ガンダムビルドダイバーズ アナザーテイルズ   作:守次 奏

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ケイオス初投稿レギオンです。


第五十話「バース・オブ・ニュークイーン(前)」

 ユユから提案された「鬼ごっこ」の期日は確実に迫り、その間にもリリカたちは鬼ごっこそのものではなくとも、チェイスフェーズが入る護衛ミッションや侵攻ミッションを数多くこなすことで、その予行演習としていた。

 

「とりあえずわかったことといたしましては、ディメンション・トワイライトの極圏ドームポリスエリアで鬼ごっこをする場合、厄介なのは建物の数ですわね」

 

 ロイヤルミルクティーを啜りながら、今までこなしてきたミッションや、下見の結果を総括してカエデは静かに肩を竦める。

 護衛ミッションがあまり好まれていない理由は、今はある程度改善されてこそいるものの、NPDの思考ルーチンがあまり賢くなかった時代に、追っ手を掻い潜りながら更に頭がよろしくないNPDを護衛しなければならない、という、どこぞの日曜日のたわけを彷彿とさせる状況が頻発していたからに他ならない。

 ただそれは、裏返してみるなら、プレイヤー同士の戦いと同一視はできないものの、チェイスフェーズにおけるアドバンテージは、何かを守りながら、つまり制約を抱えながら立ち回らなければいけない逃げる側にあるのではなく、むしろ追う側にある、ということだ。

 

「うんうん、そうだねぇ……っていっても、相手は『二桁の魔物』なんだから、そう上手く事が運ぶわけではないって、ミワは思うかなぁ」

「ええ、その辺りは重々承知しておりますわ」

 

 そこでカエデが考案したのが、ローリングバスターライフルによって都市部を焼け野原に変えてから追いかけっこをするという、開幕ぶっぱに近い戦術だったのだが、提案したカエデ自身もミワからの意見に渋い顔をしている通り、これは一か八かの賭けでしかない。

 ユユが提示してきたクリエイトミッションにおいて一番厄介なところは、逃げる側であるユユの発砲もまた禁じられていないということだ。

 彼女についての情報は幸い、掲示板を漁れば嫌というほど出てきたのだが、そのどれもが絶望的に感じられるほどに「二桁の魔物」は伊達ではないといった風情であり、例えどれほど追う側が有利であっても、勝てる気がしないというのがリリカたちにとって正直なところだった。

 

「……で、でも……開幕の一発を防げるなら……」

「そうですわ、リリカさんのフルブランシュ……Cファンネルをわたくしの護衛に回してしまうという痛手はありますけれど、想定する作戦の遂行に光明は見えてきますわね」

 

 そこでリリカが考えたのは、ローリングバスターライフル作戦を成功させるために、開幕で全てのCファンネルをカエデの護衛へと回して、想定されるユユからのカウンターを防ぐことで一発狙いと、そして少なくとも都市圏の建物を薙ぎ倒すことだけは完遂させるという作戦だ。

 ユユが操る機体──G-セルフを基に大幅な改良が施された【G-イデア】は、ミワのように狙撃に特化していたり、カエデのように極端な大火力兵装を持っているわけではない。

 奇しくも白と黒というνガンダムをイメージさせる、リリカのフルブランシュと真逆の配色でありながらも、その機体コンセプトは大きく似通っている。

 即ち、単機でできることの幅を広げた汎用機。

 コンセプトが被っているともいえるが、どちらかといえば前線の中衛を務めることが多いリリカのスタイルとは異なって、ゴリゴリと前衛を務めていくのがユユというダイバーの特徴らしい。

 少なくとも、こと「鬼ごっこ」において真正面からぶつかり合うのよりは幾分かマシ、といったところだろう。

 

「うんうん、リリカちゃん、それはぐっどだよぉ」

「ほ、本当、お姉ちゃん……?」

「この戦いでミワたちに勝ちの目があるなら、機動力勝負に持ち込むこと……つまりカエデさんとリリカちゃんが追っかけて、ミワが出来るならその隙を突いてずどーん……って感じになるかなぁ」

 

 勿論それが理想論であるということはミワも理解している。

 ただ、消極的だったリリカが自発的に作戦を考えてくれたという事実が嬉しいやら、ちょっとだけ複雑なのやらで、胸の奥をあたたかな綿でそっと締め付けられるような気持ちになるだけだ。

 きっと人はそれを成長と呼んだりするのだろう、と、思考の片隅にそんな言葉を描いて、ミワは喜びの裏にちょっとだけ隠れている痛みを覆い隠すかのように、にへら、と頬を緩める。

 

「確かに相手は二桁の魔物、わたくしたちが一撃触れるだけでいいとはいえ、勝てる可能性は薄いといっていいですわ、ですが」

「で、ですが……?」

「目一杯楽しむのですわ、結局のところこの精神がなければ何事もつまらなくなってしまいますもの!」

 

 さらりと金髪を掻き上げながら、カエデはあーっはっは、と豪胆に笑ってみせる。

 命知らずなのか、或いはそういう不利な状況でこそ燃える性分なのか、リリカとミワには測りかねる部分こそあっても、カエデの言葉は紛うことなき正論だ。

 リリカが今まで辿ってきた各種クソゲー遍歴を思えば、そこにあるのは涙涙の屍山血河であったが、逆にいえばそのクソゲー歴があったからこそ、GBNでその殺された回数分の経験が生きていて、今があるのだ。

 ならば、勝ったとしても負けたとしても、「二桁の魔物」に挑んだ経験というのは決して無駄になるものではない。

 カエデの言葉に背中を押されたように、リリカもまたミワと同じようににへら、と口元を綻ばせつつ、鬼ごっこの舞台となるディメンション・トワイライト、極圏ドームポリスエリアのマップを確認する。

 極圏ドームポリスエリアは、元々このGBNにデフォルトで存在していたものではない。

 ある事件を経て、白夜が彩るディメンション・トワイライトと対になるディメンション……決して夜が明けることのない、ディメンション・シュバルツバルトにおいて行われていた非合法のレースイベント、「バンデット・レース」が公式化されたことによって、その練習場兼、元々野試合として行われていたそれを楽しみたい人々のために、舞台となったハイウィンド・エリアをコピペしたものがそれなのだ。

 だからこそ、ドームポリスの中は沈まない太陽が照らすディメンション・トワイライトにあって唯一例外的に真夜中に設定され、人工の光が瞬き続けているし、都市の構造もそっくりそのまま、以前に「パロッツ・パーティー」と戦った時と同じなのである。

 恐らく勝負は、高速道路で展開される可能性も考えられるだろう。

 ユユは「パロッツ・パーティー」との戦いを見て、「アナザーテイルズ」に興味を持ったと言っていた。

 ならば、その再現として都市部からのスタートではなくハイウェイで純粋な鬼ごっことなる、という読みも考慮しておかなければいけない。

 考える事が多すぎて頭がパンクしそうになるが、リリカのやるべきことは一つだ。

 

「……私は、近接支援として、その……カエデさんの護衛と……ユユさんを追いかけて……」

「わたくしは開幕が都市部ならローリングバスターライフルで薙ぎ払ってから、リリカさんと協力してユユさんを追い詰めて」

「最後の最後に隙を突いてミワがずどーん、って感じだねぇ」

 

 最終的に辿り着いた結論は同じでも、考えを深めるために話し合った価値はある。

 飴玉でできた鈴を鳴らしたような声が聞こえたのは、リリカたちがカフェブースの代金支払いを終えて、そのままディメンション・トワイライトへの転移を行おうとしたその瞬間だった。

 

「ごきげんよう、ふふ……『アナザーテイルズ』の皆さん」

「……ご、ごきげんよう、です……ユユさん……?」

「ええ、ユユはユユです……ふふ、始まるまでちょっとだけお散歩をしていたのですけれど、奇遇ですね……」

 

 ユユは口元を振り袖で覆いながら妖艶に笑う。

 魔女、という言葉が一瞬リリカの脳裏をよぎったが、恐らくユユの年頃は、ダイバールックがそのままリアルでの外見を元にしているのであれば自分と同じぐらいだろう。

 それにしては蠱惑的な、思わずくらりとしてしまうような艶やかさをその所作から醸し出しているのも、彼女が謎めいた存在として一部のファンから熱狂的な支持を得ている証なのかもしれない。

 

「その様子だと……作戦会議は終わったといったところですね、ふふ」

「ええ、これから貴女に勝つための作戦を考え終えたところですわ!」

「まあ、勇ましい……ふふ、黙して語らないのもまた作戦、あえて宣言するのもまた作戦……ユユにどんなものを見せてくれるのか、楽しみにしていますね……」

 

 くすくすと、最後まで余裕の感じられる笑みを崩さないまま、ユユは一足先にクリエイトミッションの舞台となる、ディメンション・トワイライトへと転移していく。

 余裕綽々といった風情だが、馬鹿にしているというよりは、純粋な好奇心がそうさせているのだろう。

 その妖艶さに惑わされてしまいそうになるが、ユユが持つ黒曜石の瞳の奥にある輝きはどこまでも純粋で、プリミティブなものであると、リリカにはそう感じられた。

 理由はない直感が根拠ではあるのだが、恐らくユユもまた、「楽しみたくて」この鬼ごっこを提案してきたのだろう。

 それを信じるのであれば、リリカの胸に憂いは残らなかった。

 

「リリカちゃん?」

「……え、えっと……私たちも、全力で、楽しもうね、って……えへへ」

「……そっかそっかぁ、ミワも、張り切って楽しまないとねぇ」

 

 ふにゃりとはにかんでそう提案してくるリリカの姿は、以前の妹からは想像もつかないほど前向きで、ポジティブな感情に満たされている。

 別にネガティブである事が悪い事だとはミワも思っていない。

 だが、親の見ぬ間に子は育つ、という先人の言葉がある通り、姉の見ていない間にも、妹は成長して──少しずつ、俯いていたその視線が上がっていったのだろう。

 充足と、背反する一抹の寂しさを感じながら、ミワもまたユユの後を追うようにして、ディメンション・トワイライトへと転移していく。

 

「リリカさんとミワさんの言う通りですわ! さて……わたくしも頑張りましてよ!」

「お、おーっ……!」

 

 ミワに続く形で転移していくカエデの意気込みに追従する形で、控えめな鬨の声を上げ、リリカも決戦の舞台へと飛び込んでいく。

 相手は「二桁の魔物」と呼ばれる恐ろしい存在かもしれない。

 それでも、ミワとカエデが一緒なら楽しめる。

 そんな確信を抱きながら、リリカの躯体と意識は解けて、一日中太陽が照らし続ける極圏にあって、終わらない夜に閉ざされている地へと再構築されていくのだった。

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 白夜のディメンションにコピーアンドペーストで作成されたメガロポリスの虚飾は、毒々しいほどに極彩色の輝きを仮想の都市に映している。

 クリエイトミッション、「極圏鬼ごっこ」。

 ユユが提示したそのミッションは予想に違わず、この極圏ドームポリスエリア全域を作戦区域として、制限時間三十分以内にユユへと攻撃を一発でも当てれば「アナザーテイルズ」の勝利、逆に捕まえられないか全滅させられるかすればユユの勝利という、極めてわかりやすいものだった。

 

『では、追跡側の貴女たちは……三十カウントが終わった後にお願いいたしますね、ふふ……』

「わ、わかりました……」

 

 その辺りはどうやら普通の鬼ごっこと大差ないらしい。

 三十秒もあれば、ユユの機体はステルス系を積んでいるシーカー構築ではないとはいえ、この乱立するビル群や或いは高速道路のどこかを盾にして隠れるか、隠れないにしても大きく距離を離すことはできるだろう。

 最初の三十秒間は、ユユも攻撃が禁じられる。

 高鳴る鼓動を抑えつつ、リリカは想定した作戦を思い描く。

 

「大丈夫、やれる……頑張ろう、フルブランシュ……!」

 

 開幕ぶっぱは一般的には愚策だとされているが、それでも戦術として多くの人間がその存在を頭に入れているように、有用に働く場面もあるということだ。

 残り十、九、八、七──カウントダウンを刻むと同時に操縦桿のトリガーを操作して、リリカは武装のカーソルをCファンネルへと合わせて、開幕を待つ。

 

『五、四、三、にい、いち──』

「リリカさん!」

「……わ、わかりました、お願いします、カエデさん!」

 

 カウントがゼロになると同時に、リリカは全てのCファンネルをパージして、カエデのウイングゼロヌーベルを包み込むように射出する。

 結論からいってしまえば、リリカの読みは的確なものだった。

 ユユは自分が潜伏している位置がバレるのも厭わずに姿を現し、愛機であるG-イデアが手にしていたビームライフルのトリガーを引く。

 

「な……ッ、IFBRですの!?」

「ふふ……よく、気付きましたね……貴女の言う通り、ユユのライフルはifsシステムを組み込んでいます……うふふ」

 

 迸る閃光は、最早ビームという領域に止まるものではなかった。

 Iフィールドを共振させて、力場そのものを指向性のエネルギーとして射出する──IFBDと呼ばれる、∀ガンダムに出てくる技術を応用して搭載したそれは、ビームでありながらビームではない、というなんだか頭がこんがらかってきそうな属性わけがなされているが、要はビームコートやナノラミネートアーマーでは防げない、ということだ。

 ──だが。

 リリカの射出したCファンネルは、飛来するIフィールドの奔流を全て切断するように受け止めていた。

 

『防がれる……? ふふ、うふふ……それでこそです、「アナザーテイルズ」……!』

 

 Cファンネルは元より、バリア属性を自機だけでなく僚機にも付与することができる特性を持っている。

 それにリリカが施した、シグルブレイドと同様の加工──ヨノモリ塗料というメーカーから発売されている対ビームコーティングトップコートを吹き付け、それを番手の細かいペーパーで均して更にオーバーコートする、いわゆる「研ぎ出し」と呼ばれる工作がなされていることで、力場やビームの類に対する耐性が、素組みのそれと比べて圧倒的に上昇しているのだ。

 

「自分から位置をバラしてくれるのはありがたいねぇ……カエデさん!」

「了解ですわ、ミワさん、リリカさん! さあ……このカエデ・リーリエ、全て薙ぎ払ってみせるのですわあああああっ!」

 

 裂帛の気合を込めて叫ぶと同時に、IFBRの一撃をCファンネルのガードがあるとはいえもろに浴びながら、カエデは両手に保持していたツインバスターライフルを最大出力で照射し、そして、フィギュアスケートの選手が如く、爪先立ちになって機体をくるくると回転させる。

 子供がよく花火を持った手を振り回して怒られるのと同じように、高い火力を持つ武器を持ったまま機体を回転させれば、周囲はどうなるのか。

 その問いに対して答えを求める必要はない。

 メガロポリスを構築しているビルの群れが砕けて、崩れて、壊れていく──穿たれた破壊の爪痕こそが、なによりも雄弁に全てを物語っているのだから。

 ユユは間一髪で機体を上昇させることでローリングバスターライフルの一撃から逃れ、そして隙を見てミワが放っていた銃弾を、左手に装備していたシグルシールド・レプリカで弾き返すという芸当を見せていた。

 

『隠れる場所を全て薙ぎ払う……ふふ、確かに理に適った攻撃です、ふふふ……』

 

 ──最初から、面白いものを見せてくれる。

 アナザーテイルズの打った一手に驚愕と、そして喜悦を隠せずに、ユユはCファンネルのほぼ全てを融解させながらも、毅然として自身を見据えている白輝のガンダム、リリカのフルブランシュを見据えて、くすくすと、妖艶な笑みを浮かべるのだった。




隠れる場所があるなら更地にしてしまえばいいじゃない
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