「さあ始まりました『グラン・サマー・コンテスト』結果発表会! 司会はご存知窓辺のモクシュンギク、ミスターMSとぉ!」
「おう、チィはチィだぜ。解説頼まれたんでいっちょよろー」
「『会いに行ける』ELダイバーにしてご存知『リビルドガールズ』の銭勘定に財布の紐の勘定奉行、三度の戦いより金が好き、でお送りする銭ゲバのチィはんを解説に迎えてお送りしまっせ!」
「ギャラ貰ってなかったらはっ倒してっかんね、モクシュンギクのにーちゃん」
フォースフェス「グラン・サマー・フェスティバル」午前の部が終了してから約三十分、厳正な投票審査が終わったということもあって、百花が咲き乱れていたステージは完全に撤去、セントラル・ビーチには表彰台とそして、イベントの実況と解説を務める二人組のために席が設けられていた。
リリカたちが最前列近くに座れたのは、一種の幸運だったといっていい。
会場に満ち溢れるボルテージは爆発寸前といった調子で、鼓膜をつんざき兼ねない怒号と歓声が、実況役を務めているミスターMSなる男のマイクパフォーマンスに煽られて、臨界まで高められていく。
「……み、耳がきんきんする……」
「然り然り……ミワちゃんもこれはちょいときっついねぇ」
「真ん中の席とかじゃなくて助かりましたわ」
午前の部の目玉イベントである「グラン・サマー・コンテスト」にリリカたちはそれほど興味はなかったものの、結果発表までの間は出店エリアや海の家もメニューの提供が止まり、遊泳区域も封鎖される、ということからなんともなしにこの発表会に並んでいたのだが、周りはどうやら事情が違うらしい。
「まあ、ある種当然ですわね。『グラン・サマー・コンテスト』といえばGBNが誇るフォースフェスの中でも目玉コンテンツですし、わたくしたちのように興味があまりない方が少数派なのですわ」
カエデは金の糸で作られたような髪の毛を掻き上げながら、さもありなんといった調子でそんなことを語っていたが、なんだかんだでダイバーとしての血が騒ぐのだろう。
先ほどから落ち着きなく、どことなしにそわそわしているカエデの様子を一瞥したリリカとミワは、そこにあたたかい笑みを送りながら、実況席に座っているミスターMSと、そして「リビルドガールズ」の財布番にして銭ゲバロリのあだ名で呼ばれているチィへと視線を移す。
「いやー、会場のボルテージも、参加者も前年に負けない盛り上がりでワイらも実況が捗るってもんですわ! 特に新進気鋭のダイバーたちもこぞってエントリーしてくれた中、誰が『ミスター・シーサイド』と『ミス・シーサイド』の称号を手に入れると予想しはりますか、解説のチィはん!」
「んー、いや正直誰がとってもおかしかないんだけど……そうだねぃ、強いていうなら前年圧倒的な票数で一位を取ったアリアお嬢様と、もうチィが解説することもないチャンプ辺りが鉄板なんじゃない?」
「おおっとこれは手堅く来ましたわ! しかし数多の戦場を潜り抜けたその観察眼は伊達じゃないっちゅーことですわな! 果てさてチィはんの予想通りに事が進むのか! それともとんだ大番狂わせが起こるのか! まずは第三位からの発表で行きまっせ!」
ミスターMSがトークを終えるならマイクを会場に向けたことで、割れんばかりの歓声を増幅させる。
リアルだったら軽い地震と勘違いしそうなほどに高まった熱気はなんだかんだでリリカとミワをも呑み込んで、その熱狂の一部にする程度に、彼は実況として口が上手い。
どこか耳鳴りが聞こえてきそうな感覚をフィードバックされながらも、周りと比べれば小さいものの、リリカはボルテージを煽り立てる一員となって声を張り上げた。
「最高のご声援ありがとうございます! そんじゃ早速第三位! まずは『ミス・シーサイド』……おおっと、これは!?」
「お、番狂わせでも起こったか?」
「仰る通りいきなりの番狂わせ! ミス・シーサイド第三位はなんと……終末系G-Tuberの『クオン』はんと同票で『リビルドガールズ』より『アイカとエリィ』のズッ友コンビ! いやー、やっぱり覇者たる者は最高に強い! そしてそこに割って入ってくる新鋭も同じってことですわな、どう見ます解説のチィはん!」
「マジで? クオンのねーちゃんが入ってるのは予想通りだったけどあいつらも予想外に健闘してんだねぃ」
「率直な感想、身内であっても贔屓目で見ない姿勢は解説の鑑ってとこですわな! それじゃあ栄えある第三位に選ばれたお三方は表彰台へどうぞ! 続いてミスター・シーサイドは……おおっとこれも中々予想外! 前年とは打って変わってニューカマーが登場ですわ! ご存知『BUILD DiVERS』より、今やスターダムをのし上がり、大人気のG-Tuber、キャプテン・カザミのエントリーでっせえええっ!」
キャプテン・カザミなる人物の名を呼ばれた瞬間、会場のボルテージは臨界を超えんばかりに黄色い声援と、野太い怒号にも似たエールが送られる。
彼が誰で何をしたのか、というのはリリカには正直なところよくわかっていなかったものの、ニューカマーと言いながら妥当なラインですわね、と豊かな胸を支えるように腕を組んだカエデが零している辺り、結果としては番狂わせというより順当なものだったのだろう。
脳が疲れたのか、くぁ、とミワが一つ大きな欠伸をする。
リリカはそれにつられそうになりながらも、大声援に応えて手を振りながら表彰台に登っていく、筋骨隆々とした体躯をマゼンタの布地に、光を象った黄色の十字がプリントされたシャツと白ズボンで包んだという出で立ちのダイバーを一瞥した。
フォース「BUILD DiVERS」。
同名だが表記が微妙に異なる「BUILD DIVERS」とは微妙に異なるものの、正式に第三回有志連合戦と認定されたレイドバトル、「アルス」戦において、そこに連なるストーリーミッションをクリアしてきた英傑である彼らの中で、カザミが残した功績は極めて大きなものだったといえる。
正確には微妙に事情が異なるのだが──様々な理由によって表向きはそのような形に落ち着いている彼らの戦いを考えれば、その評価は妥当なものであるといっても差し支えない。
とはいえそれすら知らないリリカは熱狂に巻かれるまま声援を送っていただけなのだが。
そんな事情を他所に、臨界を通り越して爆発を起こしかねない勢いまで高まった会場のボルテージを更にぶち上げるがごとく、立ち上がってマイクを掴んだミスターMSは更に言葉を続けていく。
「さあさあ皆はん、本番はまだまだでっせ! 最後の最後まで第一位はわからない! ということで第二位の発表に行かせてもらいましょか! まずはミス・シーサイド……これは!?」
「なんやかんやで番狂わせは起きるもんだねぃ……そんでどーしたのさモクシュンギクのにーちゃん」
「信じられるかこの結果! 地上最強、前年の覇者であったバエリングお嬢様! アリアはんが惜しくも第二位! 王座は陥落してもうたけど、これはこれで大健闘! 続いてミスター・シーサイド第二位は……やはり根強い人気は衰えない! 今チャンプに最も近い男、『ビルドダイバーズのリク』が前年同様入賞でっせ!」
「おう……こいつはちょいとチィも驚いたな、でも二位でも名誉は名誉、栄えあるお二人は表彰台までどうぞってねぃ!」
前年度は華々しいジャイアントキリングを果たしたアリアだったが、今年は惜しくも第二位に落ち着いてしまったようだ。
リリカも票を入れていただけに微妙に複雑な心境ではあるのだがそこはそれ、エントリーしていたダイバーの数を数えれば二位でも十分すぎるどころではない話なのだ。
まるで自分のことのように、微妙に肩を落としたリリカを気遣ってか、ミワの手がそっとその背中に差し伸べられて、肩に体重が預けられる。
「……お姉ちゃん……」
「仕方ないよぉ、こういうのは時の運もあるからねぇ」
なんだかんだで興味がないと嘯きながらもすっかりのめり込んでいる姉妹に、今度はカエデがあたたかな視線を向けて小さく微笑む。
とはいえ、この結果もある種順当なものであったとはいえるだろう。
前年覇者であったとして、必ずしもその肩書には連覇が約束されているわけではない。
栄冠は勝ち取ることも難しいが、また同様に、下手をすればそれ以上に防衛することも難しいものだと、相場が決まっている。
そういう意味では順位を一つしか落とさなかったアリアの健闘は相当なものだろう。
事実としてカエデの、そしてリリカたちの瞳には、王座から陥落しても尚堂々たる佇まいで表彰台を登っていくアリアの姿は、そんなプライドと気品が伺える、実に高貴なものに映っていた。
「さあまさかまさかの番狂わせ! あり得ないと思っていたことが起きてしまう、それこそが夏の魔物の仕業なのかもしれませんわな! そんな魔物を退けて、第一位の座をその手に取った猛者のご紹介に参りたいと思いまっせ! まずはミス・シーサイド第一位……『GHC』はその雪辱を果たした! 真夏に輝くダイヤモンドダスト、一度は砕けど王座に返り咲いたのは、比翼連理のコンゴウはんでっせえええ!」
「おー、やるじゃん大資本。そんでやっぱりミスター・シーサイドは」
「チィはんがお察しの通りご存知の通り! どんな場所でも常在戦場、常に手を抜くということを知らない男、そして皆ご存じGBNの頂点に立つ男! ミスター・シーサイド第一位はチャンピオン、クジョウ・キョウヤはんが堂々の連覇を果たしましたあああああっ!」
チャンピオンの名前が呼ばれた瞬間に、今度は鼓膜が破れそうなほどに甲高く響き渡る黄色い声援が、リリカたちの耳朶を震わせる。
クジョウ・キョウヤ。それはリリカにとっても、きっと誰にとっても憧れの名前であり、こうした「被写体の存在」だけではなく「一緒に撮られるガンプラ」の完成度や出来栄えも問われるコンテストにも全力を出しているからこそ、認められたものなのだろう。
リリカもまた熱狂の渦に加わりながら、その栄冠を祝福する。
結果だけを見れば、第三位が一番大番狂わせといったところだったのだろうが、夏の魔物が見せる幻影とそして熱狂は、もはや大衆の心に消えない火を灯し切った後だ。
地響きにも似た声援が、そして鳴り止まない拍手が、表彰台に立って夏の栄冠をその頭上に戴いた英傑たちへと向けられる。
きっと人はそれを祝福と呼ぶのだろう。
そして──リリカはそこに、目には見えなくとも確かな「繋がり」を感じていた。
言葉を交わしたわけでもなく、そして何度も顔を合わせるような間柄にもいないダイバーたちと、祝福を分かち合うその喜びに揺蕩いながらリリカは、錯覚にすぎないと理解していても、そこに確かに存在していた、蜃気楼のような夢の欠片に触れた感覚に、じわりと、眦に涙を滲ませるのだった。
◇◆◇
フォースフェス「グラン・サマー・フェスティバル」午前の部の目玉がこのミスターアンドミス・シーサイドコンテストであるならば、午後の部の目玉は様々な形で用意されたエキシビジョンマッチであるといってもいい。
前年は「キャノンボール・バリボー」なるガンプラエクストリームスポーツがその枠に定められていたのだが、今年はどうも趣を異にするらしく、「海中宝探し大会」がその枠のひとつに収まっていた。
G-Tuberたちを解説の席に据えて、簡易的なインタビューとそしてお宝探しの実況をミスターMSがバトンタッチした女性へと引き継ぐことで、午後の部の開始が宣言される。
ただ、実況解説に関してはG-Tubeライブ配信枠とアーカイブ枠で分けられているのため、ミスターMSとそしてチィの仕事がなくなった、というわけではなかった。
「さあやって参りました午後の部エキシビジョンマッチ! 去年は『キャノンボール・バリボー』でしたが今年の一発目はなんと豪華に海中お宝探し! ガンプラの版元、そしてカードゲーム『ガンダムトライエイジ』がチャンプとのコラボ記念に発売する【トライエイジガンダム】の入手権を賭けて熱い戦いが始まろうとしてまっせ、解説のチィはん!」
「んー、そうだね、トライエイジガンダムに関しては不平等が出ねーように後日ガンダムベースと直販サイトでの再販が決まってるから、手にできなかったにーちゃんねーちゃんたちは是非買ってってねぃ」
「露骨な販促ありがとうございましたぁ! そんな訳で始まる海中お宝探し大会、参加するダイバーたちの気合いと殺意はアーカイブ用実況席までビリビリと伝わってきまっせ!」
ミスターMSとチィの掛け合いを背にして、リリカはなんとなく準備運動を終えた後に水中用装備──ティターニアウェアに換装した、ガンダムAGE-1ブランシュのコックピットへ乗り込んでいく。
宝探しに参加しようと思ったのは、半ば天啓のようなものだ。
次なるミキシングの土台となったガンダムAGE-FXを改良するために何を素材とすべきか迷っていたときに、あのチャンプが乗っていたガンダムTRYAGEマグナムのバリエーションが大々的に画面へと映し出されたあの瞬間、リリカはこれだ、という確信を抱いたのである。
ガンダムTRYAGEマグナム自体は、レプリカモデルがガンプラの版元からコラボレーション品として発売されているため、あの「FOEさん」をはじめとしたダイバーたちも購入し、各々ミキシングに使ったり、或いはそのまま組み立てたりしているのだが、トライエイジガンダムの売りは、素組みでもパーフェクトレア報酬である「トライエイジシステム」の一部が解禁された設定でパラメータが設定されていることだろう。
そんな性能面の話はともかく、リリカがマグナムではなくトライエイジガンダムへと目をつけた理由は単純だった。
クリアパーツの色である。
TRYAGEマグナムではサイコフレームやGN粒子に似たブルーグリーンで成形されているそのパーツを赤く染めたいのなら、メタリック塗装を施すしかないのだが、トライエイジガンダムであれば最初からクリアパーツの質感を保った上で鮮やかな赤を取り入れることができる。
だからこそ、梨々香は気合を入れて海中お宝探し大会へと臨んだのであるが──結果からいってしまえば、それは惨憺たるものだった。
まず、フォース「ビルドライジング」の「ケイ」というダイバーが、僅か十五分という短時間にして当たりの入った箱を引き当てたのはいい。
通常のお宝探しミッションと違って、そこからの奪い合いを含めてこのエキシビジョンマッチは組まれているからだ。
「……負けられない、頑張ろう、ブランシュ……!」
磁気穿孔システムから光波推進システムへと転換したタイタスの手足から光のヒレとでもいうべきものを形成して、リリカのAGE-1ブランシュはケイが操るガンダムギャラクシーバーストを猛追するが、それが良くなかったのかどうかはわからない。
ミワも、愛機であるフリーダムガンダムルージュのAWACSを利用してケイを仕留めようとハープーン・ガンを構え、そしてカエデもお宝を取り返すためにウイングゼロヌーベルによる強襲をかけようとした、正にその時だった。
──理外の存在が降臨した。
理の王と名乗りながらもその圧倒的な自己主張力とパワーを誇る、リーオーを改造したガンプラが、海中でも減衰しない巨大なビームソードを振り回し、チャンプが応戦するその光景は正に地獄絵図と呼ぶに相応しい。
「……お姉ちゃん、あれ、なに……?」
「……怖いねぇ、リリカちゃん」
守ってあげるよぉ、とは口にしたものの、正直なところあれと、そしてあれと渡り合っているチャンプの戦いに割って入るなど自殺行為にすぎない。
ミワは冷や汗をこめかみに滲ませながらも、手にしたハープーン・ガンでその機体──【オーマ・リ・オー】と、ガンダムTRYAGEマグナムが交戦する隙間からケイを仕留めんと狙いをつけてトリガーを引く。
しかし、それも二機が交戦し、激突する余波でかき消されてしまう。
「こうなったら仕方ありませんわ、飛んで火に入るなんとやらだとしても、チャンピオンとあのめちゃくちゃなリーオーをどうにか──」
「っ!?」
「リリカちゃん?」
リリカが圧倒的かつ根源的な恐怖に身を震わせたのは、痺れを切らしたカエデが、ゼロシステムを起動させて強行突破を図ろうとしたその瞬間だった。
何かが来る。自分が辿ってきた各種クソゲー遍歴とそして防衛本能が、びりびりと脊髄を伝って、リリカの脳裏に警告を出す。
だが──その瞬間にはもう遅かったといってもいい。
オーマ・リ・オーの必殺技と、チャンピオンのEXカリバーがぶつかり合ったその瞬間──起こったのは海の蒸発という前代未聞の事態にして、そしてそれをディメンション全体の崩壊に繋がらせないために相殺を試みた三機のガンプラの必殺技の衝突により、地殻がめくれあがるという大惨事だった。
いくら本能が警戒していたとしても、そしてリリカが持ち合わせている「危機」に対する察知能力が、ミワの狙撃に使っている感知能力同様に他のダイバーから頭抜けていたとしても、一瞬で着弾する、暴力的なまでの範囲攻撃から逃れることは不可能に近い。
唖然として実況と解説の席すらも沈黙に口をつぐんでいる最中、リリカはやっぱりか、と、眦に涙を滲ませながら、後日ガンダムベースで再販されるそれを買おうと固く心に誓って、巻き込まれたその他大勢共々、テクスチャの塵へと還っていくのだった。
久しぶりのメガトンエンカ
【オーマ・リ・オー(出典:「ガリアムス」様作「ガンダム:ビルドライジング」】……元GPDユーロチャンプがリーオーに全力の改造を施したことで誕生した、わけのわからないモンスターマシン。チャンプのEXカリバーと打ちあえるまでに高められたそのパワーは計り知れず、とばっちりを喰らったリリカたちはあえなく蒸発した。