき 森の中に迷い込む前、路地裏でわたしとルルティエさまを助けてくれたのです。ちょっと怖いヒトでしたけど、あっという間に二体倒してくれました。雷の音に反応して 雄叫びをあげながら走り去って行ったです」

 

   いやどんな奴だ。

 

 ハクは思わず心の中で突っ込んだ。

 森の中に迷い込む前の路地裏   つまり帝都の路地裏か。そこで鬼をおびき寄せている最中に助けられた。 そういう事らしいが、ネコネの話からも滲み出てくる奇行に 本当にそんな奴がいるのか疑問が湧く。

 

「伊之助くんで間違い無いようですね。雷の音は   おそらく善逸くんでしょう。なら一緒に巻き込まれた炭治郎くんと禰豆子さんも無事・・・」

 

   いいのか。ますますどんな奴だ。

 

 普通に聞いたらただの不審者だ。しのぶの隣でホッと胸を撫でおろすカナヲがいなければ、そんな奴が本当にいるかどうかすら疑わしいところだった。

 

「じゃあこれで冨岡含めこっちの5人とそこの5人が入れ替わったって線で決まりって事か」

 そして普通に話が進んでいく。いるのか、そんな奴が本当に。

 

 向こうで何らかの混乱が巻き起こっていない事を ハクはそっと願った。

 

 

「俄かには信じられませんが、まあ無事だろうと判っただけでも良しとすべきですね」

 しのぶはほっと胸をなでおろしながらも、何処に行っても伊之助らしい言動にやれやれと肩をすくめた。

「無事に向こうに行ってても、ウチらみたいにオシュトルはんやクオンはん、ヤクトワルトはんたちと喧嘩にならないとええけどなあ」

 

 ありえる。

 

 アトゥイに指摘され、しのぶはあえて考えないようにしていた事を考えさせられる羽目になった。そして向こうに行った面々を思い浮かべ、頭を抱えたい衝動にかられる。

 

 炭治郎と善逸ならともかく、義勇や伊之助なら、何をともなく戦いになってしまいそうだ。

 

 何とも居た堪れない空気が辺りに漂う。

 

 

「ま、まぁ ネコネが助けられたんなら大丈夫だろ。ルルティエが向こうにいるならきっと証言してくれるさ」

 

 確かネコネはルルティエと一緒に行動していたはず。ならばその伊之助という奴がネコネを助けた時、彼女もそこにいたはずだ。

 いくら奇行が目立つ奴でも、ネコネが助けられたという証言さえあれば無下にはされない   筈。

 

 気休めのごとく発せられた言葉を、しのぶたちは 今は信じるしかなかった。 の、だが。

 

「オシュトル殿はネコネさんのことを、それは可愛がっていますものね」

 

「うなっ そそそんなこと ないのです・・・」

 オウギの一言で、ボッと音がするほど真っ赤になったネコネ。照れ隠しか己の大きな尾を抱えだした。そこにアトゥイが抱きつく。

「ネコやん、かわええなあ」

 

 ハクの言葉で一度は気休め程度でも安堵したしのぶは   宇髄も伊黒も、オウギの一言から始まった一連の会話で逆に不安を募らせてしまった。

 先ほどのネコネの自己紹介では、彼女が小姓という立場だと言っていたからだ。当のネコネの反応が、恋する幼子(おさなご)に見えるのもいけなかった。

 

   え、可愛がるってどういう意味です?

   こんな小さい餓鬼に、不貞を働いてるとかじゃねえよな?

   少女趣味とかではあるまいか、そのオシュトルという男。潔白とやらは何処に行ったのだ。

 

 ネコネに抱きついて頬ずりするアトゥイを前に、三者三様、それぞれの心の内で不安が渦巻いた。

 

 

 

伝令! 伝令! カァーッ!

 

 

 急に響き渡った片言の声と鳴き声で、慣れないハクたち5人は大きさの大小あるが肩を揺らす。

 そしてこの場の全員の視線がほぼ一斉に上空を向いた。

 

 そこにはいつの間にか 多くの鴉が集っている。

 

 あるものは木の枝に留まり、

 あるものは上空を旋回し、

 

 叫ぶ。

 

「本部ヨリ伝令アリ! 異界ノ客人、5名! 本部マデ連レ帰レ!」

 けたたましく伝令を伝えるのは 上空を旋空している方だった。

 

   早い。

 

 しのぶは伝令を繰り返す鴉たちに目を丸くする。

 報告書を送ったのはついさっき。それを読んで指示を出したにしてはあまりに早い。きっとまだ しのぶの送り出した鴉は、報告書を送った相手に届いてすらいないだろう。

 

 

 報告書を送った相手、鬼殺隊の頭領。

 御館様   産屋敷耀哉。

 

 『先見の明』と呼ばれる特殊な力を持つお方。

 

 

   さすが御館様。 此方の事はすでに お見通しだったようですね。

 

 

 

「まあ、そういう訳ですので   ご同行願えますね?」

 未だ叫び続ける鴉たちから目を離し、ハクたちに向き直る。

 

「断っても連れて行くんだろうに   今度はもう少しゆっくり頼む」

 やれやれと仕方なさそうにハクが頭を掻いた。それでも滲み出る態度は、もうこれ以上歩くのは勘弁してほしいと如実に物語っている。

「大丈夫ですよ。目的地へは籠をご用意致しますから」

「本当か! 助かる」

 一転。ハクの顔は瞬く間に ぱあっと明るくなったような笑顔を見せた。

 

「ただし、籠のある所までしばらく徒歩だ。せいぜい気張って歩く事だな」

 伊黒の台詞で途端に青褪めてげっそりするハク。

 しのぶは首を傾げた。

 

   籠なら此処まで運んで来られるのでは?

 

 本当に ここまで初対面の人間相手に伊黒が絡むのは珍しい。

 

「なんなら、俺様がド派手に担いで行ってやろうか」

 宇髄の言葉にパッと顔を上げ、とても良い笑顔で彼を見上げるハク。

「ただし目隠し付きな!」

「断固 籠でお願いします!」

 青くなって必死に拒否するハク。

「チッ、わかったよ」

 宇髄が舌打ちして再びホッと胸を撫でおろすハク。

 

「だが御館様を待たせる訳にはいかないからな、派手に揺らすぜ!」

「できればゆっくり! 安全運転してくれ!」

 そしてまた青褪める。

 

 あ、これ面白い。

 

 コロコロと変わるハクの一喜一憂で、しのぶは宇髄と伊黒がハクを揶揄う理由を察した。ハクから見えない所では、オウギもまた ふるふると笑いを堪えている。

 

   これは、揶揄いがいのある人ですねぇ。

 

 鬼以外には滅多に発揮されないしのぶの嗜虐心を(くすぐ)られた瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


ド派手な誤解の末に超バトってました。

 

 

 

これにて『起ノ章』が終了です。

 

最初のひと段落が終わりました。

途中 間が空いた事もありましたが、いかがでしたでしょうか。

 

プロット書き起こし当初は、次の話までが『起ノ章』だったのですが、その後の話の繋がりから 次の章に回すことにしました。

 

まさかの炭治郎たちかまぼこ後回しの暴挙。

 

たくさんキャラが出るのでなるべく空気にならないよう頑張ってますが、なかなか難しいですね。

 

 

一応 大まかな話の流れは最後までありますが、自分が飽きたらそれまでです。

ので。

しばらくの間、楽しんでいただけたら幸いです。

 

 

最後に

 

遅ればせながら、

『うたわれるもの 斬2』 発売決定

および

『鬼滅の刃 遊郭編』 放送決定

 

おめでとうございます。

 

 

自分はPS4を持っていないので『斬』すらやっていないのですが、プレイ動画見て楽しんでます。オシュトル様のDL衣装 格好いいですね。そして『斬2』のPVで泣きそうになりました。

 

文字通り『ふたり』で創り上げる『オシュトル』に胸熱です。

 

 

『遊郭編』も、もちろん楽しみで。

 

小西さんの充てるキャラのイメージって、自分の中でどうしても活発な青年の印象が強いのですが、あのPVによって今から期待で胸膨らませているところです。

 

いやほんと、声優さんって凄いですね・・・!

 

 

 

ではこの辺で。

 

 

 

 

 

帝都コソコソ噂話:そのころの任務帰りの甘露寺さん・KY10(鴉がやってくる10秒前)

 

今日は伊黒さん、どこに連れてってくれるのかしら。

伊黒さんが教えてくれるお店、いっつも美味しくって大好き!

待ち遠しいわ、待ち遠しいわ。

 

 

 

 

 

 

 

 












 +* +*+ *+



 幾千の星が輝く空の下。
 見渡す限りの果ての無い水面に、空を鏡のように映す世界があった。

 空に輝く星々は、よく見れば 青白い燐光を淡く放つ蝶たち。
 光のない黄昏の世界を唯一照らすものだった。

 誰もいない世界に、波紋が揺れる。


「動いた」

 姿なき声が呟いた。
 別の声がため息をつく。
「やっとか」
 こちらもやはり姿は見えない。

「ああ、ほんの一時のか細い繋がりだったが上手くいった。これで釣れると良いんだが」
 何かをトントンと叩く音が空間に響く。

「しかしよォ、あっちに連れてかれた連中は本当に大丈夫なのかい」
 口調は伝法だが、声には心配が色濃く乗せられている。
「ふむ そうだな   
 パチンと音がして、しばし間が空く。

 やがて何かを動かしたような布ずれの音が幽かに聞こえた。

「これで良いだろ」
「相変わらず容赦ねぇなぁ」
 フン、と満足気な声に、くつくつと含むような苦笑いが続く。
 足音のない波紋が移動を始めた。

「さて、念には念をだ。ちょっと交渉する」
 波紋に続いてもうひとり分の波紋が揺れる。

「へえ、いつになく慎重じゃねぇか」
「当たり前だ」

ぱしゃ ん

 無音の世界に水音がやけに響いた。


「あんな事が許せるか。 今度こそ最後の一ッ欠片まで完全に根絶やしにしてくれる」


 黄昏の空間が、痺れたようにピリッと張り詰めた。

 しばしの間。

 だがその重い空気は瞬きの後、まるで幻だったかのように霧散した。

「お前にだって しっかり働いてもらうんだからな」
 見えない姿が振り向く。
 応える声はクスリと微笑った。
   無論その時は 慶んで其方の剣となり、存分に舞って魅せようぞ」

 ふたり分の微笑む気配。

 誰もいない空間に、笑い声だけが響いていった。








   【 起 】ノ章    了。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。