ガンダムビルドダイバーズ アナザーテイルズ   作:守次 奏

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年末が近いので初投稿です。


第二十七話「福音との邂逅」

「すごいよすごいよぉリリカちゃん、あれ、必殺技なの〜?」

 

 プールサイドに帰還したリリカの手を取って、ミワがどこか興奮した様子でそう問いかける。

 

「う、うん……ブランシュアクセル、っていうんだ……えへへ」

 

 ブランシュアクセル。

 それは確かにリリカが設定した、というよりはシステムがアジャストしてくれた必殺技であり、段階を調節しての強化が可能なそれは理屈だけでいえば三倍速、四倍速……と、機動力とモーション速度を引き上げることが可能になっている……らしい。

 らしい、というのはリリカも使ったのが初めてで、正直なところどこまでやれるのかわかっていないからだ。

 頬をすり寄せてくる姉からの問いかけを肯定しながら、その辺りの検証もそのうちやってみようとリリカは考えていた。

 

「驚嘆に値しますわね、わたくしもリリカさんがそのような隠し球を持っているとは思いませんでしたもの」

 

 しれっと不安定な機体で水中戦に適応し、撃墜スコアを挙げてみせたカエデも大概なのだが、それはそれとしてリリカの奮闘を称えているのは本心からで間違いない。

 欲をいえばミワがそうしているようにリリカへと熱い抱擁を交わしたりスキンシップをしてみたいというのはあるのだがそこはそれ、姉妹水入らず時間を邪魔するのも無粋であろうと、淑女の嗜みとして一歩身を引いて腕を組み、カエデはリリカを見守っているのだ。

 

「うむ、リリカ君の奇策には我々も度肝を抜かれた。素晴らしかったよ」

「マイヨール卿。こちらこそ、グッドゲームでしたわ」

「ありがとう、カエデ君。さて……『アナザーテイルズ』の諸君、水中戦は楽しんでいただけたかな?」

「は、はい……私、楽しかったです……!」

「うむ。ならば我々としても幸いだ。どうしてもGBNで水中戦というのは日の目を見ないからな」

 

 フォース「アナザーテイルズ」は、自ら困難に挑み、水中戦を楽しみ、尚且つ渾身のギミックや妨害を跳ね除けて試練を突破してくれた。

 なら、マイヨールとしてもいうことは何もなかった。

 一人でも多くその魅力を知ってもらいたいという願いはまだまだ叶ったとはいえないものの、「アナザーテイルズ」がどこか幸せそうにミッションを終えてくれたことこそ、その挑戦を作った側としては最大の喜びに値するのだ。

 確かにGBNの主戦場は地上や宇宙、次いで空中で、水中戦は何かのイベントであるとか、あるいはマイヨールたちのように同好の士がクリエイトミッションの舞台とするかぐらいしかないかもしれない。

 だが、文字通りに奥深いそのめくるめく魅力は底知れないのだ。

 今度はグランダイブプールを一千メートルの水深に改良してみようか、などということを考えつつ、マイヨールは踵を返して去っていく。

 

「独特な人だったねぇ、ミワが言えたことでもないのかもしれないけど〜」

「それだけ好きなものがある、というのは素晴らしいことですわ。そうでしょう、リリカさん?」

「は、はい……きっと、あの人も私たちと同じ……」

「ダイバー、ってことだねぇ……それじゃ、ちょっと遊んで帰りますか〜」

 

 グランダイブ・チャレンジの副賞として与えられた、「グラナダ・ブルー」のフォースネストに完備されているプールやバスが一日中使い放題になるという特権を満喫すべく、三人はフォースネストのロビーへと歩いてゆくのだった。

 

 

◇◆◇

 

 

 

 リリカはある種吹っ切れていたといってもいい。

 迷いなく、そしで淀みなく回避盾を務めながら数々のミッションであったり、時には挑まれたフォース戦をこなしてきたことで、その技量は着々と高まっていた。

 そして、それとなく自身の率いる、というよりは寄り合い所帯で作り上げられたフォース、「アナザーテイルズ」もそこはかとなく話題を呼んでいる──ことをリリカは知らない。

 だが、最近、ロビーを歩いている時にリリカへと視線が注がれることも増えてきたのがちょっとした悩みの種であった。

 ミワ曰く有名税ってやつだよ、とのことらしいのだが、正直なところ何か特別なことをしたわけでもなく、安穏としてこのGBNで遊んでいるだけな自分たちが誰かに目をつけられている、というのはどうにも収まりが悪いというよりは落ち着かない。

 ライブモニターに中継されるフォース合同ミッションと呼ばれる小規模レイドバトルの様子を体育座りで観察しながら、リリカはその画面に映っている「MS斬りの悪魔」ことアズキの動きに嘆息する。

 

「すごいなぁ、アズキさん……」

 

 太刀一本というあまりにも潔い装備で戦場を駆け抜ける彼女のマニューバはリリカも参考として取り入れてこそいるのだが、それを完璧にトレースできているわけではないし、仮にできる人間がいたらほとんど化け物の類だろう。

 ただ、使えるところは使い、先達に倣うという後身の掟に忠実に、ビームの切り払いであるとかは、狙えそうな部分で狙っている。

 

「ええ、凄まじいですわね……いつかわたくしも越えねばならぬ大きな壁ですわ」

「カエデさん……」

 

 いつの間にかログインしてきたらしいカエデはリリカの隣に腰掛けて、羨望と嫉妬、そして闘争心が綯い交ぜになった複雑な瞳を、画面に映るアズキとその愛機であるガンダム・バルバトス(もののふ)へと向けていた。

 その瞳が宿しているものは憧れというにはあまりにも苛烈で、鋭く、触れる者全てを切り裂き、或いは呑み込み焼き尽くすかのような強烈な動機で満ち溢れている。

 何がカエデをそうさせるのか。どうしてカエデは、「MS斬りの悪魔」へと挑みかかろうとするのか。

 リリカは問いを投げかける。それが気になったからだった。

 

「……そ、その……」

「なんですの、リリカさん?」

「……え、えっと……変な質問だったらごめんなさい、その……どうしてカエデさんは、GBNを……始めたんですか……?」

 

 人の心に踏み入るには相応の資格がいる。

 だが、それをわかっていたとしても、リリカは問わずにはいられなかった。

 フォースという形を組んでいるのならば、その繋がりがあるのならば、出来る限りお互いの動機は、やりたいことは尊重したい。

 リリカはフォースを組んだことでそれがほとんど達成されかかっていたものの、時折カエデは未だに何かに飢えているような、そんな乾きを感じるのだ。

 

「どうして、ですの? ふむ……強いていうなら、アイカ様のように強く、凛々しくなりたいからというところですわね」

 

 アイカ、という名前を口にした瞬間、綻んだ口元と光を宿したカエデの赤い瞳には、アズキへと向ける感情とはまた違った輝きが宿っていた。

 アイカ。自分の推測が恐らく間違ってなければ、その名前は「リビルドガールズ」を率いるリーダーにして切り込み隊長として名高いあのアイカのことを指しているのだろう。

 リリカは、奇しくも自身と同じ始まりを抱いていることに目を見開き、驚嘆していたが、よくよく考えれば「リビルドガールズ」はそれなりに有名なフォースに成り上がったのだ。

 それを鑑みれば、同じ憧れを抱くダイバーはカエデ以外にも数多く存在していることだろう。

 ただ、こうして一つ屋根の下に、同じ旗の下に集ったカエデが同じ始まりを抱いている、ということはリリカにとって何か奇跡じみた、といえば大袈裟だが、奇妙な運命の悪戯じみたものを感じさせる。

 

「……リビルドガールズ」

「ええ、一つの伝説を打ち立てたフォース……そして先ほどからわたくしたちを見つめていらっしゃる貴女たちは何者でして?」

 

 考えの沼に沈み込もうとしていたリリカの意識を引っ張り上げるように、カエデの強張った声音が耳朶を震わせた。

 リリカが顔を上げてみればそこにあるのは、自分たちを見下ろすように見つめている女性ダイバーたちが四人ほどたむろしている姿に他ならない。

 用がないとか間違いだとか、そういうものでないことぐらいは四人組の内、一番前に立っている赤毛の女性の瞳がなによりも雄弁に物語っている。

 

「ん、ああ……リビルドガールズがどうこうって話が聞こえたから見てたんだけど、ごめん。あたしはアンジェ。そんで……貴女たちが『アナザーテイルズ』で間違いないんだよね?」

 

 女性にしてはハスキーな声音で確認を求めてきた、アンジェと名乗るダイバーの問いを、リリカは小さく頷くことで肯定する。

 カエデは未だに警戒を解いていないものの、口ぶりを見る限りアンジェというダイバーが何か腹に黒いものを抱えているとは思えないのだ。

 

「は、はい……私たちと、あと一人、今はいないんですけど……お姉ちゃんで『アナザーテイルズ』で間違いない、です……」

「お姉ちゃん? ああ、『朱いスナイパー』のことか。ってことは……まあいいや、詮索なんて野暮だし。あたしたちがここに立ってるってことは……その理由も多分わかるってことでいいよね」

「……フォース戦、ですの?」

 

 沈黙を保っていたカエデもアンジェに何か裏に隠した意図があるわけではないと踏んだのか、そう問い返す。

 

「そういうこと。最近話題の『アナザーテイルズ』とあたしたちの『エヴァンジェルミ』で一戦交えてみたかったからその……見終わるのを待ってたんだけど」

 

 あたしの目付きが悪いもんだからごめん、と、フォース「エヴァンジェルミ」を率いているのであろうアンジェはぺこりと頭を下げる。

 

「いえ、此方こそ疑って申し訳ない限りですわ。しかし今はミワさんがいないので、フォース戦について承諾できるかどうかは……」

「んぅ? ああうん、フォース戦するならミワは大丈夫だよぉ」

「……お姉ちゃん、いつの間に……」

 

 いつログインして、そして自分たちの背後に潜んでいたのかわからないミワはにゅっ、と姿を表すなり、しれっとフォース戦の提案にOKを出す。

 正確には先ほどログインしたばかりで、ちょうど取り込み中だったリリカたちを見てそれが終わるまで待っていようと息を潜めていたのだが、自身の意見が求められたことで姿を現したといった具合なのだが、別にそれ自体はどうでもいいからと、ミワはついさっきだよぉ、とだけ答えてアンジェへと向き直る。

 

「……いや、心臓に悪い……まあいいや、とりあえずリリカ。貴女はこのフォース戦、受けてくれるってことでいい?」

 

 流れとしては受けるのが筋なのだろう。

 カエデは強さを欲していて、ミワも戦うことに異存がないのなら尚更だ。

 リリカも、グランダイブ・チャレンジで鍛えた自身の腕前がどこまで通用するのか、そしてブランシュアクセルがどれだけ使えるのか、という検証もしてみたかったために、アンジェからの提案を受け入れる。

 

「は、はい……よろしく、お願いします……」

「ありがとう、『アナザーテイルズ』。いい試合にしようね」

 

 アンジェはリリカと握手を交わすと、他のメンバーたちと共に一足先に格納庫エリアへと転送され、ロビーから解けて消えていく。

 

「さてさて……ミワたちも有名になっちゃったねぇ」

「名を上げるのは悪いことではありませんわ、それに……リリカさんもなんだかんだで楽しみにしているのでしょう?」

 

 カエデはふっ、と柔らかい笑みを浮かべてリリカへとそう問いかける。

 

「はい……カエデさんは、なんでもわかっちゃうんですね」

「わかることしかわかりませんわ」

「むむむう……帰ったらリリカちゃん成分を補充しなきゃ……」

 

 やはりなんでもお見通しなのだろうかとリリカは苦笑を浮かべつつそれを首肯して、「アナザーテイルズ」三人もまた、三つの心を一つにとはいかなくとも「エヴァンジェルミ」を追いかけるように、格納庫エリアへと解けていくのだった。

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 戦場として選ばれたのは、奇しくも地球近郊の衛星軌道上だった。

 デブリ帯が主戦場となる軌道の脇に広がっている分、そこに相手を追い込むのもよし、そこに隠れるもよしといった具合の比較的オーソドックスなステージだったが、それは相手にとってもいえることだ。

 フォース「エヴァンジェルミ」は、その名の通り天使をモチーフにした機体を主軸に運用しているフォースらしい。

 らしい、というのは掲示板を見る限りでの情報しか拾えなかったからだが、平均ランクはB以上と、少数精鋭のフォースとして話題になる程度には実力があるということでもある。

 

「そんなわけで、気合入れてかからないとちょっとまずそうかなぁ」

「上等ですわ、相手にとって不足なし、どこからでもかかってきていらして問題ありませんことよ」

「おお、おお……カエデさんは頼りになるねぇ、リリカちゃんは大丈夫?」

「う、うん……大丈夫……」

 

 平均ランクがB以上で、リーダーのアンジェに至ってはカエデと互角なAランクであると聞いた時には軽い絶望感が襲ってきたものの、今更試合を取りやめますなんてことはできないし、なによりもやりたくない。

 ぷるぶると震えてこそいるが、リリカの瞳にはそんな、確かな覚悟が宿っていた。

 AGE-1ブランシュティターニアは、水中戦のために拵えたウェアであるために今回は元の乗機である、ただのブランシュにアセンブリを変えているものの、グランダイブ・チャレンジと比べれば水圧がかからない分、上下左右からの攻撃を気にしなければいけないとはいえまだ、動かすだけなら楽な方だ。

 リリカは操縦桿を握りしめ、ミワのAWACSで敵の情報を確認しつつ、いつもの回避盾として戦線に躍り出ようとした、その時だった。

 

「……っ、まずいねぇ……敵さんにジャマー持ちがいるみたいだよぉ」

 

 フリーダムルージュからのデータリンクが途切れ、そしてAGE-1ブランシュのレーダーもモノクロの砂嵐のようなエフェクトに包まれて、使い物にならなくなる。

 

『そういうこと! そして私は……その隙を見逃さない!』

「……ッ!?」

 

 恐らくは最初に全力でブーストを噴かした慣性で移動してきたのだろう。

 戦場に突如として姿を現した、エンドレスワルツ版のガンダムデスサイズヘルを白く塗り替えて、同じくエンドレスワルツ版のウイングゼロの翼を移植した機体……【ガンダムデスサイズルーセットⅡ】は、そう叫ぶと共にビームサイスを振りかぶってリリカのAGE-1ブランシュに襲いかかった。

 しかし、間一髪のところでリリカはその攻撃を回避して、追撃で放たれた切り返しを、バックラーから発振したビームサーベルで受け止める。

 

『やるじゃない、「アナザーテイルズ」! ここまで生き残ってきたのは伊達じゃないってわけね!』

「リリカさん!」

『おっと、させないよ!』

 

 デスサイズルーセットIIを駆るダイバー、「ライザ」は渾身の奇襲から無事に逃げ果せたリリカを手放しで称賛するが、ジャマーが効いている以上、それだけが「エヴァンジェルミ」の仕掛けた手ではないということだ。

 早速とばかりに大量のミサイルやビームガトリングによる弾幕砲火が、リリカのカバーに入ろうとしたカエデとの間に射線を形成して、合流を妨害する。

 姿こそ見えないが、恐らく撃ってきたのはヘビーアームズなのだろう。

 ミワは完全にしてやられたことを悔やむように小さく舌打ちをすると、射線が形成された距離と、そして相手が逃げそうな暗礁地帯に狙いを定めて、ヅダの対艦ライフルによる超長距離狙撃を試みた。

 リリカはデスサイズルーセットIIを相手に持ち堪えている。

 そして今、前に出るのではなく後退を選んだ以上、推定ヘビーアームズはデブリ帯に篭って弾幕を送ることを前提としているのだろう。

 ならば次に予測できる戦力は近接機。カエデとリリカで相手ができる──刹那の間に様々な考えを巡らせて、ミワは予測を含めてこそいるものの、一か八かに等しい賭けに出るかのようにトリガーを引いた。

 弾速の減衰が少ない宇宙空間において、徹甲弾というのは無類の強さを誇る。

 そして、ガンダムヘビーアームズは歩く火薬庫と呼ばれるほど、全身に火器を詰め込んでいる。

 そこから導き出される答えは何か。

 それは自明の理であるとばかりに、デブリの隙間を縫うように突き進んだ徹甲弾は、レーダーもセンサーも使えないという状況下においても、ヘビーアームズのコックピットブロックを貫いて、全身に詰め込んだマイクロミサイルの誘爆を引き起こしていた。

 

『こ、こんなのってアリ!? ぎゃーっ!』

『ベルヌーイ! くっ、流石は「緋きスナイパー」……!』

 

 戦線に合流しようとした、全身を赤く染めたトールギスFのコックピットから、アンジェはその恐るべき予測精度と狙撃の腕に戦慄しつつも、二体一になりかけているライザを助けるために全力でブーストを噴かす。

 そして、ミワの凄まじい狙撃を宣戦の号砲として、「アナザーテイルズ」と、「エヴァンジェルミ」のフォース戦は幕を開けるのだった。




ミワ「撃っちゃうんだよねぇ、これがぁ」

【エヴァンジェルミ】……Aランクダイバー「アンジェ」をリーダーとして結成された新鋭の四人組フォースであり、全員が全員ウイングガンダムゼロ(EW版)のバックパックを背中に装備するということでフォースとしての結束を示している集団。奇しくも、フォースを結成したきっかけは「アナザーテイルズ」と同じく「リビルドガールズ」への憧れである。
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