二度目のシャフランダム・ロワイヤルを無事勝利で飾り、ロビーに帰還したリリカを一緒に出撃したミワより一足先に出迎えたのは、無機質な合成音声だった。
【Congratulations!】
【ダイバーネーム:リリカのランクがEからDに昇格しました】
ダイバーランク。
それはこのGBNにおいて、強さの指標を表す度合いであり、高ければ高いほど良いものだとされているのは、リリカもwikiやら何やらで確認していた。
特に、DランクとCランクからがGBNは本番である、という記述が正しいのであれば、リリカはそのきざはしに立ったこととなる。
「おお、おお〜、リリカちゃん、昇格したんだねぇ」
少し遅れてロビーに帰還してきたミワは、表示しっぱなしになっていたダイアログからその事実を確認すると、ぎゅーっ、とリリカを抱きしめて、その頭を慈しむように優しく撫でた。
「あ、う、うん……その、なんだか実感、湧かないけど……」
「最初はそんなもんだよ〜、ミワだって今Cランクだけど、別に一人前になったって感じはしないからねぇ」
上を見れば、夜に浮かぶ満天の星々を仰ぐかのように、幾人もの英傑が、そして魔物が、神々が棲まうのがこのGBNという仮想郷にして、魔境でもあるのだ。
Cランクまで上がってようやく一人前とはいうものの、在野のダイバーの中にはランクの高さや低さに関わらず一定以上の実力を備えた、眠れる獅子とでもいうべき者が潜んでいたりもする。
要するに、上がって嬉しいコレクション要素ではあれど、本腰を入れて戦いに明け暮れるのでなければそれは単なる飾りにすぎない、というのがミワの見解であった。
ただ、攻略サイトやまとめwikiに記された通り、DランクとCランクが新たな要素の解禁されるターニングポイントとして設定されていることは紛れもない事実であり、そういう意味ではCランクまでさっさと上げてしまおう、という記述に関しても間違ってはいないといえる。
「え、えっと……Dランクからだと、フォース? っていうのが解禁される、んだよね……お姉ちゃん……?」
「うむ、然り然り。まあでも、そんな焦って考えることでもないよ〜?」
相変わらず豊かな胸元にリリカを抱きしめたまま、ミワは唇に人差し指を当てて、どこか考え込むような仕草を見せながらリリカへとそう囁く。
フォースというのは要するにチームのようなものだ。
ガチガチにランキングハックを進めていく武闘派もいれば、ただ放課後や退社後の時間を使って賑やかに遊んでいるだけのフォースもいる。
ただ、共通しているのは、その寄り合いに所属することに対して皆が何かしら共通した意識を抱いている──つまり、目的を同じにしたメンバーでなければ、フォースというのは成り立たないのが世の常なのだ。
緩く遊ぶつもりだけだったフォースが突如としてランク戦に名乗りを上げた結果空中分解を起こしたり、逆にランキングハックという無数のハードルを飛び越える戦いに疲れ果てて、そのまま解散したりといったトラブルもまた、枚挙に暇がないのである。
「……フォース、かぁ」
その言葉を聞いてリリカが思い出すのは、自分にとっての始まりとなった再構築の名を掲げる少女たち──「リビルドガールズ」のことだ。
薄い唇が確かに紡ぎあげたその名前は、今日において様々な意味で有名なものとなっている。
それは彼女たちが「ELダイバー奪還戦」こと第三次有志連合戦(非公式)で大きく名を上げたというのもあれば、ガンスタグラム──GBNにおける写真共有サービスにおいて、濃厚にして芳醇な百合の花を咲かせていることまで様々だ。
だが、リリカには漠然とした憧れこそ確かにあれど、あの「リビルドガールズ」と同じところに行けるかどうかについてはさっぱりわからない、といったところだった。
難しく考えなくても良い、とミワが言った通り、とりあえず今は忘れても良さそうだろう。
リリカはそう判断すると、抱きしめられている温もりを確かめるようにそっとミワの背中に手を伸ばして、自身もまた姉のことを抱擁する。
スナイパー対策として、というよりは過剰な気合を入れて持ってきてくれたあの超大型狙撃銃がなければ、敗れていたのは自分たちだった。
特にあのシュペールスーパーハイペリオンという金色の機体は、ミワにとっては天敵のようなものだ。
そういう意味では早期にリリカの脅威となりうるスナイパーを排除してくれたミワこそが、あの戦いにおけるMVPであったのだろう。
「しかししかし、凄かったね〜、リリカちゃん」
「……えっ、と……私……?」
「うむうむ、だってあの金ピカが張ってたバリアごと切り裂いちゃうなんて芸当、お姉ちゃんにはできっこないよぉ」
持ち込んでいたのが超大型狙撃銃ではなく、ヅダの対艦ライフルであったなら、ABAPSFDSでバリアをぶち抜くことはできたのかもしれないが、格闘の間合いに持ち込まれれば一気に形勢は不利に傾く。
そう考えると、リリカがいつの間にか作り上げていたシグルブレイドの活躍は目覚ましい。
狙撃手であるミワにとって、ドッグファイトはなるべくなら避けたいものだ。
あのシュペールスーパーハイペリオンとタイマンを張ってくれと言われれば、ミワは即座に首を横に振っていたことだろう。
「……えっと、その……私、頑張れた、のかな……」
「うんうん、リリカちゃんは誰より頑張ってたし〜、今でも誰より頑張ってるよぉ」
痛みを抱えたままGBNに流れ着いたリリカの傷に触れてしまわない程度に妹の頑張りを肯定しながらも、ミワはその傷に触れられないことに、少しだけ胸の辺りをナイフで切り裂かれたような痛みを覚える。
自分が自分である、というのはどうやったって逃れることができない宿命のようなもので、だからこそそこに嫌悪や絶望を抱く人間だって数知れないし、ミワだってその一人に当たるのだろう。
ぎゅっ、と、自身を抱きしめてくれるミワの腕に篭る力が少しだけ強くなったことを感じて、リリカはそこに微かな痛みと傷痕を見る。
自分が傷つき果てたように、そしていつもボロボロになってきたように、ミワもミワで、きっと何かしらの消えない傷を背負って生きているのだろう。
珍しく、言葉でこそなかったけれど、弱音を零した姉に何をしてやれるのか、自分に問いかけたって、答えなんて出てこない。
それでも──傷だとか痛みだとか、そんなものを抱えていても、このGBNであれば笑い合えるような気がしたからこそ。
ぎゅっ、と、リリカも言葉に代えてミワを強く抱擁する。
それが自分にとっての精一杯で、そして誠心誠意だから。
未だ、二人の間に横たわり続けているひび割れや断絶を埋めるように、そうでなければこのまま抱き合って、溶け合うことを望むように、姉妹は言葉こそそこになくとも、同じ悲鳴をあげながら、長く長く抱き合い続ける。
「……ありがとねぇ、リリカちゃん」
「……う、ううん……それなら、お姉ちゃんも、その……ありがとう……」
「こりゃあ一本取られちゃったかなぁ……うんうん、やっぱりリリカちゃんは世界で一番可愛くてキュートで素敵な、ミワの妹ちゃんだよ〜」
恥ずかしげもなくそんな身内自慢をするミワは堂々としていて、むしろ聞かされている側であるリリカが頬を赤らめ、耳まで真っ赤になるほどだったが、それだけ愛情を注がれているのだと考えれば、また違った鼓動が血液の流れに乗って、全身を駆け巡っていく。
とりあえずは雪辱戦も果たしてランクも上がって、苦労して作ったシグルブレイドも活躍してくれた。
ショート寸前の思考回路を保護するように横道へと考えを逸らして、リリカは今日の戦いを思い返す。
ミワのアシストこそあったとはいえ、あの状況から逆転できたことも含めれば、十分合格点といったところじゃないだろうか。
自分を褒めたり、自分にバツじゃなくてマルをあげるのはまだ難しい。
それでも、そんな風に考えることができるようになったのは、ミワがいてくれたり、チィとの微かな繋がりがあったり、ガンダムベースの制作ブースで出会った少女に──夜ノ森零に、クリアプラ板の切り出し方や磨き方を教えてもらったりしたからで。
言い換えるのならば、GBNがあったから、ここまで来れたのだ。
満天を仰ぎ見るように、リリカは消し忘れていた、自身のダイバーランクを昇格通知を一瞥する。
ならばこの仮想郷で、自分は何をなすべきなのだろう。
始まりのきざはし、その入り口に足を踏み入れながら、リリカはただ胸に感じる温もりに、そんなことを想うのだった。
◇◆◇
GBN総合スレpart.1116
1:以下、名無しのダイバーがお送りいたします
ここはガンプラバトル・ネクサス・オンライン、通称GBNに関する総合雑談スレッドです。
各種ミッションについてはwikiを参照した上で専門スレへ、フォース勧誘、ビルド構築、クリエイトミッションの攻略に関する相談も専用スレでお願いします。
【GBNまとめwiki】https〜
【ミッション攻略スレ】https〜
【ビルド構築スレ】https〜
【フォースメンバー募集スレ】https〜
◇◆◇
156:以下、名無しのダイバーがお送りいたします
シャフランダム・ロワイヤル受けてきたけどあそこ魔境すぎない?
157:以下、名無しのダイバーがお送りいたします
イマサラタウン
158:以下、名無しのダイバーがお送りいたします
あの魔境に飛び込みたがるのなんて闇鍋にチーズケーキぶち込まれても笑ってられるようなドMかもしくは来世に向けて徳を積んでる修行僧かの二択みたいなもんだぞ
159:以下、名無しのダイバーがお送りいたします
「下がれ、私が全て倒す」できるダイバーなら別に気にならないんだろうけどなあ
160:以下、名無しのダイバーがお送りいたします
そういやこの前「MS斬りの悪魔」が出たんだっけか
161:以下、名無しのダイバーがお送りいたします
幽霊とか妖怪の類みたいな扱いで草
162:以下、名無しのダイバーがお送りいたします
実際あの手の有名ダイバーと戦うとなるとやる気が途端に失せるからなあ……なんだよ狙撃ビーム切り払いって
163:以下、名無しのダイバーがお送りいたします
解説されても絶対真似できる気がしねーわ
164:以下、名無しのダイバーがお送りいたします
>>156
何がお前を魔境に駆り立てたのか知らんけど何があったんよ
165:以下、名無しのダイバーがお送りいたします
>>164
いや、単にヤタノカガミとアルミューレ・リュミエール組み合わせたら無敵じゃね? って思って試運転しに行ったんだけど対ビームコーティングされたシグルブレイドに天誅されたわ
166:以下、名無しのダイバーがお送りいたします
草
167:以下、名無しのダイバーがお送りいたします
たまにあるよな、そういうシナジー見つけた気分で構築するけど組んでた時に気づかなかった穴を突かれて爆散するの
168:以下、名無しのダイバーがお送りいたします
>>165
多分俺お前と組んでたかもしれんわ、こっちは砂やってたら位置割られてクソデカ狙撃ビームに呑まれてお陀仏よ
169:以下、名無しのダイバーがお送りいたします
>>168
初手で三機落とした時は勝ったと思ったんだがな
170:以下、名無しのダイバーがお送りいたします
慢心ダメ絶対
171:以下、名無しのダイバーがお送りいたします
とりあえずG-Tubeでアーカイブ漁ってみたけどこの試合か? これに関しちゃ魔境がどうこうってよりあのAGE-1の子と赤いっつーかピンク色のフリーダムの読み勝ちってとこだろうな
【G-Tubeへのリンク】
172:以下、名無しのダイバーがお送りいたします
なんだよ……結構まともな試合してんじゃねえか……
173:以下、名無しのダイバーがお送りいたします
団長? 何突出してボコられてるんだよ団長!
174:以下、名無しのダイバーがお送りいたします
そういやあのフリーダムは見覚えあるな、確か赤砂とかそんな名前の子が乗ってた気がする
175:以下、名無しのダイバーがお送りいたします
(´・ω・`) ロビーで百合百合した雰囲気を醸し出して抱き合ってた子たちね
176:以下、名無しのダイバーがお送りいたします
>>175
出荷、それはそれとしてお姉ちゃんとかいってるけどこの子ら姉妹なのかな
177:以下、名無しのダイバーがお送りいたします
よく見たらこの前PKされかかってた子じゃん、随分立派に育ったんだな……
178:以下、名無しのダイバーがお送りいたします
どこを見て言ってるんですかね……
179:以下、名無しのダイバーがお送りいたします
リリカにミワねぇ、まあとりあえず覚えとくか
180:以下、名無しのダイバーがお送りいたします
噂じゃガンプラの声聞ける奴もいるらしいし、有望株が最近は随分と多いんだな
181:以下、名無しのダイバーがお送りいたします
何それ怖い、都市伝説か何か?
182:以下、名無しのダイバーがお送りいたします
ELダイバーはそういうもんらしいけどな、俺はサラちゃんとリゼと銭ゲバしか知らねーからなんとも言えんけど
183:以下、名無しのダイバーがお送りいたします
当然のように銭ゲバ呼ばわりされてる銭ゲバで草生える
184:以下、名無しのダイバーがお送りいたします
いやだってあいつ銭ゲバじゃん? この前ガンダムベース行った時、営業モードとこっちでの温度差で風邪引くとこだったわ
185:以下、名無しのダイバーがお送りいたします
えっ何? 双子百合銭ゲバ姉妹のELダイバーが出たって?
186:以下、名無しのダイバーがお送りいたします
>>185
お前は何を言ってるんだ
◇◆◇
今も画面の中を流れていく文字列を、天蓋付きのベッドに身を横たえて見送りながら、少女は掲示板の中にリンクが貼られていた戦いを再生する。
そこにあったのは、早々に味方三機が全滅するという憂き目を見ても、決して諦めることなく戦い続け、見事な連携によって劣勢を巻き返した、リリカとミワというダイバーの姿だった。
自慢の赤毛を掻き上げて、少女──楓・フロレンス・新見はその碧眼に、以前のシャフランダム・ロワイヤルで組んだことのあるその二人の名を刻み付ける。
「ふむ……確かに有望株、目をかけるだけの価値はありそうですわね」
あの時は「MS斬りの悪魔」にしてやられたが、それでも自分が到着するまでの間、アズキと渡り合っていたとは言わないまでも、時間稼ぎを完遂していた二人組だ。
まだダイバーランクこそ低いものの、あの動きを見る限りでは、近いうちに自分たちのいる場所まで辿り着くことができるはずだろう。
ならば、自分もうかうかしてなどいられない。
楓はダイバーギアに自身の愛機であるウイングゼロヌーベルをセットすると、ベッドから身を起こす。
そして、特注のVRゲーム機……ゲーミングチェアとゴーグルデバイスが一体化した、プロ御用達のそれに今度は背中を預けて、仮想郷たるGBNへと、電子の海へと潜っていくのだった。
見えないところで歯車は回る
【楓・フロレンス・新見】……ダイバー「カエデ・リーリエ」のリアルにおける姿にして、フランス人の母と日本人の父の間に生まれたハーフであり、GBNを経営している企業において主にプログラム班を管轄する部署にいる父親と国際的に有名なピアニストの母親を持つ正真正銘のお嬢様。そんな彼女が何故ガンプラバトルに明け暮れているのかは不明だが、主にシャフランダム・ロワイヤルやレイド戦に出没する傾向が強いらしい。