ガンダムビルドダイバーズ アナザーテイルズ   作:守次 奏

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見上げる星それぞれの初投稿です。


第二十四話「世界は広く、大海は深く」

 時折わけもなく、明日の地球がどうのこうのと誰かが歌っていたことを思い出す。

 梨々香はフォース「アナザーテイルズ」の初陣にしてフォース「ボルケーノ」との戦いを完全勝利で飾った翌日、いつものように昼間の電車に乗って、お台場から程近い場所にあるガンダムベースシーサイド店を目指していた。

 お台場にはガンダムベースの本店があって、そちらではファーストELダイバーこと、特定電子生命体第一号としてこの国から認定を受けたELダイバー、「サラ」がたまに接客をしていたり、噂によればあの「BUILD DIVERS」が拠点にしていたりするらしい。

 だが、梨々香としては通い慣れたシーサイドベース店に腰を落ち着けたい──と、いうよりはただでさえシーサイドベース店でも客が多くて落ち着かないのに、本店ともなれば尚更だろうと、そういう理由で避けているのだ。

 がたん、ごとん、と電車に揺られながら、車窓をスクロールする景色を茫洋と見つめて、梨々香は昨日の、投げ出せなかった明日の残骸について考える。

 梨々香たちに敗れた「ボルケーノ」の面々とはグッドゲームと互いに言葉は交わしたものの、彼らはすっかり意気消沈した様子でロビーの雑踏に紛れて、姿を消していった。

 当たり前だが、勝利があればそこには必然的に敗北もある。

 むしろ勝者が敗者に同情を寄せることこそ最大の侮辱であると、頭ではわかっているのだが、どうにもすっきりしないというか後味が悪いというか、そういう思いを梨々香は抱いてしまうのだ。

 アナウンスが、目的の駅へと到着したことを告げると、梨々香は釈然としないものをその胸に抱えたまま、猫背気味に肩を竦めて、人並みに紛れて歩いていく。

 勝ち続けること。負けないこと。

 それがいつかあの憧れのクジョウ・キョウヤに、チャンピオンに近づくための道であるとわかっていても、積み重ねた勝利の果てに何があるのか、そして勝利を積み重ねていけるのか、と考えると途端に憂鬱になってしまう。

 世界は広い。

 仮想も現実も問わず、手を伸ばしたってどこにも届かなくて、何かを掴もうとしたってその指は空を切って。

 そして、この手には何が残るのだろう。

 梨々香は、シーサイドベース店のシンボルとなっている等身大エールストライクガンダム立像を見上げて、問いかけるようにその双眸を覗き込む。

 もしもガンダムが──ガンプラが、AGE-1ブランシュが喋ったら、この疑問に答えてくれるのだろうか。

 いくつもの「ハテナ」に頭の中を埋め尽くされながら、梨々香はどこか遠い耳鳴りが止まないような感覚を抱えて、シーサイドベース店へと足を運ぶのだった。

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

「そういうことでしたら、フォースで受けられる別なミッションを受注するというのも一つの手ですわ」

 

 例によって、ソロで高難度ミッションを踏破するという練習に明け暮れた後、ミワがログインしてくるのを待っていたリリカを出迎えたのは、姉ではなくカエデの方だった。

 ロビーの隅っこで体育座りをして、この世の終わりみたいな顔をしていたリリカを見かねたのか、カエデが事情を問いただしてきたので、リリカは包み隠さず事情を話したのだが、帰ってきたのはそんな、どこかあっけらかんとしたような答えだった。

 

「……え、えっと……いいんですか……?」

「何がですの?」

「……あ、あの……カエデさんは、戦いたいんじゃないかなって、そう思ったんです……」

 

 自分から話題を振っておいて、というのはリリカも理解していたのだが、それはそれとしてカエデはそういう「勝利」を求め続けているのではないか、というのがリリカの見解だ。

 事実として、Bランクからレイド戦を経たことでAランクへと昇格したカエデは、普段はバトルロワイアルミッションや、時には魔窟や地獄、蠱毒の壺、チンパンたちのラスト・リゾートと様々な蔑称で呼ばれる、悪名高き「ハードコアディメンション・ヴァルガ」へと単独でダイブして修行を重ねていることを、フォース加入の後に姉妹へ公言していた。

 それもひとえに憧れのアイカに近づく為に、そして今まで喧嘩を売って敗れてきた相手に雪辱を果たす為に他ならないのだが、そんなカエデが「別なミッションを受ければいい」と、あっさり言ってきたことが、リリカにとっては意外だったのだ。

 

「確かにわたくしは戦いを求めておりますわ、ですが戦いというのは何も正面から切った張ったをするだけではございませんもの」

「それって、どういう……」

「んっとねんっとね、要するにGBNには色んなレギュレーションの戦いがあるってことだよぉ、リリカちゃん」

 

 カエデに遅れてロビーへとログインしてきたミワが、勝手に続きを補完する形でリリカへと眠たげな声でそう囁く。

 

「ええ、ミワさんの言う通りですわ。例えば、バンデット・レース……文字通りレース競技でありながらステージの破壊から他機の撃墜までなんでもありなものですわ」

 

 生憎今日は木曜日だから開催されておりませんけど、と、カエデが付け加えたその競技は、一年前に勃発した大規模レイドバトル「アルス」戦後に、一部のダイバーたちの間で非公式に行われていたイベントが公式に引き上げられたものだ。

 ディメンション・シュバルツバルト。

 擬似的に、外のカレンダーとリンクすることで四季を再現したGBNにおいて、一年を通して永遠の夜に包まれたそのディメンションにおける中心部、「ハイウィンド・エリア」のメガロポリスに設けられた巨大高速道路を舞台として行われるそのレースは、毎週水曜と土日という三日間限定で開催されている。

 その分賞金が出たりトトカルチョが開かれていたり、参加する方も見る方も刺激的な体験ができるということで密かに人気を博しているそのイベントを主催……と、いうより公式にまで格上げしたのは、何の因果か、「リビルドガールズ」に所属するELダイバー「チィ」の手管によるものらしいと、カエデは語る。

 

「まあ、開催されてないイベントには参加できないのですけれど」

「それはそうだねぇ、でもでも、バンデット・レース以外にも色々あるから、リリカちゃんがやってみたいものを受付のNPDに聞いてみたらいいと思うよ〜」

 

 ミワはくぁ、と小さく欠伸をしながら、リリカが良ければそれでいいといった具合に眠たげな笑顔でそう言った。

 

「……やってみたいこと……」

 

 あの「ボルケーノ」に対して同情をしてしまうというよりは、勝ち負けに対して抱く、モヤモヤしたこの感覚を振り切ってしまいたいというのがリリカの本音であることは、二人との対話を経て、腑に落ちていた。

 勝ち負けが絡まないイベントで、尚且つ気分転換になりそうなものがあればそれに越したことはないのだが、果たしてそんなものがあるのだろうかと半信半疑で、しかし藁にも縋るような気持ちで、リリカは受付のNPDへとその条件を指定して問いかけてみる。

 

「お客様のご提案された条件に沿ったミッションは、こちらとなっております」

 

 だが、ここはGBNだ。

 探せば大概なんでもあると言わしめる良くも悪くも混沌の坩堝なのだから、ダメ元でリリカが指定した「フォースで受けられて」「勝ち負けが絡まない」ミッションは、いくつもNPDの手によってソートされる。

 端的に括ってしまうのなら、リリカの指定した条件に当てはまるミッション群は、「探索ミッション」と呼ばれるものだった。

 序盤にリリカが受けていたヤナギランの納品も、一応はこのカテゴリに当てはまるものだし、なんならディメンションを散歩して、指定のシンボルをスクリーンショットに収めたものを提示する、というもっとゆるい難易度のものも存在している。

 その中でリリカが目を引かれたのは、ミッション「眠り姫の財宝」と呼ばれるものだった。

 

「えっと、この『眠り姫の財宝』……って……?」

「宝探しミッションですわね」

 

 NPDが答えるよりも早く、カエデがリリカの問いに答える。

 宝探しミッション。

 それは大体制限時間内に特定のエリアを探索して、置かれているコンテナに入っている報酬の獲得を目指すミッションなのだが、最大の特徴としては複数のフォースで受注できるものの、戦闘行為の一切が基本的には禁止されているため、宝の奪い合いが起きないことだろう。

 あとは単純に、箱を開けた時点で中身の抽選がランダムで行われる為、誰がどの箱を開けても運以外に差を分ける要素がないことも、穏やかさに拍車をかけているのだ。

 

「まあまあ、中身には当たり外れがあるから、酷い時はミミックとして仕掛けられたエネミーと戦闘になったりするんだけどねぇ」

「な、なるほど……」

 

 宝探し。

 別にリリカは銭ゲバでもなんでもないものの、その三文字にはダイバーとして心擽られる不思議な魔力があった。

 特に、フレーバーテキストが中々秀逸であり、「ミノフスキードライブ実験艦として作られたマザー・バンガードの二番艦、『エオス・ニュクス号』が地球圏付近で撃墜され沈没、ダイバーたちは宇宙海賊クロスボーン・バンガードの一員として、物資の回収に当たれ」という、ガンダムっぽい設定が付けられているのも、ファンからすればポイントが高いのだろう。

 沈没船からの宝探しにそれだけの設定を付与することでガンダム関係ないじゃん、というツッコミに対応しつつ報酬とそしてギスギスしない環境を作る運営の努力に舌を巻きつつ、リリカはそのミッションを受注しようと、コンソールのボタンに手を伸ばしていた。

 

「え、えっと……これ、受けてみてもいい……かな……」

「勿論だよぉ、リリカちゃんが受けたいミッションがミワの受けたいミッションだからね〜」

「わたくしも異存ありませんわ。さあ参りましょう!」

 

 ──お金はいくら手元にあっても損はいたしませんことよ。

 レイド戦で荒稼ぎしたにも関わらず、どこか庶民じみた言葉を口にして、カエデは逡巡していたリリカの背中をそっと押す。

 

「ありがとうございます……それじゃあ、その……このミッション、受注します……」

「フォース『アナザーテイルズ』からのミッション受注を承認いたしました。お客様のご武運をお祈りしております」

 

 ぺこりと折り目正しくお辞儀をするNPDに見送られて、リリカたち「アナザーテイルズ」は、宝探しミッションに赴くべく、格納庫エリアへと転送されていくのだった。

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 水中は宇宙と微妙に似ているが、水圧の分だけ機体の制御が難しくなる。

 慣れない水中機動に四苦八苦しながらも、リリカは「エオス・ニュクス号」が沈んだことにされている海域を探索し、コンテナを片っ端から開け放っていた。

 大体の中身は少額のビルドコインだとか、ガンダムベースに備えられている高速射出整形機で作ることができるパーツデータとかなのだが、稀に大金だとか激レアアイテムが眠っているという都合上、リリカたちの他にもこのミッションを同時受注するダイバーは数多い。

 

『んぎゃー!!! 畜生、ミミックかよ! チィはステゴロの戦闘に向いてないってんだろ!!!!!』

 

 噂をすればなんとやら、とは先人の言葉だがその通り、バンデット・レースを公式に引き上げた立役者にして「会いに行けるELダイバー」としてガンダムベースシーサイドベース店で、猫を何重にも被った接客をしていることもあるELダイバー、チィもこのミッションに参加し、そして見事にミミック役として設定された【ガンダムF90M】と戦わされていた。

 

「……ミミックを引くと、ああなるんだ……」

 

 沈んでいたコンテナを中心に半球のようなバトルフィールドが形成され、そこでは武装の使用が解禁される、というのがこの宝探しミッションにおける特殊ルールだった。

 

「でもでも、倒せればいい報酬が貰えたりするんだよ〜?」

「そうですわね、普通の宝箱からレア報酬を手に入れるよりはミミックと戦って勝った方が手に入りやすいとか」

 

 それにしてもしけてやがりますわね、と、水中であるにも関わらず優雅にウイングゼロヌーベルを操り、フォースメンバーの中で一番宝箱を回収していたカエデが、手元に入った数百ビルドコインや使い道のなさそうなパーツデータだとか、そんな報酬に嘆息する。

 とはいえそれはリリカもミワも似たようなものだった。

 リリカに至っては今まで引いた中で当たりと呼べるものが1000BCぐらいで、残りは端金としかいいようのないものだったし、ミワは一応レア枠に分類される「高速リペアキット」──要は復活アイテムを引き当てていたのだが、使う機会がそうそうない上に売却不可能という点でなんとも残念な感じが拭えないものが最高の報酬だった。

 

『だーもうド畜生、チィ一人で最強クラスのレアエネミーに勝てるわきゃねーだろ! てかそこで見てるねーちゃんたちも見世物じゃねーんだぞ、終いにゃ金取んぞ!』

 

 狭いバトルフィールドの中を縦横無尽に駆け回り、F90Mの弾切れを待とうとしていた、SDCS陸戦型ガンダムをベースに改造を施した仮想の躯体、【ガンダムグラスランナー】を慌ただしく走り回らせながら、チィは口角泡を飛ばす勢いで捲し立てる。

 

「……え、えっと……ごめんなさい、頑張ってください……」

「助けたくても助けられないしねぇ」

「貴女の健闘をお祈りしておりますわ、チィ」

『ちくしょーっ! チィが何したってんだああああっ!』

 

 七転八倒するチィを横目に、「アナザーテイルズ」の面々は残るコンテナを開封する作業に戻っていく。

 ミミックの中でも最強クラスに当たるF90Mの思考ルーチンは、Sランクかそれ以上に設定されているらしい。

 だが、その分引き当てて倒した時の報酬も破格なものとなっている。

 リリカはそのことを知ってか知らずか、海中に半ば余っているような形で沈み込んでいたコンテナを開いた、その時だった。

 

【ENCOUNT! 敵機出現!】

 

 人を呪わば穴二つ、とはまた違うのだろうが、リリカの引き当てたそれもミミック入りのコンテナであり、形成されたバトルフィールドはギリギリ、ミワとカエデを巻き込まず、リリカ一人を隔離する。

 そして、コンテナの中からツインアイを黄色に煌めかせて現れたのは、先程チィが戦っていたのと同じガンダムF90Mだった。

 

「あっ……」

「リリカちゃん!?」

「リリカさん!」

 

 紫色に機体がペイントされているため、厳密には2号機なのだが、要は最悪なエンカウントを引き当ててしまったことに違いはない。

 そういえば己のエンカウント運が腐っている部類に入ることを忘れていた。

 リリカはバトルフィールドへと心配げに手を伸ばしたミワとカエデを横目に、じわり、と眦に諦めと悲しみと開き直りその他諸々が入り混じった涙を滲ませる。

 

「えっと、その……うん……ごめんなさい……」

 

 ハイドロジェットで、自在に海中を動き回るF90Mに対して、リリカが持てる有効打は極めて少ない。

 ドッズライフルは減衰率こそ普通のビームライフルより少なく設定されているもののゼロ距離でなければ無意味で、ビームサーベルも論外だ。

 可能性があるとすれば、デストロイガンダムにぶちかましたように、シグルブレイドによるカウンターを成立させることなのだが──宇宙空間と似ていながらも、水圧という独自の要素に不慣れで機体の姿勢を維持するので手一杯なリリカに、容赦なくF90Mは、Sランク相応の思考ルーチンをもって襲い掛かってくる。

 そして、AIが上位クラスに設定されているなら、その戦い方は勝ち筋を押し付けるのではなく、負け筋を潰す傾向が強い。

 諦めずにシグルブレイドを抜き放ったAGE-1ブランシュの右腕に、F90Mは容赦なく六連装アローシューターを撃ち込んで、関節部を破壊する。

 ──あっ、これ無理なやつだ。

 チィの気持ちを理解すると同時に、リリカの脳裏にそんな言葉がはたと零れ落ちる。

 確かにNPDであれば、対策を積んでいれば何とかなるようには設定されているのだが、ほとんど初見に近い水中戦で格上を狩り取れるほど地形条件というのは甘いものではない。

 そして、程なくしてリリカの機体は爆散し、1000BCとあとちょっとという端金を報酬に、はじめての宝探しミッションは終わりを告げるのだった。




メガトンエンカ再び

【眠り姫の財宝】……ミノフスキードライブの搭載に成功した「エオス・ニュクス号」が地球圏近海で地球連邦軍に撃墜されて搭載された物資が散らばってしまったため、それを回収せよという宝探しミッション。推奨ランクはDからとなっているが、ミミックというランダム要素が存在しているためにチィやリリカのように無対策で行くとデスエンカを引いてそのままロビーへ強制送還されることとなるミッションでもある。手に入る中での目玉のレア報酬は「ミノフスキードライブ・ユニット」や「黄金の女神像」といったもの。前者はプラグインとして機体のカスタムに利用でき、後者は極めて高値で売れるので今日も女神像を求めて文字通りダイブするダイバーたちは後を立たない。
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