ガンダムビルドダイバーズ アナザーテイルズ   作:守次 奏

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年の瀬も近づく中初投稿です。


第三十四話「三桁の英傑」

 ユキはただ、腰部から引き抜いたビームサーベルを振るっただけだった。

 その攻撃動作自体は大したものではない。だが、三桁クラスまでのし上がったユキの実力と、そしてストライクセカンドの造り込みは推して知るべしといった風情であり、なんとかシグルブレイドによって一撃を食い止めることこそできたものの、リリカはそこに「MS斬りの悪魔」の──アズキの面影を重ねる。

 対ビームコーティングが施されているにも関わらず、斬ることのできない光の刀身、そして迷いなく自分の体幹を突き崩そうと果敢に、しかしながら油断なく慎重に斬りかかってくるユキは、もはや一人の剣士と呼んで差し支えない。

 ガンダムストライクセカンドは、奇しくもリリカがAGE-1ブランシュに託したコンセプトと同様に、どんな戦場でも一定以上の働きをする汎用機としての改修が突き詰められている。

 それは本体にビームサーベルやアーマーシュナイダーといった固定武装を持たせ、今はエールストライカーの発展形──「エクレールストライカー」を背負っているが、必要とあればコアユニットから装備を組み替えることでソードやランチャーの機能を再現することもできるという、設計思想としてはかの「コアガンダム」と似たコンセプトをストライカーパックに持たせたものだった。

 汎用形態であるエクレールストライクセカンドは、これといった強みや特長を持っているわけではない。

 リリカのカバーリングに入ったカエデからのシザーソードによる攻撃も受け止めて、ストライクセカンドはその翡翠の双眸を煌めかせる。

 だが、全ての能力が平均以上どころか特化機にも迫る完成度であるならば、それは十分に特長であり、相手に押し付け、ぶつけることが可能な強みであることに他ならない。

 

『サーヤ、カバーリングを。あのウイングゼロは思ったよりやるわ。私はAGE-1を叩く、お願いできるわね?』

『了解、私はウイングゼロの牽制に回るわ』

 

 獅子は兎を狩るのにも全力を尽くすという。

 正にその言葉を体現するが如く、ユキはリリカと合流したカエデを引き離すように指示を下して、自身は最速でAGE-1ブランシュを仕留めるといった気概で、シザーソードが振り下ろされた隙をついてウイングゼロヌーベルを蹴り飛ばす。

 

「きゃああああっ!」

「……っ、カエデさん……!」

『よそ見をしている余裕が貴女にあるの?』

 

 意識を一瞬でも手放してしまったのが仇になってしまった。

 気付けばユキは、リリカの懐まで切り込んできている。

 ここで何か手を打たなければ死ぬ。

 その本能が、臆病さが、リリカに一つの手を選ばせる。

 

「ブランシュアクセル……ダブルブースト!」

『なっ……!?』

 

 どうやら三桁クラスになったとしても、モーション自体が高速化する必殺技というのはレアなものだったらしい。

 リリカは迷うことなく必殺技の発動を選択して、倍速化した機体を思いきり反らすことによって、ストライクセカンドの斬撃を回避、そのままハンドスプリングの要領で距離をとって、腰にマウントしていたドッズライフルを連射した。

 だが、そこは流石に相手も「三桁の英傑」というべきなのだろう。

 初撃を外したことには驚きながらも、ドッズライフルによる三点射をリズミカルに回避すると、付かず離れずといった間合いでじりじりと、頭部バルカン砲である「イーゲルシュテルン」を放ちながらリリカを牽制する。

 ダブルブースト、二倍速までならば機体にかかる負担は少ない。

 発動時間を示すタイマーを一瞥すると、リリカは次の一手を組み立てるべく、ドッズライフルを連射モードから収束モードに切り替えて、高出力の一撃を目眩しに、左手に持たせたシグルブレイドで切り掛かっていく。

 

『なるほど、それが貴女の必殺技というわけね』

「……ブランシュ、お願い!」

『けれど──倍速で動くとわかっているなら、それを鑑みた上で間合いを取ればいい。二度目はないわ』

 

 淡々と事実だけを読み上げるようにユキは語ると、目眩しであるドッズライフルの照射を受け止めて、その背後から切り掛かってくるリリカとAGE-1ブランシュの一撃を回し蹴りによっていなしてみせる。

 

「が……っ……!」

 

 二倍速という条件は、そのまま弱点ともなりうるものだ。

 人間であれば鳩尾にあたる部分、コックピットを的確に蹴り飛ばされたリリカとAGE-1ブランシュは盛大に吹き飛んで、軍工廠のハンガーに叩きつけられる。

 高い機動力というのは、確かに相手に対して大きく有利をとれる。

 だが、速度が乗っている状態というのは何かにぶつかった時、その衝撃もまた大きくなるということに他ならない。

 それでも、二倍に高速化されたリリカのモーションを完全に見切って、回し蹴りによるカウンターを叩き込んできた辺りが、ユキを「三桁の英傑」たらしめている理由なのだろう。

 一度ブランシュアクセルを切った上でリリカは、乱れた呼吸を整えながら自身に迫り来るユキの機体と、そしてカエデの足止めを担っているハイペリオン2号機を睨みつけた。

 レーダーを見る限り、ミワは今回固定のポジションからの狙撃を試みるのではなく、相手と追いかけっこをしながらの狙撃戦に仕方なく切り替えたようで、リーシャとランシェと呼ばれていた二人を相手に、懐には飛び込ませないような距離感を保っている。

 ならば自分が何をすべきかは、ただ一つ。答えは決まっている。

 倍速で動くということを前提に置いた間合いの詰め方で切り掛かってくるストライクセカンドの一撃を受けきり、そしてユキを倒すことは不可能だ。

 それでも──時間を稼ぐこと自体はできる。

 フォース「エーデルローゼ」の中核を担っているのがユキなら、リリカは全力で彼女を引きつけて、なんとかカエデとミワが敵をやり過ごしてくれることを期待する他にない。

 それ以外に勝利の方程式を組み立てるのならば、そこに犠牲はどうしても前提となるし、そのチャートを採用しても勝てる確率は極めて薄い。

 ならば却下だと、リリカは機体に負担がかかるのを承知で、再びブランシュアクセルを、ダブルブースト──二倍速で起動する。

 

『言ったはずよ、倍速で動くとわかっているなら──』

「……ブランシュアクセル、トリプルブースト!」

『何……?』

 

 引きつける。それもギリギリまで、斬り付けられる寸前まで。

 幸か不幸かは知らないが、斬られる間合いについてはリリカは各種クソゲー遍歴及びあのアズキとの戦いで、嫌というほどその身に刻み付けられている。

 今度は三倍に加速したことで、AGE-1ブランシュの関節が軋みを上げて、機体全体にヒビが入っていくような感覚をリリカは操縦桿から感じ取りながらも、カウンターとして放った一撃でストライクセカンドのアンチビームシールドを両断した。

 三倍速による奇襲を受けるのは、「三桁の英傑」であろうともそう慣れたことではない。

 そう踏んだ上での博打であったが、どうにかなんとか上手くはいってくれたようだった。

 リリカは荒い息を整えながら、ストライクセカンドから高速で間合いを引き離すと、ブランシュアクセルの発動時間を一瞥し、三倍速を解除する。

 

「ごめんね、ブランシュ……」

 

 結果として受けたダメージフィードバックは既に黄色信号を発しており、ブランシュアクセルもあと一回二倍速を起動させればそれで終わりだろう。

 そして三倍速という切り札を使って尚、盾を喪失しただけに留まるユキの実力と、「三桁の英傑」と呼ばれる世界の凄絶さにリリカは戦慄する。

 恐らくは目が慣れていないだけで、長時間ブランシュアクセルを稼働させ続けたなら、ユキは三倍速だろうが四倍速だろうが、問答無用で順応してみせるのだろう。

 意識を今度は手放すことなく、最後の賭けに出るべくリリカは操縦桿をきつく握りしめる。

 カエデとミワ、二人ならば──否。

 二人と一緒にここまで歩いてこれた自分も含めて、「アナザーテイルズ」なら、きっとその「もしも」を引き当てることができる。

 例えそれが不可能に近い確率だとしても、砂漠の粒に紛れ込んだダイヤモンドを探し当てるような行いであるとしても。

 今度は三倍速を考慮して自身に踏み込んでくるユキを一瞥すると、リリカは文字通り最後の切り札を切ることを決めた。

 

「……ブランシュアクセル……スクエアブースト!」

 

 四倍速。どうあがいても機体が耐えることのできない最後の手段。

 それでも、これ以外にあの「三桁の英傑」を相手取る、そして時間を稼ぐ手段があるかと問われれば他にない。

 

『四倍速……!? 出鱈目ね、末恐ろしいわ……!』

 

 リリカが高速化を極めたモーションで振るったシグルブレイドが、ストライクセカンドを掠めてそのVPS装甲を穿ち、抉り取る。

 しかし、それとて致命には至らない。

 機体が見る見る内に悲鳴を上げていくのが、だんだんと重くなっていく操縦桿からのフィードバックからそして絶え間なく明滅するレッドアラートから、リリカの指先を伝って脊髄へとひしひしと伝わってきた。

 ああ、ごめんね。

 ブランシュに何度も無理をさせてしまっている自分を呪いながらも、リリカは過去ではなく未来だけを一心に見据えて、機体が許す限り、その限界稼働時間が許す限り、ストライクセカンドへ向けて間合いを読ませない覚悟で、シグルブレイドを振るうのだった。

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 わかってはいたが、以前から名を馳せていた「エーデルローゼ」に三桁の英傑が加わったのであれば、一筋縄で行くはずもない。

 徹底的に叩き込まれたのであろう連携で、二機の【ハイペリオンG】、ハイペリオンガンダムの量産型はミワを壁際へと追い詰めるようにビームマシンガンを連射しつつ、狙撃の間合いに入らないことを徹底していた。

 ヅダの対艦ライフルを持ってきたのは、戦術ミスだった。

 ミワは微かに後悔する。

 もしもこれが比較的銃身が短く、近距離での取り回しがいいデュナメスのGNスナイパーライフルであったならば、追っ手との戦いは比較的楽なものになっていただろう。

 だがそれでは開幕のピンホールショットを成功させられたかどうかに疑問が残ると、あちらを立てればこちらが立たず、といったジレンマに足首を掴まれたような気分で、ミワは小さく溜息をつく。

 

「……これじゃあ、どうしようもないねぇ」

 

 迎撃と自衛をこなしているように見えて、確実に狙撃手が苦手としている壁際への追い詰めと、そしてハイペリオンGという機体が有している特性、アルミューレ・リュミエールは、ABAPFSDFS──対ビームコーティング徹甲弾があれど、基本的に射撃を中心とする機体を詰ませるには十分なものだ。

 

『距離を詰めた! ここから仕掛けるよ、リーシャ!』

『待って、ランシェ!』

「……貰ったよぉ……!」

 

 恐らくミワが完全にステージの限界ラインを背にしたことで勝機を焦ったのだろう。

 アルミューレ・リュミエールを展開したランシェのハイペリオンGが、ロムテクニカビームナイフを抜き放ちながらミワのフリーダムルージュへと迫る。

 だが、真正面からの突撃などおやつにしてくださいと言っているようなものだ。

 ミワはABAPFSDFSが装填されている弾倉に切り替えると、無敵を誇る「アルテミスの傘」を小型化した、アルミューレ・リュミエールごとランシェのハイペリオンGをぶち抜いて、爆散せしめた。

 

『そんな、アルミューレ・リュミエールが……!?』

『対ビームコーティング……まさかそんなものまで持ってるなんて……』

 

 残されたリーシャは、最大限に警戒しつつランシェが戦場に残していったビームマシンガンを拾うと、二丁拳銃でフリーダムルージュではなく、その回避先にはみ出た対艦ライフルの銃身を狙い撃つ。

 流石にミワといえども、不可抗力として取り回しの悪さからくる被弾を阻止できるはずはない。

 リーシャの咄嗟の機転によって対艦ライフルを喪失したミワに、アルミューレ・リュミエールを破る手段はもう残されていなかった。

 それでも、ヤケを起こしたように、或いは最後の最後まで倒れるものかと諦めないように──ミワはビームサーベルを引き抜いて、リーシャのハイペリオンGへと相対する。

 

「……ごめんねぇ、リリカちゃん……」

『これで終わりです、「緋いスナイパー」!』

「……でも、足掻けるだけ足掻いて……それで終わらせないぐらいの意地は、ミワにもあるんだよぉ……!」

 

 ハイペリオンGがアルミューレ・リュミエールを展開できるのは、前面に限られている。

 全身を包み込むことができるのは原型機であるハイペリオンガンダムだけであり、ミワにもし付け入る隙があるのならそこだけだろう。

 だが、リーシャとてAランクダイバーだ。

 それをわかっているからこそ、格闘戦に不慣れなミワに、機体の背後へと回らせないように立ち回っている。

 ミワは最後の瞬間まで、リーシャの背後を取ろうと敢闘していたが──接近戦の経験値で優っていたのは、相手の方だった。

 コックピットへとビームナイフが突き立てられる感覚と、そしてレッドアラートすらも途絶えて、「Signal Lost」の表示がコックピットを埋め尽くす。

 全力は尽くした。死力も尽くした。

 もし──リリカを犠牲にしてでも、ユキを仕留めることがこの戦闘の最適解であったとしてもだ。

 ミワはそう呟くかのように静かに瞑目して、コックピットの中で宙を仰ぎ見るのだった。

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 いかにAランクダイバーであったとしても、深傷を負っていたサーヤでは、カエデの足止めをすることで精一杯であった。

 だが、それでいい。自分は戦略のために使い捨てられるのではなく、役割を果たしているという自覚と、そして。

 ブランシュアクセルを四倍速まで始動させたのにも関わらず、その動きに順応して、タイムリミットが訪れる遥か前にAGE-1ブランシュのコックピットを貫いていたユキを一瞥して、サーヤはゼロシステムを始動して切り掛かってくるカエデからの自衛をすべく、アルミューレ・リュミエールを展開する。

 

「アルミューレ・リュミエールとは……くっ、そこをお退きなさいな!」

『いいえ、退くのは貴女の方よ』

 

 リリカを撃破したことで戦線に復帰してきたユキが、カエデの隙を突く形で左手を斬り飛ばして、戦場へとエントリーを決め込んでくる。

 残っているのはダメージを負っているリーシャ、サーヤ、そして自分だけだが、それでも勝利には問題がない。

 誘導を切り続けることで逃げに転じようとしていたカエデであったが、機体にダメージを負ったことでゼロシステムは強制的に中断されている。

 

「これが『三桁の英傑』……いえ、貴女たち『エーデルローゼ』の力というわけなのですわね」

『その通りよ、私たちが見据えているのはこのGBNの頂へと至る未来だけ。だから、過去も何も関係なく……ただ一つのフォースとして、ここで貴女たちを討つ』

 

 それは予告ではなく、宣言だった。

 ここで命運は潰えたということなのだろう。

 レーダーを一瞥すれば、ミワを仕留めたダイバーであるリーシャが、そして眼前にはアルミューレ・リュミエールを展開したサーヤが、今にもビームサーベルを振りかぶっているユキがいる。

 しかし、諦めるのは自分の流儀に反することだ。

 カエデは迷いなくコンソールを操作すると、四桁の数字を打ち込んでそのコマンドを承認する。

 

「リリカさん、ミワさん、このカエデ・リーリエ……力及ばずして申し訳ございませんわ、ですが! ここで一矢報わねば女が廃るというもの!」

『っ、まさか……!』

「これが文字通り最後の手段、自爆ですわああああッ!」

 

 カエデは断腸の思いで、愛機であるウイングゼロヌーベルを自爆させることを選んでいた。

 アルミューレ・リュミエールに覆われているハイペリオンは無理だとしても、せめてこの「三桁の英傑」には一矢報いて死すべくと、クロスレンジに飛び込まれ、機体を切り裂かれても尚、ユキの一撃はコックピットを微妙に外れていたことで、自爆は恙無く遂行される。

 だが──それでも、最後に立っていたのは、ユキとストライクセカンドだった。

 VPS装甲と造り込みによって、自爆を防ぎ切っていたとはいえ、ユキの内心は決して穏やかなものではない。

 だが──ここまで機体を傷つけられたのはいつ以来だろうか。

 

『スクエアブーストなら……お願い、ブランシュ!』

 

 最後に自爆によっての反撃を試みてきたカエデもさながら、必殺技によるアシストがあったとはいえ、自分に傷をつけて渡り合ってきたリリカというダイバー。

 まだまだメンタル面をはじめとして抱えている課題は多かれど、その将来性は悪くない。

 

『……私も、まだまだというわけね』

 

 天を仰ぎ、勝利という結果を手にしながらも、それに驕ることなく、そして満足することなく──飽くなき夢と、未来への萌芽、その微かな予感を胸に抱いて、ユキはそう、静かに呟くのだった。




敗北すれど誇りは折れず

【ユキ】……個人ランキング148位という「三桁の英傑」にして、フォース「エーデルローゼ」を率いるリーダー。ただし生え抜きのメンバーというわけではなく、サーヤが幾度も宝探しミッションを周回した末に積み上げた金額で傭兵派遣専門フォース「セルピエンテ・クー」から招聘した人物である。所属にこだわりはなかったものの、なんだかんだで「エーデルローゼ」に愛着を持っていることから今もリーダーとしてフォースを牽引し続けている。乗機はガンダムストライクセカンド。
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