ブラウカラミティとソードカラミティのタッグは、当然リリカたちとは真逆の狙いで立ち回る思考ルーチンを有している。
遊撃手であるリリカをブラウカラミティが自慢の弾幕によって抑え、そして孤立したミワをソードカラミティが仕留めるという算段で、対艦刀「シュベルトゲベール」を抜き放った赤い機体──ソードカラミティは動き出す。
赤鬼と青鬼を思わせる災厄のタッグの思うがままにされては堪ったものではないと、リリカもまた抜き放ったシグルブレイドを構えてソードカラミティへと食らいつかんとブーストを噴かし、斬りかかっていく。
ブラウカラミティという機体を一言で表すのなら、それは「珍兵器」という単語に尽きる。
ただでさえ原作中においては過剰火力が指摘されたことで生産が停止されたカラミティガンダムの火力を二倍化することを目的に、胸部ビーム砲「スキュラ」と、背部バックパックに接続されているビーム砲「シュラーク」をそれぞれ二倍の数に増設し、増加した重量はホバー移動で補うというその設計思想はあまりにも極端で、大雑把だった。
登場する外伝作品では予算のほとんどを使い果たしたその金満を体現する機体は果たして駄作機なのかと問われれば、それは間違いなく否である。
ブラウカラミティが両腕に装備しているコンバインド・シールドからのガトリング掃射、そして二門のスキュラと四門のシュラークによる一斉射撃は、ミワの機体の原型であるフリーダムガンダムがその必殺技としていた、ハイマット・フルバーストに勝るとも劣らない。
「……っ……!」
「リリカちゃん!」
「……だい、じょうぶ……! 避けられた、から……!」
ソードカラミティを追うのに集中していたあまり見落としていたブラウカラミティの一斉射撃を紙一重で回避すると、巧みなスラスター捌きで空中姿勢を立て直し、リリカは振り下ろされたシュベルトゲベールの一撃をシグルブレイドで受け止める。
幸か不幸か、アズキとのエンカウント、そして淡々と一人でミッションをこなすというルーチンワークはリリカを大きく鍛える金床と鎚となっていた。
特に、アズキの色々人外じみたあの剣術を目の当たりにすれば、並のNPDが振るう剣などでは、その太刀筋が完全に見えてしまう。
神楽舞のような、継ぎ目のほとんど見当たらないアズキの剣術を脳裏に想起しながら、リリカはソードカラミティの太刀筋を読み切る形で全て回避し、懐に飛び込んでシグルブレイドを突き立てようと試みた。
だが、ソードカラミティも、腐ってもレイドバトルにおける中ボスポジションであることに違いはない。
敢えて右肩でリリカの攻撃を受けると、カウンターとしてシュベルトゲベールを放り投げて、脚部に装備されている対装甲ナイフ、「アーマーシュナイダー」でAGE-1ブランシュへの反撃を試みる。
そして、武装のリキャストが終わったブラウカラミティがリリカの機体を照星に捉えた、その瞬間だった。
がぅん、と、なにかが低く唸るような音とと共に四門のシュラークに風穴を開けて、誘爆を引き起こす。
「リリカちゃんは……やらせないよぉッ!」
それはミワが放った特製の徹甲榴弾による攻撃だった。
後期GATシリーズ……カラミティガンダムが属するそれは、エネルギーを節約するために、物理攻撃に耐性を持つフェイズシフト装甲をバイタルパート、つまりコックピット周辺にしか採用しておらず、それも衝撃を受けてからフェイズシフト現象が始動するという限定的なものだ。
だからこそ、それ以外の装甲に対しては実弾であっても大きなダメージが見込める。
ミワもまたスコープ越しにブラウカラミティを覗き込み、リリカには指一本触れさせまいと、狙いが自身に向くリスクを呑み込んで、コンバインドシールド二枚による弾幕砲火を掻い潜っていく。
徹甲榴弾は今ので十分仕事をしてくれた。
まだ残弾の残っている弾倉を取り外してブラウカラミティに投擲すると、榴弾の火薬が炸裂して両者の視界を奪うその瞬間を見計らって、ミワは最後となる、通常弾が装填された弾倉を対艦ライフルへと装着する。
リリカの言葉を信じるなら、あれを──ブラウカラミティをなんとかして倒すのが自分の仕事だ。
だが、レイドボスとして強化されたトランスフェイズ装甲を打ち破れるかどうかについて、ミワは正直なところ全くといっていいほど自信がなかった。
それでも、やるしかないのだ。
他のダイバーが、打ち止めになったとはいえ、かなりの数が残っている量産機を相手にしてくれている間に、そしてリリカがソードカラミティを足止めしてくれている間に、あの火力の青鬼を倒し切らなければ勝利への道は遠ざかることになる。
「期待の人がミワたちならば……ってねぇ……」
ネタが古いか、と、照星を覗き込む緊張感を誤魔化すように軽口を叩きながら、ミワはシュラーク四門を失って尚、圧倒的な弾幕を展開しているブラウカラミティ、そのコックピットに狙いを定めて、連続してトリガーを引く。
対艦ライフルとなればその反動も凄まじく、銃口は常にブレるものとして弾道を計算しなければならない。
ミワはそれを理解したうえで、すべてのブレを計算して──「同じ箇所に連続して弾丸を打ち込む」という脳筋式の、しかしながら極めて実現可能性が薄い方法で、TP装甲を打ち破ることを画策した。
鉄と火薬の唸りが獣の咆哮のように戦場へと響き渡り、ホバー移動でもカバーしきれないその重量過多という穴を突くように、ミワの放った弾丸が一発、二発と間髪入れず、そして一ミリのズレもなく同じところに着弾する。
三発、四発。
フェイズシフト装甲は、確かに装甲への傷を防いでくれるかもしれないが、衝撃に対しては弱いという弱点を抱えている。
純粋な、対戦艦用として生み出されたアンチマテリアルライフルの一撃だけならばいざ知らず、それが数発同じ箇所に着弾したとなれば──バイタルパートは大きく歪んで、へこんで、そして。
「とりあえずは、やったねぇ」
──貫かれて、爆散する。
ミワはそれをさも当然の帰結かのようにあっけらかんと欠伸混じりに呟いてみせるが、内心では心臓が早鐘を打ち、そして胃の辺りがきりきりと締め付けられるような錯覚に襲われていた。
ピンホールショットを対艦ライフルでやってくれなんて、リリカのためじゃなければお断りだし、リリカのためでなければできなかっただろう。
口にこそ出さないが、ソードカラミティ相手に奮戦を続ける妹を見つめて、ミワはむにゃむにゃと欠伸を噛み殺す。
自身の才能と妹のそれの乖離。なんでもないようで大きなことが呪いになってしまって、妹を苛んでいる以上、迂闊な言葉はかけられない。
まして、幼い頃からずっと抱えてきた優しい気質故に、はみ出し子扱いされてとうとう部屋に篭ってしまうまでに至ったリリカだ。
本当なら褒めてあげたいし、飽き性で、すぐ眠たくなってしまう自分はリリカがいてくれたからこそ頑張れてきたのだとそう言いたいのだが、きっとその言葉だってリリカを蝕む呪いになってしまう。
「……頑張ってるねぇ、リリカちゃん」
だからこそ、それがミワに語れる言葉の精一杯。
妹を、ありのままのリリカを肯定すること、それだけだ。
アーマーシュナイダーとシグルブレイドによる剣戟は、リリカの操るAGE-1ブランシュの膂力によって、強引な決着を迎えようとしていた。
元々リリカはあの幕末地獄、文字通りなんでもありのバトルロワイヤルで狩られ続けてきたからこそ、一つの教訓を得たところがある。
──殺される前に殺せ。
それはシンプルかつプリミティブな結論であり、だからこそリリカは機動力と決定打になり得る兵装をそのアセンブリに組み込んでいるのだ。
「てええええ、い……っ……!」
ソードカラミティのアーマーシュナイダーをへし折って、悪あがきにスキュラを放とうとした胸部から、コックピットを袈裟懸けにリリカは斬り付ける。
TP装甲が造り込みの施されたシグルブレイドによって切り裂かれ、発射寸前だったスキュラのエネルギーが暴発したことで、ソードカラミティの紅の機体もまた、一足先に逝ったブラウカラミティの後を追うこととなった。
爆発から逃れるべく腰部のスラスターを稼働させ、バックブーストを噴かしてリリカは全力で跳躍する。
「……は、ぁ……っ、はあっ……や、やった……私……」
「うんうん、リリカちゃん。ぐっどだったよぉ」
「……お姉ちゃん……」
「……次、行こっか」
「……うん」
ミワからの称賛の言葉をまだ素直には受け止めきれないけれど、胸が高鳴る感覚に任せてリリカは首を縦に振り、先ほどカエデが吶喊していったヘブンズベース基地の奥にある格納庫を目指してスラスターを噴射し、機体を走らせていくのだった。
◇◆◇
カエデ・リーリエがGBNを始めた理由はただ一つだった。
格納庫を破壊したことで、こちらはロートフォビドゥンとフォビドゥンヴォーテクスというコンビが現れたのを一人で相手取りながら、カエデは在りし日のことを脳裏に浮かべる。
父がGBNにおいてプログラム班を統括する立場にいる、GMに程近いポストにいることは把握していたが、一年前──非公式の第三次有志連合戦が行われるまで、カエデはガンダムのガの字も知らず、また興味も持っていなかったのだ。
ロートフォビドゥンが両刃になったニーズヘグを振るうのを予測していたかの如く回避し、カエデはそのコックピットへとビームサーベルを突き立てる。
そうだ。これではまだ遠い。
あの時、タチバナ商会という鼻持ちならない連中に一泡吹かせた運営班の努力と、そして桜宮家という巨大コングロマリットとかの「GHC」が手を組んでの政財界における大立ち回りはカエデの耳にも当然の如く入ってきたのだが、問題はそこではない。
(エリィちゃんのために……死ねええええッ!!!)
──格好よかった。
色々と覚悟だとか決意だとかがキマった目で相手を打ち貫く、非公式第三次有志連合戦こと「ELダイバー争奪戦」の立役者となったフォース、「リビルドガールズ」の切り込み隊長であるダイバー、「アイカ」が、敵を屠るのは常に愛する誰か一人のためであり、その愛情が、そして愛に裏付けられた、苛烈なまでの闘志がカエデをGBNへと引き込んだのだ。
「ああ……程遠い、まだ足りない。貴方では、アイカ様には及ばない!」
カエデはロートフォビドゥンを難なく屠り、そしてどう考えても他にバリエーションがなかったからという理由で陸に引き摺り出されてきたフォビドゥンヴォーテクスも、自慢のシザーソードによる一撃でテクスチャの塵へと帰せしめて、天を仰ぐ。
だが、無粋にもそんな余韻に浸る時間すらこのレイド戦は与えてくれなかった。
ちょうど四つあるうちの全ての格納庫が破壊されたことで、ステージギミックが発動した旨の通知と、今までにないコーションが、ウイングゼロヌーベルのコックピットに響き渡る。
「なんですの、一体──ッ!?」
それは、突然に現れた。
それは、待っていたかのようにゆらりとその巨体を立ち上がらせた。
GFAS-A1、デストロイガンダム。
設定された身長よりも遥かに大きな巨体が、制圧済みのマスドライバー区画と、そして今戦闘が行われている基地正面、そして宇宙空間に君臨する。
それは第三ウェーブであり、原作においてはシン・アスカをはじめとしたミネルバ隊の面々が活躍したシーンを再現したものに違いない。
だが、第二ウェーブという消耗戦を経てからぶつけてくる辺り、運営も中々いやらしいことをしてくれる。
カエデは放たれる弾幕のカーテンとでも呼ぶべきものを、偏らせた配置の推進器が生み出す変則的な機動で掻い潜りながらも、実に五機という、正面エリアに残された敵も含めてこちらを文字通り
原作においてはスティング・オークレーがその最後の乗機としたデストロイガンダムだったが、流石にこの局面でネームドのNPDをぶつけてくるような真似をするのはいくら運営班でも気が引けたのか、デストロイガンダム五機を動かしているのは非ネームドのNPDだ。
それを不幸中の幸いと取るのか、焼け石に水と取るのかは受けて次第だろうが、デストロイが現れたことで一気に阿鼻叫喚に陥った戦場は、混沌を体現していた。
『ちょっと待って、無理無理無理、こんなの!』
「貴方、何をして──!」
『うわああああっ!』
デストロイの威容に恐れをなしたのか、全力でバックブーストを噴かして逃亡するVダッシュガンダムの足が着地したウイングゼロヌーベルのそれに引っかかって、カエデと逃亡者はもつれ合い、転倒してしまう。
いかに非ネームドのNPDであったとしても、当然そこを見逃すはずはない。
デストロイガンダムの双眸が怪しく光を放ったかと思えば、胸部に配置された巨大ビーム砲「スーパースキュラ」が、カエデのウイングゼロヌーベルとVダッシュガンダムを呑み込まんと閃光を放つ。
よもやこれまでかと、カエデが自身の屑運に諦めを抱きかけた、その時だった。
「間に合っ、てぇぇぇっ!」
一筋の光芒が、白い閃光がカエデの眼前に躍り出る。
それはリリカの操るAGE-1ブランシュであり、そして彼女は事もあろうに、その高機動低耐久を体現するような機体で、カエデを庇いたてようとしているのだ。
「お待ちなさい! 貴女、それは無謀というものですわ!」
カエデは慌てて静止するが、過集中状態に入っていたリリカの耳にそれは届かない。
程なくして放たれたスーパースキュラ、その光の束を前にリリカはただ、己の対峙した「MS狩りの悪魔」ことアズキのモーションを想像する。
あの太刀に秘密があるのか動体視力に秘密があるのか、両方なのかはわからないが今はどうでもいい。
重要なのは、デストロイガンダムが放とうとしているのはビームで、そして自身が持っているシグルブレイドには、ヨノモリ塗料──高級だが、確かな品質を持つ老舗メーカーが発売している対ビームコーティングに対応したクリアコートが上掛けされているということだ。
そうして、押し寄せてくる光の奔流を、リリカはモーセが海を割るかのごとく、真っ二つに切り裂くのではなく──自身を起点として二股に分かれさせることでカエデたちを庇い立てるという奇策に打って出たのだ。
凄まじい衝撃のフィードバックが、握る操縦桿を重くする。
そして全力でスラスターを噴かしていても、尚押し戻されそうなその高出力にリリカは声にならない呻きを上げるが、操縦桿を握る手には裂帛の気合いを込めて、AGE-1ブランシュを踏みとどまらせる。
「貴女、何を──」
「……前に、助けて……貰いました……っ……!」
リリカは覚えていた。
あのシャフランダム・ロワイヤルで、味方二機が早々に爆散しても、何とか戦線を立て直すのに成功したのは他でもないカエデの奮闘があったことを。
確かに「MS斬りの悪魔」には敗れたかもしれない。
だが、それと、受けたと思っている恩を返すのは別だ。
人が聞けば嗤うような、それだけの理由。
ただ、リリカにとっては何よりも大きな理由が、歯を食いしばってでもAGE-1ブランシュを押し止まらせた。
そして──それは、奇しくも「アイカ」がフォース戦で鮮烈なデビューを飾った時と同じ防御方法だった。
──光が、爆ぜる。
ドロドロに装甲やシグルブレイドの刀身を融解させ、機体のほとんどが使い物にならなくなっても──スーパースキュラの照射を防ぎ切って、確かにAGE-1ブランシュは直立していた。
「……っ、ミワさんと仰りましたわね、これを!」
そして、遅れて駆けつけてきたミワに向けて、カエデはバックパックの右側にマウントしていたシザーソードを投擲する。
「確かに確かに受け取ったよぉ、これなら……殺し切れるねぇ……!」
曲芸飛行のようなマニューバで、多種多様な弾幕を掻い潜りながら、シザーソードを受け取ったフリーダムルージュはそれをデストロイのコックピットに突き立てんと、対艦ライフルを放棄して突撃をかける。
奇しくもそれはベルリン市街においてステラ・ルーシェが搭乗していた同機に、フリーダムがビームサーベルを突き立てた時のように、掻い潜った弾幕の先にあるコックピットへと、カエデのシザーソードは深々と突き刺さっていく。
そして、目覚めた五体の内一体の巨人は膝から地面に頽れて──その機能を永遠に停止する。
ほとんど満身創痍だった。
リリカのAGE-1ブランシュは大破寸前で、ミワのフリーダムルージュは武装と呼べるものが残りはカエデから借りたシザーソードと足が止まるクスフィアスぐらいしかなく、カエデも格納庫を破壊するためにツインバスターライフルを何度も撃ったことでエネルギーに余裕がない。
だが──それだけで、今この瞬間まで、矢尽き刀折れるまで戦い続けただけで、十分だった。
ここまでかと、リリカが眦に涙を滲ませて、天を仰ぎ見たその瞬間だった。
『待たせたなぁヒヨッコ共! 超絶難度の攻略RTAなんざFOEさんにでもやらせとけ! こっからは……アタシの戦場だぁぁッ!』
原作と同様にリフレクターパックを装備した【G-セルフ】の力を借りて、宇宙エリアから帰還してきたアリムとウォーモンテーロが、四機のデストロイガンダムを見据えて、その内の一機へとジャベリンを投擲する。
『ジャベリンはァッ、こう使うッ!』
『クク……ビームシールドでの大気圏突入、キンケドゥに出来てこの私にできないはずがあるまい、行くぞ!』
そして、彼女に続く形で、クロスボーンガンダムX2改を筆頭とした数機の機影が流星となって、ヘブンズベース基地へと降下してくる。
戦力ゲージの減り方から、地上が劣勢であると見て、宇宙の超絶難度レイドボスをキョウスケ一人に任せることで、ハイランカーたちが引き返してきたのだ。
アリムがビーム・ジャベリンの投擲でデストロイの一機を仕留めたことを皮切りに殺到し、突発的デストロイガンダム解体RTAが始まりを告げる。
その後はもう、一方的なものだった。
リリカとミワは、そしてカエデはただなす術もなくデストロイガンダムが解体されていく様を、ごりごりと敵の戦力ゲージが削れていくのを見送りながら、安堵に胸を撫で下ろす。
撃墜されることが責められるようなミッションではない。
ただ、それでも。
【Raid Battle Ended!】
【Winner:Prayer Teams!】
それでも──最後までこの難易度のレイド戦を生き抜いたという喜びは、確かにリリカの胸を満たしていたのであった。
リリカの頑張り物語
尚宇宙ではFOEさんが有言実行で超絶難度RTAを完走していた