問題児達が異世界からやってくるそうですよ!神様も連れて!   作:天津神

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書き溜め放出(笑)


第二話

 

 

 

––––場所は箱庭二一〇五三八〇外門。ペリベッド通り・噴水広場前。

箱庭の外壁と内側を繋ぐ階段の前で戯れる子供達がいた。

「ジン〜ジン〜ジン!黒ウサの姉ちゃんまだ箱庭に戻ってこねぇの〜」

「もう二時間近く待ちぼうけでわたし疲れたー」

口々に不満を吐き出す友人たちにジンは苦笑しながら、

「………そうだね。みんなは先に帰っていいよ。僕は新しい仲間をここで待っているから」

ダボダボのローブに跳ねた髪の毛が特徴的な少年–––ジンと呼ばれた少年は取り巻きの子供達に帰るよう指示を出す。

「じゃあ先に帰るぞ〜。ジンもリーダーで大変だけど頑張ってな〜」

「もう、帰っていいなら早く言ってよ!わたしの足なんてもう棒みたいよ!」

「お腹減ったー。ご飯先に食べてていい?」

「うん。僕らの帰りが遅くなっても夜更かししたら駄目だよ」

ワイワイと騒ぎながら帰路につく少年少女と別れる。ジンは石造りの階段に座り込む。一人になって暇を持て余したのか、外門を通る人々をぼんやりと眺めていた。

(箱庭の外に作られた国が最近活発になってきたって聞いたけど、ペリベッド通りは“世界の果て”と向かい合っているから閑散としているなぁ………)

そんな風に色々と考えていると、黒ウサギ達の姿が見えてきた。

「ジン坊ちゃーン!新しい方を連れてきましたよー!」

「お帰り、黒ウサギ。そちらの女性二人が?」

「はいな、こちらの御四人様が–––––」

クルリ、と振り返る黒ウサギ。

カチン、と固まる黒ウサギ。

「………え、あれ?もう二人いませんでしたっけ?ちょっと目つきが悪くて、かなり口が悪くて、全身から“俺問題児!”ってオーラを放っている殿方と素敵なウサ耳をお持ちの方が」

「ああ、十六夜君のこと?彼なら“ちょっと世界の果てを見てくるぜ!”と言って駆け出して行ったわ。あっちの方に。あと、柊さんはいつのまにか消えてい………」

「な、なんで止めてくれなかったんですか!」

「“止めてくれるなよ”と言われたもの」

「ならどうして黒ウサギに教えてくれなかったのですか!?」

「“黒ウサギには言うなよ”と言われたから」

「嘘です、絶対嘘です!実は面倒くさかっただけでしょう御二人さん!」

「「「うん」」」

明らかに一人分声が増えていた。

「あれ?今、誰かいませんでしたか、他に?」

「ここだよ。ここ」

声がした方に黒ウサギが向いた途端、大和が現れた。

「ど、どこにいってたんですか!」

「ずっとついて行ってた。能力の実験をしながら」

「な、なるほど。兎に角、黒ウサギは十六夜さんを連れて戻ります。皆さんはゆっくりと箱庭ライフを御堪能ございませ!」

黒ウサギは髪を黒色から緋色に変え、飛び去って行った。

「………箱庭の兎は随分速く跳べるのね。素直に感心するわ」

「ウサギ達は………」

「はい、早く行こう」

ジンの言葉を遮って大和が進む。

「あ、待ってください」

「私達も行きましょうか。ね、春日部さん」

「うん」

 

四人と一匹は身近にあった“六本傷”の旗を掲げるカフェテラスに座る。

注文を取るために店の奥から素早く猫耳の少女が飛び出てきた。

「いらっしゃいませー。御注文はどうしますか?」

「紅茶を三つと緑茶を一つ。あと軽食にコレとコレと」

「にゃー(ネコマンマを!)」

「はいはーい。ティーセット四つにネコマンマですね」

………ん?と飛鳥とジンが不可解そうに首を傾げる。しかしそれ以上に驚いていたのは耀だった。信じられない物を見るような眼で猫耳の店員に問いただす。

「三毛猫の言葉、分かるの?」

「そりゃ分かりますよー私は猫族なんですから。お歳のわりに随分と綺麗な毛並みの旦那さんですし、ここはちょっぴりサービスもさせてもらいますよー」

「………箱庭ってすごいね、三毛猫。私以外にも三毛猫の言葉が分かる人がいたよ」

「ちょ、ちょっと待って。貴女もしかして猫と会話ができるの?」

珍しく動揺した声の飛鳥に耀は頷いて返す。

「もしかして猫以外にも意思疎通は可能ですか?」

「うん。生きているなら誰とでも話は出来る」

「それは素敵ね。じゃあそこに飛び交う野鳥とも会話が?」

「うん、きっと出来………る?」

「おんやぁ?誰かと思えば東区画の最底辺コミュ“名無しの権兵衛”のリーダー、ジン君じゃないですか。今日はオモリ役の黒ウサギは一緒じゃないんですか?」

途中で、品の無い声がジンを呼ぶ。

ジンを呼んだのは虎みたいな印象を受ける大男。

その大男はなんの遠慮もなしに相席をしてくる。

「失礼ですけど、同席を求めるならばまず氏名を名乗ったのちに一言添えるのが礼儀ではないかしら?」

「おっと失礼。私は箱庭上層に陣取るコミュニティ“六百六十六の獣”の傘下である」

「「烏合の衆の」」

「コミュニティのリーダーをしている、ってマテやゴラァ!!誰が烏合の衆だ小僧と……は、“箱庭の貴族”!?」

大男は大和とジンの言葉にキレたと思ったら大和の姿に驚く。

「おい、ジン。お前、“箱庭の貴族”を二人ももつ気か?」

「一応、異世界からの召喚。“箱庭の貴族”かどうかは……」

「そ、そうか。で、ジン。お前はコミュニティの状況について話しているのか」

「そ、それは………」

大男の少しきつめの質問にジンは答えない。

「何も知らない相手なら騙しとおせるとでも思ったのか?その結果、黒ウサギと同じ苦労を背負わせるってんなら………こっちも箱庭の住人として通さなきゃならねぇ仁義があるぜ」

「………」

いかにもジンは言いづらそうに顔を俯かせる。

「知ってるよ。ジンの所属する“ノーネーム”の現状は」

「い、いつ知ったんですか?」

「黒ウサギが少しおかしかったからカマかけて聞いた」

「「………」」

「で、あんたの名は?」

「おっと失礼。私はガルド=ガスパー。“フォレス・ガロ”のリーダーです」

「そう。じゃあガルドさん。この御二人に説明してあげて。コミュニティの名前と旗が持つ意味を」

「おや、貴女は知ってるんですか?」

「全てをね。アンタ達がヤッタことも」

大和のこの発言にガルドは冷や汗をかく。

「では、説明いたしましょう」

ガルドの長々しい説明が、始まる。

 

「要するに、ブランド?」

「まぁ、そういうものです」

「身分証明書みたいなもの?」

「そうです。それで、貴女達は身分証明のできない“ノーネーム”に入りますか?よかったら、“六百六十六の獣”に入りませんか?」

ガルドがさりげなく飛鳥達を誘う。

「いいわ」

「は?」

「間に合っていると言ったのよ。私は別に“ノーネーム”でも構わないうえに、春日部さんというお友達もできましたから」

「うん。私もそう思う。“ノーネーム”に入って、柊さんと仲良くなりたい」

「ですが………」

「黙りなさい」

ガチン!とガルドは不自然な形で、勢いよく口を閉じて黙り込んだ。

本人は混乱したように口を開閉させようともがいているが、全く声が出ない。

「………!?………………!??」

「貴方はそこに座って、私の質問に答え続けなさい」

飛鳥の力のこもった言葉に、ガルドは従ってしまう。

その様子に驚いた猫耳の店員が急いで飛鳥達に駆け寄る。

「お、お客さん!当店でもめ事は控えてくださ–––––」

「ちょうどいいわ。猫の店員さんも第三者として聞いていって欲しいの。多分面白いことが聞けるはずよ」

「面白くはないと思うけどね………」

首を傾げる猫耳の店員を制して、飛鳥は言葉を続ける。途中、大和が口を挟んだが。

「貴方はこの地域のコミュニティに“両者合意”で勝負に挑み、そして勝利したと言っていたわ。だけど、私が聞いたギフトゲームの内容は少し違うの」

「“合意しなければいけない状況”にどうやって追い込んだか」

「そう。柊さんが言った通り、どうやったのかしら?教えてくださる?」

ガルドは悲鳴を上げそうな顔になるが、口は意に反して言葉を紡ぐ。

そして周りの人間もその異変の原因に気づき始める。

この女性、久遠飛鳥の命令には………逆らえないのだと。

「き、矯正させる方法は様々だ。一番簡単なのは、相手のコミュニティの女子供を攫って脅迫すること。これに動じない相手は後回しにして、徐々に他のコミュニティを取り込んだ後、ゲームに乗らざるを得ない状況に圧迫していった。その後は、子供を人質にして働かせる」

「で、子供達は何処に?」

「もう殺した」

その場の空気が瞬時に凍りつく。

ジンも、店員も、耀も、飛鳥でさえ一瞬耳を疑って思考を停止させた。大和はあまり変わってないが。

「初めてガキ共を………」

 

「黙れ」

 

ガチン!!とガルドの口が先ほど以上に勢いよく閉ざされた。

「素晴らしいわ。ここまで絵に描いたような外道とはそうそう出会えなくてよ。流石は人外魔境の箱庭の世界といったところかしらね」

飛鳥が指をパチンと鳴らす。それが合図だったのだろう。ガルドを縛り付けていた力は消え、体に自由が戻る。怒り狂ったガルドはカフェテラスのテーブルを勢いよく砕くと、

「こ………この小娘がァァァァァァァァ!!」

雄叫びとともにその体を激変させた。巨躯を包むタキシードは膨張する後背筋で弾け飛び、体毛は変色して黒と黄色のストライプ模様が浮かび上がる。

「テメェ、どういうつもりかしらねぇが………俺の上に誰が居るかわかってんだろうなァ!?」

ガルドの怒りの声は飛鳥に向けてのものだが、一人、ガルドに対して怒りを露わにした者がいた。

「テメェこそ、誰に今喧嘩売ってるのか分かってんのか」

大和だった。

髪は青色のままだが、目の色は赤色に変わっていた。

「知るか!!俺の後ろにはな、魔王がいるんだぞ!」

「知るかよ。お前を今ここで消したら関係ねぇだろ」

「やれるもんな………」

「黙りなさい」

飛鳥の声によって、ガルドは口が開けなくなる。しかし、ガルドの怒りは収まらない。ガルドは丸太のように太い剛腕を振り上げて飛鳥に襲いかかる。それに割って入るように耀が腕を伸ばした。

「喧嘩はダメ」

耀が腕を摑む。更に腕を回すようにしてガルドの巨躯を回転させて押さえつけた。

「ギッ………!」

少女の細腕には似合わない力に目を剥くガルド。そこに大和が話しかける。

「私達と『ギフトゲーム』をしましょう。貴方の“フォレス・ガロ”存続と“ノーネーム”の誇りと魂を賭けて、ね」




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