ガンダムビルドダイバーズ アナザーテイルズ   作:守次 奏

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三が日の終わりなので初投稿です。


第四十五話「呼ばれて飛び出て御主人様(あなた)のために」

 AGE-1ブランシュ改め、新たなるガンプラである【ガンダムAGE-FB(フルブランシュ)】を完成させた梨々香は、夜も眠れないといった具合に浮かれていた。

 目の前に立っている、AGE-FXをベースとしながらも腕部をトライエイジガンダムに、そして何より頭部を全く違う系統のガンダムから引っ張ってきたことでよりオリジナリティが際立っているそのガンプラは、今の梨々香にできること全てを費やして作り上げたものだ。

 グレー系統だからと油断していたら意外に隠蔽力が低くて悩まされたライトグレーの扱いや、主張しすぎない程度に織り交ぜた赤色もムラが出ないように気を付けたりと色々と気を回さなければならないことはあったものの、おかげで思い描いていた形と相違なく、フルブランシュはこの世に生まれ落ちてくれた。

 自分で作り上げたものだというのに、それはどこか奇跡のようにも感じられて、シーサイドベース店内の制作ブースで吹き付けたトップコートが乾いて、全てのパーツを組み上げたときの高揚感など、忘れられるはずもない。

 梨々香はシーサイドベース店から帰還してしばらく、机の上にフルブランシュを直立姿勢で飾らせて、小一時間ほど見入っていた。

 だが、これを作り上げた目的は、飾って嬉しいコレクションにするためではない。

 思い出したように梨々香はベッドから跳ね起きて、ダイバーギアとVR端末を机の引き出しから取り出す。

 

「わわ、ぼーっとしちゃってた……」

 

 フルブランシュがどんな気持ちを抱いているかについては、ELダイバーでもなければ共感覚──シナスタジアを持っているわけではない梨々香には知る由もないものの、それでも、戦うために、「アナザーテイルズ」の皆と一緒に飛ぶために生まれてきたこのガンプラであれば、きっとあの仮想の空を飛びたがっているんじゃないかと、梨々香はまだもやのかかった思考の片隅でそんなことを考える。

 シーサイドベース店の工作スペースによく出没する零にもこの機体を見てもらいたかったのだが、何の偶然か作ってる最中にはエンカウントしなかったのだから仕方ない。

 梨々香は茫洋とした感覚が抜けきらないままゴーグル型の端末を被って、ダイバーギアにフルブランシュをセットする。

 美羽も今頃、新しい装備を試すためにGBNへとログインしているのだろうか。

 あのトーリスリッターなる機体のバックパックに何やら熱心に加工を施していた姉の姿を思い描きながら、梨々香はシステムに導かれるがままにその思考を電子の海へと溶け込ませ、「リリカ」へと変じていく。

 その答えはログインしてみればわかることだ。

 GPEXシステムが起動する音声とともに、どこまでも降っていくエレベーターに乗せられたような、そうじゃなければ意識が下へ、下へと引っ張られていくような感覚と共に、蔵前梨々香はダイバー「リリカ」へと解けて、再び仮想郷で結ばれていく。

 とん、と踵を鳴らして着地したセントラル・エリアのロビーは、夜であるにも関わらず、というよりは夜だからこそ相変わらず人でごった返していて、この中からミワとカエデを探すのは骨が折れそうだと、リリカがそう思った瞬間だった。

 

「よっ……とぉ、やっほやっほー、リリカちゃん」

「今日はお二人とも少しばかり遅めのログインですのね、何かありましたの?」

 

 突如として、探していたはずのミワとカエデが、まるで瞬間移動でもしたかのようにリリカの眼前にテクスチャの揺らぎと共に現れて、何事もなかったかのようにそんなことを宣っている。

 目を白黒させて困惑するリリカだったが、これはGBNに備え付けられている機能の一つであり、フレンドワープと呼ばれるものだ。

 フレンドもしくはフォースメンバーがログインしたことを検知するとログイン地点に集合できるようにと作られた機能なのだが、説明書の類を読んだわけではないリリカにとっては、ただ驚く他になかったのである。

 

「……え、えっと、こんばんは……? えっと、お姉ちゃん、カエデさん、どうして……?」

「ああ、フレンドワープですの? フレンド登録やフォースメンバーとして登録してるとログインした相手のところに飛べますのよ」

「然り然り、その通りだよぉ」

「……便利なんだね、GBN……」

 

 初めて文明の利器を手にしたかのように梨々香はぽつりとそんなことを呟いていたが、何はともあれ広大なロビーを歩き回って探す手間が省けたことは確かなのだ。

 システムの便利さや文明の利器には感謝をする他にない。

 リリカが眼を白黒させている間に、カエデはしばらくフリーズからの復帰に時間がかかりそうだと踏んで、ミワへと問いかける。

 

「それで、リリカさんと何かありましたの? ミワさん」

「ん……あったあった、色々あったよぉ」

「ふむ……何はともあれ今日はどういたしますの? ここ最近色々ばたばたしておりましたから、肩慣らしにミッションを受けたりいたしまして?」

「ミワとしてはそれで構わないけど……リリカちゃん次第だねぇ」

 

 GBNにログインしたミワではあったが、あのトーリスリッターを基にした装備に関しては正直なところまだ完成したとは言い難かった。

 それに、本体についての検証もできることならやっておきたいというのも本音なのだが、ミワの理由は全てリリカに優先するものだ。

 やっとフリーズから復帰したリリカは、カエデの言葉に小さく何度も頷きつつ、相変わらず小さいものの、確かな意思がこもった声でその提案に追従する。

 

「え、えっと……わたしも、何か戦ってみたいなって……」

「戦い、となると……ふむ、そういうことですのねリリカさん。でしたら、『バトランダム・ミッション』を受けてみるのはいかがでして?」

 

 バトランダム・ミッション。

 それは以前にリリカとミワが受けた「シャフランダム・ロワイヤル」の上位互換──というより、元々バトランダム・ミッションを基にしてそれが作られたのだから当然なのだが──的なミッションであり、一つのフォースとして組んだメンバーが、ランダムでマッチングされて対戦を行うという、よくいえばカジュアルな、悪くいえば闇鍋なフォース戦、といった風情のものだった。

 無事フォースを結成した以上、「アナザーテイルズ」は三人しかいないとはいえ、あのシャフランダムの闇鍋に飛び込むよりは、意思疎通や連携が最初から見込めるバトランダム・ミッションの方がいくらかいい、ということで、カエデはそう提案したのである。

 

「バトランダム・ミッション……確か闇鍋フォース戦だったねぇ」

「闇鍋……」

「ですがメンバーは固定ですから、全滅RTAだとか開幕突撃で爆散だとかそんな憂き目を見る心配はありませんわ」

 

 全滅RTAと聞いてリリカの脳裏をよぎったのは、あのスカーレット隊のロールプレイングを徹底していたダイバーたちなのだが、良くも悪くも、というよりは悪い方に遊び心が働いてしまうダイバーと鉢合わせるのもまたシャフランダム・ロワイヤルが闇鍋呼ばわりされる所以であり、そしてその心配がないなら、申し分ないということでもある。

 

「な、なら……バトランダム・ミッションを……」

「お困りですか、御主人様っ☆」

 

 飴玉の鈴を鳴らしたような声が聞こえたのは、リリカがカエデの提案を承認してカウンターに向かおうとしたまさにその時だった。

 声がした方に振り向けば、袖やスカート丈の長いクラシカルなメイド服に身を包んだ金髪の少女たちが、リリカたちを取り囲むようにして、整然と並んでいる姿がある。

 その絵面は中々強烈なものであったが、それでもコラボ記念の他版権アバターやピキリエンタポーレスのようなダイバールックが跋扈しているGBNにおいてはそこまで珍しいものではない。

 

「わたくしは誰かを雇った覚えはありませんけれど……貴女たち、何者ですの?」

「よくぞ聞いてくださいました! 私はスティア。スティア・プラチナムです、御主人様っ☆」

「ミワたちは御主人様でも雇用主でもないんだけどねぇ」

「そこは気にしないでください☆ ロールプレイですからっ! それはそうとして、呼ばれて飛び出て御主人様(あなた)のために。私たち、フォース『チェック・メイド』は傭兵稼業からミッションのお手伝いまで、悩める御主人様たちのお力になるべく作られたフォースなんですっ。お困りのようでしたから、お声をかけさせていただきました☆」

 

 ぶい、と、ピースサインを作って、スティアと名乗ったダイバーは右目の横に掲げてみせる。

 ロールプレイだとぶっちゃけてしまうのはいいのだろうかとリリカは逡巡するが、それはそれとしてフォース戦をやりたいのは確かで、だからバトランダム・ミッションを受けようとしていたのだから渡りに船といった風情であることもまた確かなのだ。

 だが、問題があるとするならそれは数の一言に尽きるだろう。

 フォース「チェック・メイド」を名乗っている集団は見た限りでは実に十二人という、単純換算で戦力比は四倍の集団だ。

 それがそのままぶつかったとなれば、火力どうこうよりも、数の暴力で圧殺されることなど火を見るよりも明らかだろう。

 

「んー……気持ちはありがたいんだけどねぇ、それはそれとして数が数だからちょっとミワたちが不利なんじゃないかなぁ」

「そういうことなら心配ございません! 一般的なフォース戦の形式に則って、五人から、御主人様たち『アナザーテイルズ』に合わせて三人まで、色んなオーダーに応えることが私たち『チェック・メイド』のモットーですから☆」

 

 なんだかんだその辺りで抜かりはないようだ。

 どうする、と言わんばかりに視線で問いを投げかけてくるミワとカエデに対して、リリカはごくり、と生唾を飲み込みながらも小さく首を振って、「チェック・メイド」たちからの提案に乗ることを承諾した。

 

「え、えっと……それなら、お願いしても……」

「はいっ☆ 承りました、御主人様!」

 

 リリカが承諾すると同時に、慣れた手つきでスティアはコンソールを操作して、フォース戦における条件を手早く入力し、「アナザーテイルズ」三人組へと提示する。

 フォース戦「アナザーテイルズ」対「チェック・メイド」、バトルフィールドは遮蔽物に乏しい地球衛星軌道上──つまり宇宙空間で、チェック・メイド側からは三人が選抜して選ばれる、というのが彼女たちからのオーダーだった。

 

「ふむふむ……これなら互角なんじゃないかなぁ」

「ええ、わたくしはこの条件で問題ありませんわ」

「……え、えっと……私も、問題ないので……お願いしてもいいですか……?」

「それでは契約成立ですねっ! お互いに良い戦いになることを祈っております、御主人様っ☆」

 

 スティアはピースサインを再び右目の横に掲げると、選抜したメンバー二人を連れて、格納庫エリアへと転送されていく。

 何だか色んな意味で濃いスティアのキャラクターに気圧されながらも、リリカは改めて、フルブランシュの初陣に向けて、ふんす、と、気合を入れ直すのだった。

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 フォース「チェック・メイド」。

 それはGBNにおいて数多いる「傭兵メイド」たちが集うフォースの一つであり、フォースランキングとしては中堅どころといった風情であったが、その分、有名な「セルピエンテ・クー」のように高い料金は取らない、ということに定評があるそれだった。

 反面、「レイヴンズネスト」のように他の傭兵に対する仲介事業は行っていないものの、サービスを受けたダイバーたちからは概ね好評を博している──というのが、事前にミワが調べた彼女たちの評判と概要だった。

 

「中堅どころっていっても、層が広いのがGBNなんだけどねぇ」

 

 二千万人という膨大なアクティブユーザーを抱えている都合、このゲームにおけるいわゆる中間層は、それこそピンからキリまでといった具合に存在している。

 だからこそ、一口に中堅といっても、それが下位なのか上位なのかによって実力の差には大きな開きがあり、中でも、ダイバーランク7000位以上のダイバーたちは、中堅上位の中でも一際抜けた英傑の候補生とでもいうべき存在だ。

 フォース「セルピエンテ・クー」が入隊条件に掲げているように、そこが一定の線引きとなっているところは確かにある。

 そういう意味で「チェック・メイド」のスティアたちは「英傑の候補生」には名乗りをあげていないものの、彼女のプロフィールカードに記載されていたワールドランキングの数字を信用するのであれば、紛れもない実力者であることは確かだった。

 フルブランシュのコックピットで、ミワから送られてきた情報を何度も反芻するように確認しながら、リリカはその初陣に臨むべく、仮想の空間であるにもかかわらず高鳴る鼓動を抑えるように左胸の下辺りをきゅっ、と握りしめる。

 フルブランシュにとって初めての戦いで、相手は格上。

 箔がつくといってしまえるほどリリカは豪胆ではないものの、それでも決めたのが自分である以上、今更やっぱりなしにしてくださいとは言えるはずもない。

 

「大丈夫、大丈夫だよぉリリカちゃん」

「お姉ちゃん……」

「機体を新造されたのですね、でしたら納得ですわ。この不肖カエデ・リーリエ、リリカさんと新たなる剣の初陣に花を添えさせていただきますわ」

 

 そんな不安に囚われたリリカの背中を押すように、通信ウィンドウに浮かぶミワとカエデは穏やかな笑顔を浮かべながら言った。

 ──大丈夫。

 何度も繰り返すようにして、リリカは操縦桿に手をかける。

 ガンダムAGE-FXをベースとしながらも、自分だけのガンプラとして作りあげたフルブランシュ。

 そして、背中を押してくれるミワとカエデがいるのなら、ただでやられてやるつもりはない。

 

「……リリカ、ガンダムAGE-FB、頑張ります……!」

「それじゃあミワも……フリーダムルージュティラユールで出るよぉ!」

「カエデ・リーリエ、ガンダムウイングゼロヌーベルで出撃致しますわ!」

 

 声を揃えた三人は、カタパルトから一斉に射出され、漆黒の無重力空間に放り出されていく。

 フルブランシュにおける機体の慣性モーメントであるとかバーニアの制動であるとか、そういった細かい要素は当たり前だがAGE-1ブランシュとは大分勝手が違う。

 フリーダムガンダムのバックパックをAWACSディンのものからトーリスリッターのものに置き換えて、相変わらずストライクルージュと同じカラーパターンに染め上げているミワの愛機と、そしてカエデのウイングゼロヌーベルの姿を視認して、リリカは宇宙に機体を慣らすように、何度かその場で回転してみたり、バク宙のような機動を取ってみたりした。

 吸い付くように動いてくれるフルブランシュの挙動は、完全に物にできたとは口が裂けても言えないものの、それでもブランシュから魂を引き継いだかのように、素直に指先に馴染んでくれる。

 リリカが機体の制御を一通り指先に慣熟させたその時だった。

 

「……来るよぉ!」

 

 通信ウィンドウにポップするミワの表情が一際険しいものになる。

 いつの間にやら伸ばしていた、トーリスリッターのインコムを偵察用のドローンに置き換えた兵装が、「チェック・メイド」から選抜された三人組を捉えていたのだ。

 

「ならば開幕に……大きな花火を打ち上げるといたしますわ、リリカさん!」

「は、はい、カエデさん……!」

 

 さながら予告ホームランのようにツインバスターライフルを虚空に掲げてみせたカエデが何をしようとしているのかを理解して、リリカはコンソールに映る無線兵装──メタリックレッドに染め上げて、シグルブレイドの時同様にヨノモリ塗料から発売されている対ビームコーティングトップコートを吹き付けたそれを制御する。

 

「号砲一閃、これがわたくしなりの白手袋ですわぁぁぁっ!」

 

 そして、カエデは決闘の合図に代えて、ミワからデータリンクによって送られてきた座標を基に、ツインバスターライフルを躊躇いなく、そして景気良く最大出力で発射するのだった。




GBNに数多いる傭兵メイド、その一部

【チェック・メイド】……GBNに数多いる傭兵メイド集団の一つであり、クラシカルなメイド服でフォースメンバーのダイバールックを統一していることが大きな特徴。ランキングでは中堅どころ、真ん中より上ぐらいの実力だが傭兵としてはアフターサービス込みで値段以上の働きをしてくれると専らの評判である。リーダーはSランクダイバーのスティア・プラチナム。
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