ガンダムビルドダイバーズ アナザーテイルズ   作:守次 奏

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外が寒いので初投稿です。


第五十六話「幕を開ける饗宴」

『諸君、私はこの戦いが好きだ』

 

 文字通りGBNの中心であるセントラル・エリア、そのメインターミナルに掲げられた電光掲示板やフォロスクリーンに映し出された金髪に片眼鏡、そして白い軍服と軍帽といういかにも「海軍将校」な出で立ちをした青年が、咳払いと共に滔々と語り出す。

 

『GBNが好きだ、艦隊戦が好きだ、そしてMS戦が好きだ。戦闘機の戦列が対地爆撃でもってMSの一個中隊を撃滅した時など心が躍る』

 

 かの有名な漫画に出てくるウォーモンガーの如く、静かに、しかし確実に滾る熱をその冷徹な仮面の裏に隠して、その男は、「アトミラール」は言葉を紡ぎ続ける。

 始まろうとしていた。

 今まさに、胎動する戦いはこの第四世界のほぼ全てのサーバーを巻き込んで、鉄風雷火の産声を上げようとしている。

 何が、と、問われれば、大戦争が、と答えられる程度には、リリカもGBNに馴染んできたものだった。

 息を呑んで、イベントの開催を待っているのはリリカたちだけではない。

 以前に戦ったクラシック調のメイド服に身を包んだ集団も、そして、かつては苦い敗北を喫したある種宿命のライバルともいえる「エーデルローゼ」の面子も、リリカが知らないダイバーも、アトミラールの演説によってその火蓋が切られる瞬間を、今か今かと待ち続けている。

 

『ファイターたちが己の意地と誇りをかけてぶつかり合う様など最早感動すら覚える……だが、諸君の前で今更語る必要はあるまい。その協力によって今年もまたこの「大戦争」イベントが始められたことを感謝すると同時に、我々「GHC」はその総力をもって、諸君らと戦わせてもらうことをここに宣言し──大戦争の開幕としようではないか』

 

 どちらが生きるか、くたばるか。

 誰かが口にしたわけではないが、そんな殺伐とした戦場の空気にリリカは少しだけ怖気付いて身を震わせるが、武者震いだとばかりに、今この言葉こそを待ちわびていたのだとばかりに歓喜を満面に称えるダイバーたちは数多い。

 

『イベントが開始されました。これよりセントラル・エリアを除く全サーバーをレイドバトルモードに移行します』

「待ってたぜぇ、この時をよぉ!」

 

 機械音声が無機質に「大戦争」の開始を告げると同時に、「戦争屋」の異名を戴くそのダイバー、「アリム」が歓喜の雄叫びを上げたのと同時に、無数のダイバーがそれぞれ、事前にランダムでの配置が決まっている戦場へと解け、転送されていく。

 二万対二万という途方もない数の戦いだが、そのどちらかが全滅するまで戦い合うのではなく、侵攻側は各エリアに配置された拠点を、そのゲートキーパーを倒すことで制圧しながら前に進み、防衛側である「GHC」はひたすら制限時間一杯までそれを守り抜く、というのが「大戦争」イベントの要旨である。

 

「さてさて、鬼が出るか蛇が出るか、だねぇ」

「どこに配置されるかにもよりますけれど」

「ふふ……どこに配置されたとしても、そこを目指せばいいだけです、そうでしょう、リリカさん……?」

「……は、はい……頑張ります……!」

 

 侵攻側の戦場における配置先は、転送される直前まで明らかにされていない。

 対して防衛側は最初からどこのエリアにどの戦力を置くかというのを最初から決められるのだが、これはある種侵攻側と防衛側では基本的に防衛側が不利を背負う、という不均衡への是正措置のようなものだ。

 リリカたちはめいめいに気合を入れて、コンソールに浮かぶ転送ボタンにそっと触れた。

 ただそれだけで仮想の躯体は解け、そしてあるべき戦場へと再構築されていく。

 始まらんとしていた。或いはもう既に始まっていた。

 二万と二万が鎬を削る一心不乱の大戦争が。

 或いは、ダイバーたちにとっての祝祭が。

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 ジャパン・エリアの首都圏外れ、現実に即して再現された神奈川県の横須賀市にその本拠を構えているアトミラールは、優雅に妻が淹れてきてくれた紅茶を啜りながら、始まった「大戦争」の行方を、無数に分割されたフォロスクリーンから観察していた。

 

「今年は……いや、今年もか。『AVALON』と『第七機甲師団』が宇宙に配置されてくれたというのは都合がいい」

 

 この戦いにおいて、「GHC」が組み立てている戦略はただ一つだ。

 以前の敗北からの教訓を得て、ただ圧倒的な物量と火力で侵攻するダイバーたちを漸減して、このヨコスカ基地に近づかせないことだ。

 無論、マゼラン大陸からやってきた猛者たちや、ステルスを気配で察知して先に撃破するような上位ランカーたちをも欺いてその鎌を首にかける「死神」であったり、或いはそれこそ自身が話題に出したツートップのフォースなど、例外が発生することは織り込み済みである。

 以前はチャンピオンがほとんど一人で領土の三割を奪還するという凄まじい活躍を見せたために、卓袱台をひっくり返す勢いで崩れ落ちたアトミラールであったが、今回はその苦い敗北から教訓を得て、自慢の大艦隊の殆どに改装を施していた。

 その成果は、すぐ明らかになることだろう。

 ヨコスカ基地の地下ドックにその姿を横たえている改ドゴス・ギア級戦艦「天城」のブリッジで、アトミラールと、そしてその傍に佇む伴侶である女性──「コンゴウ」は静かにほくそ笑んで、今のところは自分たちの描いた筋書き通りに進行してくれている戦場を、オーケストラを導く指揮者のごとく俯瞰するのだった。

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

『敵機確認、フォトンリングレイを射出後に全艦、マルチ隊形へと移行せよ』

 

 傭兵たち、或いはこの「祭り」に参加した有志たちが漆黒の宇宙を埋め尽くす勢いでこの大気圏直上の衛星軌道に殺到してきてるのを確認し、拠点であるルナツーを離れた改ラー・カイラム級戦艦「扶桑」のブリッジに腰を据える女性は淡々と指示を下す。

 確かにアトミラールが語る通り、このGBNにおいて戦艦というカテゴリーに属している艦艇たちは概ね不遇の烙印を押されている。

 その理由は至極単純で、まず作るのが途方もなく難しく、そしてまかり間違って1/144というサイズで作ってしまえば置き場にも困るという、一般的なご家庭にはあまりにも厳しい前提条件の存在が挙げられるのだが、逆にいえばそれを解決してしまえば、運用そのものまで何かしらのナーフがかかっているということはないために、盛大に暴れられるのだ。

 艦首のミサイル発射管を取っ払って、そこにハイパーメガ粒子砲を埋め込んだ改ラー・カイラム級に続いて、同じような改造が施された無数の同型艦やマゼラン級が、横並びになって侵攻するダイバーたちを待ち構える。

 その異変に気づいたのは、他でもなく一番槍を切ったアリムと、彼女に轡を並べる、ガンダムアストレイノワールをブルーフレームの色で塗装した機体を駆る青年──傭兵派遣専門フォース「セルピエンテ・クー」を率いるダイバー「ナユタ」だった。

 

「……っ、まずいぜ、奴さんたち何か仕掛けてくるつもりだ!」

「聞こえているか、オープンチャンネルで送ったこの通信を受け取った機体は今すぐに上下に逃げることを推奨する。二度は言わない、わかったか」

 

 ぶっきらぼうにナユタが告げた言葉を、同じく衛星軌道近くに配置されたリリカたちもまた受け取っていた。

 チェック・メイドの十三人や、「エーデルローゼ」がナユタからの報告を受け取るなり一も二もなく上下に散開した辺り、何かヤバいものが飛んでくる、というその計画は確かなのだろう。

 先日、ヴァルガで邂逅したあの破滅と終焉、浄化の化身ほどではないにしろ、リリカもまたそれを本能的な危機感が知らせるままに察知して、ミワたちへと通信を送る。

 

「お姉ちゃん、カエデさん、ユユさん……!」

「然り然り、郷に入ってはなんとやらだねぇ……!」

「あれはフォトンリングレイ……つまり」

「GHCお得意の掃討戦ということでしょうか……ふふ」

 

 元より、宇宙エリアにおける要衝であるルナツーを放棄して「扶桑」が前線に出てきている辺り、彼女たちに任された役目は恐らく、地上へと降下しようとする戦力の漸減に他ならない。

 彼我の距離がいくら空いていようと、ビーム兵器の減衰がないのがこの宇宙空間だ。

 そして仮にここで「扶桑」が落ちてルナツーを制圧されたとしても、宇宙エリアにはコンペイトウやゼダンの門といった要衝がまだ控えている。

 故にこその捨て鉢とは言わないまでも、己の艦隊を勘定に入れない特攻。そしてそれは、他人からの指示を嫌うような孤高のプレイヤーたちにとってはとにかく効果的だ。

 素直にナユタからの指示を聞いて散開していた「アナザーテイルズ」や「チェック・メイド」のようなフォースはともかく、話も聞かずに強襲をかけていた機体群がどうなったのかについては、その数秒後に炸裂した無数の閃光の束が全てを物語っていた。

 

『全艦連動、ハイパーメガ粒子砲を拡散モードで発射!』

『アイ・アイ・マム! ハイパーメガ粒子砲、拡散モードで発射します!』

 

 瞬間、光が爆ぜて駆け抜けていく。

 それは上下に逃れた無数のガンプラをもロックオンして唸り、猛り狂う閃光のメイルシュトローム。

 

「……み、皆、私に捕まってください! ブランシュアクセル、フルブースト……!」

 

 巻き込まれれば死は必然だとわかっていたからこそ、あの野生のレイドボス相手には通用しなかったものの、リリカはミワとカエデの両手を握り、そしてユユが足にしがみついてるのを確認した上で躊躇いなくブランシュアクセルを起動した。

 ここはリソースを温存したまま切り抜けられるような場所ではないことぐらい、上下に分かれながらもその閃光の余波に焼かれていく、或いは不幸にもマルチロックのターゲットになって爆散していくガンプラたちの末期が、なによりも雄弁に物語っている。

 閃光の嵐が去った後に残されたガンプラは、当初の戦力から計算しておおよそ七割弱から六割強といった風情だった。

 戦力が六割に達した時点でその戦闘は敗色が濃厚であるとされているデッドラインにギリギリ達するか達しないかといった風情で、かつてあの「アルス」が送り込んできた大艦隊を相手に放たれたその砲撃は、一瞬にして侵攻側の勢力のほとんどを撃滅せしめている。

 

「畜生、何がどうなってやがるんだ!?」

「落ち着け、まずは戦況の把握を──」

「第二射までには時間があるはずだ、そこで立て直せ!」

 

 阿鼻叫喚といった具合に大混乱を起こしているダイバーを叱咤するようにナユタは叫んで、奇しくもあの閃光から生き残っていたアリムと足並みを揃えて、旗艦である「扶桑」を撃墜すべく吶喊していく。

 ナユタの見立て通りに、ハイパーメガ粒子砲という兵器は連射が効くわけではない。

 一度放たれてしまえばそのリキャストには膨大な時間を要するし、なによりラー・カイラム級ならともかく、マゼラン級では一発撃つのが限界といった具合にエネルギーを馬鹿食いするのもまた確かなのである。

 

「ハッハハハァ! ジャベリンはな、こう使うんだよ!」

 

 アリムのウォーモンテーロが投擲したビーム・ジャベリンが、「扶桑」を庇うようにその艦体を盾としたマゼラン級のブリッジを貫いて、背後に潜む「扶桑」の装甲にも突き立てられる。

 

「負けていられませんね……ふふふ」

 

 最早改マゼラン級は第二射までに用をなさないと判断したのだろう。

 ユユが戯れに放ったIFBRの一撃から、残存している改ラー・カイラム級を守るための盾となって爆散していく。

 

「こちらとしても長く付き合ってはいられんのだがな……!」

 

 そして厄介なのが、「扶桑」をはじめとした改ラー・カイラム級戦艦を改マゼラン級が身を挺して護ったことで、その格納庫から次々と戦闘機や可変モビルスーツが射出されていることだ。

 ここで持久戦を展開して二射目に持ち込みたいのか、或いは手薄になっているルナツーをはじめとした拠点を制圧されることを嫌ってか、「扶桑」は絶対防衛線をこの衛星軌道上に策定しているらしい。

 或いは、何か別の理由でもあるのだろうか──

 前線で対空機銃を掃射している「扶桑」の攻撃を潜り抜けながら、ソードピストルによる斬撃でそのブリッジを両断しつつ、ナユタは一瞬、考えを巡らせたが、その答えはすぐ側にこそあった。

 先ほどのハイパーメガ粒子砲から逃れていたのは何も自分たちだけではない。

 密集隊形に切り替え、対空砲火を厳密にする「GHC」の戦艦群による迎撃を、曲芸飛行のような軌道で切り抜け、そのまま重力の井戸の底へと潜行していく一団を見て、ナユタは得心する。

 

「『アナザーテイルズ』だったか……ユキが言っていた通り、やるものだな」

「お喋りしてる暇があんなら手ェ動かしな、ナユタの旦那よぉ!」

「了解している、こちらも艦隊を制圧次第、彼女たちに倣って強襲戦闘に移行する」

 

 分散して派遣していた「セルピエンテ・クー」の偵察隊から、ゼダンの門方面は「第七機甲師団」が、そしてコンペイトウ方面は「AVALON」が中軸となって制圧に乗り出しているという情報を得た上で、ナユタは大気圏へと突入していくリリカたちを一瞥し、通信ウィンドウ越しに凶暴な笑顔を浮かべるアリムの言葉にそう返した。

 リリカたちが立てていた作戦は、そのままそっくりユユと戦ったのと同じ超短期決戦だ。

 

「……領土を六割制圧しないと勝ちにはならない……」

「でもでも、大本営を潰しちゃえば、手足は動かなくなるよねぇ」

「兵は拙速を尊ぶものですわ、さあ、参りますわよ!」

「ふふ……お兄様は恐らく地上でしょうか……」

 

 大艦隊から発進した、主に可変機を中心にしたモビルスーツ隊を撃退しながらリリカたちが目指す先はただ一つ、「GHC」の大本営であるヨコスカ基地だ。

 そしてそれは、今はゼダンの門とコンペイトウを制圧しにかかっている「AVALON」と「第七機甲師団」も同じである。

 ちまちまと陣取り合戦を繰り返していれば、有利になるのは当然のように戦場全体を俯瞰し、指揮と連携が行き届いている「GHC」の側になるだろう。

 だからこそ、とにかく一秒でも早く大本営を制圧することで末端を機能不全にして現場がある程度混乱しているところでようやく陣取りゲームを再開するという、この「大戦争」イベントにおけるある種のセオリーを遂行すべく、リリカたちは追撃隊として、直上から決死のの急降下攻撃を敢行するリゼルやムラサメを撃退しながら、ヨコスカ基地へと降下すべく、虚空に浮かぶ青い星の引力に身を任せる。

 

「……っ、く……」

 

 大気圏突入の際にかかるGをフィードバックした擬似感覚に歯を食いしばりながら、リリカはフルブランシュの放熱機構をフル稼働させて、単身での突入という無茶を敢行していた。

 ミワとカエデはこの時のために持ってきたシールドを盾に、そしてユユはIフィールドシールドを展開しながら、先行するリリカへと続く形で流星となって、ヨコスカ基地へと降下していく。

 その先に待ち受けているものが今に勝るとも劣らない地獄であるとしても、ありったけの理不尽は今までのクソゲー遍歴と、そして先日のヴァルガで味わってきたばかりだ。

 だからこそ、リリカはその白きガンダムに勇気を乗せて、二万の大軍を率いる大本営へ、きっと猛者たちが雁首を揃えて待ち構えているであろう決戦の地へと、微かな笑みを無意識の内に浮かべながら、飛び込んでゆくのだった。




ついに始まる大戦争


【ナユタ】……傭兵派遣専門フォース「セルピエンテ・クー」の設立者にしてリーダーであり、アストレイノワールをブルーフレーム色で塗った機体を愛用している。個人ランキング7000位以上が入隊条件というだけあって、そんなフォースを率いる彼もまた「二桁の魔物」の一角であり、個人ランキング50位という丁度二桁上位と二桁下位を分かつ境界線に立っている寡黙な青年。
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