ガンダムビルドダイバーズ アナザーテイルズ   作:守次 奏

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最近X2にハマってるので初投稿です。


第六十五話「激突する新星」

『さぁ始まりましたフォースバトルトーナメント、Aブロック第二回戦! 一回戦から激戦が続く中、見事に勝ち抜いた猛者たちは我々に何を見せてくれるのかァ! 一秒たりとも目が離せない戦いの始まりでっせ! まずは第一試合! 新進気鋭のニュージェネレーション、「アナザーテイルズ」と、貪欲なまでに勝利を求める超新星、「エーデルローゼ」の対決からお送りいたしまあああああすっ!』

 

 実況席でマイクを握る男──ミスターMSの巧みにしてハイテンションなマイクパフォーマンスが、参加こそしなくとも会場から、セントラル・エリアのライブモニターから、その試合が始まるのを今か今かと待ち望んでいる観衆たちのボルテージを、バイブスを煽り立てる。

 新進気鋭のニュージェネレーション。

 それは誰が呼んだか、「ビルドダイバーズのリク」からこっち、このGBNに現れた有望な新人たちを指す言葉だった。

 だがしかし、それは言い得て妙ではある。

 この二千万人のアクティブユーザーを抱える仮想世界では、今日も何処かで激しく瞬く満天の空を彩るように、駆け抜ける流星のように、有望な新人たちが現れて、あるいは消えてを繰り返している。

 そういう意味では「アナザーテイルズ」と「エーデルローゼ」はニュージェネレーションたちの中でも長く生き残って、実力派と呼ばれる領域までその片足を踏み入れているといってもいい。

 とはいえ、外野の評価がどうであれ関係ない、というのがユキの信条であり、傭兵として培ってきた冷静さの現れでもあった。

 

「……ユキ」

「どうしたの、サーヤ」

 

 しかしそれとは対照的に、ふわふわと癖のある髪をポニーテールに纏めた少女──サーヤはどこか不安そうに周囲をちらりと一瞥しては、胸の辺りで固めた拳を震わせていた。

 緊張するな、というのも無理な話なのだろう。

 打倒チャンピオンを本気で掲げているとはいえ、フォースバトルトーナメントという場が与えるプレッシャーは並みのものではない。

 負ければその瞬間に積み上げてきたものが無に帰してしまうのだから、この「エーデルローゼ」に人並み以上に思い入れがあるサーヤにとってそれは怖いと弱音を吐くのも頷ける問題だ。

 ユキはふぅ、と小さく息を吐くと、落ち着け、とその言葉に代えて、サーヤの肩をぽん、と小さく叩く。

 身長では頭一つサーヤの方が高いから、少しだけ締まらない絵面になってしまったが、それはそれとしても、今回の戦いに当たって自分はやれるだけの準備をしてきたのだから問題はないと、そう伝わればそれでいいのだ。

 ユキは小さく背伸びをした踵を地面につけると、もう一度小さく息を吐いた。

 

「ありがとう、ユキ。私たちをここまで連れてきてくれて。それに……新機体のアドバイスまで貰って」

「勝ちたいと願ったのは貴女でしょう、サーヤ。私はそれに応えただけ。それに……そういうことを言うのは優勝してからにしなさい。気を緩めることほど負けに繋がることはないわ」

「……それもそうね」

「割り切りなさい。過去も、因縁も。私たちは──チャンピオンを倒すためだけに、この場に立っているのだから」

 

 ユキはちらりと、対面に陣取っている「アナザーテイルズ」の四人を一瞥した上で、さらりとその銀髪を掻き上げながら、あえてどこか冷たくサーヤに、そして同じように緊張しているリーシャとランシェにそう言い聞かせる。

 ──面構えが変わっている。

 率直にユキの目から見た印象を語るのであれば、そうなるのだろう。

 事実、試合開始までに対面していた「アナザーテイルズ」、特に先日までは負けた相手を気遣うように泣いていたリリカの表情は、ほとんど別人といっていいほどにきりっと引き締まったものになっていた。

 それを人は、覚悟と呼ぶのだろう。

 自分が「エーデルローゼ」のリーダーとして背負っているものがあるように、リリカにも「アナザーテイルズ」を背負って立つ者としてのそれがある。

 当たり前のことではあるが、ユキはそれに少しだけ感心していた。

 

「エーデルローゼ……油断ならない相手ですわね」

 

 以前に敗北の土の味を思い知らされたことを想起して、カエデは踵を返して一足先に戦場へと解けていくユキを一瞥しながら、少しだけ苦々しくそう呟いた。

 視線の先にあるのは、何もユキの小柄な体躯だけではない。

 少女たち四人が集っていた中で、おそらく以前にブリッツガンダムを操っていたダイバーの代わりに傭兵として雇われたのであろう長身の男──ナユタにも、カエデの、そしてユユの視線は注がれている。

 

「ふふ……勝つために傭兵を引き入れる……勝利への執念、凄まじいものですね……?」

「くぁ……あの『セルピエンテ・クー』を率いてるナユタって人だっけ〜? まあ、油断できないよねぇ……」

 

 ミワは小さく欠伸をしながらそう呟いたものの、個人ランキング50位という、ユユより数字だけ見れば格上の相手を「エーデルローゼ」が雇っていたとするのなら、戦力差に関してはほとんどこちらが有しているアドバンテージは相殺されたといってもいいだろう。

 あの「大戦争」の折には、衛星軌道でその戦いぶりを一目見ただけであったものの、それだけで猛者だとわかる程度には、ナユタの腕前は研ぎ澄まされ、そして洗練されたものだった。

 

「……でも、私も……私たちも、負けられない……」

「ええ、仰る通りですわ、リリカさん」

「ふふ……数字など飾り、戦いの本質とはその戦場で語られるべきものですからね……」

 

 だが、それがどうした。

 リリカはぐっ、と拳を握りしめると、か細くもはきはきとした声音でその覚悟を、決意をはっきりと口に出す。

 三桁の英傑と二桁の魔物が相手であったとしても、自分たちが戦って、勝ってきた──敗者の願いを踏み砕いたのなら、その破片で足を切り裂かれたとしても、前に進み続ける他にない。

 そして、ユユが語った通りに、個人ランキングというのは確かに強さの指標としては極めて分かりやすいものの、このGBNにおいては、二千万人という膨大なアクティブユーザーを抱えている都合上、ランキングに数えられない、あえて挑んでいない猛者など枚挙にいとまがない。

 例えばそれが、可愛い子を求めて電子の海を放浪するG-Tuberであったり、姿を見た瞬間には相手が死んでいる、という都市伝説紛いの噂とともに語られる「死神」であったり、或いは魔境と謳われる「マゼラン大陸」を根城とするSD使いたちであったり──それだけ猛者がいるなら、ユユが「数字など飾り」と言ったのも頷けるだろう。

 だが、それは一つの指標であることもまた確かなのだ。

 ナユタも、そしてユキも、決して侮っていい相手ではない。

 

「皆、その……頑張ろう……私も、頑張るから……!」

「うんうん、リリカちゃんがそう言ってくれるなら……やるっきゃないよねぇ……!」

「仰る通りでしてよ、以前に貰った屈辱も熨をつけてお返しいたしますわ!」

「ふふ……ユユも、『アナザーテイルズ』の一員、その通りにいたしましょう……」

 

 だからこそ、負けられないし、こんなところでは止まれない。

 そんな覚悟と決意を胸に抱きながら、リリカたちもまた掌を重ね合わせると、新たな戦場へと解けていくのだった。

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 バトルフィールドとして選ばれたのは、いつかの「大戦争」でリリカたちが配置されたのと同じ地球圏、衛星軌道周辺だった。

 ただし違いがあるとすれば、リリカたちが配置されたのは、映像作品「機動戦士ガンダム0083」に登場する、「ソーラ・システムII」の反射鏡周辺であることだろう。

 暗礁宙域は近くになく、狙撃をするには少しばかり厳しいポジションに配置されてしまったことに対して、ミワは僅かに乱数の女神様に対する敵意を抱いたものの、ここでキレたところでどうしようもないなら、この状況を利用すればいい。

 相手がどう出るかについてはわからないものの、この地形は防衛側にとっては割と有利に働くものだ。

 無数の反射鏡は、レーザー攻撃や一部のビーム攻撃を反射する特性を持っており、リリカたちは知らないものの、あの「リビルドガールズ」が「ノイエ・シルバリィ」と戦った時にあえてミラーを踏み砕くことでドラグーンによる戦術を封じて、数的な不利を覆したという逸話がある。

 エーデルローゼ側にドラグーンを持った機体がいるかどうかについてはわからない、というより以前戦ったときはいなかったものの、応用できる可能性がある、というだけで、いってしまえば悪用できる可能性がある、というだけで、そのファクターを握っている側は有利を取れるのだ。

 鬼が出るか蛇が出るか──そんな風情で、ミワが後衛に、リリカが中衛に、そして突撃前衛にカエデを、そのフォローにユユが向かうという陣形を組んで、「エーデルローゼ」の攻勢に備えていたその時だった。

 

『悪いけれど、一気に突破する……あのG-セルフは任せたわ、ナユタ』

『了解した、確認するが、フラッグ機ではないんだな?』

『私はそう踏んでいるわ』

『承知した』

 

 ミワが飛ばしていたクリアインコムが傍受した通信が、全員のコックピットに響き渡る。

 リリカは早速自分たちの作戦が一つ見破られたことに唇を噛みながらも決して諦めることなく、中衛としていつでもカエデとユユの、そしてミワのフォローに回れる立ち位置をキープする。

 

「流石流石、傭兵は伊達じゃないってことだねぇ……!」

 

 ミワはスコープを覗き込みながら微かにそう毒づいた。

 相手はいくつもの戦場を渡り歩いてきた猛者だ。

 ユユの存在をブラフにして勝った第一戦目とは流石に事情が違うということなのだろう。

 ただ、幸いなことがあるとするならば、ナユタという最大戦力をユキと同時にリリカへとぶつけるという選択肢を相手が選んだのではなく、ユユをフリーにしないというローリスクな策を選んでくれたことだ。

 乱戦そのものを「アナザーテイルズ」は苦手にしているわけではない。

 だが、「二桁の魔物」と「三桁の英傑」を同時にぶつけられたのでは、リリカも流石に逃げ切ることは難しいと、つまりはそういうことだ。

 

「ふふ……悪いですけれど、ユユも先を急いでいます故」

『それは此方も同じだ、突破させてもらう』

「……ふふ、できるものなら……!」

 

 戦端を開いたのは、ナユタとユユの二人だった。

 ブルーフレーム色に塗り直したアストレイノワールと、どこかνガンダムを思わせるカラーリングに染められて、少年的だった独特な顔つきが標準的にガンダムフェイスに置き換えられたG-イデアの二機は、さながら漆黒の宇宙に新たな星座を出鱈目に刻み付けるような軌道で撃ち合い、避けあい、そして切り結ぶ。

 今ここが古代ローマのコロッセウムであったのなら、そして観衆たちの声がリリカたちにも届いていたのなら、それは割れんばかりの歓声でもって、その始まりを讃えていたのであろう。

 だが、戦場にあるのは孤独と、言葉のない緊張だけだ。

 ナユタがユユを抑えにかかったということは、ユキはフラッグ機をリリカのフルブランシュと見込んだということである。

 

「させませんことよ!」

 

 それを察したカエデは、ナユタの対処をユユに一任することにして、脇目も振らずに、リリカが操る白亜のガンダムに突撃する、いわゆるティターンズカラーに染め上げられ、フォビドゥン、カラミティ、レイダーの三機が持つ特徴をストライカーパックに統合したユキの機体、【ガンダムヴァイスストライクセカンド】を、追いかけようと、左側に偏ったスラスターを展開した。

 しかし、それを阻むかのように一条の閃光が駆け抜けて、カエデの上下という死角から、全く同じカスタマイズが施されながらも片方は灰色と青というカラーパターンに、そしてもう片方は奇しくもリリカと似通った白と赤というツートンカラーに染め上げられたアメイジングストライクフリーダムをベースにハイペリオンガンダムを組み込んだ、【ストライクハイペリオン】が強襲をかけてくる。

 

『それはこちらも同じです、カエデさん! ユキさんの邪魔は……させません!』

「あら、リーシャさん。ヴァルガ以来ですわね! しかし……愛の力を得たこのわたくしの前に立ちはだかるのなら、容赦はしませんことよ!」

『何故そこで愛を……? まあいいです、ランシェ!』

『わかった、リーシャ……って、ああっ!?』

 

 丁度カエデの真下から、ロムテクニカビームナイフではなくシュペールラケルタビームサーベルを構えて、ウイングゼロヌーベルを串刺しにしようとしていたランシェのストライクハイペリオンが、彼方から飛来してきた「何か」にバックパックごとコックピットを撃ち抜かれて爆散する。

 

『くっ、緋きスナイパー……!』

「なんだかなんだか、敵に塩を送っちゃった気分だねぇ……」

「ナイスですわ、ミワさん! いえ、お義姉様と呼ぶべきでしょうか?」

「やだよぉ、ミワちゃんの妹は、リリカちゃんしかいないんだから……っと!」

 

 開戦早々ランシェが操る白と赤のストライクハイペリオンを撃墜したのは、他でもなく最後衛に陣取っていたミワのフリーダムガンダムルージュティラユールだったが、狙撃というものは往々にしてリスクを伴うものだ。

 カエデが手に取ったシザーソードでリーシャと切り結んでいる内に、その射線からミワが潜伏していた位置を逆算した、というよりは虎視眈々とその瞬間を狙っていたのであろうその機体は、リリカをも置き去りにして真紅の狙撃手へとブーストを噴かす。

 

『ミワあああああッ!!!』

「っ、来たねぇ、サーヤ……!」

 

 以前はハイペリオンガンダムを使っていたそのダイバー……サーヤが操る機体は様変わりした、というどころの話ではなく、ドレッドノートガンダムをベースに、レジェンドガンダムやデスティニーガンダムといったサードステージシリーズの要素を組み込んだ【ドレッドノートガンダムオメガ】に更新されていた。

 オールレンジ攻撃を機体の主戦術としたそのビルドは、徹底的にミワという狙撃手にして偵察手を炙り出し、追い詰め、そして確実に撃破するために練り上げられたものだ。

 機体の脇腹から展開されるプリスティス・ビームリーマーやバックパックから展開されるドラグーン、そして脚部をガンダムAGE-FXから流用することで組み込んだCファンネルが、執念のマニュアル操作によって密度の高い弾幕を形成し、ミラーの上という遮蔽物がない場所に位置取らざるを得なかったミワを、じわじわと追い詰めていく。

 

「っ、お姉ちゃん……!」

『よそ見をしている暇などないわ』

 

 一瞬、ミワの救援に向かうか躊躇したが、それを咎めるかのように虚空から飛来してきた電磁砲の弾丸がリリカを正気に立ち返らせる。

 そうだ。

 ユキが言うように、今この瞬間に狙われているのは自分も同じで、一秒たりとも油断がおけないのは同じなのだ。

 こうなれば、ミワを信じることしかリリカにはできない。

 ドッズライフル牽制射撃として撃ち放つと、リリカは機体からCファンネルをマニュアル操作で展開して、猛追してくる黒いガンダムへとけしかける。

 

『ファンネル系の武装……見えていなければ確かに脅威に値するわ、でも』

「させない、そこっ……!」

『……っ……!?』

 

 あえて目立つ位置にファンネルを置いて、これ見よがしに円周軌道を描いてみせたのは単なるブラフでしかない。

 リリカはユキがCファンネルへと気を取られていた一瞬、そこに生まれた隙を見抜いて、収束モードに切り替えてドッズライフルを撃ち放った。

 ──だが。

 

「ビームが、曲がって……!?」

『ゲシュマイディッヒ・パンツァー……こんな早々に使わされるとは、私も随分手緩くなったものね……!』

 

 ヴァイスストライクセカンドを捉えていたはずの弾道は、二枚の巨大なバインダーとしか形容できない物体に直撃したかと思えば、そこにダメージを与えることなく、明後日の方向へと逸れて飛んでいく。

 ゲシュマイディッヒ・パンツァー……原典の映像作品ではフォビドゥンガンダムが搭載していた、ビームを屈曲させる特殊装甲をユキはストライカーパックに組み込むことで、ビーム攻撃への対抗策としていたのだ。

 だが、ガンダム作品に関してはAGEに関して以外はそれほど詳しくないリリカは突然起こった不可思議な現象に戸惑う他になく、そしてお返しとばかりに生まれた一瞬の間隙を突くように、ヴァイスストライクセカンドの左手に装備された大型バッテリーセルと直付けされたロケットアンカー、「パンツァーアイゼンII」がフルブランシュの脇腹を掠めて、傷痕を穿つ。

 

「いけない、私……油断して……!」

 

 それでも、一瞬の内に直撃コースだけは避けていたのはリリカの危機感が為せる一種の離れ業であった。

 ユキは小さく舌打ちをして、パンツァーアイゼンIIを回収しながら、ストライカー上部に二門備え付けられたレールガン、「エクツァーン改」を放つが、リリカはそれをもひらりと躱して、展開していたCファンネルにユキへの攻撃を命じる。

 

『ちっ……何があったかは知らないけど、出来るようになったのね』

「……負けられない、後悔したくない……だから、私は……!」

『そうね……だからこそ問答は無用!』

 

 ヴァイスストライクセカンドの弾幕砲火と、フルブランシュのCファンネルの軌道が交錯し、戦場に閃く軌跡を刻む。

 だがそれは、宣戦の印でしかない。

 

「リミテッドコール……トライスラッシュブレイド!」

『トライエイジシステム……だけど制限付きなら、対艦刀で受け切れる!』

 

 更なる戦いを、更なる熱狂を求めて画面の外で観衆たちが雄叫びを上げているのも知らずに、戦場を駆け抜ける白と黒のガンダム──リリカとユキは互いのプライドを懸けてただ、目の前の敵を打ち倒すべく咆哮するのだった。




開戦、エーデルローゼ
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