Dies irae -Silverio Godeater Resurrection-   作:フェルゼン

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Prologue #11

 黄金の天駆翔(ハイペリオン)が一翼、輝翼(アルカイオス)、降臨。

 そう、■■は何度でも立ち上がる。たとえどれほどの致命傷を叩き込まれようと、倒れそうになろうとも、綺麗事だと理解していても、()()()()()()()()()()()()()()()()という我儘(エゴ)がある以上、()は決して(おの)が片翼を見殺しにはしないのだ。

 

 彼()の胸で黄金に輝き続ける、現在(イマ)を生きるという誓い。怖気立つほど(せい)(ひつ)な内面に反し、その底意では太陽にも匹敵するその情熱が猛る度、燃える度に際限なく無限の力が湧き上がっている。

 森羅の掟を破壊し、万象の(ことわり)を粉砕して、不条理という罪業(キセキ)(つむ)がんとするその姿。

 まさしく光の使徒であり、()(とう)()(くつ)の英雄と同類そのもの──人類の限界値を遥かに超越した者であり、同時に彼が()宿()()()()()()()()()()()()であることを証明していた。

 

 先刻、コハクが自分と女帝を指して、光にも闇にも灰にもなれない()()()と称した言葉に(うそ)はない。

 認めるのは(かん)(さわ)るが、光の英雄と闇の冥王、そして灰の海洋王を知る者として断言しよう。(くだん)の少年は確かに、光にも闇にも灰にもなれない()()()だと。

 思い切りが悪い──残虐非道な事は(もち)(ろん)、不条理の実現に躊躇(ためら)いが見られる。極端に効率を重視した存在は、元より躊躇いや容赦などと言うものがない。

 良心とは、それほど馬鹿に出来ない(かせ)なのだ。よって、それらを()(じん)も感じないこの()は、英雄ほどではないものの、中々の破綻者と言って構わない。

 

 だがしかし──いいや、()()()()()

 

 「······()()()()()

 

 (ぼう)(よう)とバルファは吐き捨てた。

 

 たった今、男の体内を駆け巡る星辰光(アステリズム)とオラクル細胞の大暴走。その真実が分かるために、目の前の現実を理解も許容も出来ない。

 (たい)()する男の総身は、現在進行形で()()していた。無傷である外見以上に、()()()で轟く星と神の力が絶叫するほど(おぞ)ましく······(うごめ)き弾けて結合し、連鎖爆発を引き起こしては融合反応を繰り返している。

 さながら、先ほど女帝自身が行使した自壊覚悟の暴走みたいに。

 原理を同じくする命を(けず)った強化法。違いがあると言うのなら──

 

 「(しゅ)()()()()()。やり方も()()()──ああ、見事なものだよ、(けい)訣別(わざ)は」

 

 それは強化の度合いと、星光の激しさに他ならない。

 先ほど自分が行使した技の()()()()()()で、しかも()()()()()()()()()を目指し、男は今なお激しく(おの)が身体を星辰光(アステリズム)そのものへと変貌させるべく、ひたすら加速し続けていた。

 

 理解したと、学習したと、男は語ったが一体どこがだ。これはもはや模倣(もほう)でも、洗練どころか劣化でもない。(まぎ)れもなく狂気に満ちた()()と同等の()()()

 男の胆力(たんりょく)が女帝以上英雄以下であるためか、肉体の崩壊速度が壊滅的に加速している。

 より激烈に強化と活性化が行われているものの、増大し過ぎた出力を()()()()()()()()()()()()使()()()()()()ため、彼を形作る肉体(うつわ)は今、普遍的な壊れ方さえ微塵もしていはいないのだ。

 

 動くたびに亀裂が走る次元の位相。

 強大な存在密度に耐えられず、空間そのものが悲鳴を上げている。

 視線や呼気にさえ宿り、煌めく道返光(アルビオン)

 魂と言う名の原子炉へと変換しながら、尚も静謐に輝き続ける(せき)(はく)の光。何もかもが規格外で狂っている。

 まさに人型をした力の塊。これではまるで、()()()()()()()()()()()()()()ではないか······!

 

 「まさか···」

 

 そこまで思考を巡らせて、ある仮定が女帝の脳裏に()ぎる。

 

 「まさか、貴様······()()()()()()()()宿()()()()()()()()()()!?」

 「(しか)りだ」

 

 即答。何の(しゅん)(じゅん)もなく、その仮定は数分も経たずに肯定された。

 徐々に(よみがえ)りかける無意識の心的外傷(トラウマ)が女帝を(しょう)(そう)(かん)に駆り立てる。

 その感情のまま、彼女は()えた。(おう)(よう)と。

 

 「馬鹿な···有り得ん······ッ! ならば何故、我らが(すう)(こう)たる目的を邪魔立てする? それでも貴様、身分不相応にも()()()()に選ばれた■■かッ。恥を知れッッ!!」

 「それもまた然りだ。元より私は、(けい)の語る()()()()とやらに選んでくれと頼んだ覚えはないのでな。

 まして、このような悲劇を。このような惨劇を。ただ招き繰り返し続けることが目的ならば、是非もなし──私()は喜んで恥知らずとなろう」

 

 再び即答。()の英雄を(ほう)彿(ふつ)とさせる雄々しさで、()は静かに■■との(けつ)(べつ)を宣言する。

 その真意が何を意味するのか、なまじ理解できるだけの知識はあるがため、(ひょう)(れい)(じょ)(てい)は今度こそ呆然とするしかない。

 つまり、この()はたかが独りの人間の為だけに己の持つ()()を放棄するだけに飽き足らず、その()()を押し付けた根本に訣別状を叩きつける腹積もりだ。

 

  ■■なのだ。そのはずなのだ。この()は■■であり、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のはずなのだ。

 ならば、しかし、この光景は何だという?

 こんな出鱈目(でたらめ)が可能かどうか。いや、それ以前に、どうして今も生きているのか全く理解が追いつかない。

 痛いはずだ。苦しいはずだ。自らの星と片翼と呼ぶ星である道返(アルビオン)に遺伝子ごと体細胞が内部で核燃料サイクルを起こし続けているのだぞ?

 この瞬間に発狂しても何ら可笑(おか)しいことではなく、常識的に考えて、自滅はもはや目前だ。宿()()に降りかかる代償さえ、己が担うと言わんばかりに支払い続けている以上、それが訪れるのはもはや自明の理とすら言えた。

 

 それでも、表情に苦痛の影など欠片もない。

 そんな生き地獄を味わいながら、誰よりも凛々しく立ち上がる原動力が何かというのなら──

 

 「卿が私の何を見て驚いているかは(あずか)り知らぬが、一つだけ言っておこう。私はな、そう大した■■(おとこ)ではないよ。

 与えられた()()()()()()を無くせば、それこそ市井(しせい)の一角と何ら変わらん。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()······そんな、どこにでもいる、哀れで無力な人間だ」

 

 渇望に、祈り──それに伴う気合と根性。

 輝翼(アルカイオス)という一人の男が、神宿コハクという存在を喰らうことなく地上に降臨できたのは、心の力以外に理由はない。

 常軌(じょうき)(いっ)する、などという言葉でさえ表現するのも生温い(けた)(はず)れの精神力が、せめて(おの)が片翼だけでも守り切るべく戦意を(ほとばし)らせた。

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 男が動く。

 炎翼加速を用いて超疾し、踏み込んだ男は迫る氷杭弾雨を苦もなく両断。(へき)(はく)の光を(まと)う刃を轟かせ、間断(かんだん)なく放たれた氷撃をその閃光で消し飛ばす。

 損傷しながらも永続する氷麗女帝(バルファ・マータ)の攻撃。消滅を免れた氷の破片に再干渉して、鋭い枝に花弁や棘を五倍に増やし、萌芽(ほうが)させた。

 

 空間を埋め尽くす雪結晶の庭。されど男は止まらない。

 超高速で放たれる光刃の嵐が、五千を超える飽和(ほうわ)攻撃を正面から斬滅させていた。

 信じられない観察眼で直撃する氷杭のみを見抜き、無駄なくそれらを断ち切りながら、前へ前へと着実に突き進む。

 道返(アルビオン)は止められない。

 そして更に、上空から押し潰すような氷の(きょ)(かい)も十字に切断した。

 

 それらコハクの手を焼かせてきた攻撃を前に、男はしかし──

 

 「それだけかな? 芸がない──()()()()()()()

 

 背筋を凍らせるような言葉と共に、男は己の片翼が()()()()()と押しとどめていたものを遠慮なく使う。

 当然だ。そも、彼は()()()()()()()()()()()()

 さながら、()()()()()かのように大質量を()()せ、超高速で駆動する。

 激突する核反応の星を内包した(あお)(じろ)い光の長剣と、女帝の氷槍。

 力に技に経験、執念。あらゆるものを総合した戦闘力をぶつけ合い、神を喰らう者と森羅を喰らう(あら)()(たま)(いく)()となく火花を散らす。似て非なる戦意と殺意を応酬させていた。

 

 「()()か氷かの違いに過ぎん。見慣れているのだよ、その手の技は」

 

 ()()へ逃げても死に繋がるなら、つまり。

 

 「()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 放つのは()()()()()()()()()()()()()()()()。森羅万象ごと破壊すれば解決するという、極論的な解決方法はしかし、()の救世主とは異なる戦果が現れる。

 まずは、切断された氷槍が女帝の再干渉を待たずに爆発した。女帝の操る氷槍と寒波のみと()()()()()()のか、(ふん)(じん)(ばく)(はつ)の如き小型の(ごう)()が一度、二度、更に三度と次々に連鎖反応を引き起こし、女帝の放った氷槍を次々と爆発させていく。

 出力上昇による凍結速度の向上、並びに寒波の強化という攻撃面での対応策もこれでは最早(もはや)、ただただ無意味。

 見切り、捉え、連鎖的に氷槍を爆発させていると言うのなら······後は言わずもがなだろう。

 単純な攻略ゆえに隙はなく、()は油断もしない。

 イレギュラーの発生に対応できず、徐々に黄金の()と蒼の魔星の立場が逆転し始めていた。

 

 そして無論、女帝とて何もせずに劣勢に立たせてくれるほど、容易な相手ではない。槍への対応を行使する(かん)(げき)に氷撃の五月雨(さみだれ)()に殺到する。

 敵対象はあくまで使用者本体。異能の攻略が出来るようになろうと、長剣がゆえに生じる僅かな手間を、異能者本体が狙い撃てば意味は確かに存在する。

 崩れた姿勢から流れるように長剣を振り上げるものの、一手遅れた小さな不利に樹氷の嵐を消しきれないが······

 

 「聞こえなかったかな? 芸がない、と。

 壊し方は出来ている」

 

 なまじ速いだけに止まることは不可能。

 だがしかし、それはもう当てても無駄な攻撃だと──()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 どうやって、などと問うのは無粋だろう。なにせ今の輝翼(アルカイオス)は、言わば()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()である。

 (あお)(じろ)い光はコハク固有の星光を象徴とする光である前に、核反応や核変換により加速された粒子運動が臨界を迎えた時にも確認出来る光なのだ。

 結果として、彼もまた動く恒星そのものと化し、ならば理由も一目瞭然。光速度を超えて核反応と核変換が行われる原子炉に飛び込めばどうなるか、語るまでもない。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 ······先程、バルファ・マータから致命傷を刻まれながらも生きていて、尚且つ、己を閉じ込める氷の棺を内部から破壊できたのはこれが理由だ。

 

 あの時から既に、輝く翼は(おの)が片翼と相談し、体内で静かに二つの星を暴走させ始めていたのである。

 ()てついた動かぬ身体を溶かす為には、()の英雄と同じ手法を取るしかないという現実。しかし、幼いコハクの身体では自壊前提の強化法に当然ながら耐えられない。

 ならば、どうするか? と考えた末に下した判断。

 それは、()宿()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()というもの。

 原理、理屈、共に不明。一応、鋼の英雄と闇の冥王と類似した原理の元、擬似的な人の身を形成していることだけは確かだった。

 

 だが、この原理が正しかった場合、()宿()()()()()()()()()()()()()()()()()という、恐るべき大前提が存在しなくば成り立たない。

 彼が生身の人間である以上、その前提は余りに非現実的だ。まして、擬似的な星辰光(アステリズム)の擬人化など出来る訳がない。

 しかし、その例外が今、目の前に存在していた。

 

 それにより、心臓を穿(うが)つはずの氷槍は刺さった箇所から一瞬で蒸発し、必然として少年は()と入れ替わる形で今もこうして生き残る。

 (もち)(ろん)、ある意味それは本末転倒に繋がりかねない手段だ。敗北と死は回避出来たものの、コハクが二人分の星光の反動を支払っていたように、この()もまた、二人分の星光の反動を支払い続けている。

 そこに“光”の眷属特有の覚醒が伴えば、更なる負荷が降りかかるのは言うまでもない。

 今も凍結を無効化し、正面から相対してはいるものの······自壊を駆使した防御法を用いつつ、覚醒の代償を一手に担い続ければ、やがて破滅が訪れる。

 氷槍を溶かすだけの核反応を発しながら戦えば、それこそまさに自死への片道切符であるのは誰の目にも明らかなのだが······

 

 「──捉えたぞ」

 

 ()()()()()()()()()()とでも言うように、己に迫る自死の概念さえ、常識的な理屈ごと踏破する。

 擬似的とはいえ、自らの肉体を得た影響か。振るわれる剣術は、片翼越しに技巧を駆使していた時よりも遥かに()え渡り、氷と言う名の闇を断つ。

 

 現実と幻想を(わか)()(がえし)の光が、(いく)()()かの咆哮を上げた。

 

 




 覚醒回に見せかけた、選手交代回。
 ゼファーさんだって、闇のまだだ! 使わないと倒せないような相手に、子供が勝てるのか? という疑問が生じたため。結論は無理。

 闇のまだだ! だってミリィ√の強制解除からの反動の大きさを見るに、かなり代償が高い。
 光なんて言わずもがな。特に光は、さながら山道を無視して、一直線に山頂に向かう勢いで覚醒を繰り返すから、ゼファーの強制解除ってレベルじゃないと思う。
 そこで思い付いたのが、選手交代。適任に任せる。という形だった。

 光の眷属としては、アルカイオス>コハクなので、懸念点などがあると迷いや躊躇いが生まれるコハクに対し、アルカの方が割と振り切れ安い。
 ただし、閣下>カグツチ=ヘリオス>糞眼鏡=邪竜オジサン>ジェイス=アルカ>ラグナ>コハクの順なので、閣下やヘリオスと比べると低め。
 ジェイスと同等なのは、反動で四肢が爆散する星辰光(アステリズム)を使った理由が不明だから。理由によってはジェイスより少し下。

 糞眼鏡の蛮行の数々を考えると、ぶっちゃけ邪竜オジサンをこの人と同じ扱いで良いのか分からない。
 邪竜オジサンの司る概念「本気」とジェイスの司る概念「継承による不滅or限界突破」は良く似てる感じがしたので、アドラー出身だったら、英雄万歳やりつつ、ジェイスみたいな常識人になれそうなイメージという名の阿片が吸える可能性がある以上、個人的には同列に扱いたくない感情があったり無かったり······。
 (ベルグシュタインでさえ、そこそこ熱くなれるんだから、アドラーってすげーよ)

 という訳で、今回はここまで。
 それでは、また次回にお会いしましょう| ・∇・)ノシ♪


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