ガンダムビルドダイバーズ アナザーテイルズ   作:守次 奏

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年の瀬が迫ってきたので初投稿です。


第三十九話「リビルドガール/ライジングガイ」

 意図せずして飛ばされた秘境から帰還したリリカを出迎えたのは、またも意図しない偶然だった。

 AGE-1ブランシュに乗り込んで、そろそろログアウトしようかとリリカがセントラル・エリアへの帰還を選ぼうとしたその時に、機体に伝わる凄まじい衝撃を伴って轟音が耳朶を震わせる。

 

「な、何……? 何が、あったの……?」

 

 震える唇は考えるよりも先にそんな言葉を紡ぎ出していたが、その答えはすぐ眼前に薄い青色を伴った障壁が展開されることで示された。

 それは取りも直さず、目と目があった瞬間に起こるかどうかはともかくGBNでは日常茶飯事なフリーバトル、ただしプラクティスモードでそれが始まったか、戦線の拡大に伴ってエリアが再構築された証である。

 薄い壁を一枚隔てた向こう側に舞い降りたのは、ちょうど姉の機体よりも若干濃いピンク色のアーマーを纏い、本体部分がウォームホワイトで塗装されているコアガンダム──から微妙に各部の形状が変化しているそれは、コアガンダムIIと呼ばれる機体を核にしたガンプラだった。

 リリカはそのカラーリングと、背中から伸びるSDCSウイングガンダムゼロ(エンドレスワルツ版)の羽根という意匠にはっと息を呑む。

 自分が知っている姿は今より大分小柄だったが、手足にアーマーを纏ったことでグローアップを果たしている以外は記憶の中にある姿とほとんど一致するその機体は、リリカにとっての──そしてここにはいないものの、カエデにとっても始まりのようなものだった。

 

『まさか全部避けられるなんて……噂は伊達じゃないってこと』

『聞いた通り、凄まじい気迫だ……俺の切れる手札は全部切ったのにまだ立ってるなんて』

 

 その機体──【フェアリライズガンダム】を操るダイバーである、長くふわふわとウェーブがかかった桃色のロングヘアに、頭頂部にはお団子のように結わえた髪束が二つ、そしてアイドル風のひらひらとした衣装を身に纏っている少女、アイカは苦々しげに顔をしかめてそう呟く。

 アイカが相対している青年とのフリーバトルを承諾したのは、丁度以前よりもグローアップした機体の操作感覚に慣れるためにディメンション内を遊覧飛行していたところ、声をかけられたからだった。

 本来であればハードコアディメンション・ヴァルガ辺りで練習するつもりであったのだが、一対一のプラクティスモード、そして相対している相手が、今色んな意味でこのGBNを賑わせている「ビルドライジングのケイ」ということもあって、手合わせを承諾したのだ。

 アイカはこの一年を通して、めきめきと個人ランキングを上昇させていったダイバーの一人であり、故にこそぶち当たった壁を打破するべく、己の核となる動機である「可愛い」から、より「カッコ可愛い」に機体を寄せることでその解決を図ろうとしていたのだが、相手がよりにもよってケイであったことは幸運でもあり、不幸でもあった。

 切れる手札は全部切ったと豪語する通り、ほとんど素手の状態でファイティングポーズを取って、アイカが次に振るってくる一撃へカウンターを備えようとしている青年、ケイの【ギャラクシーバーストガンダム】は静かに佇んでいる。

 明鏡止水の境地とでもいうべきなのだろうか。

 高鳴る心臓の鼓動を抑えるかのように、アイカはそこそこ自信のあった踏み込みを躱され、互いに損傷こそ負っていても仕留め切ることのできない千日手のような戦いに焦燥を募らせる。

 だが、戦いというのは得てして焦った方が負けるのだ。

 相手がカウンターを狙ってくるのなら、こちらとしても策はある。

 フェアリライズガンダムの前身である【フェアライズガンダム】、そしてそのまた前身である【コメットコアガンダム】から脈々と受け継がれてきた大剣である「ビルドボルグ」を正眼の構えで携えて、アイカは自機の時限強化システム──システム・フェアリィ・テイルを起動させる。

 素材としてガンダムAGE-FXを組み込んだことで実現したその時限強化は、偶然戦いの傍観者となったリリカの目から見ても、十分に完成度が高いものだった。

 余剰出力を攻撃判定を伴うブーストエフェクトとして各部のスラスターから逃すことで自壊のリスクを排除して、純粋な機動力の向上と、そして下手に格闘戦を挑めば火傷しかねないビームの鎧を身に纏うその必殺技は、確かに速度こそブランシュアクセルの四倍速に及ばないものの、より洗練されたものとしてリリカの瞳に映る。

 ガンプラの声を聞くことができる。それが、ケイというダイバーについて回る噂話であり、そして事実だった。

 ギャラクシーバーストガンダムを操る青年、ケイは生まれつき、ガンプラに限らずそういった「物」に宿る声を聞くことができる。

 特異な共感覚──シナスタジアを持って生まれてきたからこそ、フェアリライズガンダムが次に何をしたいのか、ということが手に取るようにわかっていた。

 ──カウンターを封殺して、奇襲と正面突破の三枚看板で仕留めるよ、アイカちゃん。

 フェアリライズガンダムは、アイカに向けてそんな言葉を発していた。

 殺意の領域にまで滲み出てきたアイカの決意は、彼女の瞳からハイライトを消失させて、ただ単純に勝利をもぎ取るためだけに、静かに、しかしギラギラと滾るように輝いている。

 奇しくもケイが修行によって体得した明鏡止水の境地と似たような場所に落ち着いた、ヴァルガに幾度も潜って生還してきた闘争本能が導き出す無我の境地から、アイカの挙動を読み取ることはケイであったとしても難しい。

 だが、ガンプラがどうしたいのか教えてくれるからこそ、ハイランカーと呼ばれる領域に足を踏み入れたアイカと、ケイはここまで渡り合うことができていたのだ。

 

『エリィちゃんはここにはいないけど……それはそれとして!』

『……来るか!』

 

 システム・フェアリィ・テイルを起動させたアイカのフェアリライズガンダムが、ブランシュアクセルにも匹敵する神速の踏み込みでギャラクシーバーストガンダムの眼前に迫る。

 次元覇王流を学んだことで、相手の近接戦におけるキリングレンジをギリギリまで見定めたケイはそのリスクを許容しながらも、確実にアイカを、妖精の女王を仕留めるべくしてそのシンプルな答えを叩きつけんとしていた。

 

『これでえええええッ!』

 

 ギラギラと滲み出る殺意のこもった一撃は、ガンプラの声を聞けたとしてもそれを込みで対処できない攻撃をぶち当てればいい、という気迫に満ち溢れたものであり、ケイが「次元覇王流・正拳突き」をカウンターとしてフェアリライズガンダムに、アイカに叩き込めたのはほとんど偶然と紙一重のものだったといってもいい。

 だが、懐に飛び込むことでリスクが生じるのはアイカの方もまた折り込み済みだった。

 粒子を纏った拳は僅かにコックピット判定から逸れていたものの、アーマーを纏うことで守られているとはいえ機体を圧壊させるには十分なほどの威力を誇っている。

 それでも、アイカは闇雲に突っ込んでやられにきたわけではない。

 ふっ、と、通信ウィンドウにポップするアイカの口元が獰猛な笑みを浮かべたことにケイが気付いたその瞬間だった。

 ──ケイ、避けろ!

 ギャラクシーバーストガンダムが本気で警告するが、その拳はフェアリライズガンダムにめり込んだままで、正拳突きの後隙を、言ってしまえば人間である以上どうしても生じる思考のラグを残していた無防備な背中に──いつの間にかビルドボルグから分離していた二つの刃が突き刺さる。

 

『まさか、ドラグーンシステム!?』

『大当たり……っていうかあたしも大概満身創痍なんだけどね』

 

 ビルドボルグは、紆余曲折を経て組み込まれたプラグインである「ドラグーンシステム・ファクトリーカスタム」によって遠隔操作が可能なようにカスタマイズが施されていた。

 だが、アイカは基本的に無線兵器の操作を苦手とするため、戦場でそれを滅多に使うことはない。

 故にフェアリライズガンダムもまた口を閉ざしていたのだが、こういうシチュエーションにおける奇襲の手札として残しておく程度の技量を備えているのもまた確かだった。

 無論、ファンネル捌きにおいて、アイカは恋人であるエリィに及ぶところは全くないといっていいのだが、正面からの突撃を隠れ蓑に、背後から仕留めるという戦術はファンネル操作が苦手だろうがオートだろうが成立する単純で古典的な戦法だからこそ、こうして己の手札としているのだ。

 しかし、単純な奇襲にただやられてしまうようであれば、ケイと、そして「ビルドライジング」の名前がこのGBNに瞬く間に轟くことはなかっただろう。

 拳が機体を破壊するのが先か。刃が機体を貫くのが先か。

 両者が唇を噛む沈黙の中で漂う、あの一秒がどこまでも薄く引き延ばされていく重苦しい感覚は傍観者であるリリカにもまた、ひしひしと伝わってきた。

 そして、迸る閃光が駆け抜け、バトルフィールドが霧散していく中にリリカが見たものは。

 

【Battle Ended!】

【Result:Draw!】

 

 無機質な機械音声が両者の勝利であり両者の敗北、天秤の上でその均衡が保たれた引き分けであるという結果と、ヤナギランが咲き乱れる中でコックピットに拳を叩き込まれながらも膝をつくことのなかった妖精の女王と、そして彼女に挑みながらも同様に屈せずに戦い抜いた超新星の姿だった。

 ──美しいものを見た。

 リリカがその時感じたものを言語化するのなら、そういうことになるのだろう。

 見えたようで見えなかった光明をその手に掴んだように、あるいはパズルの欠片がピタリと嵌り合うように、こころの中で生まれていたその感覚は、一つの答えへとリリカを導こうとしていた。

 

「あはは……グッドゲーム、あたしもまだまだだってことだよね」

「いえ、俺も……最後の奇襲を、ギャラクシーバーストから警告されてたのに対応できなかった。グッドゲームでした」

 

 花畑の中で、先ほどまでは熾烈な戦いを繰り広げていたはずのアイカとケイは互いの手を取り合って、健闘を称え合う。

 そこに悔しさであるとか至らなさであるとか、そういったものが滲んでいないとまでは言わなくとも、戦いが終わったならばその感情は終わりに持ち込むのではなく、次に向けて活かす糧とすべきものだ。

 だからこそアイカもケイも、思うところは互いにあれど手を取り合っているのだろう。

 リリカはそこに、少し事情は違えど、自分とミワの影を重ね合わせる。

 もしも人類が、ガンダムの中で示されたニュータイプという定義の通り、誤解なくわかり合うことができたとして、それこそ、カミーユ・ビダンとハマーン・カーンのように、或いは刹那・F・セイエイとアリー・アル・サーシェスのように、わかり合った結果共存できないという結論に至ることもあるだろう。

 だが、逆に、理解ができなくたって、わかりあえなくたって、隣に立つこともできるのが人類なのだ。

 まだまだ、ミワに対するわだかまりを全て捨て切れたわけではない。

 リリカは俯き、脳裏をよぎる己の過去と今のコンフリクトに頭を抱えながらも、このGBNにいる間に抱いた感情は確かなことだったという確信を得る。

 そして、アイカのフェアリライズガンダムを、正確にいえばシステム・フェアリィ・テイルの発動を見たことによって、リリカの中で「次」に活かすべき答えは有る程度見当がついていた。

 アイカの目をちらりと一瞥すれば、そこにはカエデが評したように確かな「決意」が宿っていて、彼女が憧れていたのも、そして自分がこのGBNに微かな希望を見出したのも肯けた。

 決意。自分の中にもあるといってくれた、小さなようで大きなもの。

 戦いの余韻を胸に抱きながら、リリカはセントラル・エリアへと、中央ロビーへの帰還を選択する。

 今はまだ、弱く、幼く──辿り着けるかどうかもわからない。

 けれど、あの場所は、頂点はいつだって自分を待っていてくれる。

 そこにいくつもの試練があったとしても、数え切れないほどの壁があったとしても、少しずつ、少しずつ、一足飛びでは無理だとしても、歩くような速さで乗り越えていけばいい。

 誰かにやめておけと言われても、そして自分の臆病な心が震え、戦う心が悲しみに挫けたとしても、この想いがあればいつかは、どこかに辿り着くことができるはずだ。

 リリカの躯体が解けて消えていくその瞬間に、戦っていた両機におけるプラクティスモードからのダメージフィードバックが回復する刹那、パシャリと一つシャッター音が響く。

 何も戦いを見ていたのはリリカばかりではなかったということなのだろう。

 ケルディムガンダムをベースとしたその機体は、リリカが完全にロビーへと解けて消えていく瞬間、最高の一枚を撮り終えて満足したのか、アイカたちへメッセージを送りつけると、何処へと飛び去っていく。

 合縁奇縁、出会いが織りなす一つの奇妙な縦糸と横糸の軌跡に気付かないまま、リリカも、アイカも、ケイも、そしてケルディムガンダムの改造機である【ガンダムファインダー】を操る少女、ハルも、それぞれの描く物語へと帰るように、別々な道へと散らばっていくのだった。

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 宝探しミッションはいくつか種類があっても、基本的に何かしら物騒な要素と隣り合わせになっていることが多い。

 それでもなんとかレアドロップ品を拾って、這々の体といった様子でミワがロビーへと帰還したのと、リリカがロビーに仮想の躯体を再構築したのは、全く同じ瞬間だった。

 

「わわ、お姉ちゃん……」

「おお、リリカちゃんリリカちゃん。その様子だと、探し物は見つかったのかな〜?」

 

 どことなく満足したような目をしている妹の碧眼を覗き込んで、ミワもまた、充足を感じながらそう問いかける。

 

「……う、うん……だから、その……新しいガンプラ、買いに行こっかなって……」

「そっかそっかぁ……リリカちゃんならきっと、素敵な機体が作れるよぉ」

 

 AGE-1ブランシュは今までよく戦ってくれた。

 だからこそ、ミワが頭を撫でてくるのに身を任せながらも、リリカは自分が「次」に活かす機体へ、乗り換えるといっても可能な限りブランシュのパーツを流用できないかを脳裏に描く。

 ミワが背中を押してくれたのは、正直なところ複雑といえば複雑なのだが、嬉しいという感情がそこには含まれていた。

 久しぶりに姉の身体へと自分の体重を預けて、頬をぎこちなくすり寄せながら、幼い頃の残影に触れるかのようにリリカは、少しだけ姉の愛情に甘えてみせる。

 

「散々ですわ、もう!」

 

 そしてカエデが帰還してきたのは姉妹が身を寄せ合うのに遅れてのことだった。

 あの後も「高速リペアキット」を活用してハードコアディメンション・ヴァルガで練習がてらにFOEさんことキョウスケへのお礼参りに向かっていたカエデだったが、戦績としては数十戦の全てが黒星に終わったという、当然ではあるが惨憺たるものだ。

 ハイランカーの世界は遠いとその身に刻みながらも決して闘志を挫けさせることのないカエデの瞳もまた「決意」に満ち溢れていて、リリカは自分が本当に、出会いに恵まれたのだと感謝をする。

 

「あら、リリカさん、ミワさん、ごきげんよう」

「おはよおはよぉ、カエデさん、その様子だと散々だったみたいだねぇ」

「……お、おはようございます……」

「散々も散々ですわ、個人ランキング14位は伊達ではないということですわね……あら、リリカさん」

「な、なんですか、カエデさん……?」

「いえ、瞳に決意が戻ってらしたので。何があったかは存じ上げませんが、それなら何よりですわ!」

 

 まるで自分のことのように、豊かな胸を支えるように腕を組んで、カエデはリリカの決意が固まった喜びに、首を何度か縦に振った。

 タイガーウルフ道場での経験も、そして秘境ディメンションで出会ったテンコと交わした言葉も、そして見届けたアイカの戦いも、全ての糸を辿るならば、それはカエデに、否、フォース「アナザーテイルズ」へと行き着く。

 

「……わ、私……新しい機体、作ります……」

 

 このフォースに、そしてブランシュに少しでも恩返しできるような。

 その決意を込めて、リリカは退路を塞ぐようにそう宣言する。

 

「わーわーぱちぱち……リリカちゃんの新機体、楽しみにしてるからねぇ」

「そうでしたの……ならばわたくしも、楽しみにさせていただきますわ!」

 

 完全に徹夜明けのテンションで、リリカたちは三者三様の笑みを浮かべながら、ごく自然にその手を重ね合わせていた。

 フォース・アナザーテイルズがここからもう一度飛び立つために、そしてもう一度自分たちの明日を信じるために、三人はせーの、と声を掛け合って、一斉に、おー、と、意気込みを口にする。

 まず必要なのは、ガンダムAGE-FX。そして。

 リリカは未来に託す脳裏の白地図へと己の愛機の新たな姿を描いて、どっと押し寄せてきた眠気に身を任せるように、カエデとミワに続いてGBNからログアウトしていくのだった。




ユニークエンカウント、小さな軌跡が紡ぎ出す答え

【ケイ(出典:「ガリアムス」様作「ガンダム:ビルドライジング)】……生まれつきガンプラをはじめとした「物」の声を聞くことができる特殊な共感覚、シナスタジアを持っている青年。その能力はガンプラバトルにおいても遺憾無く発揮され、回避や攻撃の精度を高めるだけでなく、機体とのシンクロを可能としているとまで噂される新鋭。

【ハル(出典:「二葉ベス」様作「ガンダムビルドダイバーズ レンズインスカイ)】……親友である少女の誘いを受けてGBNを始めた新鋭にして、GBN内の写真共有コンテンツである「ガンスタグラム」に撮った写真をアップロードするなどして活躍している少女。有望な新人だったということもあって、新人ダイバーを見守り隊からは温かな目で見られていたのだが、本人は知る由もない。
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