ヘブンズベース基地に上陸したリリカたちを待ち受けていたのは、洋上での戦いなど前座にすぎないとばかりの猛攻だった。
海上戦力はキョウスケがわけのわからない一撃でその大半を消しとばしてくれたおかげで、背後からの攻撃は大分緩い……というよりはないに等しいものとなっているが、レイドバトルに合わせて原作より拡張されたヘブンズベースから飛び出てくるのは何も、「機動戦士ガンダムSEED DESTINY」を出典とした機体ばかりではない。
『畜生、これの元ネタって種じゃないのかよ!?』
アリムに先導される形で運良く上陸を果たせた、陸戦型ジムを操るダイバーが、空中から降ってきたビームに焼かれる形で悪態をつき、爆散する。
「バイアランにメッサーラに……ナントカ大戦みたいだねぇ」
「……よ、よくわからないけど、戦わなきゃ……!」
AGE以外のガンダムを見たことがないリリカには正直なところ誤差だよ誤差、レベルの話ではあるのだが、空中に留まってメガ粒子砲を繰り出している、バイアランやメッサーラといった機体たちは本来「機動戦士Ζガンダム」を出典とするモビルスーツであり、間違ってもガンダムSEED DESTINYに出演していたわけではない。
『こっちはGN-XⅢよ! しかもトランザムまで使ってくるなんて……撃たれた、わぁぁぁぁ!』
カプールの色違いとも思えるが、若干小柄になっている機体……【カプル】を操るダイバーが、断末魔と共に、赤熱化したかの如く紅蓮を纏ったGN-XⅢのGNランスに貫かれ、あえなく爆散する。
恐らくは地球側に属する敵性勢力から、出てくる機体は選出されているのだろう。
ミワはそう推察し、カプルを貫いていたGN-XⅢを自慢の対艦ライフルで屠ると、くぁ、と小さく欠伸をする。
レイドバトルにおいては、何が出てくるかが問題なのではない。
問われているのはあくまでもどう対処するか、それだけである。
空中から奇襲をかけ渡していたバイアランとメッサーラを、ドッズライフルによる三点射でリリカが綺麗に片付けてみせたのを一瞥して、んふふ、とミワは妹の活躍に口元を綻ばせる。
第二ウェーブのマスドライバー奪還フェイズ。
それは上陸自体には成功していた初心者から中級者が篩にかけられるボトルネックにして、彼らにとってはここからが本番となる強大な壁であった。
それを示すかのように、倒しても倒しても混在勢力は湧いてくるし、何より厄介なのは基地施設から出撃しているために、増援の停止を試みるのなら、雨後の筍のように湧いてくる敵機を掻い潜りながら、一つ一つハンガーを爆破していく他にないという点だ。
リリカはとりあえずとばかりに、バックラーから発振したビームサーベルで、自身に切りかかってきた【マラサイ】に天誅返しを決めると。手近な位置にある格納庫をレーダーで確認する。
AGE-1ブランシュは手持ち式の大火力兵装は持ち合わせていないため、誰かに代わりにやってもらう必要こそあるものの、戦力ゲージが続く限りは無限に湧き出てくる増援を止めるために、オープンチャンネルでその情報を無差別に、周囲にいる味方全員に向けて共有する。
「やるねやるねぇ、リリカちゃん。とりあえずここらの基地を始末できれば楽になるからね〜」
「う、うん……私たちじゃできないかもしれないけど……」
リリカは控えめながらも芯の通った声音で、ミワからの言葉に答えてみせる。
意思疎通もままならず、それぞれが違う方向を向いていることも多いシャフランダム・ロワイヤルと違って、これは参加したダイバーのほぼ全てが同じ方向を向いているレイド戦だ。
自分にできないことがあるのなら、誰かに頼るというのは決して恥ずかしいことではない。
むしろ、勝利を掴むためなら、そしてその先にある美味い報酬を手に入れて、夕飯にカツ丼を食べたいのなら、貪欲にそうした利害の一致は利用していくべきなのである。
最初の上陸フェイズは、それを教えるためにあったのだろう。
リリカは送った通信が誰かに辿り着いてくれていることを信じて、格納庫から今も湧き出し続けている敵モブをドッズライフルで撃ち抜き、近づくものはバックラーから発振したサーベルで切り裂き、と、およそ初心者らしからぬ活躍を見せていた。
ソロでダイブしていたり、あの魔境であるシャフランダム・ロワイヤルを受けていた時は無我夢中で気付かなかったが、味方が背後や周囲にいるというのは存外頼りになるものなのだ。
エリアの奥地へと向かっていくアリムたち上級者はマスドライバーの奪還を試みているのだろう。
包囲網を物ともせず、数の優位を踏み倒し、薙ぎ払っていく彼女たちに畏敬の念を感じながら、リリカは誰かが通信を受け取ってくれていることを信じて、乱戦においては不利なミワを庇い立てるように、背中合わせになる形で無限湧きするモブとの消耗戦に徹していた。
どちらが生きるかくたばるか、といった風情の緊張感は、例え相手がNPDであったとしてもちりちりと、胃袋を焦がすような感覚をリリカに抱かせる。
比較的リキャストが短めなドッズライフルを持っているリリカでさえこうなのだ。
スナイパーライフルというあらゆる意味で「重い」武器を抱えているミワの心労はきっと自分の比ではないのだろう。
通常弾が詰まっていたマガジンを交換して、徹甲弾を発射しているミワを、フリーダムルージュを一瞥して、リリカはじりじりとリソースが削られていく感覚に焦燥を抱く。
だが、ここで焦って突出すればそれこそ敵の思う壺だろう。
実際に痺れを切らしたのか、一か八かで格納庫への吶喊を試みていたガンプラたちは無惨にも包囲されて、なす術もなく爆散している。
「弾持ってこーい、って感じだねぇ……」
「だ、大丈夫? お姉ちゃん……」
「うむうむ、心配ないよリリカちゃん。レイドバトルに備えて予備弾倉は多めに持ってきたから……って言いたいとこだけど、この状況が続くとちょっとまずいかな〜」
戦線は鶴翼陣形を維持する形で展開され、少数の上級者がなんとか包囲網を突破して、基地施設の破壊やマスドライバーの奪還へ躍起になっているものの、上陸地点近くでの戦いは膠着状態どころか、じりじりと戦線は押し返されつつある。
特にリリカたちが上陸したポイントは、トーチカや固定砲台からの攻撃が少ない分、敵の湧くペースが異様に早く、浮き足立っていたはずの仲間である他のダイバーたちも額に汗を浮かべ、この消耗線をなんとか耐え抜こうとしているような状況だった。
チャンプがもしこのレイド戦に参加していたのならあのEXカリバーとかいう技で、この程度の敵ぐらい屠っていたのだろうが、不参加である以上それは期待できない。
『すまない、やられた! あとは頼んだぞ!』
『こっちもだ! 悪い!』
一人、一人と名前も知らないダイバーが倒れ、死屍累々と戦力ゲージの減少が積み重なっていくのもまた、リリカの焦燥を煽り立てる。
超越者が参加している限り、彼ら一人でもレイドバトルは勝てる、と、事前にミワから教えられたことでその事実は頭で理解していても、本物のガンダムにおける戦場のごとき臨場感が理解を覆い隠すように焦りを上から糊塗してくるのだ。
ダガーLやウィンダム、そして105ダガーといったNPDの面々は、ほとんど無尽蔵に湧き出てくる分、パラメータこそ強化されていても、思考ルーチンなどには意図的な穴が設けられている。
だが、それはそれとして数が数だ。
いかに出現するNPDが単体で脅威になりうるものではないとしても、数的優位というアドバンテージを握られるというのは、戦場においては極めて致命的だった。
「……う、ぐ……っ……」
「ミワも、ちょっち厳しいねぇ……」
推定戦力比は四十対一、とまではいかなくともそれなりの数を相手取らねばならない現状、じりじりとAGE-1ブランシュとフリーダムルージュの耐久値と残弾、エネルギーは削られていく。
リリカがドッズライフルのトリガーを引いたその時、かちり、と、何かが引っかかって詰まったような音が鳴り響くと同時に、コックピットへと警告がポップする。
弾切れだ。
恐れていた事態がとうとう起こってしまったのだ。
このまま一足先に自由になっていったダイバーたちの後を追わねばならないのだろうかと、そう思うと、例え自分がいなくても戦いには勝てるとしても──リリカにとっては言い表しようのない感情が、悔しさが、脳裏に閃き、ぴしり、と、何かが砕けたような音を立てる。
「……めない……」
「リリカちゃん?」
「諦めない……! 私は、ブランシュは……絶対……!」
幸いなことに弾が切れただけだ。
エネルギーが尽きたのでないのならいくらでもやりようはある。
リリカは左腕のバックラーからビームサーベルを抜刀すると一息に跳躍、空中からの強襲をかけようと試みていたギャプランを一刀の元に斬り伏せて、着地を狙ってきたビームをバック宙の容量で回避、東部バルカンを牽制として放ちながら、仕掛けてきたダガーLを両断する。
ここで負けても死ぬわけではないのはリリカにもわかっていた。
だが、自分でもわからない衝動が、感情が、操縦桿を動かす手に伝わって、そして脊髄が燃えているような錯覚と共にリリカを突き動かしていたのだ。
その眦には涙が滲んでいるものの、口元に浮かんだ引き立った笑みは不格好ながらも、「狩られる」側なものでは断じてない。
今、リリカはダイバーとして「狩る」側に立っているのだ。
脳裏に思い起こすは、あの日戦った「MS斬りの悪魔」ことアズキの姿。
彼女は太刀一本というあまりにもストイックな武装構成で戦場を駆け抜けていたのだ。
ならば、汎用機として作ったこのAGE-1ブランシュが、ライフルを喪失しただけで行動不能になるという道理などどこにもない。
不可能だと結論づけていながらも、自身の遥か先を行くトレイルブレイザーの姿を己に重ね合わせてトレースするようなイメージで、リリカはミワに迫る敵を斬り伏せていく。
時には敵を味方の射線に誘導するようなマニューバで撹乱を行いながらも、大した被弾のないその戦闘スタイルは、奇しくも回避盾と呼ばれるタンク役のそれと合致していた。
土壇場で追い込まれたことで秘められた力が覚醒したとか、そんな都合のいいものなど現実にはない。
ただ、あらゆる殺され方を理不尽なクソゲーでぶつけられてきた記憶が、アドレナリンを滾らせて、過集中状態にリリカを追い込んでいるだけだ。
しかしリリカは──それを、楽しいと感じていた。
AGE-1ブランシュと共に戦場を駆け回るのが、そして例え一人であっても敵を斬り伏せるのが、なによりも自身がヘイトを集めたことで撃ち漏らした敵を確実に射抜いてくれるミワが背後にいてくれるのが、楽しい。
力任せに湧き出てきたアヘッドのコックピットへとビームサーベルを突き立てると、リリカは一瞬、獰猛な笑みを覗かせる。
そんな獅子奮迅といった風情の活躍は、ミワを始めとした味方側にも大きく伝わり、下がりかけていた士気は一気にそのボルテージを引き上げていた。
『あのAGE-1がタゲとってくれてるぞ、続け!』
『バカ、焦って突っ込むんじゃねえ、俺たちはおこぼれ狙いだ!』
そんなハイボルテージが見せる熱狂に呑まれかけたダイバーの【ガンダムジェミナス01】を諫めるように、もう一人の相方と思しきダイバーの【ガンダムジェミナス02】が警告と同時にアクセラレートライフルを、リリカが討ち漏らした敵へと発射する。
「リリカちゃん……」
ミワは言い表せないようなその感覚に──獰猛かつ、喜悦を満面に押し出した笑みを浮かべていた。
そうだ。リリカちゃんはやればできる子で、そんな獰猛なリリカちゃんも世界で一番可愛くて──ミワは、そんなリリカちゃんのお姉ちゃんで!
空になった弾倉を交換すると、今度はABAPSFDS──対ビームコーティング弾が詰まった弾倉を対艦ライフルに装填して、ミワはおそらくビームサーベルで斬り伏せるのが難しかったのであろう、増援のモビルアーマー、【ユークリッド】を陽電子リフレクターの上から粉砕する。
ヅダの対艦ライフルと比べて威力や命中精度では劣っているかもしれないが、このオリジン系ザクに付属してくる対艦ライフルは、ストックがない分他の長物と比べて取り回しやすいという長所があった。
そしてそれは、取りも直さず、乱戦で凸砂をするのに向いている、ということである。
リリカに歩調を合わせるように、ミワもまた獰猛な笑みを口元に浮かべながら、一つ、また一つと装甲が固い敵を正射必中を体現するように一撃でぶち抜いていく。
そんな姉妹の敢闘が奇跡を手繰り寄せたのかどうかはわからない。
だが、フリーダムルージュのレーダーには、別な戦域から猛スピードで接近してくる青い点──味方を示すそれが明滅していた。
「よく耐えてくださりましたわ! お味方は……ここに来たれり、ですのよ!」
いかにもお嬢様です、という言葉遣いをしたそのダイバー、カエデと、愛機であるウイングゼロヌーベルがその手に連結させたツインバスターライフルを備えて、星屑輝くステージとは程遠く、屍山血河を築き上げている戦場に、飛び入り参戦を果たす。
──シェルターが万全であってくれては困る。
リリカとミワの獅子奮迅の戦いを繰り広げてくれた事で、護衛が殆ど減ったのと、射線上に味方がいないのを確認した上で、カエデは格納庫へと狙いをつけて、ツインバスターライフルを放った。
駆け抜ける閃光は、僅かに残された護衛の敵機を巻き込みながら。確かに格納庫へと到達し、爆炎と響き渡る轟音が、その地点における増援の打ち止めを伝える。
戦力ゲージの天秤は相手側に傾いてこそいるものの、味方側のそれは、まだゼロになっていない。
そしてこの戦いが、互いの戦力ゲージがゼロになったその瞬間に決着を果たすのであれば、幸いにも、そして不幸にもまだ勝負はついていないということだ。
噴き上がる硝煙の中から、ゆらりと姿を表したその機影に、カエデはステージギミックかと、小さく溜息をつく。
ソードカラミティとブラウカラミティ……どちらもカラミティガンダムをその原型とする、格闘戦型と砲戦特化型が姿を表した理由は単純なものだ。
中ボスの降臨。
それを示すかのように、ブラウカラミティが放った無数の弾丸が、反応の遅れたダイバーたちを巻き込んでその屍山の一部とする。
リリカとミワはアドレナリンが与える衝動に任せてそれを回避していたものの、格が違う奴が現れた、と、一欠片残された冷静さがそれを脳裏に伝えていた。
「リリカちゃん、リリカちゃん」
「……うん、お姉ちゃん」
そこに余計な言葉はいらないとばかりに互いを呼び合って、リリカはソードカラミティを、ミワはブラウカラミティをターゲットに定めて散開する。
「……リリカさんにミワさんでしたわね、ご武運を」
まだ敵の格納庫があと一つ残っている以上、ここでカエデに足を止めてもらうわけにはいかないとばかりに突出した二人の意図を理解したのか、ウイングゼロヌーベルは戦士となった姉妹への激励を一つだけ残して、ヘブンズベース基地の奥に残された格納庫を目指して飛び去っていくのだった。
ドアを叩けばそこに誰かがいるのは必然