ガンダムビルドダイバーズ アナザーテイルズ   作:守次 奏

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「ガリアムス」様の執筆されている「ガンダム:ビルドライジング」より「MS斬りの悪魔」ことアズキさんが登場する回なのでこの場を借りて感謝を申し上げると共に初投稿です。


第十一話「シャフランダム・ロワイヤル」

 ヤナギランを納品して、ロビーへと帰還したリリカは、何よりも先にミワの姿を探すべく、人でごった返す雑踏の中を駆け抜けていく。

 時刻は大体放課後を過ぎた辺りで、ミワが通って、リリカが一応籍を置いている学校を早めに出ればシーサイドベース店に間に合う算段になる。

 謝らなければいけない。そして、お礼を言わなければならない。

 今でも完全に、ミワの言葉や過去に自分を軽々と乗り越えて高みへと登っていったその才能に対する嫉妬だとか、そういうものを完全に捨てられたわけではない。

 それでもミワは、間違ったことは言っていなかったのだ。

 チィから伝えられたメッセージを頭の中で繰り返しながら、リリカは、走り抜ける仮想の躯体にフィードバックされる疲労に息を切らす。

 前衛の仕事は、立っているだけでもそれが達成できる──と、いうのは極論が過ぎるが、リリカの場合それをどう活かすかを考えれば、自ずとミワへと狙いを向けないように立ち回るタンク役と、そして近距離アタッカーというのが妥当なものになるのだろう。

 

「はぁ、はぁ……っ……」

 

 リアルと同じように、走り続けていれば息が上がるところまで忠実に再現したGBN運営班の技術には驚くべきものがあるが、急いでいる時はただ邪魔なだけだ。

 声が聞こえたのは、切らした息を整えるように、リリカが立ち止まったその時だった。

 

「やっほやっほー、リリカちゃん。もしかして、探した〜?」

 

 ちょうど今ログインしたばかりであることを示すように、リリカの眼前で再構成されるテクスチャが、人の形を成していく。

 それは他でもない、姉の──ミワの姿に他ならない。

 この仮想郷においても、とろんとした眠たげな瞳に、どこか気怠げな喋り方、そして、癖っ毛気味であることを除けば自身とよく似た容姿をしているミワを、リリカが間違えるはずもない。

 

「う、うん……お姉ちゃん……!」

「うんうん、それは嬉しいなぁ……それで、どしたの〜?」

 

 完全にアバターが構築されきったことで、はっきりとロビーに姿を現したミワは小首を傾げながら、リリカへと問いかける。

 どうしたの、と問われれば、どうかしていて、そして、やるべきことだとかかけるべき言葉だとか、そういったものが瞬時に脳裏で膨らんで、リリカの思考回路はショートしそうになる。

 コミュニケーションはいつだって不全な、機能を果たしていない自身の脳内回路を無理やり繋ぐように深呼吸をすると、リリカは勇気を振り絞って、ぷるぷると拳を震わせながら、ぺこり、と腰を折ってミワへと頭を下げた。

 

「……ご、ごめんなさい……私、お姉ちゃんのこと、疑ってて……でも、お姉ちゃんが言ってたこと、嘘じゃなかったから、その……ありがとう、って言いたくて……!」

 

 しどろもどろになりながらも、最後まで言い切ることができたリリカの言葉に、ミワは思わず目を丸くしていた。

 ミワもミワで、正直なところ、ログインするのに抵抗感を覚える気まずさを抱えていたのだが、何があったのか知らないが、リリカはそんな、鉛の霧を振り払うように頭を下げて、言いづらかったであろうことをはっきりと言ってくれたのだ。

 ミワにとっては、それが何よりもただ誇らしかった。

 そして少しだけ羨ましく、妬ましかった。

 帆船のように誰かに背中を押されてリリカは行動するタイプの人間だ。

 そして、その追い風としての役割を果たせる人間は決して多いものではない。

 マギーなのかチャンプなのか、はたまた他の誰かなのかはミワにはわからないが、そんな風に、自分の殻に閉じこもりがちなリリカの背中を押す言葉をかけることができる人間に、そしてそれが自分ではないことに、泥濘へと足を捕われたような感じを覚えるのだ。

 ──それでも、リリカが前を向いてくれるなら、それ以上の喜びはないのだが。

 昨日のリリカ同様に、嬉しさと複雑さの間で板挟みになりながら、ミワは曖昧に、出鱈目な季節に降る雪のように小さく微笑む。

 

「大丈夫。大丈夫だよぉ、リリカちゃん。お姉ちゃんも……リリカちゃんに信じてもらえて嬉しいんだぁ」

 

 本心を全て曝け出すことができないところまでよく似てしまったことに奇妙な因果と、そして自虐的なものを感じながらも、ミワはその複雑さを切り捨てて思考のゴミ箱に放り込むことで、「喜び」だけを心の内側に取り込んだ。

 どこかぎこちなかった笑みも、にへら、と緩んだものに変わって、嬉しさ全開とばかりにミワはリリカを抱き寄せて、頬をそっとすり寄せる。

 

「……え、えへへ……そ、その……それで、お姉ちゃん……」

「うんうん、リベンジだよねぇ……ちょうどミワも、リリカちゃんと一緒に戦いたい、って思ってたんだぁ」

 

 気まずさを感じていたことこそ否定はできないが、紡ぎ出したその言葉に嘘はない。

 リリカが続けようとした言葉の先を読んで、ミワは頻りに首を縦に振る。

 二人はどこかぎこちなく差し伸べあった手を繋いで、ミッションカウンターに並ぶ列に加わるが、例によってノープランであるために、列が捌けるまでの間、ミワはGBNまとめwikiをコンソールから開いたウィンドウに表示して、受けられるミッションの種類を絞り込む。

 

「んー……この前の雪辱戦、って感じならこのバトランダムミッションが最適解なんだけどね〜」

「う、うん……でも、私、まだEランクだから……」

「だよねだよねぇ……責めてるんじゃないよぉ、ただリリカちゃんはリリカちゃんのペースで走ってくれればそれで構わないからね〜」

 

 バトランダムミッション。

 それは、ダイバーランクDから解禁される「フォース」……平たくいえばチームのようなものを組んでなければ受けることのできないミッションであり、完全にランダム抽選で同時にミッションを受注しているフォース同士がマッチングして、戦い合うというものだった。

 一応平均ランクだとかそういうものは、マッチングの材料として考慮されているらしい。

 だが、基本的には無差別で抽選が行われる都合で、初心者がなんとかDランクまで漕ぎ着けて組んだフォースが、フォースランキング第1位にして、不動のチャンプたるクジョウ・キョウヤが率いる「AVALON」だとか、それに次ぐ「智将」ロンメルが率いる「第七機甲師団」、そして戦いは数だよ、を地で行く巨大フォースアライアンス、「GHC」──グローリー・ホークス・カンパニーと鉢合わせることだって、十分にあり得るのだ。

 それならば野良のマッチングシステムを使って、条件を絞り込んだ上でフォース戦を申し込んだ方が確実に見えるのだが、その分バトランダムミッションは、獲得できるダイバーポイントやBCが通常のフォース戦に比べて大きいという特徴づけがなされている。

 だからこそ、闇鍋だとわかっていても各種フォースはその闇に沈んだ一筋の光明を求めて、今日もバトランダムミッションを受注するのだ。

 とはいえ、今のリリカとミワには関係ない話なのだが。

 タブをスクロールして、関連項目を探りながら、ミワはむむむ、と小首を傾げる。

 前に並んでいるのは気付けば、いかにもバカップルといった風情にイチャイチャと乳繰り合っている、映像作品「機動戦士ガンダムSEED」の主人公、キラ・ヤマトとヒロインであるラクス・クラインを思わせるダイバーだけになっていた。

 しかし受けるミッションが決まらない、と、ミワが首を捻っている時だった。

 

「……え、えっと、これ……」

「ん、なになに、どしたの、リリカちゃん?」

 

 おずおずと、控えめにリリカは「バトランダムミッション」の関連項目に表示されている、「シャフランダム・ロワイヤル」なる項目を右手で指して、ミワが着ている衣装の裾を左手で軽く引っ張る。

 

「おお、おお……確かにこれは盲点だったな〜」

「お姉ちゃん?」

「うんうん、ぐっどだよぉリリカちゃん。これはまあ、受ければわかるけど〜、今のミワとリリカちゃんに多分ぴったりなミッションかなぁ」

 

 シャフランダム・ロワイヤルの項目を開いて、概要をリリカに提示しながら、ミワは前のバカップルたちがミッションへとダイブしていったのを確認して、受付のNPDにそれを受ける旨を伝える。

 シャフランダム・ロワイヤル。

 それは劣化版のバトランダム・ミッションとでも呼ぶべきものであり、フォースを組めないランクであったり、或いはソロでプレイすることを信念としているダイバーに向けて作られたミッションだった。

 パーティー申請は反映されるものの、基本的には受注している全てのダイバーからランダムで抽選が行われ、即席の五人チームを作って戦い合う、というのがこのミッションの趣旨である。

 そして曲がりなりにも言葉がけだとかで連携が取れるフォース戦であるバトランダム・ミッションと違って、その性質は極めて野試合に近く、最初から五人パーティを組んで参戦することが推奨されるほどに、連携面だとかには期待できないという事情を抱えていた。

 だが、フリーバトルやフォース戦と違って、カジュアルにガンプラバトルを楽しみたいという層の需要に沿っているのもまた確かなのだ。

 概要を読み終えたリリカは、なるほど、とばかりに小さく拳を掌に打ち付ける。

 完全ランダムである都合上、きっとGBNにおける有名人と鉢合わせる可能性も十分に考えられるが、ミワと一緒にバトルでの雪辱戦と意気込むならば、確かにこれは打ってつけだ。

 

「リリカちゃん、ミッション受けたよぉ」

「あ、ありがとう、お姉ちゃん……その」

「ん……?」

「……が、頑張ろうねっ……! 私、前衛頑張るから……!」

 

 いかにも精一杯といった風情で頬を赤め、ぷるぷると震えながらもリリカは、自身の決意を余すところなく美羽へと伝えきった。

 ──クジョウ・キョウヤには誰でもなれる。

 あの日、チャンプ自ら起こしてくれた追い風は、リリカが張り出したボロボロの帆に確かな推進力を生み出して、仮想の海を往く力となる。

 

「うんうん……リリカちゃんが頑張るなら、ミワちゃんも頑張るよぉ……!」

 

 そんな妹の勇姿に思わず涙ぐみながら仮想の躯体を抱きしめて、ミワもまた力強く、唇から言葉を紡ぎ出す。

 先ほどイチャイチャしていたバカップルのように抱擁を交わした二人はそのまま格納庫エリアへと転送されて、愛機のコックピットに再構築されていく。

 チィから教わった前衛のお仕事、そしてミワが保証してくれた自分の腕前と、そして──

 今、コックピットに立ったリリカが操縦桿を倒したことでカタパルトへと踏み出し、その双眸に光を灯したAGE-1ブランシュの気持ちを胸に抱いて、リリカは戦場へ向かうべくその姿勢を低くする。

 

「え、AGE-1ブランシュ……リリカ、頑張ります……っ!」

 

 カタパルトに灯るスリーカウントがゼロになると同時に、白く染め上げられたAGE-1は、ランダムに選定されたステージである森林地帯へと勢いよく飛び出していくのだった。

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 地面に着地したリリカが真っ先に確認したのは、ミワ以外にランダム抽選されたことで結成された即席フォースのメンバーだった。

 まずはダイバーランクが自身と変わらない二人組の青年が二人、青色に染め上げれた【ジム・ドミナンス】と、白を基調として青を織り込んだ──要するにジム・ドミナンスの配色で塗り分けられた【ブルーディスティニー1号機】に乗り込んで、リリカのすぐ後ろに着陸する。

 そして遅れて、後ろに陣取る形でミワが、最後に飛び出してきた機体が最後尾に着地するのではなく、ふわりと優雅に爪先一つ分浮いた形で降臨する。

 その機体は、ちらりと一瞥しただけのリリカでも一目で分かるほどによく作り込まれていた。

 ウイングガンダムゼロ──そのエンドレスワルツ版を素体に、【ウイングガンダムプロトゼロ】の羽根を左側に寄せる形で二つ取り付け、開いた右側のジョイントには大剣をマウントするという独特な出で立ちからは、シンメトリーの機体をあえて崩してアシンメトリーにするという、ダイバーのこだわりが見て取れる。

 そして、スラスターの配置が変わったことで推進器が大きな偏りをみせても、ふわりとバランスを崩すことなく浮遊しているのは、実力の高さがなせる業だといってもいい。

 ──Bランク。

 自身より三つ上にして、GBNの中級者、或いは上級者へのきざはしとも呼べるランクに達したそのダイバー、「カエデ」は何か語ることもなく、ふむ、と小さく考え込むように、細い顎に指をやっていた。

 

『そんじゃとりあえず行ってみますか!』

『よし、切り込み隊長は俺たちってことでよろしく!』

 

 いかにも場慣れしていない、新兵丸出しな言葉を残して、森林地帯へと飛び込んでいくブルーディスティニーコンビを、リリカは静止しようとしたのだが、彼らはスラスターがオーバーヒートするのも厭わずに、全速力で最前線へと突っ込んでしまう。

 言葉をかける暇もなかったのだから仕方ないのではあるが、あちゃー、とばかりに、AWACSディンから移植したレドームで周囲の索敵を行なっていたミワは頭を抱える。

 

「お、お姉ちゃん……あの人たち、大丈夫かな……」

「えっとえっと〜、残念だけど、だいじょばないと思うなぁ」

 

 味方の構成を見ることもなく、そして敵を警戒することなく突っ込んでいく兵士がどんな運命を辿るかなど、想像するに難くない。

 一応分析の終わったデータを、リリカたち四機──あの、真っ先に突っ込んでいったブルーディスティニーコンビにも共有していたものの、突出してオーバーヒートを起こした二つの青い点は、案の定とでもいうべきか、四つの赤い点に囲まれている。

 南無三、と心の中で唱えながら、とりあえずはミワが狙撃しやすいポジションを確保すべく、そして一応は突っ込んでいった二人組をフォローすべく、リリカは敵機四機の背後へと回り込もうとした。

 だが。

 

『お待ちなさいな』

 

 それを制止するように、アシンメトリーのウイングゼロが大剣をすっ、とリリカの前に突き出して、透き通るような、しかし、凛と芯が通った声でそう告げる。

 

「……え、えっと……カエデ、さん……?」

『いかにもわたくしはカエデ。カエデ・リーリエですわ。無礼なのは承知、しかし自己紹介は後にさせていただきましてよ。そして……リリカさんでしたわね。突撃前衛は、わたくしが請け負いますわ』

 

 何か勝算があるのか、或いは作戦があるのか、短く告げるとカエデはアシンメトリーの翼を展開して、リリカがそうしようとしたように、敵機の背後へと回り込むようにブーストを噴かす。

 リリカはただ困惑していたが、レーダーの動きを観察していたミワは、何故この場において恐らく最も実力があるのであろうカエデが、前線に突っ込んでいったのかを悟って、こめかみに嫌な汗を滲ませた。

 戦場において突貫を行うケースは二つある。

 一つは先ほどのブルーディスティニーコンビのように、セオリーを知らずにがむしゃらに突っ込んでいく初心者の行動。

 そして、もう一つは。

 急接近してくる一つの赤い点を見据えて、ミワは覗き込んだレティクルにその姿が映らずとも、前者であることを期待した上で、ヅダの対艦ライフルから事前に持ち替えていた【ガンダムデュナメス】のGNビームライフルに出力を集中させて、躊躇いなくトリガーを引く。

 GBNにおいても、狙撃属性を持ったビームの弾速は凄まじいものに設定されている。

 そして、敵がただ直進してくるだけなら──姿が見えずとも、当たること自体は容易いものだ。

 ──だが。

 

『しくじりましたわ、抜けられましてよ! しばし其方で引き受けて貰えまして!?』

 

 既にレーダーから反応が消失していたブルーディスティニーコンビに代わって、四体一という不利な条件を引き受けているカエデが、通信ウィンドウ越しに切羽詰まった叫び声を上げる。

 カエデが突っ込んだ理由は単純なものだった。

 ただ、四機はともかく──「それ」を食い止めたかったからだ。

 

『斬ッ!』

 

 突貫を行うもう一つの理由。それは己が誰よりも強いという自負のもとにラインを強引に引き上げる、突撃前衛──エースとしての役割を果たすべく、敢えて行うものに他ならない。

 それを証明するように、凛とした言葉が走るよりも早く、音よりも速く放たれた狙撃ビームが、振るわれた一刀の下に「斬り裂かれた」。

 

「……ミワも大概、エンカ運腐ってるねぇ」

「……お、お姉ちゃん……?」

「……『MS斬りの悪魔』、こんなとこで会っちゃうなんて想定外だよぉ」

 

 狙撃ビームを切り裂くという離れ業を披露してぐいぐいと距離を詰めてくるその機体が、やがて逡巡しつつも、ミワをいつでも庇えるように陣取った、リリカのAGE-1ブランシュの視界に映る。

 その機体は質実だった。故に、剛健だった。

 血霞や返り血を思わせる赤でスミ入れが施された、ガンダム・バルバトス第二形態をベースとした、引き算の美学を体現するように太刀一本のみを装備した改造ガンプラ。

 従来はジャパン・エリアを本拠として、フリーバトルに明け暮れているはずの、ガンダム・バルバトス(もののふ)、「MS斬りの悪魔」の二つ名を冠し、多くのダイバーに恐れられ、多くのダイバーを屠ってきたその機体は今、研ぎ澄まされた刃を振るうべく、リリカとミワの前に立ちはだかるのだった。




メガトンエンカ
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