ほろローン   作:すちいむ

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一度、疑問をぶつけたことがある。

 

『どうしていつもこの島に来てくれるんですか?』

 

不思議だった。

何の見返りもないにもかかわらず、彼女は出会った日からずっと、この島へと食料を運びにやってきた。

 

各地で戦争が起こっているという。彼女から聞いたことだ。

生身で戦うと知ったときは正気を疑ったけど、この世界では常識らしい。

彼女に一度殺されかけた自分は、身をもって彼女の力を知っていた。

 

だから鉄血という彼女の故郷は劣勢に立たされているということを知ったときは、なおさら疑問に思ったのだ。

彼女の陣営に余裕はない。だというのに、彼女は時間を見つけて最低でも週に一度はこの島へとやってくる。

それで大丈夫なのかと聞けば、私以外にも強い人はたくさんいるので大丈夫ですよと返された。

本当にいいのかなと思ったけれど、彼女の笑顔が怖くてそれ以上は言わなかった。。

 

では、彼女が普段口にするように、自分の身体が目当て?

……それは違うだろう、確信があった。

男は数が少なく力も弱いことから女に狙われる、これも世界の常識らしい。

 

でも、いままで彼女と一緒に過ごした中で、彼女に襲われたことは一度もない。

心配とともに忠告はされても、一線を越えたことは一度たりともないのだ。

……ぎりぎりのチキンレースをしている気がしないでもないけど。

 

やっぱり、自分の中で答えが見つけられなかった。

だから聞いたのだ。

 

『どうしていつもこの島に来てくれるんですか?』

 

結局、彼女から答えが返ってくることはなかった。

 

 

 

 

 

 

「~♪」

 

ざぷんざぷんと波が揺れる音の間に、少年の鼻歌が聞こえる。

岩場の波打ち際に座っている少年の手には一本の釣り竿が握られ、獲物がかかる瞬間を今か今かと待っていた。

 

「! えへへ……」

 

しばらくじっとしていると、ぽちゃぽちゃと小刻みに浮きが沈んだ。

それに反応した少年は獲物が完全に餌に食らいつく時を見逃すまいと集中する。

 

ぽちゃん!

 

「来ました!」

「はい、私が来ましたよ」

「はひィ!?」

 

突然背後からかけられた言葉に少年はひどく驚いた。

そのせいか引き上げるタイミングが若干速まり、魚はひゅるりと逃げてしまった。

 

「ろ、ローン様、いらしていたのですか……足音を殺して近づかないでください」

「ごめんなさい、あまりにも貴方が無防備だったものですから」

 

口元を引きつらせた少年は、心拍数の上昇した心臓のあたりを押さえる。

そんな彼の様子を見て、悪びれもなく謝罪した少女。

流れるように少年の左隣に座り、波の寄せる海面に向かって足を揺ら揺らと遊ばせた。

 

「でも、サクラさんも悪いんですよ。獲物を勝ち取った瞬間は捕食者にとっても最大の隙なんですから」

「は、はぁ。でもこの島には僕を食べるような動物は……」

 

「私がいるでしょう?」

 

貴方が獲物で私が捕食者です。少女は怪しく笑った。

実際に、今この場には『餌←魚←少年←少女』の見事な食物連鎖の図が完成されていたのだ。

この人なら本当に物理的に食べかねないと少年は慄いた。

 

「はひ……僕は美味しくないので、食べないでくださいね」

「本当ですか? でも私って悪食なんですよ」

 

言うや否や、少女は少年の顔へと自身の顔を近づける。

かぷり

少女の柔らかな唇は少年の耳を半分ほど包みこみ、鋭く尖る犬歯を優しく突き立てた。

 

 

「決して、油断しちゃだめですよ」

「─────」

 

少女が口を離して発した忠告は遠くに聞こえた。

ローン様、やっぱり身体が目当てなのかな……

涙を浮かべた少年は、恐怖のあまり顔を青ざめて気絶した。

 

 

 

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