ガンダムビルドダイバーズ アナザーテイルズ   作:守次 奏

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気温ががくんと落ち込んできたので初投稿です。


第三十二話「緋き狙撃手(スナイパー)

 王者「パロッツ・パーティー」敗れる。

 そのニュースは多かれ少なかれ衝撃をもって、GBNの中に伝播していた。

 かの無法地帯、何でもありなルールにおいてチャンプ以外の相手には敗北を喫したことがほとんどない絶対王者にして変態の編隊が、無名のフォースに敗北を喫したというジャイアントキリングに、ある者は歓喜とともに大量のビルドコインを手に入れて、ある者は破りちぎったチケットを床に叩きつけて──またある者は、ライブモニターからその様子を眺めていた。

 

「まあ……あの鳥さんたちが敗れるとは、わからないものですね、お兄様?」

「……常日頃から言っているだろう、ユユ。彼らが慢心していたとは思わないが、耐久値が削りきられない限りGBNでは負けじゃない。いつだって逆転のチャンスがそこにあるからこそ……僕らは臆病なぐらいでちょうどいいのさ」

 

 ハードコアディメンション・ヴァルガでいつもの修練を終えた「FOEさん」の二つ名を戴くダイバー、キョウスケは、長い黒髪をいわゆるお嬢様結びに括った、黒い和装に黒いリボンという、自身と同じ黒尽くめの出で立ちをしている妹──ダイバーネーム「ユユ」へとそう語る。

 事実、「パロッツ・パーティー」が一種の切り札としているキモい、もとい独特なセンスをしている、ゲルズゲーとグラブロとベアッガイⅢをミキシングしたモビルアーマー、【ドードラブロズゲー】は投入していなかったものの、ハートたちの走りは一切手を抜いていない、全力のそれだった。

 コースをぶち抜くという外道にして、あの何でもありなレースにおいては王道な戦術を成功させた要因はいくつかあるが、ツインバスターライフルの威力、そして狂った狙撃精度で徹甲榴弾を当てた狙撃手の実力、最後にあの、機体の速度を四倍まで加速させた白いガンダムことAGE-1ブランシュティターニアの必殺技。

 どれ一つ欠けたとしても、そこに「アナザーテイルズ」の勝利はなかったといってもいいだろう。

 誰が詠んだか知らないが、「敢えて行く者が勝つ」という格言じみたものがGBNには存在している。

 ユユはその格言を地で行くかのように、一か八かの賭けを成功させて勝利を掴み取った「アナザーテイルズ」の、そして機体を全壊させてでも乾坤一擲を成したリリカの存在に、ぞくりと背筋を震わせる。

 

「嬉しそうだね、ユユ」

「ええ、お兄様……ユユは確かに心打ち震えております、あの勇気ある戦い、そして覚悟……並大抵のダイバーにできることではありません。故に……ユユは少し、『アナザーテイルズ』に興味が湧いてまいりました」

 

 ユユは基本的に、キョウスケと同じくソロを専門として活動するダイバーだ。

 戯れに傭兵をしてみたり、各ディメンションを回って、有望そうな相手にはフリーバトルを申し込んだりしているが、基本的にその在り方は孤高を貫くかのようなものであり、そんな妹が誰かに興味を持つこと自体が珍しく、そしてキョウスケにとっては喜ばしいことだった。

 キョウスケがソロを専業にしているのは一種の縛りプレイ、というよりGBNの黎明期からそうしていたことを貫いている、ある種の習慣のようなものであったが、ユユのそれは自身を真似ている側面の方が強い。

 今更になってプレイスタイルを変える、というのも性に合わないと思っているキョウスケがユユに対していえた義理ではないのだが、歳の離れた妹はまだまだ若いのだから、GBNにおける多様な楽しみ方を味わってほしいのだ。

 そういう意味ではユユもキョウスケも互いにブラコンでありシスコンであるともいえた。それも、重度のものである。

 

「アナザーテイルズ、か」

 

 かつて自身が遭遇した「リビルドガールズ」とどこか似たような響きを持つ名前を誦じて、キョウスケは顎へと指をやって、何事かを考え込む。

 ユユが兄以外のことでここまで心惹かれたのもまた珍しく、それが何故なのかという答えは自問しても出てこない。

 だからこそなのだろう。兄と同じように頭の中でその感情をもたらしたフォースの名前を浮かべながら、ユユはしばらく歓喜と落胆に湧くライブモニターを見上げるのだった。

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

「フハハハハハ! よもや我々が敗北しようとはな!」

「ハハハハハハ! だが、良いゲームであったぞ、『アナザーテイルズ』。目眩く最速の世界を、君たちも楽しめていたなら何よりだ」

 

 敗北したのにも関わらず嬉しそうな高笑いを上げて、ハートはリリカに対してグッドゲーム、と、手を差し伸べる。

 確かに内容を鑑みてみれば、グッドゲームといっても差し支えのないジャイアントキリングであったし、あの時の作戦が上手くいったから勝利できたという嬉しさも、リリカの中に確かに存在していた。

 だが──それはそれとして、AGE-1ブランシュが根本的に抱えている問題が浮き彫りになってしまったことで、リリカはどちらかといえば喜びよりも悲しみに感情の針が振れていたのだ。

 

「……こ、こちらこそ、グッドゲームでした……」

「む? リリカ君、少しばかり浮かない顔をしているな。最速の世界はお気に召さなかったかな?」

「あ、いえ、そんなことは……ただ、その」

「ふむ、何か問題を抱えているのだな。我々で良ければ相談に乗ろう」

 

 ダイバールック以外は至極真っ当な思考回路をしているハートたちは、リリカが微かに表情を曇らせたのを見逃さず、そう提言する。

 リリカにとっては、願ってもないことだった。

 ただ、なんだか催促してしまったようで申し訳なさこそあれど、勝敗関係なしにこの戦いが終わったら、彼らに訊きたいことがあったのはまた確かだ。

 そんなリリカの様子を察してか、ミワとカエデは黙してハートたちへの「相談」へと聞き耳を立てていた。

 

「……その、私の必殺技……ブランシュアクセル、っていうんですけど、発動が終わっちゃうと……ブランシュが壊れちゃって……それで、速さを、その……追求してる、ハートさんたちなら、何か原因がわかるのかな、っ……て……」

 

 すー、はー、と深呼吸をすると、ぼそぼそと最後の方は途切れ途切れになっていたものの、リリカは勇気を振り絞って自身の相談を、ハートたちへと持ちかける。

 ブランシュアクセル自体は強力な必殺技に違いないし、リリカもそれがハズレだとは思っていない。

 だが、使った後にいつも自壊していたのでは話にならないし、何よりも心が痛む。

 だからこそ、何か解決の糸口になるものがあればと、リリカはハートたちにその相談を持ちかけたのだ。

 

「ふむ……それならば、一つだけ考えられることがある」

「……ほ、本当ですか……!?」

「ああ、本当だとも。我々のパロットスクランブルも機体を高速化させる必殺技を持っているが、それでも機体が自壊しないのは過剰な出力を逃すための機構を設けているからだ。リリカ君、見たところ君のAGE-1ブランシュにはそれが足りていない……故に、自壊してしまうのではないだろうか?」

 

 システム側の問題だといわれてしまえばそれまでではあるが、と付け加えてハートは静かに瞑目する。

 GBNにおいて、ガンプラの造り込みがどこまで反映されて、どこまでがシステムの補助であるのか、その境界線は非常に曖昧であり、今日においても検証班の頭を悩ませていた。

 ブランシュアクセルそれ自体に機能として自壊が組み込まれているのならば、割り切ってそういう技として使う他にない。

 ただ、試せる方法としては機体に足りていない機能を足したり、余剰だったり過剰になっている部分を引いたりといった、ガンプラに対する加工が一つの解決策となる可能性は確かに存在しているのだ。

 投げかけられた答えに思い当たる節を見つけ出したのか、はっ、と顔を上げて、リリカはAGE-1ブランシュの構成について考えを巡らせる。

 AGE-1ブランシュは、ティターニアウェアという追加装備こそあれど基本的にはガンダムAGE-1ノーマルと、Gバウンサーのミキシングビルドだ。

 そしてパロットスクランブルは珍妙な外見こそしていれども、元がホットスクランブルガンダムということで、各部の放熱であったり、「紅の彗星」発動時の過剰出力の処理が最適化されている。

 いってしまえば、時限強化を持たない機体に無理やり時限強化を持たせたことによってその反動で自壊している、という可能性は大いに考えられるのだ。

 しかし──それを認めてしまうのなら。

 リリカは息を呑んで、視線をうつむかせる。

 

「……ありがとうございます……ハートさん……」

「うむ、少女たちよ。君たちの役に立てたのであれば我々もまた本望というものだ。もしもまた、最速の世界を見たくなったのであれば、再びここを訪れてくれたまえ。我々はいついかなる時も、チャレンジを受け付けているからな! ハハハハハハ!」

 

 豪快な笑い声を上げて、ハートは踵を返して去っていく。

 バーの中では大荒れしたトトカルチョの結果自体に嘆いているダイバーたちは多かれど、誰も「アナザーテイルズ」と「パロッツ・パーティー」を責めることをしなかったのは、きっと彼の人徳がそうさせるのだろう。

 見た目と中身のギャップと温度差で風邪をひきそうな感覚に陥りながらも、リリカたちは「最速の世界」に憧れる一人の紳士に、尊敬と憧憬、そして、改めてそのダイバールックはもう少しどうにかならなかったのかという感想を抱くのだった。

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 ──孤独と孤高に違いがあるとしたら。

 どんなに味方を犠牲にしてでも、勝利を得る者がいるとしたら。それは赤い返り血の象徴。

 味方が帰らずとも、その機体だけは帰還する悪夢の象徴。

 何も、モニターに中継されていた「バンデット・レース」を観戦していたのはキョウスケとユユだけではない。

 相変わらず狂った精度で叩き込まれるピンポイント射撃に、アッシュブラウンの髪をポニーテールに結えたダイバー「サーヤ」はぎり、と歯噛みする。

 あの後、「バンデット・レースの王者である「パロッツ・パーティー」が無名のフォースに敗れたという噂は瞬く間にGBN、その中でも匿名での語り場として設置されている掲示板を駆け巡ったことで、サーヤが所属し、今ロビーで腕を組んでいる小柄な銀髪のダイバー、「ユキ」はそのジャイアントキリングを成し遂げたフォースへと挑戦状を叩きつけるべく、ロビーの中心でわざわざ出待ちをしているのだ。

 挑戦状を送るだけならメッセージ機能を利用すればいいものの、妙に古風なリーダーの癖というよりはこだわりに呆れを見せながらも、サーヤの内心には怒りと憎しみが渦を巻いていた。

 何故未だにのうのうとあの女は、狙撃手はGBNを続けているのか。

 かつて、「緋きスナイパー」……略して赤砂と呼ばれていたダイバーが、GBNには存在していたし、なんなら今も存在している。

 だが、始めたのはほんの最近だが、瞬く間にBランクという有望株まで駆け上がった彼女が──ミワが何故「赤砂」と呼ばれているのか、その所以を知るダイバーは少ない。

 それでも、ミワは確かにそう呼ばれ、そして恐れられてきた。

 敵からも、味方からも。

 何事かを喋りながら「アナザーテイルズ」の面々がロビーへと帰還してきたのを確認すると、ユキはサーヤに「ついてきなさい」と短くつげて、彼女たちの元へと歩み寄っていく。

 本当なら会いたくもなければ、顔も見たくなかった。

 だが、今のフォース……サーヤが所属している「エーデルローゼ」を率いているのはユキだし、彼女がリーダーとしてこのフォースを牽引することに同意したのは他でもないサーヤだ。

 だからこそ、サーヤはサブリーダーとしての役割を果たすべく、「アナザーテイルズ」の元へとつかつかと踵を鳴らして歩み寄る。

 

「貴女たちが『アナザーテイルズ』ね」

 

 ぶっきらぼう、単刀直入を地で行くユキの問いかけに、ロビーへと帰還してきたリリカはびくりと肩を震わせて、ぎぎぎ、と軋みを上げるようにぎこちない動きで声のしたの方へと振り返る。

 

「然り然り、ミワたちは『アナザーテイルズ』だけど、そういう貴女はどちら様かなぁ?」

 

 硬直しているリリカをフォローするように、ミワは小首を傾げて問いかけるが、その質問に答えたのはユキではなく、遅れてやってきたサーヤだった。

 

「まさか、この顔を忘れたとは……『エーデルローゼ』を忘れたとは言わないわよね、ミワ!」

「……ッ……!?」

「……やめなさい、サーヤ」

「私たちのフォースを滅茶苦茶にしておいて……それでまだGBNを続けているなんてどういうつもり!? それとも何、今度はその『アナザーテイルズ』を犠牲にしてでも勝ち星を手にしたいわけ!?」

 

 サーヤはユキの静止も振り切って、口角泡を飛ばす剣幕でミワへと怒鳴り立てる。

 だが、二人の間に横たわっている亀裂だとか因縁だとかそういうものに縁がない、というか全くもって知らないリリカとカエデは困惑するばかりだ。

 

「お待ちなさいな、サーヤさん、でしたわね」

「ええ、そうよ! 何、あんたもそいつを庇い立てるわけ!?」

「ですからお待ちなさいと言っているのですわ、わたくしはカエデ。カエデ・リーリエ。そして……今わたくしの隣にいるのがフォース『アナザーテイルズ』を率いるリリカさんですわ。それで……庇うだのなんだの仰られておりますが、一体どういうことですの?」

 

 クールダウンしてもらうべく、カエデは簡単な自己紹介を済ませると、ミワの側に立っているわけではないと、あくまで中立であることをわかってもらうべく、サーヤが一方的にぶつけてきた怒りへの理解を求めて問いかける。

 

「……そいつが、『緋きスナイパー』って呼ばれてるのは知ってるでしょ?」

「ええ、そう呼ばれているのを何度か聞いた覚えはありますわ。ですわよね、リリカさん?」

「……え、えっと……その……は、はい……」

「じゃあ話は早いわ。そいつはね、味方を巻き込んででも相手を撃ち抜いて勝ち星を手にしてきたから『緋きスナイパー』なんて大層な名前で呼ばれてるのよ! 私たちは……『エーデルローゼ』は、そいつのせいで滅茶苦茶になったのよ!」

 

 感情的に言葉をぶちまけているサーヤの説明には被害者意識が強いため、全てを真に受けることはカエデも、そしてその剣幕に怯えているリリカもそうしなかったものの、彼女が言っていることが本当なら、ミワが「緋きスナイパー」と、「赤砂」と呼ばれている理由は、それこそ射線上に味方がいてもお構いなしに撃つことで、いってしまえば味方を勝利のための駒として使い潰してきたということになる。

 だが、今のミワにはそんなプレイングの片鱗は見られない。

 だとすれば、このサーヤという少女が嘘をついている、ということになるが──リリカとカエデは顔を見合わせて、俯いているミワへと視線を送る。

 

「……事実だよぉ、ミワは……そうやって勝ってきたから、変な名前で呼ばれるようになったんだ」

 

 にへら、と、いつも通りに笑おうとして失敗した、笑顔の残骸を口元に引き攣らせながら、ミワは絞り出すような声で、リリカとカエデの視線による問いかけへとそう答える。

 フォース戦というのは、勝ちを至上命題にするものだと、かつてミワはそう思っていた。

 だからこそ、どんな手を使ってでも、それこそサーヤが言う通り味方を味方と思わず射線に誘導するための駒として利用してでも、「エーデルローゼ」を勝利に導き、そのフォースランキングをぐいぐいと上昇させてきたのだ。

 だが──当然のように、その時「エーデルローゼ」に所属していたメンバーたちは、ミワがそうやって勝ちを拾うことを快く思っておらず、中にはGBNを去っていく者もいるほどに、空中分解しかけていた。

 そこをなんとか立て直すべくサーヤが決定したのが、ミワの追放であり、そしてユキを代わりのリーダーとして迎え入れることだったのだ。

 

「やめなさいと言ったでしょう、サーヤ。私に二度も同じことを言わせないで」

「……ッ……ユキ……!」

「サーヤに代わって私が謝るわ。ごめんなさい。そして……こんな空気で提案するのもなんだけれど、私たち『エーデルローゼ』は、『アナザーテイルズ』にフォース戦を申し込みに来たの。勿論嫌なら蹴ってもらって構わないわ」

 

 ユキは銀髪をさらりと掻き上げながら、サーヤの代わりにそう告げると、コンソールを開いてフォース戦の提案を「アナザーテイルズ」へと持ちかける。

 だが、ユキ本人が言った通りに、こんな空気で提案を受け入れるかどうかなど、考えている場合ではないのも確かだった。

 過去の痛みを抱えて俯くミワと、何かを考え込むカエデ。

 そして、二人の間でリリカは視線を彷徨わせるが──

 

「……わ、わかりました……」

「リリカさん?」

「……リリカちゃん……」

「……わ、私たち『アナザーテイルズ』は、『エーデルローゼ』からの挑戦を受け入れます」

 

 精一杯の勇気を振り絞って、ユキが持つ金色の瞳を覗き込みながら、確かに強い意志を言葉に込めて、「エーデルローゼ」からの挑戦を、受け入れるのだった。




それは過去からの侵略
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