ガンダムビルドダイバーズ アナザーテイルズ   作:守次 奏

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エクストリーム初投稿です。


第二十八話「戦場の天使たち」

 ──強い。

 アンジェがこの時「アナザーテイルズ」に抱いていた感想と、リリカが「エヴァンジェルミ」へ向けていたそれは奇しくも同じ言葉に収斂される。

 戦線に合流したアンジェの赤いトールギスFはその翼を広げ、ウイングゼロヌーベルとAGE-1ブランシュを合流させないように自らを盾とする形で、カエデからの注意を引きつけていた。

 

『あたしじゃ不足かもしれないけど、踊ってもらうよ、お嬢様!』

「役者不足などとんでもない……わたくしの前に立ちはだかるからには全てが好敵手、つまりはそういうことですわ!」

 

 バックパックとその素体の改造機という意味で因縁の結ばれた、ウイングゼロヌーベルとトールギスFは、携えたシザーソードとランスで打ち合い、漆黒の宇宙に新たな星座を刻むかのように複雑なマニューバでその剣戟を繰り返す。

 さながら終わらない舞踏会といった具合に、アンジェとカエデの打ち合いはほぼ拮抗しているかのように見えた。

 だが、互いにそれを楽しむ余裕がないということはわかっている。

 アンジェからすれば、今リリカと戦っているライザが奇襲に失敗したことと、そしてあの「緋いスナイパー」がフリーになっているという状況が不安材料で、カエデからすればリリカのAGE-1ブランシュと、ライザのデスサイズルーセットIIがどこまで打ち合い続けられるかがわからないのが懸念だった。

 シザーソードとランスがぶつかり合う甲高い金属音はさながら悲鳴にも聞こえて、二人の焦燥を煽り立てていく。

 

『追いつくだけで精一杯……なんて、泣き言言ってらんないか!』

「よもやここまで追いすがられるとは……わたくしも随分と手こずらされる!」

 

 トールギスFと激突するウイングゼロヌーベルのコックピットで、カエデは自らに対する怒りからそう叫んだ。

 ウイングガンダムゼロの翼パーツは、GBN内においては極めて慣性が乗りやすく調整されているため、それを制御できているという意味では、アンジェたちもまた一流のダイバーであることに違いはない。

 だが、一流で止まっていてはどうしようもないのがこの魔境であり、そしてカエデが目指している場所なのだ。

 なんとかランスによる高速の刺突を変則的なマニューバで回避して、牽制としてウイングバインダーの裏に装備していたツインバスターライフルを放つと、カエデはぎり、と歯噛みする。

 リビルドガールズのアイカ。

 それはカエデにとっての憧れの名であり、そして目指すべき頂──一流を超え、魔境と呼ばれる五桁から四桁の壁を越えたその先にこそ名を刻む、三桁の英傑という栄誉をその手に収めなければ並ぶことのできない、大いなる壁でもあった。

 だからこそ、こんなところで立ち止まっているわけにはいかない。

 カエデも当然の如く切り札というものは持ち合わせている。

 しかし、切り札というのは切り時を誤れば、敗北に直結しかねないものだ。

 そしてこのアンジェというダイバーもまた、膠着状態から攻めあぐねているものの、まだ切り札は温存しておきたい──と、いうよりは、カエデのそれとぶつけることで相殺したいという意図が伺える。

 GBNにおいて、例えばトランザムシステムは強力な切り札として認知されている。

 事実、機体スペックを大幅に引き上げるそれは自壊のリスクや速度を制御し切ることができず壁の染みになるかもしれないというリスクを抱えてこそいるものの、多くのダイバーが愛機の奥の手として仕込んでいる、いわゆる「環境構築」の一つであることに間違いはない。

 だからこそ、トランザムを持つ機体同士が相対した時、そこには駆け引きが生まれることになる。

 トランザムをいつ使うか。

 それは概ね三択であり、開幕にぶつけて相手の気勢を削ぐか、もしくは温存することで相手からの攻撃に対してのカウンターとするか、或いは──今のカエデとアンジェがそうしているように、互いに同時に起動させることで、アドバンテージを相殺という形で消失させるかだ。

 戦況を見るのなら、まだハイパージャマーの効果時間が残ってこそいるものの、ミワが相変わらず化け物じみた一撃で敵の砲撃手を落としてくれたことで、数の上では互角といった風情だろう。

 だが、相手が隠している最後の一機が何をしてくるかわからず、そしてハイパージャマーを起動させているデスサイズルーセットIIがまだ生存している以上、油断は即座に死を招く。

 

「リリカさん……」

 

 カエデはリリカの実力を疑っているわけではない。

 あのライザというダイバーも相当な手練れだが、追い込まれてからの爆発力という意味ではリリカのダイバーとしての腕前も決して侮れるものではないだろう。

 故にこそ、格上相手のジャイアントキリングが成立する可能性をカエデは疑ってこそいないものの、それはそれとして独特な慣性の乗り方であったり、それを制御するマニューバにリリカが翻弄されつつあるのもまた、事実ではあった。

 そして、ミワがリリカのカバーに入れていない以上、彼女の側でも何か問題が起きているということもまた察せられる。

 距離を離してのチャージをさながらマタドールのようにひらりといなしつつ、カエデは今、自分がすべきことを考えるのだった。

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 ガンダムデスサイズルーセットIIの強みは、その変則的な機動とそして携えている大鎌──ビームシザースによるリーチの長い攻撃だろう。

 リリカはレーダーやセンサーの類を潰されたことで守勢に回るので手一杯になりながらも、なんとかその猛攻を凌いでいたものの、決定打がなくじわじわと削られているような焦燥が、心臓をちりちりと焦がすような錯覚に蝕まれていた。

 

『やるね、リリカちゃん! 私の攻撃をここまで受け止めるなんて……!』

「……っ、来る……死角!」

 

 目視だけが頼りという状況で、自機の斜め下からの奇襲を選択したデスサイズルーセットIIをドッズライフルの三点射で牽制しながら、リリカはどうにかカウンターを、できればシグルブレイドによる一撃を叩き込めないものかと思案する。

 だが、ライザもBランクという格上のダイバーであることに間違いはない。

 一撃離脱という戦法を徹底することで、近距離をそのキリングレンジとしているAGE-1ブランシュの手札を封殺し、特にシグルブレイドによるカウンターを受けないように、ビームシザースの刃が届くギリギリの位置から格闘戦を仕掛けてくる辺りが、いい意味で嫌らしい。

 

『だけど……デスサイズの武器はこれだけじゃないよ!』

 

 膠着を続けつつ機会を伺っていたアンジェとは異なり、ライザは早期決着を試みるつもりであるようだ。

 バスターシールド──ガンダムデスサイズ及びテレビ版のデスサイズヘルに装備されている攻防一体の武装を腕から切り離して射出すると、その回避運動によって牽制射撃が途絶えたリリカを仕留めるべく、ライザは渾身の一撃を見舞おうと、ブーストを全開まで噴かして吶喊する。

 

「ブランシュアクセル……ダブルブースト!」

 

 だが、リリカもまた奥の手を切ることを決めていた。

 全開まで噴かしたブーストにより、ビームシザースの一撃は確かにその瞬間までリリカがいた位置を捉えていたかもしれない。

 しかしその瞬間、文字通りリリカのAGE-1ブランシュはそのモーションを倍速化させることで緊急離脱を遂げると、無防備な背中を晒したデスサイズルーセットIIに対して再びドッズライフルの三点バーストをお見舞いする。

 

『えっ、何!? 何が起こったの!?』

 

 ライザは思わず驚愕こそしていたが、なんとか本体への直撃だけは避けるべく、ウイングゼロの羽でドッズライフルの一撃を受け切っていた。

 だが、得体の知れない絡繰を相手が使ってきたことは確かだ。

 相変わらず高速化されている速度とモーションで自身に肉薄してくるAGE-1ブランシュを舐めつけて、デスサイズルーセットIIは再びビームシザースによる一撃を見舞おうと、豪快に機体に捻りをつけることで小さなビームの乱流とでも呼ぶべき「壁」を作る。

 それは迂闊に攻めを許さない、自らを一つのビームシールドとした守りの型だったのだが、生憎相手が悪かったとしか言いようがない。

 吶喊をかけてくるAGE-1ブランシュに対してカウンターが決まるだろうと予測していたライザの期待──言い換えるのであれば慢心は、左腕が断ち切られるという形で踏み砕かれる。

 

『まさかこの子……ビームを、斬って!?』

「はぁ……っ、は、あっ……」

 

 リリカが二倍速で起動させたブランシュアクセルによる一撃は、確かにデスサイズルーセットIIの左腕と、ビームシザースを断ち切っていた。

 だが、誰かが言っていたように、生きている限り負けではない。

 ここで動揺に引っ張られることなく立て直しを選んだライザのクレバーさもまた、褒めるべきものなのだろう。

 エンドレスワルツ版のウイングゼロからバックパックをコンバートしていたことで、全ての武装を喪失するという憂き目を見ずに済んだライザは、高鳴る胸の鼓動を鎮めるように深く息を吐く。

 ハイパージャマーの効果時間はまだ残っている。

 そして、急に倍速で動き出したAGE-1ブランシュのそれが、原作においてどのような機能が一番近いかといわれればそれはFXバーストになるのだろう。

 さっきまでの意趣返しとばかりに倍速での急襲をかけてくるリリカとAGE-1ブランシュによる攻撃をなんとか回避し、傷つきながらも損傷は最低限といった風情に抑え込みつつ、ライザは巡らせた考えの果てに一つの結論へと辿り着いていた。

 ──あれは、必殺技だ。

 自身もランクが上がったことで保有しているそれは、残念なことにハイパージャマーの効果延長とステルス効果の付与という形で既に発動してしまっているため、ほぼ相殺は望めないものの、モーションや機動力の倍速化といった強力なそれがなんのリスクも代償もなく繰り出せるわけはない。

 事実、ブランシュアクセルは終了時にその倍率と稼働時間に応じたデバフとダメージを受けることとなっている。

 だからこそリリカはここで、ブランシュアクセルが続いている内に、なんとかデスサイズルーセットIIを、ライザを仕留めてしまいたかったのだ。

 焦燥が心臓を駆り立てて、理性を蝕んでいく。

 操縦桿を握りしめる手に嫌な汗が滲む感覚の擬似的なフィードバックにリリカは眉を潜めながらも、ここでデスサイズルーセットIIを確実に仕留めるべく、更なる手札を切ることを決める。

 

「ブランシュアクセル……トリプルブースト!」

『何を……っ!?』

 

 恐らくこの戦いがどのような形で決着しても、ブランシュには大きな痛手が残ることになるだろう。

 リリカはその事実に心を痛め、涙を眦に滲ませながらも、感情をトリガーから引き離して、ガチャガチャと操縦桿を動かし、思考補助機能もフル活用した上で、三倍に引き上げられた機動力とモーションの速度を制御して、デスサイズルーセットIIを仕留めにかかる。

 倍速までならなんとか対処できたライザであっても、三倍となれば流石に反応することは難しかった。

 さながらガンダムAGEの劇中において、フリット・アスノがAGE-1スパローによってゼダスを解体した時のように、金色の双眸に光を灯して襲いくるAGE-1ブランシュに、ライザはなすすべもなくその右腕を、頭部を、そして脚部を切り刻まれて、最後に残されたコックピットブロックへと、リリカは無慈悲にシグルブレイドを突き立てる。

 

「これで……終わり、です……っ……!」

『そ、そんな……って、まあ仕方ないか。後は任せたわ、アンジェ……』

 

 妙に割り切った、そうでなければリーダーに全幅の信頼を寄せた言葉を辞世の句として、ガンダムデスサイズルーセットIIとライザの仮想の躯体はテクスチャの塵へと解け、そして戦場から消失していく。

 リリカはそれを確認すると、ブランシュアクセルを即座に解いて、復活したレーダーを見る。

 カエデは近くで戦っていたからその様子は目視で伺えたが、どうやらミワは敵が残していたもう一機に懐へと飛び込まれて噛みつかれたらしい。

 急いで救援に向かうべく、リリカがAGE-1ブランシュのスラスターを噴かそうとした、その瞬間だった。

 

「……きゃ、っ……!?」

 

 か細いリリカの叫び声をかき消すかのように小規模な爆発とスパークが走って、AGE-1ブランシュの関節部とスラスターに無視できない、レッドアラートが鳴り響くレベルのダメージを残す。

 だが、それも無理もなかった。

 ダブルブースト、二倍速でまでならば確かに戦闘行動を継続できたかもしれない。だが、トリプルブースト……三倍速まで起動させてしまえば、途中で切ったとはいえ、機体にかかるダメージフィードバックも相応のものとなる。

 結論からいってしまえば、AGE-1ブランシュはほぼ戦闘不能に近い状態に陥ってしまった、ということだ。

 コンソールを一瞥して、リリカははらりと一筋の涙を零す。

 それでもきっと、ミワとカエデならばなんとかしてくれるという信頼は確かに抱いているし、二人の実力に対して疑いを持っているわけではない。

 だが、この状況下で動かないことが、そして予想以上のダメージがAGE-1ブランシュへと蓄積されたことにショックを受けて、リリカは呆然としてしまっていたのだ。

 

「……ごめんね、ブランシュ……」

 

 あの状況ではそうするしかなかったと、頭の中ではわかっている。

 そしてきっと、機体が動くのならこの感情も指先から切り離してAGE-1ブランシュと共に戦うこともリリカにはできるだろう。

 だが──それはそれとして、わかっていても割り切れないことなど世の中にいくらでも、巷に雨が降る如く存在している。

 それにまだ、耐久値がゼロになったわけではない。

 破損したメインスラスターの代わりにサブスラスターや各部のアポジモーターからブーストを噴射して、せめて盾がわりにはなろうと、リリカはミワが苦戦を強いられているであろう戦場へと向かっていくのだった。

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 ミワを追い詰めていたのは、偏差射撃をも物ともせず、それこそ猪突猛進とでもいうべき勢いで迫ってくるガンダムナタク……アルトロンガンダムのエンドレスワルツ版に、例によって同じ作品を出典とするバージョンのウイングゼロのバックパックを移植した【ガンダムアルトロンピンイン】だった。

 

「こうもひらりひらりと避けられるとはねぇ……」

『わはははは! うちにできないことはそんなにないぞ!』

 

 ミワが視力と予測の化け物であるなら、アルトロンピンインを駆るダイバー、「トウコ」は反射神経の化け物とでもいうべき存在だった。

 正確に狙いをつけて放った徹甲弾をフレーム単位で回避し、時にはビームトライデントを高速回転させることで防御するという荒技を狙ってこなせる彼女がなぜAランクという位置で止まっているかは、ミワにはわからなかったものの、ランクがどうであろうが厄介な仇敵であることに違いなどない。

 弾倉に残っている数と、そして通常弾が装填されている予備のマガジンの存在を確認した上でミワは、何発で仕留め切れるのかを頭の中に思い描く。

 しかし、そんな時間すら与えるものかと、トウコはさながら「機動戦士ガンダムUC」に登場した【シナンジュ】と、それを操る「フル・フロンタル」のごとく、漂うデブリを足場として、大量の障害物に掠ることもない緻密なマニューバで、デブリ帯に身を潜めたミワを仕留めるべく、強襲をかけるのだった。




強すぎる力には世界の修正力が働くとかそういうアレ
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