ガンダムビルドダイバーズ アナザーテイルズ   作:守次 奏

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エーデルローゼ戦が決着するので初投稿です。


第六十七話「勝利の星よ、燦然と」

 ミワとカエデがそれぞれサーヤとリーシャを抑えている間、乱戦エリアから僅かに外れた衛星軌道上では、ユユのG-イデアと、ナユタの【ブラウアストレイノワール】が、漆黒の宇宙空間に新たな星座を描き出すか、そうでなければ光でその虚無を塗り替えるかのような勢いで打ち合っていた。

 

「ふふ……フォトン・ファンネル、ブラスター・ファンネル射出、マニュアル操作に切り替え……!」

『……長い異名は伊達ではないな、しかし此方も退けないのなら押し通るまでだ』

 

 ほぼ差し違える形であるとはいえ、サーヤとリーシャを二人が倒してくれたというのはユユにとっては僥倖だ。

 こうなれば残された最悪の負け筋は、ナユタを自分が引きつけきれずにユキと合流されてリリカが挟撃されることで、極端な話、いってしまえばナユタを倒せなくてもここに釘付けにしているだけで、ユユの仕事は成立しているということでもある。

 しかし、共に個人ランキング二桁という立ち位置にありながらも、否、あるからこそ、それがいかに難しいかというのはユユも委細承知の上だ。

 絶え間なく死角を狙って時間差攻撃を放つ二種類のファンネルによる攻撃を時には回避し、時には斬り払うナユタの腕前は、対峙するユユも思わず背筋が震えるほどに鬼気迫るものだった。

 IFBRの残弾を確認しながら牽制射として相手に回避を強要した先に、肘の部分から分離したサーベルファンネル……ビギニングガンダムの対刃式ビームサーベルを置いておくことで、ユユはブラウアストレイノワールをそのキリングレンジへと誘導したが、ナユタは超人的な反射神経でもって、残された右腕でサーベルファンネルを切断すると、それを好機と見てユユへと距離を詰めてくる。

 

「……っ……!」

 

 ──失策だったか。

 ユユは思わず眉を顰める。

 確かにブラウアストレイノワールの左手は奪えたかもしれない。だが、懐に飛び込まれての近接戦となれば不利になるのはこちら側だ。

 バックブーストを噴かすのも間に合わないだろう。

 瞬時に判断を切り替えて、ユユはあえて右手でソードピストルによる斬撃を受け止めると、射出していたブラスター・ファンネルをナユタの背後に配置して、照射ビームを放たせた。

 自分も巻き添えになることは承知の上だ。

 だが、こうでもしなければ、最強の傭兵集団を率いる長であるこの男が止まるはずはない。

 ユユは仮想のそれであるとはいえ、死と隣り合わせの緊張感に口元を綻ばせながら、鉄面皮を保って淡々と自身を追い詰める仇敵を睨む。

 

『損傷が酷いな……してやられたようだ』

「それは此方とて同じこと……ふふ、ユユもまだまだのようですね……しかし、ここを通す訳にはいかないのです……!」

 

 レーダーと通信のログを見る限り、ミワはレッドアラート、カエデはイエローコーションをコックピット内に響かせながらもまだ生きていることは察せられる。

 ナユタと比べれば不得手とするクロスレンジでの鍔迫り合いを行いながら、自身の機体もイエローコーションを発しているのにもかかわらず、ユユはぎり、と歯を食いしばって嵐のような斬撃を受け流していく。

 この持ち場だけは死んでも離れられないのなら、石にかじりついてでも、例え不得手であろうとも、やり通す他に道はないのだ。

 同じく、虚空に出鱈目な軌道を描きながら高速戦闘を展開するリリカとユキを一瞥して、ユユはソードピストルの斬撃に合わせてIFBSを抜き放つ。

 フルブランシュとヴァイスストライクセカンドの戦いは、互角とは決して言えないものの、善戦をしているといって差し支えはないだろう。

 ユユはあの機体こそがフラッグ機だと目しているが、実力だけで考えるのならば今対峙しているナユタのブラウアストレイノワールがそれに当たる可能性も大いに考えられる。

 だからこそ、タンク役を引き受け、同時にもう一つの戦線を支えるアタッカーも兼任するという過酷な任務をユユは引き受けているのだ。

 鍔迫り合いを解くようにフォトン・ファンネルを両機の間に割り込ませて、仕切り直しを行うようにユユは全力でバックブーストを噴かし、ブラウアストレイノワールとの距離を取った。

 

『逃れたつもりか、だが……!』

「イブリース……!」

 

 ノワールストライカーに搭載されたレールガンによってナユタは距離を離したユユを追撃するが、残されていた肘部分のビームサーベルをユユは呼び寄せて、それを盾にすることによって直撃を免れる。

 第二ラウンドはここからだ。

 満身創痍というにはまだ遠くとも、決して軽視できない損傷をその身に負いながらも、Gの形象は翡翠の双眸に、ユユの心火を映したような強い光を灯すのだった。

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 逃げ回っているだけでは戦いにならないことは、リリカにもわかっている。

 フォビドゥンガンダム、カラミティガンダム、そしてレイダーガンダムという「悪の三兵器」の特徴をそのバックパックに統合しながらも、決して機動性を損なうことなくフルブランシュを追い詰めるユキの腕前は、以前対峙した時よりも研ぎ澄まされていた。

 リリカの危機感知能力が並外れているからこそ、生存自体はできているものの、目の前に立ちはだかる強大な「三桁の英傑」という壁に対して、今のところ決定打と呼べるものや、それに繋がる布石はないに等しい。

 あのゲシュマイディッヒ・パンツァーというビームを歪曲させる特殊装甲がある限り、ドッズライフルが役に立たないと判断して投棄したのはいいが、こちらが中距離からの牽制を事実上封じられているのに、相手はそれが行える、というのは決して思わしいことではない。

 

『しぶといわね、出来るようになった、というべきかしら』

「……わ、私だって……負けられないんです……!」

『そうね。負けられない……なら、示すべきは御託じゃないわ』

 

 リリカが操っているCファンネルの包囲を巧みに掻い潜りながら、ユキは愛機の左腕に接続されている、大容量バッテリーセルも兼ねたユニットから再び、破砕球「ハイパーミョルニル」の代用としてアタッチメント接続しているロケットアンカー、「パンツァーアイゼンII」を放つ。

 無論、ユキはリリカが素直に捕まってくれることは最初から期待していない。

 案の定とでもいうべきか、その攻撃を見切っていたリリカはパンツァーアイゼンIIとバッテリーセルを繋いでいるリード線をCファンネルによって切断すると、肩のユニットを分離させ、自律支援機「トライバード」として射出した。

 リリカもそれは薄々と感づいていたことだった。

 このGBNにおいても、そしてガンダム作品においても、絶対無敵の装備──例えるなら、伝説の勇者が振るう聖剣のようなものは存在していない。

 例えば映像作品「機動戦士ガンダムSEED DESTINY」において、ストライクフリーダムガンダムは鬼神の如き活躍を見せていたし、リリカが知っている「機動戦士ガンダムAGE」においても、ガンダムAGE-FXは損傷らしい損傷を負うことなく最終回を迎えている。

 だがそれは、パイロットの技量と性能が噛み合っているからという部分が大きい。

 極端な話、GBNにしろ何にしろ、鍛え上げられたプレイヤースキルこそが最大の武器なのであり、武装それ一つだけで戦局を覆せるようなものが存在するのなら、普通のゲームであれば即座に下方修正が施されるし、そんな大それたものが、幾度もバージョンアップを重ねた今もあるならGBNは神ゲーなどと呼ばれていない。

 脳裏へと、走馬灯のように幾つもプレイしてきたクソゲーの数々を浮かべて、リリカはブランシュアクセルを起動させると、バックラーからビームサーベルを発振して、正面からユキのヴァイスストライクセカンドへと果敢に切り掛かっていく。

 

『無駄よ、そんな見えすいた攻撃では……!』

「……いいえ、無駄なんかじゃない……です! トライバード!」

『ッ、まさか貴女……!』

 

 ユキの手によって作り込まれたゲシュマイディッヒ・パンツァーはビームサーベルの刃さえも湾曲させて無力化するほどの完成度に至っている。

 だが、リリカがトライバードに命じたそれは、機首先端に搭載されたシグマシスキャノンの全力照射だった。

 そんなことをすれば、湾曲された余波でフルブランシュがダメージを負うことは目に見えている。

 無論、リリカもそれは理解していないはずがない。それでも、もしもこの戦いの先に勝利を見据えるのであれば、これしか手はないのだ。

 砲口を向けた二基のトライバードが吐き出した光の奔流が容赦なくヴァイスストライクセカンドと、そしてフルブランシュを呑み込んで、モニターを真っ白に染め上げていく。

 だが、これでいいのだ。

 

「……ごめんね、フルブランシュ……でも、これで……!」

 

 ぎしぎしと、鉄の軋みと呻きを立てるフルブランシュに、内心で詫びながらも、リリカは毅然としてその先に勝利を見据えていた。

 ただでさえ腕前で劣っている「三桁の英傑」を相手に自爆紛いの戦術を取ること自体、自らの意思でその背中を地獄へと蹴り込んでいるようなものだ。

 だが、フルブランシュの作り込みだけであれば、そこに懸けた想いだけであれば、きっとユキのヴァイスストライクセカンドに勝るとも劣らない完成度に至っていると、リリカはそう信じている。

 そう。いかなる盾を貫く矛も、いかなる矛をも通さない盾も、この世には存在しない。

 それを示すかのように、爆炎が晴れた後にあったものは、追加の大容量バッテリーセルと、そしてゲシュマイディッヒ・パンツァーの一枚を失い、中破状態まで追い込まれたヴァイスストライクセカンドの姿だった。

 一見自爆にも、無謀に見えるシグマシスキャノンの照射は、リリカの狙い通りにヴァイスストライクセカンドのエネルギーを大幅に削り取ることに成功していたのだ。

 だが、その代償は決して軽んじられるものではない。

 反動をもろに受けることになったフルブランシュの装甲は各部が溶解し、コックピットには絶え間なくレッドアラートが鳴り響いている。

 ──それでも。

 リリカは眦に涙を滲ませながらも、その先に、砂漠に紛れた一粒の宝石を探すように、そうでなければ数百光年の彼方で輝くスペクトルをその手に掴み取るように、視線は確実に勝利へとその焦点を結んでいた。

 

『……失態ね、そう、失態……だからこそ、貴女はここで葬る! それが私に課せられた使命であり責任だから……!』

「……っ、まだお願い、あと少しだけ……フルブランシュ!」

 

 ユキは一瞬その結果に呆然としながらもすぐに正気を取り戻し、無事だった右手に保持していた対艦刀で急襲するCファンネルを切り裂くと、躊躇いなく武装スロットを「Finish Move01」──必殺技のそれに切り替える。

 

『……SEEDセンス・マニューバ!』

「ブランシュアクセル……マキシブースト!」

 

 奇しくも、白と黒という対照的なカラーリングが施された二機の必殺技は、よく似通った性質を備えていた。

 SEEDセンス。原作においては火事場の馬鹿力のようなものだと形容されていたそれを、時限強化という形でシステムに押し込めたそれは、使い手の戦い方によって千変万化といった風情でその装いを変えるものだ。

 ミワのレイラインが、狙撃に特化したスタイルであるならば、ユキのそれは機動戦に特化した、ある種ブランシュアクセルからモーションの高速化を省いて、その分を速度に割り振ったとでもいうべきものだった。

 事実、SEEDセンスを解放したユキは、アクセルをマキシブーストまで解放したフルブランシュに食い下がるだけではなく、追い詰めて破壊するために徹底した弾幕砲火を放っている。

 頭部バルカンと胸部の機関砲から放たれる鉛弾は、たかがバルカンであったとしても、高速戦闘であれば十分な脅威となりうるものだ。

 高速状態においては、受けるダメージもまた速度に比例したものとなる。

 フルブランシュの装甲が穿たれていく音を聞きながら、リリカは心臓を冷たい手で握りしめられたような緊張感と、そこに込められたユキの「本気」から来る闘志であり殺意に恐れ慄く。

 これが、英傑の本気。

 藪を突いて蛇を出すとはいったものだが、追い詰められたユキの攻撃は蛇などという生温いものではない。

 あれは獅子だ。手負いの傷を負いながらも我が子を守らんとする母獅子のそれと同じ苛烈な闘志が、ユキの眼光には宿っている。

 対艦刀による一撃で、トライスラッシュブレイドをリミテッドコールしようとした右腕を斬り飛ばされながら、リリカはぎり、と奥歯を噛み締めた。

 ブランシュアクセルはマキシブーストまで、理論上できる最大値まで解放しているというのに、ユキはそれに食い下がってきている。

 言い換えるのならばそれは、ブランシュアクセルを切り札としていたリリカにとって、勝利が絶望視されたのと同義だった。

 残された左腕を庇うように、回収したトライバードからTRYファンネルを切り離してリリカは射出するが、ファンネルの速度では覚醒したヴァイスストライクセカンドを捉えきれずに、その斬撃は虚しく空を切る。

 

『言ったはずでしょう、負けられないと……! 私はあの子に「エーデルローゼ」を託された……チャンピオンを倒せと依頼された、そのミッションを完遂するまでは倒れられない!』

「……わ、私だって……私だって、『アナザーテイルズ』の……リーダーですっ……! だ、だから……だから! 貴女が相手でも、どんなに勝つのが絶望的でも!」

 

 ──最後の瞬間まで、決して諦めたりなんかしない!

 リリカは涙をこぼしながらも咆哮し、遠ざかっていく勝利の星を追いかけるように機体を走らせる。

 神様に祈るようなことなんてしない。

 星に願いをかけるようなことなんてしない。

 それは自分が成し遂げなければいけないことだ。

 あれは自分が掴み取らなければいけないものだ。

 星の金剛をその手に取るまでは、そしてAGE-1ブランシュが自分にくれた勇気と、「アナザーテイルズ」の皆が自分にくれた温もりに報いるためには、今までと同じように諦めて、棄てて、泣いていたのでは意味がない!

 リリカは一瞬目を瞑るが、次の瞬間にはそれを見開いて、生存している味方の方向へと機体を走らせる。

 カエデもミワも満身創痍だ。

 正直にいってしまえば、個々の戦力としては期待できないだろう。

 だが──アナザーテイルズは、一つのチームだ。

 

「リリカさん! わたくしの力、存分にお使いくださいな!」

 

 満身創痍のウイングゼロヌーベルが、カエデが、ユキの機体を狙ったと見せかけて、左手に保持していたシザーソードを投擲する。

 邪魔だとばかりに、次の瞬間にカエデは荒れ狂う漆黒の凶星にそのコックピットを斬り裂かれ、テクスチャの塵へと還っていくが、その目的はしかと果たされていた。

 彼方の戦場を一瞥すれば、頭部を損傷し、脚部も損壊しながらも「蛇の尾」を束ねる傭兵たちの主を食い止めているユユの姿がある。

 そして、今──この場を見渡せば。

 

「……頼んだよぉ、リリカちゃん!」

「お姉ちゃん!」

『邪魔だッ!!!』

 

 ユキのコックピットを狙って、大破状態のフリーダムルージュティラユールが、ミワが、弾倉に残されていた最後の一発を放つが、怒りに荒れ狂うユキが残していた、片方のゲシュマイディッヒ・パンツァーから放たれる大出力ビーム……「フッケヴァイン」によって消し飛ばされていく。

 それは時間にして僅か一瞬だったのかもしれない。

 だが、一瞬──例えそれが刹那にも満たない1fの世界であったとしても、それだけの隙があれば、戦況は如何様にも覆るということは、あのハードコアディメンション・ヴァルガの地獄が、そして混沌を大鍋で煮詰めたような「大戦争」が、自分たちをここまで導いてくれた、その「隙」の重要性を教えてくれた「MS斬りの悪魔」が、何よりも雄弁に物語っている。

 ──ありがとう、ブランシュ。

 今は自宅の棚で静かに眠っている始まりの機体に感謝を捧げて、リリカは更なる博打に、己の敗北を天秤の対価に捧げて打って出る。

 

「ブランシュアクセル・マキシブースト……オーバーナイトロ!」

 

 リリカが叫んだその瞬間、フルブランシュは一つの彗星となっていた。

 宇宙の漆黒を塗り潰すように真白く、純白の輝きをFXバーストモードのように全身から放つフルブランシュの速度と機体から放出される余剰出力は、最早その放熱機構をもってしても受け止めきれない領域に達していた。

 その反動で機体がバラバラに砕けても、すり減って、削られても、リリカは、そしてフルブランシュは、その刹那の隙を決して見逃すことなく、戦場を駆ける流星となって、ユキのヴァイスストライクセカンドへと突撃をかけていく。

 カエデがくれた実体剣が。ユユが盾となってくれていたことが。そして、ミワがくれた時間が。

 それら全てがあったからこそ、リリカは──フルブランシュは、この瞬間に残されたゲシュマイディッヒ・パンツァーごとヴァイスストライクセカンドのコックピットを、確かに貫いていたのだ。

 

『……ふ、ふふ……』

「……はぁ、っ……は、あっ……」

『戦いの中で戦いを忘れた……やっぱり、感情に任せるものではないわね……』

 

 ユキは微かに口元を綻ばせながら、己を悔いるように、しかし勝負自体に後悔はないとばかりに、全てを受け入れるかのように爆散し、テクスチャの塵へと還っていく。

 両手が震え、リリカは思わずコックピットにへたり込む。

 

【Battle Ended!】

【Winner:アナザーテイルズ】

 

 そして、無機質な機械音声が、フラッグ機であったユキのヴァイスストライクセカンドを倒したことにより、「アナザーテイルズ」が勝利したことを淡々と告げる。

 それはいってしまえば、いくつもの偶然が重なった末のことだったのかもしれない。

 合縁奇縁、袖擦り合うも他生の縁とばかりに、今までリリカたちが紡いできた軌跡が織りなした、砂漠の砂粒に紛れたダイヤモンドを探し当てるが如き奇跡。

 だが、それは──燦然と光り輝く勝利の星は、奇跡であっても、偶然であっても、今この瞬間、リリカの両手に必然として、確かに瞬いているのだった。




その勝利は「アナザーテイルズ」、その旅路の果てに
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