フォース「リビルドガールズ」を傾向で区分するのであれば、彼女たちは速攻型、手札を早々に叩きつけることで勝利を手にするタイプだと目されているが、その認識は半分正解で、半分間違っているといえる。
何よりも厄介なのは、彼女たちが擁するELダイバー、チィが情報の収集に長けている、ということであり、事と次第によっては試合前に試合が決まっている、といったゲーム展開がなされることは珍しくない。
情報を制する者は試合を制する、偵察とは最も能動的な攻撃手段である、というのはフォースランキング第2位を飾る「第七機甲師団」のやたらともふもふしたオコジョ、ロンメルが口にしたとされている言葉だが、その真偽はともかくとしても示されている内容は確かなことだ。
それを示すかのように、フォースバトルトーナメント、Aブロック第三試合の初戦を飾る「アナザーテイルズ」対「リビルドガールズ」の戦いにおいて一番槍を飾ったのは、「リビルドガールズ」だった。
戦場に選ばれた、ヘリウム3貯蔵タンク宙域に描かれた星座を閉じ込めるように、青白い閃光がモニターを駆け抜けていく。
ちょうど、第二試合と同じようにユユが囮と盾を務めるために先行したところに「リビルドガールズ」がぶつけてきたのは同じくチームのタンク役を務めるアキノであったが、彼女の機体──シナンジュをガンダムフェイスに改修し、V字アンテナを取り付けた【ミネルヴァガンダム】が本来携えているはずのIフィールドソードはその手にない。
「ふふ……このユユと一騎討ちをお望みですか……?」
『ええ、その通りです。悪いですが……しばし付き合っていただきます!』
「……サイコ・フィールドとは、してやられましたね……分の悪い賭けは嫌いではありませんが……!」
ならばその女神を象徴する大剣はどこに行ったのか。
ビーム・トンファーを展開して猛襲をかけるアキノに、IFBRでの牽制射撃を放ちながら、ユユはモニターの右側を一瞥する。
そこには宇宙の水面を泳ぐ回遊魚のように、ちょうどユユとアキノを包み込むように二振りのIフィールドソードが、ドラグーンシステムの挙動を応用することでサイコ・フィールドを築き上げる──奇しくも彼女たちがあの「ELダイバー争奪戦」で見せたサイコ・キャプチャーと似た機能を搭載したことで、二人は一時的に戦場から隔離されたのだ。
それが意味することは何か。
早々に必殺技である「モード・ブリューナク」を展開して襲いかかってくるアキノの太刀筋を受け止めるユユのこめかみに汗が滲む。
それは極めてシンプルであり、相手からの追撃戦に弱いスナイパーと、そしてフラッグ機を守るための盾である自身が不在となったのに等しいということだ。
ユユとアキノを包み込むサイコ・キャプチャーを一瞥すると、被弾も恐れずに宇宙を駆けるチィの【ガンダムグラスランナー】は、ミワが放った徹甲弾によってコックピットを貫かれるものの、虚空から現れたのは撃墜判定の降りた残骸ではなく、チィの容姿をメカに押し込めたような機体──【モビルドールチハヤ】の存在であった。
『悪いな、赤砂のねーちゃん! スナイパーは親の仇みてーに追い詰めて潰せって言われてんだ! エリィ! 今ので見えたな!?』
『は、はい……! トランザム、そしてお願い、フィン・ファンネル!』
「……っ、サイコ・キャプチャーといい、してやられたねぇ……!」
そして、エリィの操る再構築の白兎、キハールIIとヘイズルIIのミキシングで生み出された【リビルドウォート】は、ミワにとっては天敵といっても差し支えのない相手だ。
搭載されているフィン・ファンネルの性能もさながら、それを巧みに、肩のジェットエンジンをGNドライヴに置き換えることで獲得したトランザムと同時にマニュアルで制動してみせるその技量は、ミワの瞳から見ても卓越したものであった。
遊撃手から臨時的なタンクにポジションを移し替えたカエデがエリィを追いかけるものの、チィの妨害もあってそれも上手くいかない。
そもそもアタッカーであるカエデを盾役に回さざるを得ない時点で、盤面を握っているのは自分たちではなく、対峙する「リビルドガールズ」だという証左であり、それをわかっているからこそ、カエデもミワに軽口を叩くことなく、チィの突破に全力を注いでいるのだ。
「しかし、やってくれましたわねこの銭ゲバロリ……そこをお退きなさいな!」
『へっ、銭ゲバは……褒め言葉だぜ、暴走お嬢様!』
「言ってくれるじゃありませんの!」
モビルドールチハヤが装備している武装は、自衛と相手の虚をつくために搭載された最低限のそれであり、大火力と格闘火力を両立させているウイングゼロヌーベルに対しては相性が悪い。
だからこそ、チィが選んだものは逃げの一手だった。
シザーソードを振りかぶり、切りかかってくるのに合わせてミラージュコロイドを展開し、モビルドールチハヤの輪郭は虚空へと溶け込むように揺らぎ、ブレて透明になっていく。
『まさか卑怯とは言わねーよな、カエデのねーちゃん!』
「とんでもない、むしろ姿を消すというのなら、気配で察知して潰すのみですわ!」
だが、そう宣言しながらもシザーソードをマウントラッチに戻して、ツインバスターライフルを両手に保持したカエデの行動もクレバーだった。
ローリングバスターライフル。選ばれたものが地上ステージであればもっと有効に作用したのだろうが、ステルス機に対して範囲で薙ぎ払うという回答をぶつけるのはある種、戦場の常識でもある。
それでも──この戦場を支配しているのは、「リビルドガールズ」であり、彼女たち四人組の「目」を務めているエリィだった。
『させません……! お願い、ファンネル!』
「っ、この……っ!?」
「ごめんねぇ、カエデさん……! ちょっちミワは無理っぽいよぉ……!」
ローリングバスターライフルの態勢に移行したその隙を見透かしていたかのように、二基のフィン・ファンネルが光の網を描いてカエデのツインバスターライフルを、ウイングゼロヌーベルの右手をもぎ取っていく。
ミワとしても援護をしたいのは山々だったが、トランザム特有の機動力で戦場での位置取りを自在にこなし、そして残った四基のフィン・ファンネルをぶつけられている今では、どうしようもない。
スナイパーの弱点は、一度位置を割られれば追いかけられ続けることだ。
そして足が止まる武装がほとんどを占めているミワのフリーダムルージュティラユールにとっては、ファンネルの管理や武装の回し方ではサーヤと比較して一日の長があるエリィとリビルドウォートはまさしく天敵であり、ファンネルのリキャストが始まる寸前に回収した時は、トランザムの機動力でもって圧力をかけてくるのだからどうしようもない。
特に、サブマシンガンによる牽制を振り切って、クロスレンジまで飛び込まれるのが、ミワにとっては深い痛手だ。
ビームサーベルを抜き放ち、対艦ライフルのバレルを切り落とすと、エリィは反撃を封じるように、回収していたフィン・ファンネルでフリーダムルージュティラユールの右腕をもぎ取り、左脚を破壊していく。
「これはこれは……きっついねぇ……」
『負けられません……アイカさんのために……!』
「だけどだけど、ミワだってリリカちゃんのために負けられないんだよぉ!」
右肩に生きていたサブアームで、ミワは移植したトーリスリッターのバックパックからハイパー・ビームサーベルを抜き放つと、エリィへと斬りかかるが、いかんせんにわか仕込みの剣術だ。
トランザムを発動していることも相まって、その剣先がエリィを捉えることはなく、虚しく空を切るだけだった。
追い込まれている。
その焦りを感じているのはミワだけではなく、アイカと対峙しているリリカもまた同じである。
速攻をかけてきた、アイカの機体──ウラヌスアーマーをベースに、【フェアライズガンダム】の時と比較して、手足の大幅なグローアップを果たした【フェアリライズガンダム】は、初手からその時限強化機構である「システム・フェアリィ・テイル」を起動させ、光の尾を煌めかせながら、リリカのフルブランシュを猛追する。
脊髄が焼けつくような緊張感の中、リリカは焦りを感じながらもブランシュアクセルをフルブーストで起動して、ビルドボルグを抜き放って果敢に切り掛かってくるアイカの一撃を、左腕のバックラーから発振したビームサーベルによって受け止めようと試みた。
だが、対ビームコーティングが施された刀身は容易く、ビームサーベルの刃ごと、フルブランシュの左腕を両断する。
「……っ、強い……これが、『リビルドガールズ』……!」
『悪いけど……リリカちゃん、あたしたちも負けらんない、だから……エリィちゃんのために!』
「……皆のために!」
──ここで勝つ!
声を揃えてリリカとアイカが叫ぶと同時に、リミテッドコールによって呼び出したトライスラッシュブレイドを構え、ブランシュアクセルをマキシブーストまで解放したフルブランシュが、虚空に新たな星座を刻むかのようなマニューバで、なんとかフェアリライズガンダムを振り切ろうと試みる。
だが、速度であればアイカもまた劣っていない。
手足の拡張とコア部分の新調に伴って、フェアリライズが、妖精の女王がその身に宿している出力は膨大なものとなっている。
そして、システム・フェアリィ・テイルは、モーションの高速化こそそこに付随していなくとも、理論的にはブランシュアクセルとよく似通った必殺技だ。
同じ原理で繰り出される技であるならば、あとは出力と腕の純粋な比べ合いとなる。
目視するのが困難なほどに、かかるGのフィードバックが強制ログアウト寸前まで至った、その領域へと足を踏み入れている二機のマニューバは、研ぎ澄まされ、解き放たれた剣先とよく似ていた。
その手に勝利という星の金剛を手にするために、リリカは、そしてアイカは歯を食いしばって、高速下において互いの得物を振り回し、切り結ぶ。
だが、そこにある感情は何も焦燥だけではない。
『おうおう……喜んでんじゃねーか、アイカ、リリカのねーちゃん』
「奇遇ですわね、わたくしも……否、わたくしたちは皆同じ!」
チィはビームピアサーによってカエデの剣撃を受け流しながら、戦場から伝わってきたその想いに、アイカとリリカのガンプラが発する「声」に耳を傾けて、どこかしみじみとそう呟く。
そして、カエデが答えたように、今この瞬間、この舞台で抱いている想いは、フォースメンバーの、そして人とガンプラの垣根を取り払って、合一されているといってもいい。
──楽しい。
きっと、その感情を起源として生まれてきた、観客席で見ているチィの双子の姉──ELダイバー「イリハ」がそう呟いているであろうその一言に集約される。
苛烈ながらも、そして追い込まれていながらも、リリカが抱いているのは負けに対する恐れよりも、自分たちよりも遥か高みに至っている「リビルドガールズ」への畏れであり、そして、この時間がもっと続いてほしい、という、胃の辺りがきりきりと痛む感覚とは相反する不合理な感情だった。
エリィのフィン・ファンネルが、ミワのフリーダムルージュティラユールを撃墜したのを、リリカの視界はモニターの端に捉えていた。
「お姉ちゃん!」
「……っ、ごめんねぇ、リリカちゃん……!」
「……あとは……あとは、任せて、お姉ちゃん!」
言葉が走った。
申し訳ないと目を伏せたミワに対して、リリカが咄嗟に絞り出していたそれは、ほとんど無意識の内に生まれ出たものであり、舌先が反射によって紡ぎ出していたものかもしれない。
だが、それを形成しているのは、今までリリカが培ってきたフォースリーダーとしての責任感であり、そして──一人のダイバーとして、このGBNを楽しむ者としての自覚に他ならなかった。
ここから逆転できる手段はまだまだ存在している。
戦術の常道として、そして「リビルドガールズ」の傾向からして考えられるのは、フォースリーダーであるアイカがそのままフラッグ機を兼ねているパターンだ。
そしてこのフラッグ戦は、味方が何機撃墜されていようと、フラッグ機を仕留めれば勝ちになるという特殊ルールでの戦いであるなら、まだまだリリカたち「アナザーテイルズ」が勝利を手にできる可能性は完全に潰えたというわけではない。
アイカがそれを見込んだ上で、ユユを封じ込めるという形での短期決戦を挑んできたのなら、こちらも相応のリスクを負っての戦いをする他にないだろう。
「リリカさん!」
『おっと、カエデのねーちゃんの相手はチィだぜ! 背中向けた時点で後ろからズドンだ!』
「……くっ、随分とやってくれますわね!」
「……大丈夫です、カエデさん……お願い、フルブランシュ……! ブランシュアクセル、マキシブースト! オーバー……ナイトロ!」
『エリィちゃん、フェアリィ・ストライク・ブライド、お願い!』
『わかりました、アイカさん……! リビルドパワーゲート、射出します……!』
そんなリリカの心意気に応えようとしたのか、それともマキシブーストを超えてさらに加速したフルブランシュを脅威と見たのかは定かではないが、アイカもまた、最大の必殺技をもって応戦することを決め込んでいたらしい。
エリィが射出した四基のフィン・ファンネルが形成したパワーゲートを通過したフェアリライズガンダムの速度はオーバーナイトロに匹敵する、戦場を駆け抜ける流星にも等しいものだ。
「……てやあああああッ!!!」
『エリィちゃんのために……ここでぶっ倒れろぉぉぉ!!!』
──瞬間、光が爆ぜる。
加速エネルギーと剣先に集中していた純粋な出力同士の激突は、膨大な衝撃波を伝えて、周囲のオブジェクトを破砕し、そしてぶつかり合う二機のガンダムの装甲を融解させていく。
そのぶつかり合いそのものは、瞬間的なものであるとはいえ互角であるといっても差し支えはなかった。
だが──もしも、そこに勝敗を分かつ一線があるとするなら、それはひとえに、今まで戦ってきた経験と、そしてアイカにかけられたエリィの支援という、必殺技の重ねがけという条件だろう。
互角に打ち合っていたはずの剣先はじりじりと押し返されて、アイカが叫び通したエリィへの愛がそのまま上乗せされたかの如く、トライスラッシュブレイドの刃を貫いて、ビルドボルグの剣先はフラッグ機であるリリカの、フルブランシュのコックピットへと、真っ直ぐに突き立てられていた。
──ああ、遠いなあ。
リリカがこぼした涙は無重力の中で雫となって、ひとひらの、星の欠片として宙を漂う。
シグナルロストの赤文字が漂い、ブラックアウトしたモニターの向こうにまだいるのであろうアイカの──自分にとっての始まりとなった好敵手の姿を脳裏に浮かべながら、リリカはそっと虚空に手を伸ばす。
【Battle Ended!】
【Winner:リビルドガールズ】
わかっていたことなのかもしれない。
だとしても、それはどうしようもなく悔しくて、どうしようもなく悲しくて、涙は堰を切って溢れ出てくるけれど、リリカはどこかそんな気持ちとは背反する、晴々とした想いも胸の内に抱いていた。
「……ねえねえ、リリカちゃん」
撃墜されたミワからの通信を繋いで、リリカはごしごしと涙を擦りながら、問いかけるようなその言葉に答えを返す。
「うん、お姉ちゃん……」
「……GBN、楽しい?」
それはきっと──今まで歩んできた旅路についてのことであり、そしてこれだけ歩んでも尚、いくつもの分厚い壁があって、舗装さえもされていない険しい道のりが待ち構えていることを踏まえての問いかけだったのだろう。
きっとこの先、GBNを続けるのなら、今日のようなことはいくらでも待ち受けていて、心がへし折れてしまいそうになるような挫折も待ち構えているに違いない。
アイカたちとの戦いは、確かに一つの決戦だったかもしれないが、その長く永い道から見れば、燦然とこの仮想の海に瞬き続ける星々から見れば、その一秒にも満たない出来事だったのだろう。
それでも、リリカの答えは決まっていた。
一人なら、一人だけだったなら、きっと諦めていた。
そして、何のために泣いてきたのかもわからずに、何のために棄ててきたかもわからないいくつものことに、GBNが新たに加わっただけなのかもしれない。
それでも──リリカは、一人じゃなかった。
それはただの偶然で、幸運に恵まれただけなのかもしれない。
だが、リリカたちは「アナザーテイルズ」として一つの絆を結んでいた。その事実だけは、神が卓袱台をひっくり返したとしても覆りようがない。
だからこそ、リリカはその気紛れに──幸運の女神様が微かに綻ばせた笑顔に感謝を捧げるかのように、涙をこぼしながらもそっと微笑んで、ミワからの問いかけに、はっきりと答えを返すのだった。
「うん……楽しいよ、皆と……一緒だから!」
栄光は、勝者の頭上だけに光り輝くものではない。
敗者たちにも、舞台を降りた者たちにもまた道が続いているのなら、その未来を照らし出すかのように、時に降り注ぐことがある。
──勝者には祝福を、敗者には栄光を。
幸運の女神様がそう呟いたかのように、リリカが浮かべる笑顔は、どこか春の梢にも似た、穏やかで──そして、ここで満足することなく「次」に向かう挑戦者としての意思を、止まることのない覚悟を宿したものに、勝者が手にした星の金剛にも匹敵する輝きを放っていることに違いないのだった。
それは、敗者たちの栄光