ガンダムビルドダイバーズ アナザーテイルズ   作:守次 奏

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今年も終わるので初投稿です。


第四十三話「はじめてのたからもの」

 ミワがピンホール・チャレンジを成功させた時点から、時はリリカが「灼熱バーニングフラッグ」の準決勝戦まで時は遡る。

 結論からいってしまえば、リリカとそしてAGE-1ブランシュがこの競技に対して持ち合わせている適正は、最高水準のものといっても過言ではなかった。

 カエデが応援してくれていることも手伝って、リリカのモチベーションが高まっているというのもあれば、スパローウェアをもとにしたGバウンサーの手足は、踏ん張る力こそ確かにティターニアウェアと比較して劣っているが、この競技で重要なのは何よりも瞬発力だ。

 確かに、この「灼熱バーニングフラッグ」はスピード型と攻撃型と防御型が三竦みになっているように見えるかもしれない。

 だが、実態を鑑みてみれば、いかに早く旗を入手できるか、が勝利の前提条件として設定されていて、そしてリスポーンが不可能なように設定されている以上、自滅覚悟での範囲攻撃で巻き込むのはノーコンテストで再試合となるために、自ずと攻撃型の取れる手段は限られてくる。

 即ち範囲攻撃といっても核ミサイルやサテライトキャノンなどではなく、ダインスレイヴ或いはミサイル一斉射のように自機を巻き込まないタイプでかつ弾速や面制圧力に優れた武装を使うのが、攻撃型の常道であった。

 だが──机上の空論に過ぎないとはいえ、それが来ると分かっているのなら、立てる対策は簡単なものだ。

 弾幕砲火や狙撃を回避して、誰よりも早くビーチフラッグに辿り着けばいい。

 奇しくもそれは、リリカがブランシュアクセルを発動したとしても敵わなかった猛者たちと同じ結論であった。

 そしてリリカは、今までのゲーム遍歴が惨憺たるクソゲーの歴史となっている以上、不名誉なことではあるが、「殺され方」については誰よりもその身に刻まれていたといってもいい。

 しかし怪我の功名、災い転じて福と成すというように、バトルフィールドの範囲が限られている中で、「自分を殺すにはどうすればいいのか」という条件は、リリカの中である程度予測がついていた。

 

「……お願い、ブランシュ……! ブランシュアクセル、ダブルブースト!」

 

 だからこそ、目の前にどっしりと構えているフルアーマーΖΖガンダムのハイパー・メガ・カノンと全身のマイクロミサイル一斉射、そしてV2アサルトバスターガンダムの全砲門同時射撃、ストライクフリーダムガンダムのドラグーン・フルバーストという、悪夢のような弾幕砲火のコラボレーションを躱し、擦り抜け、リリカは加速したAGE-1ブランシュとともに、その栄光の御旗を掴み取る。

 

『決まったああああーッ! 並み居る弾幕砲火のスペシャリストたちによる攻撃を全てすり抜けた「アナザーテイルズ」のリリカはん! 今回も華麗にフラッグを奪取して決勝戦進出となりましたわ! どないでっか解説のチィはん!』

『んー、そだね、あのトランザムみたいな時限強化技は中々珍しいねぃ』

『と、言いますと?』

『機体が高速化するってんならそれこそ「ビルドダイバーズのリク」が使ってる「トランザムインフィニティ」だとか、チャンプの「FXプロージョン」だとか色々あるけど、モーションの速度まで上がってるってなると中々レアなもんだなって、少なくともチィは他に見たことないよ』

『なるほど、新進気鋭にして実にユニークな必殺技を引っ提げてエントリーしたリリカはん、その活躍は魔境を勝ち抜いた猛者たちが集う決勝戦でも発揮されるかに要注目ってわけですわな! さあ、インターバルを挟んでからの決勝戦も目が離せない展開になること間違いなしでっせ! お手元のポップコーンとコーラの補充はお早めに!』

 

 実況解説を務めているミスターMSとチィが評した通り、リリカが持ち合わせているブランシュアクセルはGBNの中でもレアな部類の必殺技に入る。

 とはいえその絡繰が、ホースの出口を無理やり留めて、流れる水を堰き止めているようなものである以上、ブランシュもまた度重なる戦いで、ダブルアクセル以上は使っていなくとも細かなダメージが蓄積している。

 

「お疲れ様ですわ、リリカさん。ブランシュは持ちそうでして?」

「……は、はい。あと一回ぐらいならなんとか……」

 

 すっかりセコンド役に収まったカエデが、売店で買ってきたジュースをリリカに手渡しながら問いかける。

 ブランシュアクセルを使い続けた訳ではなく、ここぞという瞬間を見計らってのダブルブースト、というパターンで勝ちを掴み続けてきたこともあって、あと一回──それこそ、スクエアブーストを起動すること自体は可能だろうというのがリリカの見立てだった。

 だが、既にコックピットにはイエローコーションが瞬いている。

 実際のところどうなるかについては五分五分といったところだが、それでもダブルブーストを発動するだけならば支障がない、ということに間違いはない。

 カエデからの激励と気遣いと共に受け取ったトロピカルジュースで、仮想空間だというのに乾いた感覚がする喉を潤しながら、リリカはブランシュのコックピットへと戻っていく。

 インターバルの時間が終わると同時に、ざわざわと賑わっていたはずの観客席は水を打ったように静まり返っていた。

 決勝戦とあらば、生き残ってきた面子もまた、錚々たる猛者であることに違いはない。

 誰かがごくり、と呑み込んだ生唾が波紋を広げるように、ざわざわと、沈黙していたはずの観客席はにわかに、誰が勝つのかといった期待や不安が入り混じった喧騒を取り戻していく。

 

『さあ、始まりまっせ「灼熱バーニングフラッグ」決勝戦! これまでの戦いを生き抜いてきた猛者が四人! 新進気鋭の新星から、渚の王者たる古豪までが一堂に会するこの光景は中々見れるもんじゃあないですわ!』

『そだねー、去年はやってなかったとはいえ一昨年優勝した「浜辺の王者」も順当に勝ち残ってきた以上、誰に賭けるかは慎重に行かないとねぃ』

『こんな時にも銭勘定! ある意味流石ですわ「リビルドガールズ」の金庫番! さあて会場が程よくあったまってきたところで、選手紹介と参りまっせ! Aブロック! 渚において敵はない、「灼熱バーニングフラッグ」三冠という記録を持ち合わせる王者「ミスミ」はんと「ガンダムサンドダイバー」でっせ!』

 

 ミスターMSの紹介に答えるかのように、その機体──陸戦型ガンダムをベースに砂地での活動に特化した足回りと、そして姿勢制御とスピードを出すために増設されたスラスター類が目を惹く【ガンダムサンドダイバー】は手を振ってみせる。

 

『続いてBブロック! このレースにおいてこいつは怖い! バーリ・トゥードの申し子にして唯一生き残ったクレイジーアタッカー、「ジャン」はんと「スターパンジャン」のエントリーや!』

 

 その機体は正しく、異様にして奇妙といった出で立ちであった。

 砲塔を取り払ったボールを中心にして、車輪のようにスターゲイザーが持ち合わせているヴォアチュール・リュミエール発生器であるリングを装着したその外見は、かつての大戦で某国が試作して、試作段階に留まった兵器である「パンジャンドラム」を思わせるものとなっている。

 しかしてそれはこけおどしでもなんでもなく、光の帆を展開して猛スピードで直進し、唯一ボールから残されたクローアームでフラッグをもぎ取ってきた実力は伊達ではない。

 ただし、クレイジーアタッカーと評された通り、スタートダッシュであらぬ方向にすっ飛んで自爆、そのままノーコンテストに持ち込むという珍事も引っ提げているのだが──そんな事情はさておくとばかりに、ミスターMSはマイクパフォーマンスを続行する。

 

『Cブロック! スピードといえば我にあり! 今年も王者に挑戦上を突きつける無冠の帝王にして、古武術を応用したその足捌きはスラスターすら置き去りにする! ダイバー「ホノカ」はんの「ガンダムシュネーアストレイ」、堂々入場!』

 

 その機体は、ターンレッドがレッドフレームの配色を逆にしたのであれば、ブルーフレームのカラーリングを反転したかのようなカラーリングに彩られながらも、それ以外はあの「アカリ」同様、本体に大きな改造を施していないものだった。

 アストレイの接地性とグリップ力に全てを託し、縮地法によって確実に敵の動きを捌きながらフラッグを奪還するという正統派にして、スラスターを活用するガンダムサンドダイバーとは真逆の戦い方をすることもあり、「ミスミ」と「ホノカ」はライバル関係である、と見られていることが多いのだ。

 そして、錚々たる三人がエントリーしたのに遅れて、背筋を震わせ、操縦桿を握る手に汗を滲ませながらも、決勝戦まで駒を進めることができたリリカが会場たるバトルフィールドに入場する。

 

『そして大トリを飾るのは新進気鋭、全く無名でありながらここまでのし上がってきたダークホース、フォース「アナザーテイルズ」を率いる「リリカ」はんとそして「ガンダムAGE-1ブランシュ」! この夏奇跡を見せてくれるのか、それともどうなるのか、いろんな意味で目が離せない決勝戦、間もなく開幕となりまっせ!』

 

 割れんばかりの歓声はどこか怒号にも似ていて、リリカはそれに気圧されそうになってしまうが、観客席の一番いい場所に陣取って、チアガール姿で応援してくれているカエデのことを、そして「ピンホール・チャレンジ」に挑んでいるミワのことを思えば、負けるわけにはいかない。

 リリカはすー、はー、と、大きく息を整えながら、決勝に残ったダイバーたちを俯瞰する。

 

「……純粋な直線加速力なら、Bブロックの人……でも、妨害なしで突っ込んでいくならCブロックの人、Aブロックの人は何をしてくるかわからない……」

 

 情報を集めた訳ではないが、機体の外観やミスターMSのマイクパフォーマンスを信頼するのであれば、自分が残る三人の猛者たちを出し抜いて勝つ方法は一つしか残されていない。

 そうだ。なんだかんだで、アクシデントを引っ提げてきたパンジャンドラムもどきみたいな機体はいるけれど、上位まで残ってきた四人はどれも速度と立ち回りによってフラッグを確保する、王道のスピード型だといっても良い。

 ならば──切り札を切るのはここしかないだろう。

 実況と解説が高らかにカウントダウンをするのに合わせて、リリカは操縦桿のトリガーに指をかける。

 五。四、三、にい、いち──

 

「ブランシュアクセル、スクエアブースト!」

 

 ゼロ、と宣言されたその瞬間をぴたりと狙い撃つかのように、リリカは機体に負担がかかることを承知で、開幕から勝利を全力で掴みにかかった。

 貫くように、撃ち抜くように、誰よりも早く、奴よりも速く──あのパンジャンドラムもどきが光の帆を展開するよりも、あのターンブルーとでも呼ぶべきアストレイが縮地の足を踏み出すよりも、そして、王者たるガンダムサンドダイバーがスラスターを噴かすよりも(はや)く!

 果たしてリリカの試みは、他三人の度肝を抜いたという意味では成功していた。

 この戦いでリリカが開示してきた手札がダブルブーストだとすれば、それ以上の倍率への強化が可能となっている、ということについては決勝戦まで頑なに伏せ続けてきたものだ。

 ブランシュはリリカの叫びに応えるかのように、その琥珀の双眸に力強い輝きを放ち、悪条件の砂浜を物ともせず、リリカが願ったように、誰よりも(はや)く、速く、早く──駆け抜けていく。

 その後は一方的な展開だった。

 スターパンジャンが自爆による妨害を試みたものの、吹き飛んでくる機体の破片を擦り抜けて、一瞬だけ生まれた猛者たちの間隙を突くように、四倍まで高速化されたAGE-1ブランシュは、関節部からスパークと火花を噴き出しながらも、見事に突き立てられた旗を掻っ攫ってみせる。

 

『き……決まったァァァァーッ! なんということでしょう! こんなことがあってええんですかいな解説のチィはん! なんと試合開始から三分も、一分も経たずに、新進気鋭のチャレンジャー、「リリカ」はんが優勝旗となるフラッグを掻っ攫ってまいましたわ!』

『あの必殺技……機体も相当ダメージ受けるみたいだけど、ここまで倍率加算を伏せてきたのは作戦勝ちだねぃ……んっふっふ、チィと会ったばっかの頃から信じらんねーぐらいせいちょーしてるね、リリカのねーちゃん』

『なんと! チィはんとも因縁があったチャレンジャー、浜辺の王者を下して優勝! 優勝を決めました! 「灼熱バーニングフラッグ」優勝者はDブロック、ダイバーネーム「リリカ」はんと「ガンダムAGE-1ブランシュ」! 観客席の皆様、盛大な拍手をお願いしまあああすっ!』

 

 ミスターMSが思わず立ち上がり、熱く叫んでいたのに応えるように、ちらほらと怒号や悲鳴が混ざりながらも、大いなる拍手と喝采がリリカと、そしてレッドアラートをコックピットに出力しながらも、自壊することなく優勝旗を手にしたAGE-1ブランシュへと向けられる。

 トトカルチョの倍率は大荒れ、そして予想屋も匙を投げるか白目を剥くような偉業を成し遂げたリリカは、じわり、と、どうしてか眦に滲んでくる涙をごしごしと拭いながら、勝ち取った優勝旗を天に掲げて、観客席へと手を振ってみせた。

 

「……やりました、私……できました、カエデさん……ブランシュ……お姉ちゃん……」

 

 一際喜び勇んで飛び跳ねてポンポンを振るっているカエデに視線を向けて、流れるままに涙をこぼしながらリリカは感極まった優勝の実感に浸るのだった。

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 全てのエキシビジョンマッチが終了し、シーサイド・エリアが黄昏から夜の帳に包まれたフリータイムこそ、この「グラン・サマー・フェスティバル」の真骨頂と呼ぶダイバーたちも多いように、出店エリアは盛況を見せて、気が早いダイバーたちに至っては、フィナーレとなる花火大会の席取りに向かっている者もいる。

 そんな中でリリカたちが何をしていたのかといえば──それは、彼らに混ざって一足先に確保していた花火大会の席で、他愛もない話に花を咲かせていたのだった。

 

「まさか姉妹揃って優勝してしまうとは凄まじいですわね!」

「ミワは運に助けられただけだけどねぇ……でもでも、リリカちゃんは凄いよぉ、実力で勝ち取っちゃったんだから〜」

「……そ、そんな……えへへ、ありがとう、お姉ちゃん、カエデさん……」

 

 それがフレーバーアイテムにすぎないとはいえ、初めてある意味では自分の力で勝ち取った優勝商品である金のトロフィーを豊かな胸元に抱き寄せながら、リリカはにへら、と頬を綻ばせて微笑んだ。

 とはいえ、カエデが応援してくれたり、ミワが別な競技に勤しんでいたとはいえ、同じように頑張ってくれたからこそこの結果があるということは、リリカもまた理解している。

 

「……私、ダメダメだけど……カエデさんが、お姉ちゃんがいてくれたから、頑張れた、よ……えへへ……どうしてだろう、ぐすっ……嬉しいのに、なみだ、が……」

「嬉しいからこそ、ですわ。さあリリカさん、わたくしの胸で良ければいくらでもお貸しいたしますわ、今は好きなだけ涙を流してもよろしくてよ!」

「抜け駆けはいただけないねぇカエデさん……リリカちゃんリリカちゃん、お風呂入った時みたいにミワに抱きついてくれてもいいんだよぉ」

 

 今がその時だとばかりに、ミワよりは小ぶりながらも十分に豊かな胸元を反らしたカエデに対抗して、ミワはさらりと爆弾発言を残しながら同じように胸を張ってみせた。

 どっちがどっちでも正直なところリリカとしては構わなかった、と、いうより考える余裕がなかったため、トロフィーをインベントリに仕舞い込むと、ばちばちと火花を散らしている二人を抱き抱えるように、カエデとミワの細い腰に腕を伸ばして、二人の胸に顔を埋めてリリカは一頻り泣きじゃくる。

 自分を巡って喧嘩して欲しくなかった、というのもあれば、あのトロフィーはカエデがいなくても、ミワがいなくてもきっと獲得することはできなかったからこそ──リリカは両方を選ぶ、という形で、祭りの空気に当てられたかのように、素直にその愛情へと寄り添い、甘えていた。

 

「今日のところは引き分けということですわね」

「んー……じゃあじゃあ、リリカちゃんに免じてそういうことで〜」

「……け、喧嘩しないで……お姉ちゃん……カエデさん……」

 

 リリカたちはそんなやりとりを繰り返すと、示し合わせたように破顔して、今度は一頻り──誰が最初に噴き出してしまったのか、そして何がおかしいのかもわからないまま、一頻り笑い合う。

 確かに、欲しかったトライエイジガンダムの引換券は手に入らなかったかもしれない。

 だが、あれはガンダムベースと直販サイトでの再販が決定されている。

 トライエイジガンダムもお宝なのに違いはないが、それより何より、今この瞬間に笑い合い、そして午前の部で手に入れた引換券で交換した、いかにも屋台の焼きそばらしい焼きそばをもそもそと頬張るこの瞬間こそが、リリカにとっては何よりの宝物で、そして。

 他愛もない話をしている内に、一発目の花火が打ち上がる。

 楽しかった宴もたけなわ、終わりを告げようとしていた。

 

『たーまやー!』

 

 仮想の海で誰かが叫んだのに合わせ、口を揃えてリリカたちもその一部となる。そんな屋号に応えるように、二発、三発──中にはガンダムの顔を模した柄のものも交えて、シーサイド・エリアに光の花が咲く。

 そうだ。何よりこの時間が、この瞬間が──リリカにとっては、はじめての。

 誰かと一緒にお祭りに参加して、他愛もない時間を過ごすという夢が叶った瞬間であり、白紙だったアルバムに、思い出が記された瞬間に、他ならないのだった。

 




リリカちゃんはじめての夏祭り(仮想の海にて)
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